ゼロの使い魔で割りとハードモード   作:しうか

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マリコルヌとギーシュの魔改造が今……始まるのか?


せっかくの日曜なので2話連続予約投稿する予定です。ストックは今のところ8話の途中。大丈夫か!? ちょっと不安ですが、出足は欲しいかなと。

大体の主要人物が登場しますが、性格や言動が変わっている可能性があります。気になってもあまり否定的な意見は、その、スルーしていただけるとですね……。

 ではよろしければお楽しみください。


4 自己紹介と学院生活

 そして授業が始まると思いきや、自己紹介タイムになった。先生が適当に片っ端から当てていく感じだ。並びから俺が一番最後だろう。というかその場で立って自己紹介するのだがほとんど見えない。背の高さと髪の色と声くらいしかわからない。

 

 主要人物は、ルイズ、キュルケ、タバサ、モンモランシー、ギーシュ、マリコルヌ、ギムリ、ヴィリエと完全に揃っている。豪華メンバーが見れただけでも来た価値あったな。

 

 ルイズは初日だからか、特にゼロと呼ばれることもなく、公爵家らしい優雅さで自己紹介していた。

「ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールよ。系統はまだ決まってないわ。これからよろしく。」

 うーん。ほとんど見えんが多分可憐だ。こういうときは隣の隣にいるプレイボーイギーシュ君の評価に頼ろう。彼の方を見ると、「おお、ヴァリエール公の……通りで可憐なはずだ。」とつぶやいている。ふむ。可憐評価は正しかったようだ。

 

 キュルケは原作どおり胸元がゆるく、赤い髪と色黒な肌、そしてグラマラスなボディで男子生徒の目を釘付けにしていた。隣の隣のギーシュも「けしからん、けしからんな、アレは……。」とか言いながらガン見している。俺? まことに残念ながらほとんど見えんよ。

 「キュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストーよ。二つ名は『微熱』で火のトライアングルよ。よろしくね。」と自己紹介していた。ギーシュはさっきから「けしからん」を小声で連呼している。ギーシュ、壊れたか!?

 

 次は何人か挟んでマリコルヌだった。

 「マリコルヌ・ド・グランドプレだ。『風上』のマリコルヌと呼んでくれ。」

 ふむ。原作通りちょっと小太りを強調している。いや、実際そうなのだろうが、マントで隠せばいいんじゃないかな? ギーシュは男には興味ないようだ。薔薇なのにな。いや、いい。ごめん。

 

 ヴィリエは

 「ヴィリエ・ド・ロレーヌだ。風のラインだが二つ名は中々自分に合うものがなくてね。模索中だ。」

 ギーシュ君情報だとロレーヌ家は風の名門だそうだ。タバサ嬢の当て馬はエリートだったのか。色々残念だな。

 

 タバサ嬢は「雪風のタバサ、風のトライアングル、よろしく」だけだった。キュルケもそうだけどガリアやゲルマニアからの留学生って言っておかないと国際問題に発展しないのかね?

 

 そしてようやく最後の方にきて残すところギーシュ、モンモランシー、俺になった。

 

 「ギーシュ・ド・グラモンだ。『青銅』のギーシュと呼んでくれたまえ。気軽に声をかけてくれると嬉しいよ。特に女性は大歓迎さ。」

 

 ぶれないな。さすがだ。

 

 「モンモランシー・マルガリタ・ラ・フェール・ド・モンモランシよ。二つ名は『香水』、水のラインよ。よろしくね。」

 

 モンモランシーは無難にまとめたな。いや、他に何言えって言われても困るが……。香水の宣伝してもよかったんじゃね?

 

 「クロア・ド・カスティグリアだ。二つ名はまだないが火のライン……だと思う。俺は体がかなり虚弱でよく倒れたり、寝込んだりするのでこちらにいる学院所属のメイドであるシエスタ嬢を介助要員として学院からお借りしている。

 彼女は平民だが、まぁ無いとは思うが、彼女に対しての無体や危害は俺や、ひいてはカスティグリア家にかかるかもしれん。その点だけ気をつけてほしい。

 あと、病気や体調が悪くて休む日が多くなると思うがそこもあまり気にしないでくれ。長々とすまない。これからよろしく頼む。」

 

 ふぅ。緊張したー。と思ったら、シエスタが顔を寄せて「クロア様、お加減は大丈夫ですか?」と小声で聞いてきた。「少し緊張しただけだ。多分大丈夫だよ。ありがとう。」と苦笑いで返した。

 

 そしてこれからは親睦を深めるため、生徒同士でオリエンテーションだそうだ。教師が退出したので自習や自由時間とも言う。

 

 さて、これから起こる可能性のあるイベントはヴィリエとタバサ嬢の決闘かな? 

 

 ルイズ、キュルケ、タバサ、シエスタは髪の色で判断できて便利だな。ギーシュは早速ナンパの旅に旅立ったようだ。「モンモランシーも行ってきたら?」と言ったら「何か変な誤解されそうだから辞めておくわ。」と言っていた。

 「どんな誤解だい?」って聞いたら「ギーシュに言い寄る女生徒。」と澄まし顔で言い放った。

 

 「あはははは! た、確かにそうかもしれないな。いやギーシュは見た目も中身もいいヤツだと思うし、先に親交を深められてよかったかもしれないね。まぁ彼と親交を深めるのは後でも構わないか。」

 

 「ちょっと、笑いすぎよ? そんなに面白かった? まぁそんな訳で今行く意味はあまりないわね。」

 

 「いや、すまない……。久々に笑いのツボに入ってしまってね。本当にすまない。」

 

 「そ、そう? 別に構わないわ。」と話し合いながら教室内の動向を見ていると、女生徒は大体ギーシュのところへ、ついでにそれに群がるように男子生徒が集まっている。キュルケの方にも男子生徒が集まり、ルイズのところにもあいさつ回りのように列を作って挨拶しているのがいる。公爵家だからな。大変だな。孤立しているのはタバサ嬢と俺とモンモランシー、まぁ追々でいいだろう。

 

 そう思っていたらキュルケが取り巻きを連れてこちらにやってきた。

 

 「ミスタ・カスティグリア、改めて自己紹介するわね。私はキュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストー。キュルケと呼んでちょうだい。」

 

 「これはご丁寧に。ミス・ツェルプストー、いや、キュルケ。ぜひ俺のこともクロアと呼んでくれ。」

 

 何か用なのだろうか。見た目に関してなら彼女のお眼鏡にかなわない自信があるのだが。

 

 「あなた自己紹介のときに少し気になることを言っていたわね。あなたが火のラインとはっきり言わない理由は何かしら?」

 

 直球で来たな。まぁこのクラスで火系統は恐らくキュルケのトライアングルが一番で二番が単独で俺の怪しいラインだから気になったのだろう。

 

 「ああ、そのことか。俺は火以外の系統がさっぱりダメでね。火の系統しか使えないのだよ。そして、家にあった魔法書では純粋な火の系統の魔法はラインのフレイム・ボールまでしか乗っていなかったのでね。個人的にはトライアングル以上の威力はあると思うのだけど確信が持てなくてね。どうやって判断していいかわからないのだよ。」

 

 そういうとキュルケは少し眉を寄せた。

 

 「家庭教師に判断はしてもらわなかったのかしら?」

 

 「ああ、俺は体が弱いので家庭教師の代わりに主治医が付いていてね。魔法も駄々をこねて姉や弟に教えてもらったのさ。」

 

 そう、苦笑しながら言うと、キュルケの取り巻きが、「キュルケ、こんなヤツに構ってないで向こうへ行こうぜ」と言い出し、キュルケはまだ聞き足りないような顔をしていたが、「そうね、お邪魔したわ。」と言って取り巻きを連れて離れて行った。

 

 「ねぇ、クロア。他の系統がダメってどういうこと?」

 

 とモンモランシーが疑問に思ったのか聞いてきた。うーん。少し言いづらい。自分の恥を言い出すようで言いづらい。でも秘密にするまでのものじゃないしな。

 

 「そうだね、モンモランシー。簡単なコモンスペルを使えるようになったら系統を見るために四系統の簡単な魔法を使うだろう?」

 

 「ええ、私もそうだったわ。でも他の系統も水ほどじゃないにしろ使えたわよ?」

 

 「ああ、俺もそう聞いたんだけどね。……笑わないで聞いて欲しいんだが、土のアース・ハンドは麦一粒くらいの土がわずかに動いただけだったし、水のコンデンセイションは桶の真ん中に少しシミができただけだったし、風のウインドに関しては後で吐いたため息の方がろうそくの火が良く揺れた。自分でもここまで他の系統の才能がないとは思わなかったけどね。」

 

 そういうと、モンモランシーはビックリしたような顔をしながら、「そ、そうなの。珍しいこともあるのね。」と言っていた。いや、俺もビックリだったけどね?

 

 「そういえば……」と新たな話題を振ろうとしたところで、今度はマリコルヌが来た。

 

 「やぁお三方、ごきげんよう。もう自己紹介はしたけど改めて、マリコルヌ・ド・グランドプレだ。ぜひマリコルヌと呼んでくれ、よろしく頼む。」

 

 「ごきげんよう。マリコルヌ、俺もクロアと呼んでくれ。こちらはシエスタだ。よろしく頼む。」

 

 俺のシエスタの紹介に合わせてシエスタは軽くカーテシーをする。まぁなーんとなく理由はこれかな? ってのもあるが一応知らないフリをしておくべきだろう。

 

 「ごきげんよう。マリコルヌ。モンモランシー・マルガリタ・ラ・フェール・ド・モンモランシよ。」

 

 おや? モンモランシー呼びは却下ですかね?

 

 「ところで君。片方は平民とはいえ二人も女性を独占するとはけしからんとは思わんかね?」

 

 ぶっ! すごい直球で来ましたね。

 

 「いや、独占しているのは強いて言えばシエスタだけだよ? どうしてそんなことになったんだい?」

 

 「そうね。私はまだ独占されてないわね。でもマリコルヌと言ったかしら? 今のところあなたに興味はないわ。」

 

 おおう、モンモランシー……。告白されたわけでもないのに直球で振ったな。トリステイン貴族女性こえぇ。俺なら心の傷で三年くらい引き篭もる自信あるぞ。

 

 「ふむ。ではそのメイドはどうやって学園から借り受けたんだい?」

 

 「マリコルヌも学園所属のメイドを借り受けたいのかい? そうだね、君が借り受けるための方法を提案するのは吝かではないが実行するのは大変困難だと思うよ?」

 

 そう言うとマリコルヌの頬がピクッと動いたあと、すごい食いつきを見せた。

 

 「おお、我が友よ。ぜひとも教えてくれたまえ!」

 

 「おお、早速君の友に認定していただけて大変光栄だ! ではお教えしよう。2~3年水とスープだけ飲んで暮らし、疫病が流行ればそこへ出向き感染し、風邪が流行ればそこに出向き感染し、それでも死なずに済めばきっと君のような健康体でも俺と同じような虚弱な状態に持っていけるだろう。俺は生まれたときからこの状態だが今の君でもこの方法なら同じ状況になれると思うんだ。

 その状況で学院長に嘆願すればきっと介助のメイドを借り受ける権利をいただけるだろうし、候補を見繕ってくれるだろう。あとは紹介されたメイドが立候補してくれれば君も晴れて誰の目を気にする事なく同じ部屋でメイドと暮らせるようになるよ。オススメはしないがね。」

 

 そういうとマリコルヌは少し青い顔をして「すまなかった。クロア。」と言った。いいヤツなんだな。マルコ。

 

 「いや、こちらこそすまない、マルコ。マルコと呼んでいいかね? 実は半分自虐を含めた冗談だ。ここ一年ほどは調子が良くてね。そこまでひどくはないんだ。」

 

 そう言うと、少し安心した感じで

 

 「そうか、そうか。ぜひマルコと呼んでくれ。しかし半分冗談ということは半分は本当なんだろう? 大丈夫なのかい?」

 

 「おお、初対面なのに心配してくれるのか。友よ。君はとても優しいね。今は大丈夫さ。シエスタも側に控えてくれているし、何より今はちょうど水の使い手のモンモランシーが隣にいてくれるからね。

 さぁ我が友マルコよ。もしお零れを狙っているのなら、ここではなくギーシュの近くがオススメだよ。彼も君と同じくいいヤツだから、君とも馬が合うだろう。彼の側で君の良さをわかってくれる女性を探しに行きたまえよ。」

 

 そう笑顔でマルコに言うと、晴れやかな顔をして、「そうだな! 我が友よ。また話をしよう!」と言ってギーシュのいる方へ向かって行った。

 

 ふむ。そういえばモンモランシーはもしかして俺が心配で動けないのではなかろうか。いや、自信過剰かもしれんが彼女は優しい子だ。彼女のこれからの人生にとってここにい続けるのはいいとは思えない。ここは戦略的撤退をしよう。

 

 「初日で少し興奮しすぎたかね? ちょっと体調が悪くなりそうだ。モンモランシー、悪いがそろそろ寮の部屋に戻ろうと思う。さっき言っていた資料は出来次第送るから気長に待っていてくれ。」

 

 そう言って立ち上がると少しふらっとした。戦略的撤退じゃなくて本気で撤退になりそうだ。

 

 「クロア。大丈夫? 部屋まで送りましょうか?」モンモランシーがそう心配そうに気を使ってくれるがそれでは当初の目的から外れてしまう。いや、すでに外れ気味だが……。

 

 「ああ、大丈夫だ。君も学院生活を楽しんでくれ。すまない、シエスタ、肩を貸してくれ。では、ごきげんよう。モンモランシー」

 

 「ええ、お大事にね。」

 

 そう言って寮の部屋に戻り、天蓋の中で一人で着替えるのが辛かったのでシエスタに手伝ってもらい、ベッドにもぐりこんだ。そしてシエスタはしばらく様子を見た後「お姉さまに報告してまります。」と言って出て言った。意外とギリギリだったようだ。

 

 いやー。同い年くらいの女の子に着替え手伝ってもらうの恥ずかしいっす。たまに手伝ってもらうのだが毎回少しベッドの中で悶える。原作のルイズは初対面からよく才人に着替えさせられたな……。伯爵と公爵の違いか?

 

 

 

 

 幸い早めの撤退が良かったのか、起きたら次の日の昼ごろだった。

 呼んでみたらちょうどシエスタが部屋にいたので寝ていた日にちと昨日のその後の状況を聞いた。昨日はあれから学院の医務室待機しているメイジが様子を見に来てくれたらしい。

 数日安静にしていれば大丈夫だろうとのことで安静にすることが決まった。倒れなかったのにな。

 

 それから数日して、タバサとヴィリエが決闘してヴィリエが負けたらしい。そういえばそんな話あった気がしなくもない。他人の決闘でこの世界の魔法の威力を確認したかったが見逃してしまったようだ。

 

 しかし、この決闘があったということは次のフリッグの舞踏会はエロシーンか? いやここは紳士にマント重ね着でもしていくか? しかし長さが足りなさそうだな。

 

 などと心の隅で計画しつつ、モンモランシーへの資料をまとめる。出来た試算ではおいしいのか不味いのか微妙なラインだった。儲けは出るし売れるとは思うが結構リスクがあるかもしれん。

 

 一度試作してから評価を聞いて売れそうなら大量に作る方法を考えたり、原料を天然素材にしたり、むしろ原料を格安でそこいらの森で平民に摘んできてもらったりとかなり無茶な案も入っている。瓶をギーシュが作れればなー。ふむ。鋳型方式で粘土の瓶を作ってそれをギーシュが錬金とかどうだろう。その辺りも書いておこう。むしろ瓶に拘るからいけないのか? 匂い袋方式もいけるだろうか。とりあえず思いつく限り書いて、シエスタにモンモランシーへ届けてくれるよう頼んだ。

 

 しかしほとんど授業に出てないな。いや、何度か出てはいるが、あまり意味があるとは思えないのでちょっとでも体調が悪いと出ないことにしている。途中退出は目立つしね……。

 

 そして後日、久しぶりに出た授業でモンモランシーが試作品を渡してくれた。第一号爽やか石鹸の香りらしい。いくつか小分けにしてあるので平民の感想を聞きたいらしい。すぐ側にいるシエスタに渡して頼んだ。

 

 「さっそく使わせていただきますね。」と言ってシエスタは香水を軽く手首につけて擦り合わせるとほのかな石鹸のいい香りがした。

 

 「ああ、すばらしい香りだね。モンモランシー、君は香水にかけては天才だね。」

 「ええ、すばらしい香りですね。これなら評判になると思います。」

 

 二人でそういうと、ちょっと照れて赤くなりつつそれを隠すようにシエスタに

 

 「そ、そう? あなたにそう言ってもらえてよかったわ。でも他の平民の正直な感想も聞いておいてね。今度からはお金取るから。」

 

 ちなみに価格は大体毎日使って1ヵ月分20スゥでシエスタが言うにはその位なら買う人がいるだろうとのことだ。ちなみに利益は約12スゥ。貴族の手間は高いのだよ! いや多分これなら激安だけど……。今回は試作品での計算だが量産すればもっと利益が望めるはずだ。

 

 普通にトリスタニアとかで香水を買うとモンモランシーの作るようなものだと何エキューもするらしい。大体1エキューが100スゥですからね。20スゥでも安いと思います。オリジナルだし。

 

 ちなみにカスティグリア家経由で譲ってもらっている安眠香水は相場にいろんな色をつけて買っているらしく、値段は聞いてないがモンモランシ家が結構助かっているらしい。ああ、いくつか試作品を貰ってこの香水も両親へ営業もしておこう。そうモンモランシーに話すと喜んでくれた。販路が同じなら輸送費が安くつくからね。

 

 

 

 そしてひと月近くが経ち、フリッグの舞踏会がやってきた。しかし今日は朝から体調が思わしくない……。くっ、まさか本当にイベント補正か!? 

 

 「クロア様。顔色が悪いですよ? お気持ちはお察ししますが、今回の舞踏会は見送られた方が……。」

 

 とシエスタにまで止められる始末だ。「しかし、貴族たるものだな……。」と強がりを言っても足元がふらつく。結構めまいも激しい。

 

 「シエスタ、すまない。一目でいいのだ。すぐに戻ると約束する。」

 

 というと、シエスタは少しため息をついて、わかりました。でも本当に一目ですよ? と言って肩を貸してくれた。なんかだんだんシエスタがたくましくなっている気がする。今までは片方の肩に俺の手を乗せているだけだったのだが、今ではシエスタが俺の手首を取って自ら肩に回し半分担がれることがたまにある。できるだけ負担にならないように壁に手を付いて運んでもらう。

 

 そして、男子寮を出てすぐのところに着飾ったモンモランシーがいた。

 

 「クロア。ごきげんよう。体調が悪いみたいね。大丈夫?」

 「ああ、モンモランシー、ごきげんよう。いい夜だね。ドレスもよく似合っている。とてもキレイだ。……体調は万全とは言いにくいかな。」

 

 そういうと恥ずかしかったのか、モンモランシーは顔を赤くした。

 

 「こんな事だろうと思って来てみたら案の定ね。どうせ社交辞令でしょうけどありがとう。」

 「いや、本心のつもりだけどね? それだけキレイなんだ。今日は注目の的間違いなしだよ。」

 

 そういうと、モンモランシーは「ほらやっぱり」とつぶやいた。いや、褒めたのに社交辞令と取られたのか? これだけキレイなんだから注目の的間違いなしだと思うのだが……。

 

 「ええ、モンモランシー様。私もとてもステキだと思います。」

 

 ほら、シエスタもそう言ってるし、そろそろ信じてもらえないだろうか。しかし本当にモンモランシー嬢はきれいだ。夜で光が制限されているので今はいつもよりよく見える。この際だから目に焼き付けておこう。

 

 「ど、どうしたの? 急に真面目な顔して……」

 「いや、本当にキレイだから目に焼き付けておこうかと思って」とポロっとこぼすと「ばかっ!」って言われて顔ごと逸らされた。いやなんかすいません。つい素の本音が。

 

 「んんっ」とシエスタが咳払いをして「何バカやってるんですか?」と心の声で言われた気がした。

 

 「ではお嬢さん。フリッグの舞踏会へ参りましょうか。」と言って、シエスタの肩から手を外し、モンモランシーに左手を出しながら一歩進んだところでヒザからスコーンと力が抜け左腕からうつぶせにぶっ倒れた。

 

 「ちょっ、大丈夫!?」「クロア様!?」

 

 あああああ! なんという! しかも気絶しないとか! いや気絶したとしても恥ずかしすぎる! これ罰ゲームですね? わかります。

 

 「す、すまない、大丈夫だ。」しかも少し苦しくなってきた。しかし、今日はキュルケ嬢のだな……。気合で四つんばいになり、そこから立ち上がろうとしたらシエスタに肩を担がれ腰を抱えられた。シエスタ本当に力持ちだな。

 

 「大丈夫じゃありません。部屋に戻りますね。モンモランシー様。そういうことですので。ごきげんよう。」

 「わ、私も行くわよ。心配だもの。」

 

 モンモランシーは食い下がったが、貴族の女性が男子寮に入るのはダメじゃないか? 

 いや、逆はよくあるっぽいが……。まぁ俺の場合そのときもシエスタが付き添ってくれるのだろうか。そう思うと少し複雑だな。いや、いなかったら女子寮で行き倒れか。どっちにしろダメだな。

 

 「いや、大丈夫だ。それに貴族の女性が男子寮に入るのは外聞がよくないし、危険があるかもしれない。気持ちはとてもありがたいが、どうかフリッグの舞踏会を俺の分まで楽しんできてくれ。」

 

 そういうと、モンモランシーは「そう。お大事にね?」と言って足早に去って行った。

 

 そして、俺はシエスタに肩を担がれ腰を支えられたまま自室へ……。

 

 途中で「残念でしたね。でもミス・モンモランシのドレス姿が見れて良かったですね?」とか言われた。

 

 いや、よかったけどさ、本命がさ……。イベントがさ……。しかし少しシエスタの機嫌が悪い気がしなくもない。目の前で別の女性を褒めたからか? もしかしてヤキモチ? 自意識過剰か。もしかしてシエスタもドレスを着てみたいのかな?

 

 「そうだね……。シエスタ。シエスタもドレスを着てみたいかい?」

 「はい、でも私は平民ですから……。」

 

 ふむ。やはりモンモランシー嬢のドレスに憧れたのか。

 

 「しかしだね、シエスタ。恥を忍んで本心を打ち明けるとだね? 引かないでくれよ?」

 「引くようなことを言うのですか? でもそこまで言うのであれば聞いて差し上げないこともありません。」

 

 と、部屋に入って着替えのためにベッドの側まで行きながら念を押すとシエスタはちょっとツンとして言った。

 

 「実はシエスタのメイド服を着ている姿がとても好きなんだ。なんとも悩ましい趣向で自分でも軽蔑してしまうね。」

 

 ええ、メイド服とか前世からめっさ好みです。メイド服&ドロワーズ最強だと思います。恥ずかしい。めっちゃ恥ずかしい。っつうかこのまま死のう。それがいい。と悶えていると、シエスタはちょっといぶかしんだ後、俺の多分真っ赤になった顔を見て察したのか、

 

 「そ、そうですか。引かないで信じてあげます。」

 

と、言って赤くなってうつむいた。シエスタかわいいね。しかし、冗談ではなく今日は体調も悪いしこのまま悶え死ぬかもしれん。―――さらば、ハルケギニア。

 

 

 そして着替えようとしたところでそのまま意識を失った。

 

 

 




 実は二話予約投稿です。みなさん休日とは限りませんがよい日曜日を!

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