東方戻界録 〜Return of progeny〜   作:四ツ兵衛

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久しぶりの更新になってしまいました。
失踪したと思っていた方々、なんとか生きてますのでご安心ください。


第八十五話

「ウガァァァァァア!」

「ヒイィ!」

 

バンという銃声と共に倒れる侵略者。絆はペタンと尻餅をついた。

その様子を見ていた明菜が一言。

 

「たった1人撃ったくらいでだらしないわね。本当に女の子なんじゃないの?」

「僕は男です!」

 

絆は絶叫した。

 

ここは戦場。メイド服姿の美少z…美少年——仲光絆と胸の大きいお姉さん系の美女——細木明菜はその真ん中にいた。

少年&美女+戦場という組み合わせは非常にアンバランス。当然、2人の姿はよく目立ち、すぐに侵略者達の標的になった。

 

「イヤー!来ないでくださいー!」

 

絆はまるで女の子のような声をあげて逃げ回る。そんな者に侵略者達が反応しないはずがない。ほぼ全員が絆を追いかける。

 

「モテモテねー、絆ちゃん」

「ちゃん付けしないでください!僕は男です!貴女わざと言ってるでしょう⁉︎」

「……それがどうかしたのかしら?」

 

明菜はわざとらしく?マークを浮かべて答える。

 

「ああ……もう!とにかく助けてください!この人達さっきから鼻息が荒くていやらしいんです!」

 

絆は目で後ろを示しながら言う。

確かに侵略者達の鼻息は荒い。おまけに一部の顔はニヤけており、完全に変態だ。その様子はアニメでよくある場面の一つ、モテる女子とそれを追いかける男子達にそっくりである。絆は女子ではなく、男なのだが……。

 

「こっち来ないでください!」

「ウォォォォオ!」

 

絆が叫んだが、後ろの侵略者達はまるで聞こえていないかのように追いかけ続ける。

 

「来ないでください!」

「ウォォォォオ!」

「来ないで!」

「ゴヘンロー!」

「何言ってるかわかりませんが本当に来ないでください!」

「イエッサー!」

「来ないでって言ってるでしょうがー!絆『マスタースパーク』!」

 

全く聞く耳を持たない侵略者達についに絆がキレた。手から極太のレーザーが発射され、侵略者達は容赦なく吹き飛ばされ、意識を失った。

ゼェゼェと肩で息をする絆に明菜が言う。

 

「貴方って怒らせちゃいけないタイプだったのね」

「……それがわかったならもう揶揄うのはやめてください」

「わかったわ。でも、とどめを刺さないなんて腰抜けかしら?」

「行動不能にしたんですからいいでしょう?とどめを刺すなら貴女が刺してください」

「……仕方ないわね」

 

明菜はため息を吐く。

もう何度聞いたかも忘れてしまうほど日常化した音——銃声が戦場に鳴り響いた。

 

 

 

 

明菜が侵略者達にとどめを刺して数十分。相変わらず戦いは続いていた。あれから起きたことと言えば、1人の侵略者が「おっぱいのペラペラソース!」と叫んだ直後に首が消し飛んでいたことくらいである。その時の明菜の顔は鬼のようだった。

 

「さて、絆クン。これから何か大きなことが起こるけど、それが何かわかるかしら?」

「……随分唐突ですね。何か起きたんですか?」

「いいから質問に答えなさい」

「……仕方ないですね。……うーん…………この人達とは比べ物にならないくらいの相手が現れるんじゃないですかね?ゲームやアニメでよくあるパターンです」

「……!」

 

目を見開いて黙り込む明菜。

絆は心配になり、

 

「あの……大丈夫ですか?」

「……ハッ!……ええ、大丈夫よ」

「随分驚いていたみたいですけど……もしかして正解だったりしますか?」

「それはすぐにわかるわ」

「……え?それって本当に——」

 

突然、地面がグラグラと揺れ始めた。絆は空中へ飛び上がり、明菜は「やっぱりね……」と呟く。

地面から巨大なハサミが現れ、それに続いて身体が這い出してきた。人間のような上半身と芋虫のような腹から生えたトカゲのような脚、更に尻尾にはハサミがついている。体高は2mを超えるだろう。

 

「うわぁ……気持ち悪いです。……何なんですかアレ?」

「アレはU-3ね。私もまさかあんなにキモい奴がいるなんて思ってなかったわ」

「僕あんなのと戦いたくないです!」

「私だって嫌よ!……でも、生物兵器としての完成度はかなり高いから……わかるわよね?」

「……アレだけでも幻想郷は危機に陥ると?」

「そういうこと。というわけで行ってきなさーい」

 

明菜は絆を引っ張り下ろし、U-23の前に押していく。

だんだんと近づいてくるその醜悪な姿に絆は、

 

「嫌ァァァァァァァア!キモいキモいキモいキモいキモいキモいキモい……」

 

と、叫ぶ。

見た目が完全に美少女の絆に「キモい」と連呼されれば誰でも傷つく。U-3もショックだったのか、地面に手をついていた。

 

「あ……ごめんなさい……」

「敵に謝ってどうするのよ……」

 

そう言う明菜だったが、さすがにかわいそうだったためそれ以上は追求しなかった。

 

「それで……殺す……んですよね?」

「そうよ。……気の毒だけど、そうしなきゃいけない」

「……!」

 

「殺す」「そうしなきゃいけない」という単語が発せられた瞬間、U-3は後ろへ跳んだ。

絆と明菜はU-3へハンドガンを向ける。そのときにはU-3も既に臨戦態勢を整えていた。

 

「……ごめんなさいね。死んでもらうわ!」

 

明菜のハンドガンから弾が発射される。U-3はムチのようなその腕を振るい、飛んできた弾をまるでハエのように叩き落とした。明菜の表情が歪む。

——笑えない冗談ね。

落ちた弾はまるで熟れすぎて落下したトマトのように潰れていた。

 

「ヴォォォォォオ!」

 

明菜にU-3の腕が迫る。明菜は横へ跳んでかわし、伸びきった腕をナイフで突き刺した。しかし、

 

「……え⁉︎」

 

その筋肉は膨張することで突き刺さったナイフを掴んでしまった。

明菜はナイフを抜こうとするが、筋肉は掴んだまま放さない。「それならば……」と、明菜はナイフを踏みつけた。

ガリッ!

ナイフが骨に届いたことを示す音が響き、U-3はビクリと身を震わせる。

その瞬間、背中にも激痛が走った。

 

「僕のことを忘れてもらっては困りますよ」

「グ……グ……ガァァァァァア!」

 

U-3は怒り狂った。

背後はほとんどの生物にとって死角となる。そのため、背後からの攻撃はより強い恐怖を与え、より強いストレスになるのだ。

U-3は身体を1回転させる。尻尾の鋏とムチのような腕が前後の2人に襲いかかった。

 

「クッ……!」

「うわっ⁉︎」

 

背後に跳んで避ける2人だったが、空中で無防備になる。

U-3はもう1回転し、先程よりも更に伸ばした左腕で薙ぎ払った。2人の身体がくの字に曲がり、吹き飛ぶ。

2人は受け身をとったが、地面は固く、着地の衝撃を余すことなく伝えてくる。

 

「グギュゥゥゥゥゥウ!」

 

U-3は2人に突進。

絆は迫り来る醜悪な姿に死を覚悟した。その瞬間、

ドバン!

U-3の身体に無数の穴が開き、動きが止まる。絆の背後では明菜がショットガンを構えていた。

 

「私達は兵器じゃない。生身じゃ……あんたみたいな化け物には敵わない。……でも……強くあるための……恐怖を忘れるための兵器なら持っている! 悪いけど死んでもらわないと……私達が作り出したから私達が責任を取るんだ!」

「……かっこいいこと言ったつもりでも唐突すぎてどう反応すればいいかわかりませんよ」

 

あまりにも冷静な絆のツッコミに、明菜は顔を赤くしてうつむく。絆はそんな明菜の肩に手を置き、

 

「でも、貴女の言葉は間違っていませんでした。僕達がここで問題を処理するのはおかしいかもしれないですけど、そもそも問題を作ったのは僕達人類ですからね。……後は僕に任せてください」

 

絆はU-3の前に踏み出した。その表情に恐怖はない。あまりの変わり様に明菜は思わず訊いてしまう。

 

「突然どうしたの⁉︎」

「僕だって男です。女性である貴女にばかり任せるわけにはいきません」

「……それなら私がやる——」

 

明菜は踏み出そうとするが、すぐに力なく膝をついてしまった。

 

「さっきの一撃で怪我をしたのでしょう? それなら、なおさら貴女を戦わせるわけにはいきません。僕がやりますので貴女は待っていてください。ここでやらなきゃ男がすたります」

「……ま、待ちなさいよ!」

 

——あんたなんかじゃ勝てない!

明菜は手を伸ばすが、絆の背中はもう既に手の届かない場所にあった。

 

 

 

 

絆は明菜を守る形でU-3の前に立ち塞がる。空気を読んだのか、U-3は撃たれてからずっと固まっていた。

 

「待たせてしまいましたね。さぁ、戦い(あそび)ましょう?」

 

お辞儀をして微笑んだ絆。それが再開の合図だった。

U-3の腕が絆に向けて連続で振り下ろされる。絆は軽やかにステップを踏み、ヒラリヒラリと身をかわしていく。

先程の絆からは想像もつかないような動きに、明菜は驚き、そして見とれていた。

 

「ギュルルァ!」

 

U-3が一際大きな声で鳴き、その両の手を地面に叩きつけた。そのあまりの馬鹿力に地面が隆起し、砂煙が舞い上がる中、絆は駆け出す。それに気づいたU-3が腕を引き戻そうとするが、時既に遅し。

絆はU-3の懐に潜り込むと同時に星熊勇儀の絆を発動。フルパワーで殴り抜いた。

 

「ギュ……ギ……」

 

苦しそうな鳴き声を出すU-3。

 

「まだまだ! 絆『マスタースパーク』!」

 

絆は至近距離でマスタースパークを発射した。U-3がまるで紙切れのように吹き飛ぶ。

絆は更に追撃しようと足を踏み出したが、その身体は勝手に前へと進んでいた。足首にU-3の腕が巻きついている。

咄嗟に、絆は足を踏ん張った。しかし、能力でパワーを増しているとはいえ所詮は人間。U-3が少し力を込めて引っ張っただけで簡単に引き寄せられてしまった。

向かう先には鋭い大鋏。絆は地面を蹴って飛び上がる。直後、足元で刃が交差した。

バツンと音を立ててU-3の腕が切り落とされる。

——自分の腕ごと⁉︎

腕から解放された絆は鋏を蹴って後退。距離をとりながらハンドガンを連射した。弾が当たることはなかったが、U-3が怯む。絆は再び、

 

「絆『マスタースパーク』!」

 

マスタースパークを発射した。レーザーが射線上の地面を吹き飛ばす。しかし、

 

「……いない⁉︎」

 

絆が目を見開く。なんと、U-3の姿が消えていた。あの醜悪な巨体が一瞬で消えてしまったのだ。

——いったいどうやって……?

そう思う絆だったが、すぐに空中へ飛んだ。直後、絆の立っていた地面が巨大な鋏で切り裂かれる。

 

「地中は卑怯じゃないですかね?」

 

飛び道具を使う人間の方がよっぽど卑怯だが、絆にそんなことを気にしている余裕はない。

絆は弾幕をばらまいた。ダメージが無いことをわかりきっているが、興味を引けないことはない。

結果は成功。弾幕は地面から飛び出してきた鋏に当たり、U-3が地上に這い出てきた。

絆はU-3の背後に回り込み、

 

「絆『レーヴァテイン』!」

 

落下の速度をそのままに、レーヴァテインを真上から振り下ろした。

 

「ウアァァァァァァア!」

 

レーヴァテインは炎の剣。肉体に食い込んだ刃は肉を焼き、組織を破壊していく。そのあまりの痛みにU-3が叫び声をあげた。

——後少し……!

本当に後少しだけだった。

尻尾の鋏でレーヴァテインは空高く弾かれ、絆の身体が宙を舞う。そして、無防備な絆をU-3の腕が薙ぎはらった。

 

「あっ…がっ……!」

 

絆は地面を転がり、岩に激突した。

命を失わずに済んだのは偶然にも勇儀の絆を発動していたおかげだろう。しかし、それによって絆は残酷な終わりを迎えようとしていた。

グラグラと揺れる視界の中で、迫ってくる巨大な影。U-3は絆にとどめを刺そうと突進した。

 

「ゴァァァァァア!」

 

U-3は絆を叩き潰そうとその腕を振り下ろした。絆は転がってギリギリで避ける。しかし、もう限界だった。絆は意識を手放した。そしてU-3もまた、腕だけで終わるはずがなかった。

U-3はその巨大な鋏を絆に向け、振り下ろした。

ザクッ!

 

 

 

 

結果から言えば、勝者は人間。U-3は死んだ。

それは偶然の出来事だった。U-3はレーヴァテインに貫かれて死んだ。空高く弾き飛ばしたレーヴァテインが落ちてきて突き刺さったのだ。

しかし、絆は自身が勝った瞬間を見ていない。見ていたのは明菜、たった1人だった。

 

 

勝者 細木明菜&仲光絆


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