東方戻界録 〜Return of progeny〜 作:四ツ兵衛
〈つっても1週間空いてるけどな〉
〔学年末テストもうすぐだぞ⁉︎ 大丈夫なのか⁉︎〕
私に必要なものは勉強じゃない! 作品の更新だ!
〈お前バカだろ……〉
〔要約するとアレか? 新作書きたいけど作品複数持ちは辛いから早くラストまで行きたいってことだろ?〕
おま……エスパーか⁉︎
〔解るに決まってんだろ……。一応、俺達はお前の別人格だからな。だいたい、お前はいつもいつも……クドクド〕
〈本体の人格が説教されている間に本編行こうか。……あ、そうだ。気づいている人は気づいていると思うけど、女体化比べシリーズに2枚目を投下しておいたから、見たい人は是非見てね。では、本編をどうぞ〉
「ゴヘ——」
「……」
「おっぱいのペラペ——」
「……」
「ウ゛ォォォ——」
「……」
零——無月零は無言で侵略者達を斬り続けていた。その光景は正に死屍累々。百人斬りという言葉が可愛く思える量の死体がそこらかしこに転がっている。
そんな化け物のような少年(な見た目の超高齢者)の後を追う少女——アン。
「アヤレ——」
バァン!
「……」
普段はうるさく感じるほど元気なアンも今は驚くほど静かで、黙って引き金を引いていた。
共に戦っている仲間だと言うのに、2人の間に流れる空気は岩すら崩してしまうほどに重い。
実はこの2人、以前に喧嘩(と言うよりもはや戦争)しており、元は完全に敵対関係にあったのだ。そのときのアンは世界(友達)を救うために能力を発動して暴走、零は零で暴走したアンから世界を救うために戦うことになってしまったのである。
「世界を救う」という同一の目的のためだったにもかかわらず、敵対してしまったことは運が悪かったとしか言えない。
ビシュッ!
また1人、首が飛んだ。
零は冷酷な表情を浮かべながら、鮮やかな剣技で侵略者達を葬っていく。その姿にアンは恐怖を感じてしまっていた。
——やっぱりこの人は危ない。私と真逆で私と同じ……。
そう心の中で呟きながら、アンは引き金を引く。また1人、敵が死んだ。
◇
「お前、いつまで黙っているつもりだ?」
相変わらず会話も無しに駆除を続けていたが、突然、零が質問を投げかけた。
驚いたアンはビクビクしながらも零の方を見る。しかし、零の視線はアンの方を向いていなかった。
気のせいだと思い込み、再び銃を構えるアンだったが、その目の前に死体が飛んできた。
「ヒィッ⁉︎」
驚き、尻餅をつくアン。
死体には血文字で『いつまで黙っているんだ?』と書かれている。
涙目になって再び零の方を見れば、その目は鋭い光を放ちながら、アンを貫いていた。
怯えるアンに零はため息を吐き、
「別に俺は怒ってねえから早く言え……」
そう言われても、さっきまで敵を平気で叩き切っていた男だ。怒ってなくても切られそうで、どちらにしろ怖い。
アンを睨む目が更に鋭くなる。もう既にアンは失禁しそうになっていた。
零の目は依然として鋭かったが、その零が突然俯いた。
「俺ってそんなに怖いかな……」
と、呟く。
その呟きを聞いた瞬間、アンの脳内にある言葉が流れた。
『めちゃくちゃ怖いです、大長老!』
その言葉が何故流れたかはわからなかったが、あまりのバカらしさに自然と力が抜けてしまった。
——この人、本当は怖くないかもしれない。
「おら、早よ言えや!」
——前言撤回。やっぱり、この人怖い。
睨みつけながら言ってきた零に、アンは少し恐怖を覚えた。しかし、先程脳内に流れた言葉のせいか、怯えることはなく「フフッ」と笑ってしまった。
「何がおかしい?」
「あんたがあまりにも真面目そうに呟いたから少し面白かったのだ」
「この! ……俺はやっぱり怖——」
「それに安心したのだ」
「……は?」
思わず間抜けな声を出す零。
アンはニコニコしながら、
「許してくれたみたいで嬉しかったのだ。私があんなに酷いことしたのに、許してくれたのだ!」
「あぁ〜……そのことか……」
「そうなのだ。ありがとうなのだ!」
「俺、別に許したわけじゃないぞ」
「え……?」
天使のような笑顔から一転、アンは絶望のどん底に落とされたような顔になる。
アンの目に涙がうっすらと溜まり始めた時、零は「まぁ待て」とアンが泣き出すのを止めた。
零は決まりが悪そうに話し始める。
「そもそも、俺怒ってねえから。それに、許してないっつっても俺はそもそもお前を恨んだりもしてねーし。お前は友達……ひいては幻想郷を守るために能力使って暴走したんだろ? なら、俺は怒んねえよ。友達傷つけるのは流石に怒ったけどな」
零は空を見上げ、
「俺は幻想郷を作った者だ。俺にとっちゃ幻想郷全部が子供みたいなもんでな。そいつらがどんな喧嘩しようがどうなろうが知ったこっちゃねえが、滅ぼすっていうのは許せねえんだ。お前は別に壊そうとしたわけじゃねえだろ? むしろ守ろうとしてくれた。その点、俺はお前に感謝してんだよ」
——あくまで「その点」だけだがな……。
表情は相変わらずだったが、零の言葉は優しかった。その言葉はアンの心にこびりつき、固まってしまっていた罪悪感を溶かし、洗い流した。自然と溢れていた涙はその洗浄に使われたものだったのだろう。
突然涙を流し始めたアンに、零は戸惑う。そして、出した答えは……
「じゃ、じゃあ俺はこの辺で……」
逃走だった。
背を向けてそろりそろりと歩き出した零のコートの裾をアンが掴む。
「待つのだ……」
「ホホホホウ、キャッポウ⁉︎ 放してくだせえ!」
奇声を発して驚く零。
アンは零の胸に顔を埋め、泣き始めた。
「おい! 離れろ⁉︎ 鼻水つくだろうが!」
零が絶叫する。
しかし、零の言葉も全く聞こえていない様子でアンは泣き続ける。
「う、うぐぅ……ちくしょうめ……」
——仕方ねえな。
零はアンを抱き寄せ、その背中を優しく撫でる。そして、泣き止むまで離さないのだった。
◇
「ありがとうなのだ! スッキリ爽快なのだ!」
十数分後、やっと泣き止んだアンが零に礼を言う。一方の零は無表情で、不機嫌そうなオーラを放ちながら黙っていた。
そんな零に、アンは不思議そうな表情を浮かべ、
「そんなオーラ放ってどうしたのだ? ポッドを親父ごと投げ飛ばしたサイヤ人みたいなのだ」
「……そりゃあ、怒るだろうなぁ。こんだけされりゃあよ……」
「もしかして私が泣いている間、ずっと敵を倒していたのだ⁉︎ 悪いことしたのだ……」
——ちげぇよバカ!
喉元まで出かかったその言葉を零はなんとか飲み込んだ。その代わり、申し訳なさそうな顔をするアンを、柱の下まで落ちた息子を見る某リサ×2先生のような目で見下ろしてやる。
確かに、零はアンが泣いている間、近づいてきた敵を全て蹴り潰していた。しかし、違う。零が怒っているのはそこではないのだ。
零は視線を自身の身体に落とす。白いコートの胸の部分はアンの涙と鼻水でベトベトになっていた。
アンは零が不機嫌になっていることなど関係ない様子で、
「まぁ、そんなことより改めてお礼が言いたいのだ!」
まるで今まで泣いていたことを全て忘れたかのような顔(目の周りは赤く腫れ上がっていたが)を零に向けた。
相変わらず謝罪の無さそうなアンに、零は顔を引きつらせる。
「零が戦っていてくれた分、私も頑張るのだ!」
「おう、頑張れよ……」
「……あ、そうなのだ」
零に背を向けたアンだったが、何か思い出したのか、振り返る。
「私が泣いている間、服が汚れるのにずっと抱きしめてくれててありがとうなのだ。お父さんみたいで安心したのだ!」
「誰がお父さんだ! てか、まず最初にコートのこと謝れよ!」
「そんじゃ行ってくるのだ〜」
アンは零のツッコミから逃げるように駆けていく。そんなアンの後ろ姿を見ながら、零は思う。
父親……か。俺の作った幻想郷の奴等はほとんどが俺の子供。…………あ、てことは……。
「とんだクソガキばっかじゃねーか!」
零は絶叫した。最後に小声で「すごく良い子だけどな」と付け足して。
零は戦うアンをチラリと見る。能力を発動して周りに合わせ、銃を上手く使いながら戦う彼女を見ていると何故だか無性に戦いたくなってきた。
零は剣を握りしめる。
「この世界の子も助けないとな」
——今は戦って救うしかないか。
剣を片手に零は走り出した。狂気的な言葉のおまけ付きで。
「オラァ! もっと斬らせろやァ!」
◇
この日、侵略者達は酷く後悔した。何故、こんな場所に攻め込んでしまったのか、と。そして、その主な原因は合わせる力と無の力を持った2人のチートだったと言う。
侵略者達は2人の名前から意味を読み取り、暗示をかけてこう呼んだ。
「二進数」と。