WarLines 日本皇国海軍士官奮闘録   作:佐藤五十六

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VOYAGE.19

空軍対馬分屯基地

対馬警戒隊は海栗島にあり、空軍レーダーサイト網を構成するうちの1つである。

「韓国領空内にて、多数の未確認機(アンノン)の反応を確認。

領空侵犯に繋がる可能性大」

「邀撃機を発進させよ。

その他の機体に関しても、空中退避を命じる。

九州航空局に交戦許可求め。

各部に注意を発令」

警戒隊司令、船倉一雄大佐は命じた。

その彼がちょうど、当直に当たっていたのが幸いした。

これが責任逃れに終始する副司令では、対処できなかったかもしれない。

「韓国領空内にて、多数の未確認機(アンノン)の反応を確認。

領空侵犯に繋がる可能性大。

231FSの全待機機にあっては、直ちに出動。

これを邀撃せよ。

その他の機体に関しても、空中退避を命じる」

レーダーのモニターに映るブリップは、どちらも空軍の主力機であるF-15J改イーグルとF-2Aにそっくりだった。

「機種はF-15KおよびKF-16Cと思われ、目的は対馬もしくは空軍築城基地への攻撃と考えられる。

各基地にあっては、防空態勢を確認し、万全の態勢を整えよ」

モニターの目の前にいる空軍兵たちは、的確な指示を飛ばしていく。

「注意を与えよ」

「防空識別圏付近を飛行中の機体に告げる。

貴機の飛行は通告されていない。

所属および飛行目的を明らかにして、針路を変更せよ。

繰り返す、貴機の飛行は通告されていない。

所属および飛行目的を明らかにして、針路を変更せよ」

担当の将兵が必死に呼び掛けるが、応答はない。

未確認機(アンノン)が防空識別圏を越えました。

侵入座標、対馬36A、高度3000」

「警告を与えよ」

「既に貴機は防空識別圏を侵している。

即座に針路を変更し、防空識別圏内より退去せよ。

5分の猶予を与える。

針路を変更し、退去せよ。

繰り返す、即座に針路を変更し、防空識別圏内より退去せよ。

5分の猶予を与える。

針路を変更し、退去せよ。

5分後に退去を確認できない場合、貴機を撃墜する。

以上、日本皇国空軍」

ステルス性を高める改修を受けた日本空軍の戦闘機隊は、存在を秘匿している。

だからこそ、地上の警戒隊が警告を発するのだ。

そうして最後通牒が上空の機体に突きつけられるが、なんの動きも見られない。

「九州航空局より交戦許可下りました」

「民間機を上空から退避させよ。

また、未確認機に攻撃の意図ありと認め、先制攻撃を認める。

指示あり次第、攻撃させよ」

警戒隊司令の権限のうちの1つが、独自に先制攻撃の許可を与えることができることである。

航空局を除き、政府や国会の事前承認は必要とされないが、使用は国防関連六法、航空法などによって、厳しく制限されている。

「上空の各機に告ぐ。

攻撃の意図ありと認め、先制攻撃を認める。

指示あり次第、攻撃せよ。

以上、対馬警戒隊」

空軍の第231戦闘飛行隊は、空軍築城基地に駐屯する地元の部隊であった。

だから、周辺空域の状況にはどこよりも詳しい。

「北九州域内の各空港管制へ。

たった今、北九州全域が交戦区域に指定された。

民間機の離着陸は許可できない。

現在、飛行中の機体に関しても、空域より離脱させよ」

交戦許可が下りた時点で、周辺は交戦区域に指定される。

交戦区域にいる民間機は誤射を含めて、様々な危険に晒される。

「築城基地に命令。

追加の機体を発進させよ。

データ・リンクで周辺部隊に情報を転送せよ。

対馬、北九州全域に空襲警報を発令だ」

「空軍対馬警戒隊より対馬、北九州域内の陸海空軍地上部隊へ。

空襲警報を発令する。

駐屯地、基地、分屯基地内への着弾に注意。

一般の市街地への着弾については、自己の安全を確保した上で、救援活動を開始せよ」

オペレーターが一斉に各部隊へ発信する。

「5分が経過しました。

いまだ北九州に向け、進行中」

未確認機(アンノン)を敵機と認定。

攻撃を許可する。

接近中の敵機を排除せよ」

「上空の各機に告ぐ。

攻撃を許可する。

接近中の敵機を排除せよ」

通信が終わると、空軍兵はモニターを注視する。

F-15J(イーグル)が敵編隊と交差、ミサイルを発射しました。

敵機の反応8、失探(ロスト)

残りは50以上」

1回、針路を交差させただけで、4機の戦闘機小隊は各2機ずつ墜としたようだ。

それでも、焼け石に水、大して数は減らせていない。

「第二艦隊より、イージス艦からの遠距離攻撃を行う旨の通報あり。

今、攻撃を開始しました」

「海軍が敵編隊を攻撃する。

上空の戦闘機隊は退避せよ」

「SAM発射用意。

高射隊に指示送れ」

「基地警備隊が配置につきました」

「低空よりの襲撃を警戒せよ。

陸軍に連絡。

高射砲兵部隊に射撃準備を指示」

方面統合防空司令部を兼ねる警戒隊では、色々なところへ命令を出せる。

「新田原基地の232戦闘飛行隊、飛行教導隊を出動させよ。

F-2の第131戦闘飛行隊は対艦兵装のまま退避。

適当なときに、竹島に向かわせよ」

「新田原基地か?

232戦闘飛行隊および飛行教導隊は、直ちに出動せよ。

なお、既に231戦闘飛行隊は戦闘に突入している。

今は予備戦力が必要なのだ」

空軍兵士のなかでは、戦闘飛行隊をそのまま呼ぶ兵士と英語でのFighter Squadronを略してFSと呼ぶ兵士に分かれる。

両者の間には、大した差はないので、実際にはどちらでも構わないのだ。

「131戦闘飛行隊へ。

対艦兵装のまま、戦闘空域から退避。

四国、中国方面に飛行せよ。

……何っ、燃料が足りない?

まて。

どこまでなら足りる?

……分かった」

モニターの前で、F-2飛行隊と交信していた将兵が受話器を下ろす。

「131戦闘飛行隊は燃料補給の途中で、空中退避を行ったため、機体燃料が足りないようです。

何とか、美保に辿り着けそうだと報告を受けています」

「分かった。

全機を美保に降ろせ。

パラを使っても構わん」

船倉大佐は間髪いれず決断する。

日本空軍の航空機には、緊急制動用にパラシュートが備え付けられている。

こうすることによって、着陸距離を減らすことができるのだ。

「了解。

そのように伝えます」

「対馬警戒隊より美保管制へ。

131戦闘飛行隊がそちらに向かっている。

着陸許可を求める

……ん、了解。

よろしく頼む」

「海軍の戦果、撃墜13、被弾損傷が8。

その8機は反転退避していきます。

また、第二艦隊より第二次攻撃の可否を求めています」

「大丈夫だ。

残りは我々が片付ける」

船倉大佐は言い切った。

それを見た兵士は頷くと、海軍と通話を始めた。

「はい、大丈夫です。

残りは我々が片付けます。

援護、ありがとうございます」

「対空戦闘。

地上の各員は、攻撃に備え」

この頃になると、海栗島地下司令部にも、戦闘音が聞こえてくる。

地上の対空陣地に据えられた機関砲から砲弾、また発射機からは近距離対空ミサイルが撃ち上げられ、戦闘機やミサイルに襲いかかる。

その網を抜けた戦闘機が投下した爆弾やミサイルは、地上で爆発する。

「損害を知らせ」

爆発の衝撃による揺れが収まらないうちに船倉大佐は命じる。

「基地警備隊へ。

損害を報告せよ。

………うん、うん、了解。

司令には伝えておく。

警備隊の報告によると、敷地内に命中弾があるものの、兵員や装備に被害なし」

「残り30機のうち、半数が反転しました。

残りは、いまだ北九州に向け進行中。

目標は、おそらく築城基地です」

地上と通話していた兵士の報告に被さるように、レーダーを担当する兵士が報告する。

「築城基地に追加で警報を送れ。

あとは、国民の生命と財産が脅かされる可能性が高い。

周辺の自治体にも、J-アラートで警報を送れ。

あとは神に祈れ」

「231戦闘飛行隊が第二撃を行う許可を求めています。

交戦区域が市街地上空となる可能性が高く、市街地上空での攻撃許可を求めています」

「許可を与える。

敵機を撃退せよ」

司令の言葉を受けて、空軍兵は呼びかける。

「231戦闘飛行隊へ。

許可を与える。

直ちに敵機を撃退せよ」

もうこのときには、第231戦闘飛行隊の稼働機全機が空に上がっていたようだ。

20機のF-15Jが一斉に敵機編隊に襲いかかる。

機数にして、およそ3対4、乱戦となったが、築城基地に向かっていた機体は全滅させられた。

対する日本皇国空軍の損害は、被弾機が4機ほどである。

「残りの敵機は全滅」

レーダーを担当する兵士が報告をあげる。

地下司令部に歓声が上がるも、船倉大佐は怒鳴る。

「まだ終わった訳やない。

静かにせい」

船倉大佐の怒声と同時に、レーダーを担当する兵士が声をあげる。

「再び韓国領空内にて、多数の未確認機(アンノン)の反応を確認。

敵の第二次攻撃の可能性大」

「予備部隊を出してきたか。

なにボサッとしとるんじゃ。

早よう邀撃せい」

いつもの口調ではない船倉大佐の怒声に、呆然としていた司令部も動き始める。

言ってしまうと、日本皇国の竹島方面の基地は、空軍だと美保基地が1番近いが、そこには戦闘飛行隊が置かれているわけではない。

戦闘飛行隊だと北陸にある小松基地、北九州にある築城基地の2つが候補の筆頭である。

また、築城基地は距離的にも竹島にもかなり近い。

だからこそ、狙われるのだろう。

「敵の第二次攻撃隊を確認した。

在空中の231戦闘飛行隊、232戦闘飛行隊、飛行教導隊の各隊は邀撃せよ」

「第二次攻撃隊の数はおよそ40」

「第一次と合わせると、およそ100。

韓国北部ががら空きになってないだろうしな」

兵士からの報告を計算した船倉大佐は、韓国軍の最終攻撃だと判断した。

韓国という国は、南北を仮想敵国に挟まれている。

北は朝鮮民主主義人民共和国、所謂北朝鮮であり、南は日本皇国である。

その順番が、歴代の大統領によってまちまちであり、頻繁に入れ替わる。

李承晩が大統領の時代、朝鮮戦争の真っ最中に竹島を攻撃して敗退。

この際には、日本政府が日米相互防衛条約に基づき、在日米軍の共同有事指揮権を発動したために、中国義勇軍と北朝鮮軍が38度線を突破しても、在日米軍が主体だった国連軍は動けず、再び釜山の近郊にまで追い詰められる結果となった。

この危機に、マッカーサーの後任として国連軍最高司令官として着任したマシュー・リッジウェイ大将が、韓国政府を説得し、何とか韓国に矛を納めさせたものの、そうなるまでがひどかった。

結果、日本政府は韓国政府との冷戦状態を認識し、経済制裁を含むあらゆる嫌がらせを行っている。

だからこそ、米国は休戦後に在日米軍を再編して、在韓米軍を創設したのだ。

話は脱線したが、南北を挟まれているという事実によって、韓国軍の軍事行動は制限されるのだ。

一方にも抑えとなる戦力を配して、牽制しなくてはならないから、韓国軍は戦力を集結させるということができないのだ。

「防空識別圏に侵入しました。

座標は対馬37A、高度2000」

「攻撃を開始せよ」

対馬海峡は、国際海峡として日本の領海内であっても、軍艦等が自由に航行することが認められている。

実際は領海の幅を3海里にしておき、残りを公海とすることで自由航行を保障するのだが、日本政府は領海法の補則令に、指定する海峡等に3海里幅の自由航行帯を敷くと付け加えることで各国と妥協した。

これは、水上および水中のみが有効であり、空中は認められていない。

この措置は明らかな韓国対策で、日本皇国海空軍は、公海域を利用して韓国軍が攻撃を仕掛けてくることを日々警戒していたのだ。

「231戦闘飛行隊へ。

攻撃を開始せよ」

被弾機や最初に邀撃した4機を除く12機が襲いかかる。

その12機が、搭載している空対空ミサイルの残りの数は少ない。

精々が、一撃を加えることしかできないのだ。

「232戦闘飛行隊および飛行教導隊へ。

現在地を報告せよ。

…了解。

座標、築城22Aに進出。

攻撃に備えよ」

「231戦闘飛行隊、攻撃終了。

残弾なし。

燃料もかなりを消費した模様」

第231戦闘飛行隊のF-15Jは韓国軍攻撃隊に肉薄攻撃を敢行した。

その際には、ミサイル以外にも搭載機銃を乱射して、合計で十数機を撃墜したようだ。

「第二撃を実行する。

パトリオット発射用意」

船倉大佐は、敵機に波状攻撃を加えるつもりのようだ。

地上には、既に地対空ミサイルであるPAC-3が展開していた。

弾道ミサイル対処のための改修を受けても、通常の航空機にも効果は絶大である。

「司令部より高射隊へ。

パトリオット発射用意」

「発射」

間髪いれず、船倉大佐が命じる。

「発射」

地上にある管制所では、命令と同時にスイッチを押す。

白い煙の尾を引き、ミサイルは上空の編隊に直撃する。

ランチャーの数から全滅させるのは不可能だが、編隊を乱れさせることくらいならできる。

「パトリオットの命中を確認。

撃墜6、被弾損傷が8」

「232戦闘飛行隊および飛行教導隊へ。

市街地上空だろうが気にするな。

攻撃せよ。

……抗命は処罰の対象だぞ。

…民間人の頭上でドンパチできない?

分かった。

司令と話せ」

J-アラートにて転送された空襲警報は各市町村に確実に届き、屋内への退避命令が出ていた。

だから、屋外にいる民間人はいないはずなのだ。

指示を出していた兵士は、自分が相手では埒が明かないと思ったようだ。

船倉大佐に無線を持ってくる。

「民間人には既に、退避命令が出ているはずだ。

だから、それで死傷者が出ようが、軍の責任ではない。

今、我々は出来ることを全力で行っているのだ」

市街地上空での攻撃を渋る第232戦闘飛行隊に船倉大佐は伝えた。

無線の向こうからは、一瞬の間をおいて、承諾の返事が返ってきた。

レーダーの画面には、刻一刻と九州へ近づく編隊が映る。

F-15Jの主搭載武装である中距離空対空ミサイルであるAAM-5B(制式名称:7式中距離空対空誘導弾)は、ハイブリッドアクティブレーダーホーミング(HARH)を採用した空対空ミサイルである。

周辺の航空機からの電波、例えば索敵レーダーの反射波や敵自身が使用するレーダーに反応し、それを自動追尾するというごくごく単純なこのミサイルは、旧式のAIM-7Fスパローを上回る性能ながら、同程度の値段で調達することができるのだ。

これは、スパローの後継として開発されたオリジナルのAAM-5(制式名称:5式中距離空対空誘導弾)よりもかなり格安だったのである。

弾体自体が、AAM-5とAAM-5Bは共通なこともあって、量産効果も高い。

しかも、このミサイルは他のミサイルとは違い、対レーダーミサイルとしても使用可能である。

32機の出撃機から、このミサイルが各1発ずつ発射される。

無論、即座に回避行動をとっても、簡単な記憶装置と連動した誘導装置が目標まで誘導する。

実際、ほとんどの機体が躱しきれずに撃墜された。

この地獄を生き延びても、数分後には先に逝った仲間のもとへと送られた。

激しい機動のあとで、レーダーの警報音が聞こえなくなり、体勢を立て直すと、再びロックオンされる。

このときに使用されたのは、運動性に優れた短距離空対空ミサイルで、1度航空機の尻に食らいつくと、なかなか離れない。

フレアーを使って、欺瞞しようにも熱赤外線画像追尾のシーカーは誤魔化せなかった。

「日本人は戦死すれば靖国に行けるが、韓国人はどこにいくのやら。

まあ、戦場であっても、死ねば敵味方関係ないからなあ」

地下司令部のなかで、この戦闘をレーダーで見ていた兵士がポツリと漏らした。

しーんと静まり返る地下司令部に、レーダー担当の兵士の声が響く。

「敵機の消滅を確認。

状況終了です」

レーダー担当の兵士の報告に、船倉大佐は大きく頷き、言った。

「よくやってくれた」

 

 




長いです。
通常の二話分ぐらい。

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