WarLines 日本皇国海軍士官奮闘録   作:佐藤五十六

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VOYAGE.11

土佐清水分駐所

太平洋に面した漁港の一部に所在し、また由良分駐所と同等の戦力を配された基地である。

 

深夜2時、町を夜の闇が覆い尽くす頃、土佐清水漁港の海軍用埠頭には、海防艦が3隻、穴だらけの漁船が1隻停泊していた。

「この男は我々が引き取ります」

敬礼をした黒スーツの集団の1人が言った。

「よろしくお願いします」

二階堂少佐や佐竹中尉も敬礼を返す。

手に手錠を掛けられた男は、黒スーツに手をとられて、引き摺られるように連れていかれる。

黒いバンに乗せられた男と黒スーツは、土佐清水基地を出ると、そのまま町の中へと消えていった。

「律儀な連中だな」

そう呟く二階堂艦長の手には、名刺が5枚あった。

それぞれには、所属が国防省情報本部情報業務群公安部隊と書かれており、さらにその1枚1枚に又吉、綾部、吉村、徳井、大西と書かれていた。

「この名前は偽名だろうが、本当に律儀な奴らだ。

目的地は呉鎮(呉鎮守府)だろうな。

あそこなら警備もしっかりしてるから、脱走や奪還の心配がない」

「こちらも警備をしっかりしないと、朝にはマスコミがわんさか来ますよ」

「無論だ。

今、ここは土嚢を積み上げる最中だし、大丈夫だろう。

しかも、県警の機動隊が出動してくる予定だ。

そうなるとマスコミは外で騒ぐだけだよ」

そう言って、二階堂艦長は歩いていった。

 

国防省発表

[昨日午後3時25分、日本皇国海軍沿岸警備部隊は、紀伊半島沖合にて密輸船、九州沖合にて国籍不明の潜水艦と交戦せり。

なお、これらについては拿捕、現在詳細を調査中である。

以上。]

 

テレビ報道

[現在、密輸船を含む各船舶が停泊している土佐清水基地に来ています。

正門前を含む外周部には、高知県警の機動隊が警戒しており、敷地内では小銃を携行する兵士の姿も見られています。

特に、警備が厳しい場所は見当たらないため、密輸船の乗員がどこに拘束されているのか分かりません。

満遍なく兵士がいるという印象です]

{代わりまして、私は今、日本海軍呉鎮守府前にいます。

いつもは、かなりの人が行き交うこの通りも、同じように広島県警の機動隊が警戒していることもあって、人影はまばらです。

また、基地正門に立つ憲兵の顔にも緊張の様子が見られています。

今、私たちがいるここからは、高い塀が邪魔でどうなっているのか、窺い知ることはできません。

つい先ほど、高台の方から基地を眺めたのですが、埠頭に見慣れない潜水艦が停泊しており、その周りには武装した兵士や、何かを調べているらしい兵士の姿を見ることができました。

いつもの平和な町はどこへ消えたのでしょうか?

我々は継続して取材を続けたいと思います}

《国防省前に来ています。

こちらには、陸軍の1個歩兵大隊が警備を担当しています。

国防省広報室の発表によると、密輸船の積み荷は既に確保しており、それの奪還を目論む勢力によるテロ攻撃の可能性も考えられるとしており、警戒を強めています》

 

「ここがあの潜水艦の中か。

普通に狭いのな」

「艦長。

そうは言っても、どこの国でも潜水艦は狭いものですよ」

嬉々として、拿捕された艦内を探索するのは、山口艦長と鈴木大尉である。

「そうか、そう言うものか。

奴らも中々に大変なんだな」

そう言って、第六艦隊の連中に同情する。

「まぁ、うちの艦も狭い方なんですけどね」

鈴木大尉は、そう言って艦内を見回す。

「一通り見たわけだが、おかしい点がある」

「確かに、そうですね。

食料が少なすぎる。

日本に来て帰るには、絶対に足りませんよ」

「案外、補給艦が待ってたのかもな。

あれから二、三日すればやって来たんだろうが、もう逃げとるだろうな」

「あとで鎮守府のシステムで検索しましょう。

あの辺をどこのなんと言う船が、どのような目的で航行していたのか分かるはずです」

 

「土佐清水分駐所司令、白川です。

本当ならば、昨日のうちに挨拶するべきところを申し訳ない」

とは言うものの、白川大佐は事後処理の指揮を大阪警備府の九十九司令官と共に執っており、中々会う時間がとれなかったのが真相だ。

また、分駐所司令の場合、大佐で着任し在任中に少将に昇進するのが一般的だ。

「大阪警備府海防艦"ひなぎく"艦長の二階堂であります」

「同じく"ひなぎく"先任将校の佐竹であります」

佐竹中尉は、左腕を三角巾で吊っているため、やや不格好ではあるが、二人は敬礼をした。

「そう固くならんでよろしい。

それで、戦闘詳報を読んだが、あれは北朝鮮の工作船ではないのか?」

「乗員たちに簡単に尋問したところ、違うとの解答を受けました。

おそらくは、中国近辺を根城としている多国籍密輸団だと思われます。

また、船長以下大多数の乗員が韓国人でした。

その他が中国人が二人、一人はお目付け役、もう一人が通信担当だったそうです」

「お目付け役と言うと、紅軍の政治委員みたいなものか?」

「おそらくは。

それに船長は、韓国海軍出身でした。

その辺も考えると、工作船ではないと思われます」

「そうか」

「その上で、データベースを検索した結果、三つの組織が密輸団の候補に上がりました。

まず、上海系の闇鷹、北京系の暮鷲、そして香港系の黒虎です。

最後の黒虎の可能性が最も高いと思われます。

以上で報告を終わります」

「ご苦労だった」

二人は立ち上がると、司令室から退出する。

「「失礼しました」」

 

「さっきの条件、さらには必要な船体の大きさに合致するのは、天津海運総公司の貨物船、青島Ⅱ、三住商船の第五祥福丸、皇国郵船の第二蒼龍丸ですね。

搭載品が、青島が食料品、あとの2隻が、自動車などの機械類となっています」

パソコンのモニターにデータを映す。

「十中八九、その青島って言うのが怪しいな。

現在地は大体、四国沖を抜けて小笠原の方向に向かっていたから、この辺だな。

となると今から、横須賀やら小笠原に緊急で要請しても、間に合わんだろうな」

山口艦長は海図を見ながら言う。

その顔は、うっすらと憎々しげだ。

「硫黄島から飛行隊を飛ばしましょう。

目標の確認ができるはずです」

「したところで何になる?

それが次日本に来るのはいつだ?

それに証拠もない」

山口艦長は、怒気を孕ませて言う。

国家安全保障会議(大本営)より通達。

デフコンを4から3へ引き上げ。

それにともない、艦隊全艦に待機命令を発動する。

必要に応じて、非常時の武器使用を許可する。

以上です」

「第四艦隊はどうなってる?」

「全艦を即座に出航させられるように待機させておりますが、何か?」

「そうか。

分かった。

すぐに艦に戻る」

山口艦長と鈴木大尉は歩き出した。

 

司令室から退出した二人は、雑談をしながら、歩いていた。

「それで宴会はどこでしようか?」

「居酒屋で十分でしょう。

そんなにお金もかかりませんし」

「そうだな」

「艦長、先任。

警備府司令部より入電。

分駐所警備任務を急行中の陸軍歩兵部隊に引き継ぎ、呉海軍工廠に入渠、少し早いが定期点検を開始せよ。

とのことであります。

また、大本営より通達。

デフコンを4から3へ引き上げ。

それにともない、艦隊全艦に待機命令を発動する。

必要に応じて、非常時の武器使用を許可する。

以上です」

息を切らして、走ってきた通信科員は、命令を伝えた。

「了解。

すまないが、機関長以下機関科員を召集してくれ」

「了解」

「何処かと戦争が始まるのですか?」

「分からない。

ただ、始まるとしても数ヵ月後のことだろう」

佐竹中尉の問いに二階堂艦長は答えた。

「そうですか。

何か、嫌な予感がするなぁ」

 


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