ネタ色々詰め合わせ   作:歌猫

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ライ逆行&年齢操作(原作開始時10歳設定)。
ほのぼの、シリアス、捏造カルマあり。
ハッピーエンド。


【SN4】ライ(ある意味)逆行

 ごめんな。

 誰かが謝った。

 

 ごめんなさい。

 誰かも謝った。

 

 前者は諦感しかつ申し訳なさそうに、後者は後悔と絶望と哀しみが入り交じった慟哭で。同じ言葉であるはずなのに、含まれた意味合いは全く違う言葉だった。

 それから次々と謝罪の声が続いてくるが、最初の一回以外は全て後者の意味合いしか存在せず、そのことが妙に苛立った彼女は叫ぶ。

 

 

 あーもうっ!! 鬱陶しい!!

 

 

 ビクリと、後者の意味合いで謝っていた声達が息を飲む。

 

 

 何を後悔しているのか、何に絶望しているのか分からないけど、ただ謝るだけじゃ何にも変わらないでしょーが!!

 

 でも、

 ですけど、

 我等が、

 巻き込んでしまったから、

 

 その人は巻き込まれたことに後悔していたの!?

 

 

 影達は再び、息を飲む。

 

 

 後悔していなかったなら、それはその人が選び取った結果でしかないよ!!

 

 でも、

 だけど、

 

 でももだけどもなーい!! その人のこと、本当に大切だと思っていたことは、直に伝わってきているから良く分かるよ? だからって立ち止まっていたら、もっとその人に申し訳ないって思わないの!?

 

 ……っ!!

 

 思うなら行動しなさい! 何はともあれ行動しなさい!! 巻き込んだって言うなら、その巻き込んだ事柄をさっさと解決しなさい!

 

 

 どうしてこんなに熱くなっているのだろうと、叫びながら彼女は思う。

 謝っていた声達は、どれも聞いたことが無いものばかりだった。

 なのにどうしてか、彼女は放っておけない。それは元来の面倒見の良い性格というだけでは説明がつかなかった。

 

 

 そう、だね。

 後悔したまま動かなかったら、

 我等はまた、

 余計な犠牲を周りに払わせてしまうだろう。

 

 

 まだ哀しみは消えていないが、声達は次々に自分を叱咤し立ち上がった。

 

 

 それは嫌だ。

 こんな思いをするのはもうこりごりです。

 同じ失敗は二度とは繰り返さぬ。

 絶対にだ。

 

 

 そして、声達はいなくなり、そこには彼女しかいなくなった。

 

 

 …………ありがとな。

 

 うひゃあ!?

 

 

 訂正、最初の声と彼女しかいなくなった。

 

 

 やっぱダメだな、オレ。時間が無かったから、元凶を道連れにして終わらせたけど、あいつらを哀しませるだけだった。

 

 …………もしかして、貴方が彼らに巻き込まれた人?

 

 巻き込まれたと言うか、クソ親父に押し付けられたと言うか……まぁ自分でそれを選んだ、大馬鹿野郎だよ。

 

 

 最初の声が発する言葉には、自身に対する呆れが含まれていた。

 

 

 …………関わったこと、後悔してるの?

 

 まさか。どっちかっていうと、身近な幸せに手を伸ばせずに溜め込んで勝手に自滅した自分に、呆れてるだけだよ。

 

 

 そう、声は苦笑した。

 

 

 …………どうして手を伸ばさなかったの?

 

 手を伸ばしたら、いなくなるって思ってたんだ。

 

 

 どうしようもない臆病者なんだよ、オレ、と声は告げる。

 

 

 臆病者の癖に強がりで、泣きたい時に泣けない意地っ張りで、大人になろうと背伸びしていた。そんなオレだから、仲間に手を伸ばせなかった。辛いって溢せなかった。

 

 

 声の発言に彼女は妙な親近感を覚えた。全く同じなのだ、声と彼女の在り方が。彼女もまた声と同様に、臆病で泣き虫の癖に意地っ張りで強がりで、大人になろうと背伸びをしている子供なのだ。

 だからこそ、彼女は問う。

 

 

 ねぇ、貴方の名前は?

 

 オレの名前?

 

 そ、貴方の名前。教えてくれない?

 

 

 因みに、私はフェアって言うんだ。

 そう、彼女は自身の名を告げる。

 

 

 …………フェア? そうか……お前、フェアだったんだな。

 

 

 その名に、声は反応した。その声色は、嬉しそうな、懐かしそうな、そんな感情を滲ませていた。

 

 

 そうだけど…………なに? もしかして何処かで会ったことあったりするの?

 

 …………いや、オレの勘違いだったみたいだ。思わせ振りな言葉を言っちまってゴメンな。

 

 

 一瞬の沈黙の後、声は彼女にそう返した。『勘違い』だと言ったが、明らかにはぐらかしている。しかし、彼女は追求できなかった。

 

 

 それで、オレの名前だったな。

 

 

 声が言葉を続けたことで、聞くタイミングを失ったのだ。

 

 

 オレは――――

 

 

          *   *   *

 

 

 ガバリと、勢いよく彼女は体を起こした。布団を掴んだまま微銅駝にせず、顰めっ面のままで呟く。

 

「名前、聞けなかった」

 

 顔にはありありと不機嫌だと書かれてあり、声色もまた同様だ。はぐらかされた挙げ句知りたかったことも分からなかったとなれば、そうなるのも無理は無い。

 だが、いつまでも不機嫌なままではいられない。まだ日は昇っていないと言えど、もう起きて動かなくてはならない時間帯だからだ。彼女は気持ちを切り替えるように、両手で頬を思い切り叩き気付けする。首を振りながらベッドから降り、彼女――フェアは身支度を始めるのだった。

 

 

          *   *   *

 

 

 沈む。

 深く、深く、沈んでいく。

 

 それは、底無し沼のように。ただ、深く、ゆっくりと。

 

 光が見えなくなった。

 音が聞こえなくなった。

 匂いも、風も、地面の感触も。

 

 崩壊し、全てを失った、ひとつの生命。

 けれども、それでも、魂は残った、ひとつの生命。

 

 溢れ出る魂の輝きは、たったひとつの器を壊した。

 

 ならば器を造ろうか。その、溢れんばかりの魂で。

 

 そうすればきっと、新たな器は壊れない。

 

 深く、深く、沈む魂。

 じわり、じわり、形作られていく器。

 

 

 

 そして器は完成し、魂は似て非なる場に降り立った。

 

 

          *   *   *

 

 

 どさり。

 何かが落ちた音と自身が感じた衝撃に、子供は薄くだが目を開けた。まだ意識が朦朧としているのか、澄んだ青色の瞳は焦点を結んでいないが、何らかの情報を得ようとしているのか緩慢ながらに動いている。

 

「…………」

 

 そして、目で見て得た情報に思わずといった具合に口を開いた子供は、しかし声を出すことは無かった。意図的に出さなかった訳ではないことは、薄く開いていた目を幾ばくか丸くした様子から把握できる。だが子供はそれに慌てることもなく、小さく笑った。

 その透明な笑みは、全てを諦め全てを受け入れる、十歳にも満たないような子供がするようなものでは無かったが、どうしてかそれは妙に似合っていた。

 元々顔を向けていた濁りきった泉へ、音の出ない口で何らかの言葉を発した後、子供は満足そうに微笑み目を閉じた。

 

「ちょっと、君! 大丈夫!?」

 

 意識が完全に途切れる寸前、心配する声と共に誰かが近付く足音を、子供は耳にした。

 

 

          *   *   *

 

 

 その日のことを終わらせたフェアは、自分のベッドに寝かせている子供を見つめていた。

 

 彼は、フェアが落ち込んだ時に必ず向かう場所――ひとつ年下の妹を産んで直ぐ死んだはずの母親との思い出がある――【忘月の泉】で倒れていた子供だ。それを発見した時のフェアは子供の意識が無いことを確認すると直ぐに抱きかかえ、父親の悪友であり自身の面倒を見てくれている町の顔役の屋敷へと向かった。

 突然の訪問だったため会うのに時間がかかるかもしれないとは思ったが、幼馴染みの教育係であるメイドが上手く取り成してくれ、早い段階で会うことが出来た。来客中だったため最初は良い顔をされなかったが、フェアが腕に抱えていた子供を見た瞬間僅かではあるが取り乱したように様々な手配をしてくれた。

 来客者の女性に――本業ではないが――医学の心得があったので、町医者が来る前にと診てもらったところ、過度の疲労であると診察した――後から来た町医者もそう結論した――ため心の底から安堵した。

 その後特に特別な処置が必要ではないこともあり、第一発見者であるフェアが子供の面倒を見ることになったのだが、フェアはそれを当然だと思っていた。恐らく、自分と全く同じ髪の色を持つ年下だからだろう。フェアはどうしてもその子供が他人とは思えず、つい入れ込んでしまう。

 

「…………早く目を覚ましてね」

 

 子供の頭を優しい手つきで撫でると、フェアは長らく使われていなかった方のベッドへ潜り、そのまま眠りに就いた。

 

 

          *   *   *

 

 

 窓から入ってきた日の光を浴び、子供は目を開けた。泉にいた時よりは意識がはっきりしているらしく、焦点は確りしている。

 

「………………」

 

 何かを呟くように口を動かしたが、口から漏れ出るのは呼気だけで、一向に音が出る様子がない。その事に対し深く息を吐いた子供は、鈍いながらに体を起こす。緩慢に首を動かし辺りの様子を見ていた彼は、反対側の壁にあるベッドに自分以外の人が寝ていることに気付いた。

 その幸せそうな寝顔に驚く前に思わず頬を緩ませた子供は、少女を起こさないように気を付けながらベッドから下りようとして――思わずといった様子で動きを止めた。視線は自分の足へと向けており、数秒後に自分の手を見る。幼い子供特有のぷにぷにとした手を認識した子供は背中からベッドに倒れ込んだ。

 混乱しているような、酷く疲れたようなおおよそ幼児らしくない表情を浮かべた子供は、声が出ないのにも拘わらず口を動かした。口の動きと表情からの推測でしか無いが、恐らく子供はこう言った。

 

 

 

 ――どうしてこうなった。

 

 

 

 健やかに寝ている少女が目を覚ますまで、そのまま顔をひきつらせて笑っていたのは、言うまでもない。




●ライ
 響界種覚醒時に覚醒に体が耐え切れず、ギアンを道連れにして死亡……したと思ったら、【忘月の泉】に何故か倒れていて、フェアに拾われそのまま居候することになった。自分の体が縮んでいることに茫然となるも、そう時間を措かずに割り切って生活するようになる。
 自身と同じ立場になったフェアが、自分と同じ目に遭って死なないように行動することに決める。
 声を出せずに困ることもあるが、下手な失言をしなくて済むと安心もしている。

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