WarLines 日本皇国海軍士官奮闘録   作:佐藤五十六

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VOYAGE.3

「「距離、15000」」

「「撃ち方始め(うちぃかたはじめ)」」

海防艦と駆逐艦で指揮をとっていた二人は同時に同じ事を言った。

76㎜砲弾が互いの航跡に交差する。

実際は一発も発射されてはいない。

だが、システム上は互いに被弾判定が続出していた。

 

「所詮はただのガキだったって訳だ」

"ふぶき"戦闘情報センターCICで艦長はつぶやいた。

「海洋警備には十分だが…

ん、撃ち方やめ(うちぃかたやめ)

無駄玉を撃つな」

つぶやいた後の顔には驚愕が残る。

「畜生」

砲雷士の一人がつぶやく。

"ふぶき"の主砲の射界から"ひなぎく"の姿は消えていた。

次の瞬間には命中判定が連続する。

「ヘリコプター格納庫付近に命中判定。

燃料管に引火、撃沈判定」

モニターを見ていた副長が淡々と述べる。

「あっちに甘すぎないか?」

誰かが言った、言わんとする事も理解できる。

(だが、新人相手にハンデが無けりゃただの弱いものイジメだ)

その気持ちを抑えながら、艦長は一喝する。

「ぐだぐだ言うな。

負けたのは、俺達の実力不足だ。

多少のハンデくらいで負けるようじゃ、俺達はまだ弱いという事だ」

艦長に言われれば、ぐうの音も出ない。

「演習終了、大阪警備府へ帰投する。

以上」

 

「本艦各部に多数の命中判定」

「被害は?」

「戦闘の継続に問題なしと判定されます。」

「ならいい。

流石にきついな」

(一撃で沈められれば、問題無いんだが。

そんな弱点は無いし)

第二次世界大戦で大海戦を経験した日米海軍の艦艇は、重要箇所は効果的に防護されている。

居住区画を犠牲にしてでも、兵装や機関科区画を守り切るのが日米のやり方だ。

だから、機関科区画を狙うよりも、他の弱点を狙うべきなのだ。

「狙うポイントをお考えでしたら、あの辺りはどうでしょう?」

指差したのは、"ふぶき"のヘリコプター格納庫であった。

ミニ・ハープーンの命中判定が下っている箇所であり、破損判定が出ている箇所でもある。

何かしらの弱点かもしれない。

「機関出力、赤30

面舵10」

「アイ・サー、赤30」

「アイ・サー、面舵10」

「目標、ヘリコプター格納庫周辺、"ひなぎく"全砲門開け。

撃ち方始め(うちぃかたはじめ)

"ひなぎく"は搭載されている全火力を投射する。

76㎜砲は100発/毎分のバーストに設定している。

だから、"ふぶき"は万遍なく叩かれているはずだ。

「"ふぶき"命中判定多数、うち一発が燃料管に命中引火、撃沈判定。

現在の"ひなぎく"の状況は、オットーメララ76㎜砲二門共、弾切れにより使用不能、ESSM、ASROC、短魚雷のみ残弾あり。

船体にいたっては、中破。

演習評価、C。

以上です」

「どちらにしても、演習は終了です。

艦長に指揮権を返還します」

そう佐竹中尉は初めての演習を締めくくる。

「分かった。

本艦はこれより大阪警備府へと帰投する。

針路008」

 

二時間後、堺港第一海軍埠頭、そこに"ひなぎく"の姿はあった。

「位置固定。

投錨」

ラッタルが据えられ、舷門が設置される。

母港とは言え、艦内への人の出入りの監視は怠らない。

『"ひなぎく"先任将校佐竹紀一中尉、至急警備府事務室まで出頭してください。

警備府司令官がお待ちです』

ラッタルから埠頭へ下りた佐竹中尉に"ふぶき"艦長間宮十三中佐は話しかけてきた。

「従軍記念章の授与だ。

ピシッときめてこい」

第四十三号従軍記念章、通称駆逐艦殺しは特殊な代物である。

甲もしくは乙があり、実戦において駆逐艦以下の艦艇をもって駆逐艦撃沈を行った者には甲が、演習において前の条件を達成した場合には乙が授与される。

さらにこの記念章は総理大臣ないし国防大臣もしくは海軍の軍令部総長の承認無しに授与が認められている。

しかも、それが沿岸警備部隊(ここ)では一種のステータスなのだ。

これを持っていれば、大抵の海軍施設で歓迎される。

埠頭の近くにある大阪警備府の建物は築十年の比較的新しい清潔感のある建物だ。

地上四階、地下三階からなる建物の中では百人ほどの海軍兵士が勤務している。

上は警備府司令官の少将、下は事務処理担当の二等水兵までである。

大都市近郊の警備府ということで、海軍少将が司令官として着任している。

一階にある受付にて、身分ついで用件を告げる。

「佐竹紀一中尉、たった今出頭致しました」

「佐竹中尉ですね。

あっ、はい、司令官室にて司令官がお待ちです。

案内します」

受付にいた水兵はタッチパネルを確認し、確かに呼び出されていることを確認する。 

「よろしく頼む」

水兵の後について行くと、四階の司令官室に着いた。

「原口一等水兵入ります。

佐竹中尉の到着です」

「ご苦労。

下がってよし」

「了解。」

「佐竹紀一中尉入ります」

「そうかたくならんでもよい。

私が大阪警備府司令官、九十九莞爾少将だ。

そうそう私が男色とか言う噂が立っているようだが、真実ではない。

ただの女嫌いだ。

私個人としても改善せねばと思ってはいるが、話はそううまくは転ばないのだ。

一度女の腹黒さを見てから、心的外傷(トラウマ)になってしまってな。

それに君の戦いぶり、地下で見させてもらったよ。

中々じゃないか、我が警備府の将来のエースは君に決まったな」

かなりのマシンガントークであった。

その上突然話の方向が変わる。

初対面の人間はドン引きだろう。

佐竹中尉としても、第一印象は最悪に近かった。

「それでだが、佐竹中尉に第四十三号従軍記念章乙を授与する。

申請書類はこれにまとめてある。

必要事項を記入の上で、明後日までに提出してほしい。

以上」

「はあ、了解。

失礼します」

 

警備府本棟を出た佐竹中尉は埠頭の"ひなぎく"に戻った。

艦内の食堂の中では、"ふぶき"艦長間宮十三中佐と"ひなぎく"艦長二階堂雪少佐が話をしていた。

笑い声も聞こえて来るから、話も弾んでいるのだろう。

「おう、戻ったのか?

強烈だっただろ?」

何がとは言わないが、理解できる。

「あっ、はい。

そうですね。

凄かったです」

あくまでも何とは言わない。

「あれでも、元は最強の海防艦乗りだったのよ。

それと補給員長の初仕事、明日の昼からにするから」

金曜日の昼、つまりは海軍名物の金カレである。

「カレーですか?」

「うん、一応、ここに先代のレシピがあるから、これで作ってくれれば、大丈夫、失敗しないと思うわ」

「分かりました。

これから、仕込みに入りますんで。

先に失礼します」

 


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