『ワルキューレ・ゼロワンよりイェーガー・ゼロワン。
司令部よりのオーダーを伝える。
貴隊は皇居周辺に展開し、友軍地上部隊の進撃を阻害する敵狙撃兵を排除せよ。
そのために必要な武器の使用を許可する』
「イェーガー・ゼロワン、ラジャー」
上空統制機であるワルキューレ・ゼロワンより命令を伝えられたイェーガー・ゼロワンは、今は東京に東から進入しつつあった。
命令が告げられてから、1拍おいてイェーガー・ゼロワンは命令を部下に告げた。
「イェーガー・ゼロワンより各機。
スナイパー狩りだ。
準備にかかれ」
小隊単位に分離した第4対戦車ヘリコプター隊のAH-64DJアパッチ・ロングボウは東京上空で集合した。
「イェーガー・ゼロワンとハンター・ゼロワンは単機、残りは小隊ごとに編隊を組み、余りは余りで組め。
以上、イェーガー・ゼロワン」
『『『ラジャー』』』
第4対戦車ヘリコプター隊は指示があってから5分も経たないうちに、隊形の変換を完了した。
『ハンター・ゼロワンよりイェーガー・ゼロワン。
隊形の変換を完了した』
「イェーガー・ゼロワン、ラジャー。
カウント・スリーで
スリー、トゥー、ワン、ブレーク」
先任小隊長機であるイェーガー・ゼロワンの指示に従い、12機のAH-64DJがバラバラに散る。
「ガナー、ガン・システム、フルオン」
一斉に散開したAH-64DJは、M230と呼ばれる30㎜
これはたったの1発命中しただけでも、人間の四肢を吹き飛ばせるほどの威力を誇る代物だ。
「ラジャー」
「目標、探索始め。
あー、屋上だな。
タンクの下で厄介ではあるが、殺れない相手ではないな」
グラスコックピット化されたAH-64DJアパッチ・ロングボウのコックピットの正面にある画面に、熱画像が映る。
そこから導き出されるのは、敵狙撃兵の慢心だった。
「アパッチ・ロングボウのモノアイ・システムからすれば楽勝です」
ガナーの目線に連動して、自動で機関砲を指向するモノアイ・システムは、ガナーの視線の届く範囲と機関砲の砲口の直線上しか照準できない。
そこでそのモノアイ・システムは日本の独自仕様に改造され未来位置での照準と射撃が可能となった。
そこまでの改造を施した陸軍技術部と富士重工担当官によると、弄ったのは目標指示システムのプログラムだけらしい。
従来のシステム以外にも目標の方位、直線距離、高さを計測し、即座に高校数学で習うサインやコサイン、タンジェントのような三角関数の計算式に当てはめ計算するプログラムを組み込み、自動で計算させることでそれを割り出すのだ。
その結果に、自機の速度、相手の速度を割り当て、計算することによって未来位置に対する照準を可能としたらしい。
「一気に横合いを通過する。
一撃で仕留めろ」
AH-64DJアパッチ・ロングボウのガナーは、それを行えるようになるという、それだけの訓練を受けている。
データをリンクさせたモノアイ・システムに、補助を受けたガナーは照準を行う。
3次元画像捕捉による目標の選定は、既に終了し、既に未来位置における射撃の準備に入っていた。
「準備完了」
「行くぞ。
発射は2発だ」
パイロットの指示に、ガナーが頷く。
アパッチ・ロングボウの出しうる最高速度で、射撃ポイントと思われるビルの横を通過する。
「撃て」
機体前部に搭載された30㎜
ずしりと重い発射音が2発続けて響き、あとには静寂が残る。
一息ついたガナーが、報告する。
「目標の沈黙を確認。
敵性の反応はありません」
「敵の制圧を開始する。
正門前、カウント・スリーで射撃だ」
もののついでという感じで、正門前の制圧に入る。
「目標、
30㎜
そんなときに、ゼロワンに通信が入る。
『イェーガー・ゼロワンへ。
こちら、ゼロツー。
メイデー、メイデー。
我、敵の攻撃を受く。
繰り返す、我、敵の攻撃を受く。
墜落中、墜落中』
正門前の敵兵を掃討していたイェーガー・ゼロワンに緊急の無線が入った。
イェーガー・ゼロツーとゼロスリーには坂下門の掃討任務が与えられていたはずだ。
急いで坂下門の方を見ると、煙を吹き上げて墜ちていくイェーガー・ゼロツーの姿が見えた。
「ゼロワン、ラジャー。
すぐに向かう。
ゼロスリー、ゼロツーを援護しとけ」
『ゼロスリー、ラジャー』
無線を切ったゼロワンのパイロットは、前席に座るガナーに声をかけた。
「ゼロツーを援護しに向かうぞ」
「ラジャー」
大きく機首を旋回させたAH-64DJは、取り付けていたスピーカーをオンにした。
「ふんふんふーん、ふっふっふっふーん、ふっふっふーん、ふっふっふー」
スピーカーから流れる"ワルキューレの騎行"を口ずさみながら、操縦桿を振る。
右に左に大きく揺れる機体は、敵に気付かれやすい。
「さっさと俺らに喰らいつきやがれ」
パイロットは、アパッチ・ロングボウを囮として使うつもりなのだ。
「早く喰らいつきやがれ」
目立つように飛ぶイェーガー・ゼロワンは、格好の的であるはずだ。
それでも喰いつかれないために、パイロットは付近の反応すべてを攻撃するつもりであった。
坂下門上空で大きく弧を描くように、旋回したアパッチ・ロングボウは、ついに攻撃を受けた。
無誘導なそれを、アパッチ・ロングボウは難なく躱す。
機体と弾体が交錯するその一瞬に、使われた兵器に当たりを付ける。
それは恐らく旧ソ連製の
米ソ両大国の軍隊を苦しめたムジャヒディン・ゲリラが対空火器として多用していることで有名な兵器だ。
(狙いは粗い。
ならば、どの兵器を使おうと同じだな)
狙いが正確であれば、機関砲のような即応性のある火器を使う。
しかし、その
「奴がゼロツーの仇だ。
ガナー、ロケットを使え」
通常のヘルファイアミサイルの搭載位置にスピーカーを搭載しているとはいえ、イェーガー・ゼロワンはその内側にハイドラ70ロケット弾ポッドを搭載している。
「目標、
パイロットの指示を受けたガナーが操作すると、ロケット弾が連続して発射され、地上で爆発する。
最初の爆発は、
続いての爆発は、墜落したイェーガー・ゼロツーを包囲していた将兵たちを巻き込んでいく。
『ゼロツーよりゼロワン。
二人とも骨折等の怪我はありますが、命に別状はありません』
「ゼロワン、ラジャー。
友軍地上部隊に救助を要請する。
暫しの辛抱だ。
耐えてくれ、頼む」
『ゼロツー、ラジャー』
そこまで聞いて、無線が切れた。
「イェーガー・ゼロワンよりワルキューレ・ゼロワン。
イェーガー・ゼロツーが撃墜された。
友軍地上部隊による早期の救出を要請する」
『ワルキューレ・ゼロワン、ラジャー。
先程からの交信は、こちらでも
安心しろ、既に要請してある。
で、改めて命令を与える。
友軍地上部隊、まあ救出部隊と呼んで差し支えないが、それが到着するまで、ゼロツー乗員を援護せよ。
以上』
「イェーガー・ゼロワン、ラジャー」
そう言うと大きく左右に機体を揺らす。
「ガナー、高度を一気に落として、
行くぞ」
そう言ったパイロットは、そのまま一気に高度を落とす。
それに追随するのが、小隊三番機の位置を任されているゼロスリーだ。
二番機をとばした状態でのコンビネーション訓練も行っていることから、その動きに澱みがない。
「全火力を投射する。
敵兵の頭を上げさせるな」
低空に占位した2機のアパッチ・ロングボウから、死をもたらす嵐が吹き荒れた。
それは無慈悲に、人も物も吹き飛ばしていく。
「撃ち方やめ。
味方の到着だ」
イェーガー・ゼロツーの無惨にも破壊された機体の転がる地上には、友軍地上部隊が取り巻いていた。