WarLines 日本皇国海軍士官奮闘録   作:佐藤五十六

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VOYAGE.22

隠岐の島駐屯地・竹島防備独立混成団司令部

「警察及び隠岐の島町よりの治安出動要請あり。

現在、隠岐の島にゲリラの潜入の可能性があり、それの確認を求めています」

竹島防備独立混成団を団長として指揮するのは、保田道隆少将、国防大学校32期卒業の熱血漢だ。

ちなみに、竹島防備隊と呼ばれるのは、竹島に臨時に駐屯している1個から2個の中隊だけで、隠岐の島駐屯地にて待機している本隊は竹島防備独立混成団と呼ばれるのが慣例となっている。

よほど軍に詳しい人間でないと、この事を知らないので、一般的に竹島防備独立混成団もひっくるめて竹島防備隊と呼ばれている。

「実弾配布は?」

部下からの報告に、保田少将は頷きながら逆に聞く。

彼の脳裏に、行かないという選択肢は存在しないようだ。

というよりも、軍人として国民の生命と財産を守る義務がある。

その義務感に突き動かされているのだろう。

「既に完了しています」

「竹島で戦っている間に、後方を乱されるのはまずい。

第一中隊はただちに出動し、通報のあった漁船を確認せよ。

第二中隊は山狩りの準備を終え次第、出動しゲリラを燻りだせ。

第四中隊本部は、指揮中継隊として通信小隊の支援に当たれ」

第四中隊は保有する3個小隊をすべて竹島の第三中隊支援のため、抽出されたために不完全編成として、隠岐の島駐屯地に残置していたのだ。

また、大隊を編制に組み込んでいるものの、幹部不足から先任の中隊長が大隊長を兼任するという形をとっているため、普段から大隊を省略することが多い。

そのため陸軍内には、竹島防備独立混成団を4個中隊基幹の竹島方面歩兵連隊と見る向きがある。

無論、日本皇国軍戦略軍備計画に基づき、団指揮下の大隊を廃止して、連隊として近々再編成が予定されていた。

団から連隊に格下げになっても、戦力的には大して変わらないが、新開発の中距離多目的誘導弾(MMPM)を装備した特科中隊が指揮下に加わる予定であった。

これにより竹島上陸を目指す敵部隊を上陸用機材、例えば韓国海兵隊の上陸部隊をKAAV-7やLCACごと洋上で撃破する計画なのだ。

しかも、この特科中隊は他では旅団司令部隷下に大隊規模でしか編成されていない部隊である。

特科中隊を指揮下に置くというこの事実から、竹島防備を担当するこの部隊が対着上陸戦闘に特化しているか理解できるだろう。

「腰をどっしり下ろして戦えば、案外、すぐに終わるやもしれんな。

残っている2個中隊を派遣した以上、司令部は丸裸だ。

司令部の全員に銃器の携帯命令を発令する。

総員かかれ」

保田少将は武器庫に小銃を受け取りに行く。

敵のゲリラが潜入した可能性がある以上、司令部内とはいえ、確実に安全とは言えないからだ。

司令部施設から歩いて2分の場所にある武器庫には駐屯地管理隊の警備要員が常駐している。

その警備要員に会釈して、中に入る。

「武器管理番号、R-105230」

銃に刻印されたアルファベットと数字を読み上げ、手渡しをする。

「弾倉4個、30発ずつ装填済。

手榴弾4個、発煙手榴弾4個」

「確かに受け取った」

野戦服の左腰のベルトにマガジンポーチを取り付け、弾倉を突っ込んでいく。

もう1つポーチを取り付けると、そこに手榴弾を入れる。

「武器管理番号、P-12548」

制式採用の9㎜拳銃とピストルホルスターを右腰に着ける。

「弾倉3個」

69式拳銃携帯嚢と制式名称が付けられたホルスターは、米軍供与もしくはライセンス生産のコルトM-1911A1を収納するためのものだ。

この大型の拳銃を収納できる余裕があるために、その30年後にSIG-ZAUER P-220が9㎜拳銃として後継銃に選定されても、難なく使用を継続できた

そして、これには2~3個の弾倉を入れるだけの余裕がある。

しかし左手で弾倉を入れ替えるときに、不便であるとの指摘も多い。

「司令部も野戦を想定しているのですか?」

「その通りだ。

敵のゲリラが隠岐の島に潜入したようで、第一中隊以下全員が出動した。

ここには司令部の要員しかいないぞ。

無論、海軍さんにも支援を要請した。

負けるわけがない」

隠岐の島駐屯地には、海空軍の竹島防衛連絡部が置かれ、陸軍竹島防備独立混成団や竹島防備隊との事務連絡を担当していた。

そして皇国海軍は帝国海軍以来の伝統からか、海軍の上は将官、下は水兵に至るまで、歩兵としての教育そして訓練を受けている。

場合によっては、陸軍兵士以上の練度を有している場合もあるので、即戦力として期待できる。

「どちらにしても、武器庫が敵の手に陥落することはありません。

備蓄弾薬が消えますが」

武器担当士官はちらりと、弾薬の爆破を行うことを滲ませる。

それに保田少将は頷き、こうも言った。

「工兵科出身者に作業させよう」

「ありがとうございます。

ですが、司令官は大丈夫なのですか?」

心配する武器担当士官に、保田少将は胸の徽章を指して微笑んだ。

「これでも、レンジャーと射撃の特級評価は貰ったことがある身だよ。

自分の身は自分で守るさ」

89式小銃のスリングを肩にかけて、防弾チョッキを着て、炭素樹脂のヘルメットを被る。

「やっと我々の仕事が来たようだ」

そう呟くと、保田少将は司令部に戻った。

「状況に変化は?」

「偵察に出た分隊が確認したところ、漁船内に人や武器の反応が見られました」

「やはり敵のゲリラコマンドか?」

保田少将の言葉に、報告していた参謀が頷く。

「海の上では戦えないからとはいえ、隠岐の島に仕掛けますか。

では、現地司令部の権限を松江警備府に委譲せよ。

本司令部は敵との交戦を優先する」

「了解」

保田少将は前線の将兵に対して、訓戒をのべた。

「今、日本は戦禍という国難の中にあって、通常の国民生活を維持できている。

ひとえにそれは我々軍の活動の成果である。

その国民生活を維持するためにも、各員のより一層の努力を期待する」

日本皇国軍全体の傾向として、現場の最高指揮官の訓示を受けると、現場の兵士の士気が大きくなる。

無論、これが下士官兵から嫌われている上官の場合はこうはならずに、アホの戯言ととして、無視されるのがオチだ。

「竹島の安西少佐に打電。

竹島防備隊司令部は、これより戦闘に入る。

以後の指示は松江に仰げ。

以上だ」

それを聞いた1人の兵士が自らの通信機に取り付いた。

タッチパネルを操作して、メッセージを送る。

やり方は普通のスマホと大して変わらない。

タッチパネルを操作して、通信のシステムアプリを呼び出し、通信相手を指定して、起動するだけだ。

今の日本皇国軍使用の軍用通信機は、民間用スマホの高性能特化型だ

民間のスマホの余計な機能を廃し、軍用としての使いやすさを追求した逸品で、衛星通信網を介して行う通信は、5G回線と呼ばれる特別な回線すらも構築され、LINEに近いメッセージ伝達網をすべての端末で構築している。

部隊毎にグループを作り、さらにそのグループは上級部隊と繋がることによって、巨大なピラミッドを構成する。

また、部隊通信兵の端末には、各部隊間での通信が可能なように設定されている。

それに、ハードウエアに関しても、アクリル樹脂のカバーがされた液晶ディスプレイなど、新しいが技術の確立されたものを使用している。

また、LINK16などのデータ・リンクシステム、日本皇国軍が使用する天神と呼ばれるスーパーコンピューターとも接続が可能であり、先ほどのピラミッドをこれらのシステムそして装置と連携させることや、さらには追加パーツによって敵の通信を傍受することが可能である。

さらには、USB端子を多数接続できる端子が備えられている上に、毎日自動更新される乱数暗号表に基づき、通信内容が自動的に暗号化されるという便利機能付きである。

無論、受信先の機器で暗号通信文は自動解読される。

それだけの機能を持ちながら、装置自体はスマホと大きさや重さは大して変わらない。

また本体だけで、通信機は構成されているわけではない。

本体とセットで、外部接続の音声通信用の咽頭マイクと骨伝導スピーカー、ヘルメットに装着する脳波感知装置、行動延長用のポータブルバッテリー、さらに特殊任務用の電波妨害(ジャミング)システムやレーザーポインタによる目標指示システムを内蔵したUSBメモリーが用意されている。

これは、日本皇国軍所属の全将兵に陸海空軍問わず支給されている。

部品の大半が民間用のスマホのものを流用しているだけあって、かなり安価に調達できるからだ。

「竹島の安西少佐よりの受信確認であります」

全員の通信機から返事が帰ってきたことを知らせるメロディーが響いた。

「二中隊は準備を終えました」

部下からの報告に、保田少将は直ぐに指示を出す。

「よし、直ちに出動。

一中隊よりも南側の地帯を捜索させよ」

「了解。

また、一中隊よりの報告でありますが、1個小隊を分離、漁船を制圧。

残りは敵兵を捜索中」

「一中隊が一暴れしてくれるか。

楽しみだ」

そう言う保田少将の顔には笑みが浮かんでいた。

 


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