東方戻界録 〜Return of progeny〜 作:四ツ兵衛
先にこれだけ言っておこう。
ハワイは良いぞ。
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ガルパンと打ちかけたのは内緒
旅行と言えば何か……。そう、ショッピングである。
旅行に行った先でショッピングを楽しまない者などまずいないだろう。少なくとも、海外旅行で記念品を何も買わない者はまずいないはずである。普通は、何か買って、地元の友達に見せびらかして自慢するものである。ただし、国内旅行では下手な物をお土産にしてはいけない。今の時代、静岡県のうなぎパイが東京駅で売られているなんてことはザラにあるのだ。そんなことはともかく、海外のお土産でハズレを引くなんてことは滅多にないだろう。ハリボーグミは日本でも普通に売られているが……。とにかく、旅行先でショッピングを楽しむことは、ほぼ確定要素なのである。
そんなわけで、範人と妖夢はアラモアナセンターに来ていた。
アラモアナセンターはハワイ諸島最大のショッピングモールである。言葉で表すなら、(日本のショッピングモールに比べて)とにかくでかくて広い。290以上の店があり、とりあえず迷わないようにしなければならない。
店の内容は日本とはあまり変わらず、ファッション、ドラッグストア、ギフト、スポーツ、トイ、ブックストアなど様々。もちろん、ゲームセンターもあり、日本でお馴染みのムシキングやマリオカートなどが普通に置いてある。
今回、範人が狙っているのはお土産のお菓子である。幻想郷は他とは断絶されているような世界であるため、あまり考える必要がないのが良いところである。
「これなんてどうですか?」
「ポテトチップスか。良いセンスしてるな」
妖夢が手に取ったのはポテトチップス"マウイオニオン味"。マウイオニオンとは、その名の通りマウイ島で栽培されている玉ねぎのことである。玉ねぎ味のポテトチップスなんて珍しいかもしれないが、トマト味のプリッツも出ているため、別に気にすることはないだろう。
このポテトチップスは日本のポテトチップスに比べて厚く、サクサクとザクザクが混じったような食感が特徴だ。玉ねぎの味は舌に乗せた瞬間からするが、このポテトチップスの本当の美味しさは噛んでから。サクサクザクザクとした気持ちの良い食感に、マウイオニオンの甘みと塩のしょっぱさが良い仕事をする。固揚げポテトのように、噛めば噛むほど味わいがあって美味い。
幽々子はすぐに飲み込んでしまいそうで、あまり良くないかもしれないが、ゆっくりと食べる人——例えば、パチュリーにとっては良いお土産かもしれない。
「とりあえず、かごに入れておこうか。定番っちゃあ定番だし、嫌いな人はいないだろうし」
「そうですね。でも、白狼天狗の皆さんや橙さんは間違いなくダメですよね」
「そうだな。そいつら用のも探してみるか」
範人はそう言いながらカートのかごにポテトチップスを入れ、ケモミミ組用のお土産を探し始める。玉ねぎは多くの生物にとって毒なのである。
しばらくして、範人がチョイスしたのはチートス"チーズ味"。チートス自体は日本でも売られているが、幻想郷ではスナック菓子自体が珍しいだろうという算段である。
日本のスーパーでも普通に売られていることのあるチートスは、サクサクと言うよりはスァクスァクと表す方が正しいように感じるパフの軽い食感と菓子自体の軽さ、細長い形が特徴のスナック菓子である。実は、アメリカと日本とでは味が違う(気がする)。アメリカの方が濃厚な(気がする)味わいなのだ。チーズ味はチーズの匂いが強く、若干(と言うかかなり)臭いが、その濃厚なチーズ味は文句無しに美味い(チーズ嫌いな人はつらいかもしれないが)。ちなみに、範人はアメリカの方が好きである。
範人はチートス"チーズ味"をかごに入れ、"フレーミン・ホット味"と"ワイルド・ハバネロ味"を手に取った。
「自分用にも買っとくかな……」
甘い物だけでなく辛い物も好き(と言うか、あまり好き嫌いしない)な範人がどちらを買おうかと迷っていると、
「なら、私の分も買ってください」
「……太るぞ?」
「大丈夫ですよ。太るほどは食べませんから」
「ならいいんだが……」
結果的に、両方とも買うことになる範人だった。
ちなみに、チートス"ワイルド・ハバネロ味"と"フレーミン・ホット味"はかなり辛い。"フレーミン・ホット味"に至っては、なんとかギリギリ食べられるというレベルで辛い。しかし、案外パクパクと食べれてしまうのは、チートスの軽さと美味さ故だろう。
さすがに、お土産がスナック菓子ばかりではダメだろう。そう思った範人は、ゼリーの素を適当に数種類、かごに入れた。
ゼリーの素と言えばゼラチン。そう思う人が多いだろう。ゼラチンがお土産なんて……と引く人もいるかもしれないが、安心してほしい。幻想郷ではゼリーという食べ物はまだ珍しく、また、このゼリーの素にはたくさんの味があるのだ。それも、数十種類。下手すれば、百種類を超えるかもしれない。その種類故に、商品の棚まるまる1つがこのゼリーの素で埋め尽くされるなんてことはザラにある。しかし、このゼリーの素のすごいところは種類だけではない。味も充分美味いのだ。ライム味が特に美味い(と筆者は思う)。更に、違う味を混ぜて新しい味を開発なんてことができなくもない(その新しい味が美味なのか不味なのかは組み合わせにもよるが)。
「このゼリー、牛乳で固めたら美味しそうですね」
「いや、それはやめといた方が良いぞ」
「なんでですか?」
「味によっちゃあ牛乳が固まらず分離しちまうからな。見た目が美味しそうじゃなくなる。まぁ、味をミスしなければ、分離しても普通に美味いけどな」
ライム味で固まることなく分離してしまった牛乳を思い出しながら言う範人。ちなみに、分離してもライム味は美味かった。
「さて、粗方選び終わったし、他のはまた別の店で買うか」
「そうしましょう。ところで、次はどうしますか?」
「とりあえず、アクセサリーを見ていこうと思ってる。せっかくハワイに来たんだから、ハワイらしいアクセサリーをな」
「ほうほう……つまり、範人は可愛らしい物が欲しいと……」
「可愛らしいは大分違うかな……」
範人は苦笑した。
◇
アクセサリーショップに着いた範人が真っ先に向かったのは首飾りのコーナーだった。
着る服にあまり拘らない範人だが、拘りを持っているものはある。それは、アミュレットやペンダント、ネックレスなどの首飾りである。普段、範人が身につけているネックレスは、形態変化させた状態の"覇剛剣アルゴス"なのだが、これは範人が形態変化した状態のデザインを気に入っているからである。
しかし、最近になって問題が発生した。いや、最近と言うよりは、最初からわかりきっていたかもしれないことなのだが……。
ネックレスでは取り外しに手間取り、奇襲に対応できない。
範人がこれに気づいたのは今年の春にミッションへ行った時だった。
潜入した場所はアンブレラの元実験施設だった巨大な山荘。ミッションの内容は、そこに残されている研究データの回収及び廃棄だった。
そのミッションでは、生物兵器の研究という国家機密レベルの情報を扱っている。そのため、政府に直接つながっているわけではない軍人を投入することは
順調に最深部までたどり着いた範人たちだったが、データ回収後に調べ尽くさずに退却しようとしたのがまずかった。
廃棄場に送られたハンターたちが処理されずに生きており、廃棄場に潜んでいたことに気づかなったのだ。
そして、出口目前。一頭のハンターが範人たちに追いつき、後ろから首刈りをしようとした。狙いは、一番後ろを歩いていた女性隊員。その時、ハンターの存在にギリギリで気づいた範人は女性隊員とハンターの間に割って入り、剣でガードしようとした。しかし、剣をネックレスにしていたのがまずかった。
ネックレスを外すのが間に合わず、範人の首がハンターの鋭い爪に刈り取られた。
完全に切断された首からは、血が噴水のように噴き出し、周りの隊員や壁に降りかかった。
数秒後、ハンターは、復活した範人によって倒されたのだが、この経験は範人に重要なことを学ばせた。
——武器はすぐ使えるようにしておけ!
この経験から、範人は新しいネックレスを買うことに決めたのだった。アルゴスは近々腕輪に改造するつもりである。
妖夢はハイビスカスの形をイメージしたであろうネックレスを指し示す。
「これなんてどうですか? 可愛いですよ」
「いや、可愛らしい物を探しているわけではないんだが……。それに、似合わないだろうし……」
「そうですか? 可愛い範人に似合うと思ったんですけど」
「俺のどこに可愛い要素があるかわからん……」
困惑した表情をする範人。
一方の妖夢は寝顔のことを話そうと思ったが、それに色んな妄想を組み合わせてオカズにしていることや勝手にキスしていることなど、余分なことまで話しそうだったためやめておいた。
次に妖夢が見つけた物は髑髏を
しかし、
「被りますね、これ」
アルゴスのデザインが髑髏のようなデザインのため、被りは避けようと、背を向ける妖夢だった。
「お、これ良いじゃん」
範人が手に取ったのはゲッコーを象ったネックレスだった。クリスタルに金属製のゲッコーが巻きついているというデザインであり、なかなかイカしている。
ゲッコーとはヤモリのことである。漢字で『家守』と書くように、ヤモリはハワイでも守り神と言われている。ちなみに、ヤモリはハワイ語で『
結果、範人はゲッコーのネックレスを買ったのだった。
その後、範人と妖夢はゲームセンターで遊んでから帰った。
ところで、アメリカのゲームセンターではゲームのスコアに応じて景品交換券がもらえるのだが……。
次の日、とんでもないスコアを叩き出して大量の景品をゲットした金髪の男というニュースがアメリカ中のゲーマーの間に広まったのだが、範人がそのニュースを知ることはなかった。
この話で、ハワイに少しでも行きたくなってもらえたら嬉しいです。