ヒロインは無し寄りの未定。
【はた魔!】オリ主逆行物
「今日も良く働いたなぁ」
バイト先からの帰り道で、うんと背伸びをしながら呟く。明日は大学もバイトも休みだからということで、今日は閉店までのシフトだったから夜も深い。しかし、等間隔で配置されてある街灯のお蔭で、雲ひとつ無いのにも拘わらず星は見えない。その辺りがやっぱり向こうとは違うなぁと、十年間足を踏み入れていない生まれ故郷を思う。
「十年、か……」
そして、現状に至った経緯を思い出し、思わず溜め息を吐いた。
それは八歳の時のこと。自分の至らなさ対する不満や不安が爆発し、八つ当たりで母さんに酷い言葉を投げ掛けて家出した。年々減っていっているとはいえ、自身が内包している魔力とまだ世界に残っている魔力を利用して開いたゲート。その中で、直前に見た母さんの傷付いた顔を思い出し、謝ろうと引き返し出た先は、見覚えのある家ではなく見覚えの無い何処かの浜辺。そこで最初に出会った相手は見覚えのある相手だったから安心したのも束の間、ちょっとしたゴタゴタがあった。こっちが色々と知っていたことと、こっちに害意が無いことが無いと分かると話を聞く体勢に入った向こうの懐の広さのお蔭で大事には至らなかったけど。
ある理由から元の場所に帰るに帰れず、日本で生活するようにして十年の歳月が流れた。その間、後見人になってくれている人達が色々と手段を模索してくれているけれど、今の今まで確実な方法は見付からないままだ。
「ホント、こんなことになるとか思わなかったよなぁ」
大きな溜め息を吐きながら、コンビニで買った肉まんにかぶり付く。若干猫舌だからはふはふしながら食べているが、労働の後の食べものは本当に美味しい。美味しいが、やっぱり寂しい。後見人がいるとは言え、基本一人暮らしをしているから、十年前までの大勢で食べる食卓がとても恋しい。
「ま、こうして落ち込んでいても意味ない、早く帰ろ」
う、と口にする直前に感じたゲートの気配に、思わず顔を向ける。家出してから十年間、久しく感じていなかった、この魔力。
「父、さん……」
全盛期には到底及ばないらしい十年前のものと比べても、明らかに弱っている魔力量に思わず駆け出しそうになるが、寸でのところで堪える。こちらとしては十年間ずっと会いたいと、会って家出のことを謝りたいと思っている相手だが、向こうにしてみれば会ったことの無い怪しい存在だ。こちらに敵意が無い以上殺されることは無いだろうが、素直に正体を明かしたところで警戒されるに決まっている。
「『未来からゲート事故でやって来た貴方の息子です』なんて、信じられる訳ないし」
そう苦笑して、再び帰路に着く。けれど、先程まで感じていた寂しさは、無くなっていた。
* * *
本名マモン・ジャコブ。日本での名は、
●迫部衛(本名:マモン・ジャコブ)
真奧貞夫の息子、18歳(原作1年前時)。
8歳の時、周りからの期待に応えられない自身の至らなさに対する不満や苛立ちにより感情が爆発し、無理矢理開いたゲートを使って家出した。しかし、ゲートの中にいる最中に自分が母親に対して吐いた暴言を悔み、帰って謝ろうと元来た道を戻ってみれば、自分がいた時よりも20年前の日本に降り立ってしまった少年。
ミキティの一族に保護されたのは良いものの、流石のミキティすら狙った時間軸にゲートを開くのは難しく、何とか出来るようになるまで保護されることになり、そのまま10年間日本に住むことになった。
家出した経緯が経緯であるため、自己肯定力が低い。
顔立ちと髪色は父親似、髪質と瞳の色は母親似。瞳の色が緑であることから母親はお察しください。