東方戻界録 〜Return of progeny〜   作:四ツ兵衛

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もうこれからはバトルよりもコメディ書いた方が良いんじゃなかろうか?
この回を書きながら、そう思いました。
さぁ、消されずに済むかな? あのワードはまだ大丈夫だと思うんだが……。


第九十話

「頼む! 我らのために刀を打ってくれ!」

 

 妖怪の山、天狗の里。天魔の屋敷にて。

 天魔が範人に対して頭を下げていた。そして、周りには腰の刀に手をかけている天狗たち。

 ——どうしてこうなった?

 時は1時間前に遡る。

 

 

 範人は研究所の第3研究室でとあるウィルスの研究をしていた。

 そのウィルスの名前はDウィルス。つい先日、幻想郷に侵攻してきた集団のリーダー、ルークが「ファーストの作品」と言っていたウィルスである。

 戦いの後、範人はルークの身体の一部、その手下の身体の一部、プラーガタイプDをサンプルとして研究所に持ち帰り、その中に含まれている物を調べた。すると、サンプルの全てからDウィルスが検出されたのだ。

 Dウィルスはかつてラクーンシティを壊滅させたt-ウィルスに近いウィルスということが判明した。試験体のマウスに感染させたところ、身体能力の著しい強化が見られたが、脳の機能が弱り、周りの生物に見境なく襲いかかって捕食するという行動が見られた。ウィルスの適合者ならば、脳の破壊は免れるだろうが、そんな者なかなかいない。つまり、制御が難しいのだ。

 ここで、範人は気づいた。プラーガを使っている理由に。

 世間に公表はされてないが、プラーガはヨーロッパのとある村を1つ崩壊させた記録がある。プラーガは様々な生物に寄生し、宿主を強化して操るのだ。おまけに、プラーガ同士は共存する意思がある。

 侵攻してきた者のリーダーはプラーガタイプD自体ではなく、その中に含まれているDウィルスを共存対象として、何らかの方法でプラーガタイプDに教え込んだ。そして、プラーガよりも大きな進化が望めるウィルス感染体を制御していたのだ。

 こんな物、全てのバイオテロリストや生物兵器開発者が喉から手が出るほど欲しがる物である。

 元いた世界にプラーガタイプDが解き放たれたら、と考えると、範人はゾッとした。普通の銃弾が効く相手ではない。

 そんな時に、射命丸文がやってきた。しかも、範人の背後に突然現れる感じでやってきた。

 

「研究、捗りまっか?」

「ぼちぼちでんなぁ……ってなんだテメェは⁉︎ 取材は男割り——じゃなくて、お断りだ!」

 

 驚きのあまり、色々間違えながら範人は言った。

 あまりの拒絶っぷりに、文は(´・ω・`)(こんな表情)になりながら、

 

「今日は取材じゃないわ。天魔様の命令で、貴方を呼びに来たのよ」

「ならいい。で? 俺に、自分の屋敷に来いと?」

「そういうこと。ほら、早くしなさい」

「待ってろ。サンプルの保存をしなきゃいけない」

「それって、時間かかる?」

「あまりかからないが、とても重要な作業だ」

 

 範人はサンプルの入ったシャーレに特殊なビニールシートをかけながら言った。

 このビニールシートは範人のオリジナルで、範人が粒子を操ることで作られた。ビニールシートの表面には空気だけを通す微細な穴が開いており、花粉や胞子は一切通さない。紫外線さえもシートに混ぜた薬品の色でガードする。おかげで、外部からの温度調整が簡単にでき、サンプル自体は完全にガードすることができるのだ。

 研究において、サンプルの保存は最も注意すべき点の1つである。特に、生物学において、サンプルは生物の身体の一部であり、生物(なまもの)であることが多い。

 生物(なまもの)は劣化が激しく、すぐに腐ったり、酸化したりしてしまうため、保存には非常に気を遣うのだ。

 不純物が入らないようにするのはもちろんのこと、温度や湿度を管理してそのままの状態を保たなければならない。

 カビの胞子なんて入れば、あら大変。カビが繁殖してサンプルは使い物にならなくなる。おまけに、それに気づかず研究を続ければ、それ以降の研究成果はパーである。同じサンプルで研究しなければ意味がないため、それ以前の研究成果も普通に無駄だったことになる。

 範人は保存庫にサンプルを仕舞い、第3研究室に戻ってきた。

 

「OK、準備できたぞ」

「ありがとうございます。さぁ、行きましょう!」

「あまりくっついてくるな。妖夢に斬られる」

 

 全身で背中を押して急かしてくる文に、範人は顔を赤くする。

 (妖夢よりも)大きなおっぱいが背中に当たって、ムニュムニュと形を変えるのだ。これに顔を赤くしない男はいないだろう。

 

「おやおや、顔が赤いですよ? どうかしましたか?」

「うるせー! ほら、早く行くぞ!」

 

 ニヤニヤしながら身体をぶつけてくる文に、範人は誤魔化すように叫ぶのだった。

 そんなわけで、範人は天魔の屋敷に来たのだが……。

 

「これは一体どういう……てか、断ったらどうするつもりだよ⁉︎」

 

 範人は周りの天狗たちを見回しながら言った。

 全員がこちらを睨みつけながら、刀に手をかけている。断ったら間違いなく斬りかかってくるだろう。下手をすれば、天狗と全面戦争である。いや、まぁ勝てるだろうから問題ないんだが……。

 依然として、頭を下げたままの天魔に範人が問う。

 

「別に武器を作るのは構わないんだが、それであんたはどうするつもりだ?」

「恥ずかしながら、今回の戦いにおいて我々の刀では力不足だと感じた。妖刀を持つ者がいても、それはほんの一握り。他の刀は普通の刀だ。そんな普通の刀ではこれからの未来、あんな奴らが来ればひとたまりもない。しかし、お主の刀は強かった。普通の刀とは圧倒的に違った。丈夫さ、重さ、切れ味、その他諸々にも強さを感じた。その強き刀——命を守る刀を是非、我々のために打っていただきたい」

「ほう……」

 

 範人は考えるそぶりをして、

 

「なら、見返りはなんだ?」

「……は?」

「お礼は何か? と聞いているんだ」

「……お主の望むものをやろう。無理のない範囲でな……」

「ふむ、悪くないな」

「何なら、我の童貞をくれてやってもよいぞ」

「いらんわ! 俺はそもそもホモじゃねーし、嫁なら妖夢がいる!」

 

 迷いなき即答に、天魔は「そこまで言わなくても……」と、膝をつき、そのままショックで気絶した。

 そんな天魔を尻目に、範人はお礼として貰うものを決め、

 

「お礼はこの山の通行証を頼む。あ、有効期間が無制限のヤツな。…………天魔が起きないみたいだから、後でお前たちが伝えておいてくれ。俺は家に帰って、刀の設計をするから」

 

 範人は部屋に待機していた他の天狗にそう言い残して部屋から出て行った。

 後に残された天狗たちはポカンとした表情でその後ろ姿を見送るのだった。

 

 

「貴方、タメ口なんてすごいわね。私たちは天魔様に頭が上がらないのに」

 

 範人が屋敷の玄関から出ると、文が話しかけてきた。

 範人は特に何でもないかのように、

 

「別に……。俺は俺のやり方を貫いただけだ。天魔に敬語なんて使いたくない」

「ほう、何故かしら?」

「目上とは思えないけど、尊敬しているから。童貞だし」

「それは褒め言葉? それとも悪口?」

「……両方だ」

 

 そう答えて範人は笑った。

 文は「あちゃー」といった感じの表情をして苦笑いする。

 

「まぁ、あの見た目だからね。可愛いんだけど……私たち女性からするとなんか犯罪してるみたいで微妙なのよ」

「だろうな。ジェットとフランみたいなもんだ。……子供は嫌いじゃないが、さすがに恋愛対象にはならないってところだな」

「そうそう、そうなのよ。可愛すぎて汚せないの。……ところで、訊ねたいことがあるんですが……」

 

 文の話し方が丁寧になった。範人の顔が引きつる。

 

「範人さんが言っていた『男割り』ってなんですか?」

「あれはただ言い間違えただけだ。むしろ、俺が意味を聞きたいわ」

「そうですか。何か面白いネタになると思ったんですが……。そういえば、『男割り』って言葉と『女体盛り』って似てますよね。あんなこと言ったのはまさかそんなことが関係あったり……妖夢さんにそんなことさせたりしてませんか?」

「さ、させるわけねーだろ、バカ野郎! 」

 

 範人は顔を赤くして叫ぶ。

 

「おやおや、してないんですか? 範人さんなら、していてもおかしくないと思うんですがね」

「本当にお前らは俺を何だと思っているんだ……」

「ヤリチン生物兵器」

「なんでそんな認識なんだよ⁉︎ 俺はヤリチンじゃねぇ! もう心が折れそうだ……」

「処女膜を何度も破ってきた剛槍は折れないのに、心は折れるんですね」

「だから、俺はヤリチンじゃねぇ! まだ17歳の童貞だっつーの!」

 

 範人は絶叫した。

 ——誰発の噂だよ……。殺したくなってきた——って、ダメだダメだ!

 範人は自身の中に湧いた黒い感情を無理やり心の奥底に

押し戻す。こんなところで変異して暴れようものなら、即戦争である。勝つけど。

 

「まぁ、いいでしょう。本当に、妖夢さんにはやらせてないんですよね?」

「やらせてたまるか!」

「そう言っておいて、本当はやらせてみたいんじゃないですかー?」

「いやいや、そんなことあるはずが……」

「嘘だぁー。男性の方々はほぼ全員、女性の裸が好きで、特に胸とお尻が好きという情報があるんですよ」

「そのほぼ全員の中に俺がいないとしたらどうなんだよ!」

「とんだ迷惑ですよね。酷い勘違いだと思います」

「だろ? だから、やめてくれよ」

「そうですね。……わかりました」

「そうか、わかってくれたか」

 

 範人は安堵し、溜息を吐く。

 ——変な勘違いはされずに済ん——、

 

「つまり、範人さんは男が好きということですね!」

 

 ——でねぇ⁉︎

 

「いやいやいやいや! なんでそうなる⁉︎ なんで俺がホモ扱いされにゃならんのだ⁉︎」

「だって、女性の裸は好きじゃないんでしょう? だったら、もうそっちの線しか……」

「バカ野郎! 別に女の裸は好きじゃないと言っても、女が恋愛対象だって言う男が多いんだよ!」

「おや、そうでしたか。なら、新聞にはそれを誇張してホモと書かせていただきますね」

「結局変わってねぇじゃねーか!」

 

 範人がご丁寧に説明までしたというのに、文は改めるつもりが全くない。

 別に文は新聞の売り上げを重視しているわけではない。あくまで、聞いたことを新聞に書こうとしているだけだ。そのくらい範人にもわかっている。しかし、そこは譲れない。

 俺はホモじゃない。俺が好きなのは妖夢だ。魂魄妖夢は俺の嫁。

 

「さぁて、早速帰って書きましょうかね」

「ま、待ちやがれ!」

 

 範人が文を呼び止める。

 文が振り返ると、そこには鬼の形相でこちらを睨む範人(バケモノ)の姿があった。

 文の表情が強張る。

 

「文ァ……俺はなぁ……」

「は、はいぃ!」

「女の裸が普通に大好きだ。身体の部位では特に太腿が好きだ」

 

 もはや、明後日の方向に振り切れる範人だった。

 

 

 後日発行された『文々。新聞』には『妖怪の山侵攻事件』が見出し一面に載せられ、そのおまけと言った感じで『生物兵器、ハンターキングの性癖』が取り上げられていた。

 そこには範人(ハンターキング)が『女体盛りをしている(本当はしていないことが新聞の端に小さく書かれていた)』ことや『太腿フェチである』こと、『ホモ疑惑』が書かれており、その結果として、周りの女性から、しばらく白い目で見られることとなった。

 一方、範人の彼女である魂魄妖夢はこの日の夕食に女体盛りを提案した。範人が全力で断ったのは言うまでもない。……やってみたい気持ちも、ちょっとあったらしいが……。

 おまけに、この日から妖夢がショートパンツを履くことが増えたのだが、範人自身がそれについて特に何か言うことはなかった。

 射命丸文がどうなったかはご想像にお任せする。


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