ゲーム設定+特殊設定、捏造設定。
ヒロイン未定。
エイト(原作主人公)×ゼシカ、チャゴス×ミーティア確定。
「殿下ー、王子ー、チャゴス様ー、チャゴスー」
王者の儀式が嫌で、必要最低限のことを済ませた後はずっと引き篭っている主の名を呼びながら、品の良いドアをノックする。大国サザンビーク王宮で、次期国王であるチャゴスが十五歳を迎えてから、恒例の習慣である。
「チャゴスー今日は快晴だよー、絶好のピクニック日和だよー。弁当持って外行こうよ外」
「そう言っておいてボクをあの忌まわしいトカゲの住処に連れていく気だろう……断固として断る!」
部屋から返ってきた力強い言葉に、溜息をひとつ。
「仕方がないだろう、チャゴス。そうしないと君は国王に成れないんだから」
いくらこの十年来に渡る矯正で、次期国王に相応しい教養と剣と魔法を身に付けさせたとはいえ、サザンビーク王家の伝統を熟さなければ次期国王として認められない。
これは、建国から伝わる、サザンビーク王家の仕来りだ。
「それはサザンビーク限定の話だ。だから、ボクは婚約者の祖国であるトロデーンに婿入りして、お前がサザンビークの国王になれば問題ない」
「確かにウチは曾祖母が当時の王姉だっただけあって、君の次に王位継承権はあるけど、それはあくまで君が廃嫡されない限り、あってないようなものだからね。それにそもそも、王者の儀式は結婚指輪を作るためのものでもあるから、君が王族の立場を捨てない限り結婚できないよ」
「う……っ」
「ま、君の場合は自業自得だから良いとしても、待たされる身であるミーティア姫とトロデーンの方々はどう思われることやら」
「ぐ……だ、だったらお前がミーティア姫と結婚すれば……」
どうにかして王者の儀式を受けないで済むようになるかを模索する主兼親友に聞こえるように、大きく息を吐く。
「あのね、君とミーティア姫の婚約は、二国の先代陛下の『自分の子供達を結婚させよう』って約束が、孫の代まで延びたのが原因だろう? 先代と直接的な血の繋がりのない僕が、ミーティア姫と結婚出来る訳ないだろーが」
「くぅ、エルトリオ伯父上が御健在であれば……いや、いっそ伯父上でなくその息子、ボクの従兄弟が現れてくれれば……!!」
「君どれだけアルゴリザードと戦いたくないの」
「トカゲと戦うくらいなら、繁殖期のキラーパンサーの群れに突っ込んだ方がマシだ」
「うわぁ言い切った……」
顔を右手で覆い、思わず上を向く。
チャゴスの言う『トカゲ』は、アルゴリザードという種族の巨大トカゲだ。非常に臆病な性格で、人の気配を感じるとすぐ逃げ出す。ジョロの実という大好物で誘き寄せ、背後から静かに近付かなければ戦うことさえ儘ならない、非好戦的な魔物である。
対して、キラーパンサーは、比較的人に協力的なヒョウだ。たが、『地獄の殺し屋』という異名があるだけあって、一度敵対関係になったら敏捷な動きと鋭い爪と牙を持って襲い掛かってくる危険な魔物だ。
凶暴性も皆無で、命の危険性も限りなく低い前者と一対一で対峙するより、元より危険な魔物が更に凶暴になる繁殖期に一対多に挑戦した方がマシだと宣うその神経が分からない。
「君、どれだけアルゴリザード嫌いなの」
「ボクは逆に、トカゲのせいで死の淵を彷徨った癖に何で平気なんだとお前に問いたい」
「だって、その時のこと覚えてないし」
純然たる事実を口にすれば、扉の向こうで息を飲む気配を感じる。僕が記憶喪失になったことを知っている筈なのに態々尋ねるくらいには、チャゴスはあの時以来ドラゴンどころか普通のトカゲすらも拒絶する程にトラウマになってしまったらしい。
一体あの時何があったんだろうなと、思い出せもしないことを思い出そうとしていると、カチャリと弱々しく、それまでびくともしなかった扉が開いた。
「……ラグサット」
扉の隙間からこっそりと顔を出す金髪碧眼の美少年からは、十年来に渡る矯正の末に身に付けた、王子然たる凛々しき雰囲気の欠片もない。
「その……すまない」
「気にしてないから、謝られても困るんだけど」
いつものように返してやれば、眉を八の字にしつつも笑ってくれる。本当にいい子に育ったなぁと思いながらつい頭を撫でれば、「子供扱いするな!」とその手を振り払った。それに手を合わせてごめんと平謝りして、チャゴスの機嫌を取る。そういったやり取りは、嫌いじゃない。
物心がつく前から、僕には今の自分とは違う別の記憶を持っていたらしい。僕が今生きている世界とはまた別の世界、地球と呼ばれる星の日本という小さな島国で、学生をやっていたという記憶だ。詳しいことは全く覚えていないため割愛するが、僕は生前にハマっていたらしいゲームとかいう物語の一つにそっくりな世界に転生したそうな。しかも、サザンビーク王国の大臣の息子であるラグサットとして。そのことを理解した時、チャゴスを矯正できると内心喜んだそうだ。これで、チャゴスとミーティア姫の結婚を恙無く行う事が出来ると。
ぶっちゃけた話、僕はその物語の結末が好きではなかったらしい。初めて見た結婚式を壊しミーティア姫を攫う話も、サザンビーク次期国王であるチャゴスを差し置いてミーティア姫と結婚するのも、本来の結婚相手だったチャゴスが父親すらも認める愚か者だったからこそ咎められなかっただけだ。そうじゃなければその後トロデーン王国は、サザンビークはおろか来賓として結婚式に参加していた他の国々との関係が悪くなっていたことは想像に難くない。
確かに、主人公達は世界を救った英雄だ。加えて、主人公は実は――一部の人間しか知らないが――サザンビーク王家の血を引く人間だから問題にはならなかったのだろうが、本来であれば招待状の内容と違うと他国から抗議されてもおかしくない。勿論、その後きちっと謝罪やら後始末やらを精算したかもしれないが、それが出来るくらいなら前もって根回しをして婚約破棄をするとか穏便に事を済ませろよ、と結婚式直前になってから「やっぱり結婚しない!」と言ったトロデ王やミーティア姫に突っ込んでいたそうだ。
だが、そもそもの原因は物語の中のチャゴスが王族どころか人としても駄目な人間だったことだ。チャゴスさえまともであれば、あんな後先を考えない微妙な結末を、現実で見なくて済む。
という訳で、チャゴスと関わるようになった五歳から、その甘ったれた考え方を矯正しようと考えたらしい。誰にも分からないようにと前世の母国語と思われる言語で綴られたノートには、そう書かれてあった。
(うん、本当にあのノートが有って助かった……)
六年前、死ぬ一歩手前だった大怪我を負ったことで前世と今世の全ての記憶を失ったあの日。不幸中の幸いか読むことが出来た、この世界で使われている文字とは違い、何種類もの文字を組み合わせた難解な言語で書かれたノート。それには、自分が物語の世界に転生したことと、サザンビークに関係する事柄と、自分がやるべきことが書かれてあった。この世界の文字の練習のために書いていた日記もそうだが、あのノートのお蔭で何とかここまで来られた。割と筆まめな自分に、とても感謝している。
「あ、そうそうチャゴス。明日僕、この国を立つから」
「は?」
「国王陛下から、トロデーン国王に渡す手紙を任されたんだ。まぁそれはただの建前で、ミーティア姫の婚約者である君のことを嘘偽りなく教えてこいって言われているけど」
「おいちょっと待て、父上達もお前も思いっ切り外堀埋めていってないか?」
思い切り頬を引き攣らせるチャゴスへ向けて、僕は拳を握り親指を立てた。
「頑張れ次期国王!!」
「だからボクはトカゲと戦いたくないと言っているだろぉぉぉおおおおお!!!」
諦めの悪いチャゴスの叫びが、王宮を木霊したのだった。
●ラグサット(成り代わり)
赤ん坊の頃より記憶を持っていた成り代わり主。自身がラグサットに転生したと分かるや否や「チャゴスを矯正して立派な王子にする」ことを目標に日々を生きていたようで、原作内容もサザンビーク関係しか書き留めていなかった。このことから、原作ストーリーに介入する気は一切無かったらしい。
六年前に起きた事件により生死の淵を彷徨い、無事生還できたものの現世どころか前世の記憶すら全て失ってしまったが、筆まめな性格が幸いしてか若干の違和感はあったもののその後問題なく生活することが出来た。ちょっとした拍子に話題に出る六年前の事件の内容が気になるものの、分からないなら分からないで良いやと投げる程度には失った記憶に固執していない。
スキル構成は、剣・弓・杖・格闘・アシストである。
●『アシスト』スキル(オリジナルスキル)
スクルト、ルカナン、ピリオム、バイシオン、ボミオス、フバーハ、マジックバリア、ディバインスペル、テンションアシスト(モリーエールと同効果)習得。
常時消費MP1/4、常時すばやさ+40。
●六年前に起きた事件
サザンビークを取り囲む外壁の外で起きた、チャゴスとラグサットが出くわした事件。ある日突然ボロボロになって城に帰って来たチャゴスが必死な様子で騎士団長に騎士団の出動要請をしている最中、城すらも揺らす程の巨大な爆撃音が起き、サザンビーク騎士団が総動員で現場に向かったところ、そこには元の景色は見る影もないくらい荒れ果てた草原と重傷で倒れているラグサットの姿が。チャゴスの曰く「巨大なドラゴンが現れて突然襲い掛かって来た」らしいのだが、爆撃音が起こった前後でドラゴンが現れたという報告は一切なく、現場に留まっていた(チャゴスを逃がすために囮になっていた)ラグサットが記憶喪失となったため謎のままとなった事件。
それ以降チャゴスは普通のトカゲを見ただけで叫び声を上げて逃げ出す程トラウマになったが、その一方で(改善の兆しはあったものの逃げる回数の方が多かった)勉強や戦闘訓練を積極的に行うようになり、そう間を置かずして大国の王子として相応しい教養を身に着けるきっかけともなった。
※この話では、チャゴスの五歳時のトカゲトラウマ事件は無かったことになっています。