ゼロの使い魔で割りとハードモード   作:しうか

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 いやはやお待たせしてしまったみたいで申し訳ない。いや、マジホントすいません;;
 今回は誤字チェックや全体の流れというか、その辺りのチェックがかなり甘いです。違和感が少し残っているのでおかしいところがあると思います。誤字など見かけたらそっとご指摘お願いします><;

 それではどうぞー!


41 アルビオン侵攻作戦

 このハルケギニアでの暦は一年は十二ヶ月、一ヶ月は四週間、一週間は八日となっている。地球時間での一月にあたるヤラの月の頭には降臨祭という新年を祝う行事があり、過去この降臨祭の前に始まった戦争において「降臨祭までに戦は終わる」と言って終わった戦はないそうだ。

 

 トリステインゲルマニア連合艦隊がラ・ロシェールから移動を始めるのは原作通り十二月にあたるウィンの月の第一週、四日目の曜日であるマンの曜日に開始される。ド・ポワチエ将軍は降臨祭までに終わらせると言っていた気がするが、降臨祭まで一ヶ月もない。

 

 そう考えると最初から電撃戦を仕掛けない限りぶっちゃけ無理ではないだろうか。いや、もしかしたらド・ポワチエ将軍はフラグ建築のプロなのかもしれない。

 

 恐らくド・ポワチエ総司令官殿の考えでは、相手の艦隊を殲滅し、アルビオンの南端に位置する軍港ロサイスを強襲。その後、兵を降ろして首都ロンディニウムまで拠点を制圧しながら進軍するのだろう。軍港ロサイスを三日ほどで押さえ、そこから兵を進軍させたとして首都ロンディニウムまでの間にある重要拠点であるサウスゴータまでは約二百リーグ。そこからロンディニウムまでも二百リーグほどある。

 

 行軍速度に関して全く知らなかったため、この間艦長殿と話をする機会があった時に聞いたところでは、歩兵の場合時速四~五リーグほどで一日に六~八時間行軍し、三十~四十リーグ移動するのが一般的らしい。

 

 しかし、それを含めて考えると、行軍だけで一日八時間動かせたとしても十日かかる計算になる。作戦開始から降臨祭まで二十八日あり、そのうちラ・ロシェールからロサイスまでの艦隊行動が二日、行軍十日か。戦闘や制圧、そして猶予日などが残り十六日……。毎日何かしら兵を動かし続け、損害が少なければいけるのかもしれない。

 

 ただ、今回はカスティグリア諸侯軍が参加することによって原作とは違い、あっさり終わる予定である。いや、予定なので作戦が失敗した時や、想定外のことが起こったときはずれ込むだろう。むしろ、俺の体調が日程に影響を及ぼしてしまう可能性があるのでその辺りに少々……、いや、かなり不安はある。だがまぁ、終わることは終わるだろう。ド・ポワチエ将軍のフラグ建築能力にドロを塗る事になりそうだがご容赦願うしかあるまいて……。

 

 恐らく彼らが考えているであろうこの戦争の意味は戦争を終わらせるために相手に降伏を迫り、領地の割譲、それに伴う自らの地位の向上あたりだろう。しかし、俺がクラウスに提示したこの戦争での目標はかなり趣が異なる。

 

 今回のこのアルビオンへの侵攻は、アンリエッタ女王やド・ポワチエ将軍、そしてトリステインの貴族たちが考えているであろうただの侵攻ではなく、動き方次第で今後の展開にかなりの影響を持つと考えたからだ。

 

 確かにアルビオンという浮遊大陸にカスティグリアの避難地域としてある程度の領地は欲しい。しかし、これはこの戦争で活躍し、アンリエッタ女王にお願いすればある程度は分けていただけるかもしれない程度の不確かさなのでひとまず置いておこう。

 

 まず前提として俺は戦争や戦闘行動が大好きだ。なんだかんだ言いつつ様々な兵器の草案を作ったり、決闘を二度行い相手に重傷を負わせている辺り、もはや否定はできないだろう。実際、最初の決闘ではコルベール先生を呼んで嘆願すれば守ってもらえたかもしれないし、サイトに関してはギーシュに任せても良かった。まぁこれはクラウスも言っていたがカスティグリアの血だろう。

 

 しかし、戦争に伴いカスティグリアの領民や土地が侵されるというのであれば話は反転する。捨てられてもおかしくない死に損ないの俺をこれまで愛情を持って育てた家族、そしてカスティグリアという厳しい土地でも耐えてきた誇りを持った領民たち。この世界に生れ落ち、カスティグリアに育てられた過去を持ったとき俺はカスティグリアに愛情を持ってしまったのだろう。そして、それら全てを今後生まれるであろう戦禍から守りきると決意した。

 

 そう、俺はコルベール先生に言ったように本当に平和を目指しているのだ……。今ではモンモランシやタルブも含まれるのだが、それらの領地が平和な時を過ごせるようにするための第一段階が、これからのカスティグリアのあり方が決まる大切な分岐点がこの侵攻作戦だと考えている。

 

 実際に「平和とは何か」ということを考えた時に導き出される簡単な答えとして“争いの存在し得ない状況”というのが一番正確ではないだろうか。しかし、そのような状況はぶっちゃけ全生物が水の精霊のように「個にして全、全にして個」という形態にならなければ不可能だと思う。

 

 争いの原因を考えたとき、全ては「私とあなたは違う」ということが何かしら必ず含まれている。つまり、思想、宗教、文化、見た目、それらのちょっとした違いが常に起因しているのだ。

 

 すなわち、俺は完全な平和というものは存在しない、もしくは今現在は不可能だと思う。思考停止かもしれないが、その答えがあるのかもわからない哲学的な難題を追及している時間はないだろう。何人もの哲学者が一生を捧げて初めて生まれるようなものではないだろうか。

 

 しかし、そうであるならばカスティグリアやモンモランシ、そしてタルブのみの平和であればどうだろうか。その三つの土地だけが平和を享受できればどんな犠牲も損害も気にしなくて良いというのであればかなりハードルが下がるのではないだろうかと考えた。将来的にグランドプレやオルレアンが増えたとしても大差はないだろう。

 

 そして、それだけ条件をしぼる事ができるのであれば、ある程度平和への道のりも見えてくる。幸いこの世界の国や領地では封建制度がメインになっている。つまり、トップの意思を一つにすることができれば、自ら争いを起こさなければ、そして領民を上手く導く事ができれば、戦争に巻き込まれる可能性が減るのではないだろうか。

 

 しかも、心強い事に、カスティグリアに住まう領民は水の精霊のように領地としてまとまる事が出来るという可能性をすでに示してくれている。

 

 あとは戦争に巻き込まれず、侵攻を許さず、侵攻する必要性が無くなれば平和な時代というものが訪れるのではないだろうか。

 

 しかし、原作から考えて、カスティグリアが巻き込まれるであろう、この先起こりうる戦争が三つある。一つ目はすでに始まっているこのアルビオンとの戦争。ただ、まだ侵攻作戦は始まってもいないがカスティグリアにそれほど被害の出るものでは無くなりつつあるので除外しても良いだろう。

 

 問題は次の戦争であるロマリアの聖戦発動によるガリア侵攻。そして三つ目の聖地を目指すためのエルフとの戦争である。原作での主人公勢はロマリア連合軍に入り、被害を出しながらもジョゼフを討った。そしてこの先の原作の知識は無いのだが、聖戦というからにはエルフを討ち、聖地を目指すのだろう。

 

 しかし、ガリア王ジョゼフに関しては特に問題も脅威を感じていない。彼は虚無の系統と、天才とも言えるだろう才能を持ってはいるが結局のところ一個人であり説得するか暗殺すれば問題としては排除される。しかも、原作ではロマリアが彼を『簒奪者』と呼び、彼に反乱を起こすガリアの騎士も同じような事を言っていたが、実際に彼に王座を渡したのは彼の父であり、彼の弟であるシャルルも認めていたはずだ。

 

 そう、問題はロマリアなのだ。この戦争を皮切りに続いていく戦禍はぶっちゃけロマリアが全ての原因と言えるのではないだろうか。別にブリミル教を嫌っているわけではない。実際始祖ブリミルから連なる王家を敬うことに全く異論はないし、実際に始祖の名において女王陛下に忠誠を誓っている。そして、六千年という長きに渡る血統の維持というものには尊敬の念を抱かざるを得ない。

 

 しかし、確かにブリミル教にも問題はある。そして、その根源は間違いなくロマリアが己の利のために生み出したものだと考えている。

 

 少々あやふやだが遥か昔、約六千年前、始祖ブリミルは三人の子と弟子の一人に虚無の系統と共に四つの秘宝、四つの指輪をそれぞれに残した。そして彼らはそれぞれに国を作ったというのがこのハルケギニアの歴史の始まりだ。

 

 三人の子はガリア王国、アルビオン王国、トリステイン王国の王となり、弟子はロマリア都市王国というブリミルの墓の守り手となった。

 

 そして、かの地にジュリオ・チェザーレという大王が生まれ、当時小国家が乱立していたかの地を纏めた。そしてその大王は現在ガリアとロマリアを隔て、人の往来を阻む火竜山脈の中でも人やフネの通れる現在では虎街道と呼ばれている谷を越え、ガリアの半分を治めるに至った。

 

 しかし、その時代は長くは続かず、結局ガリア王国によって再び虎街道まで押し込まれ、現在のような勢力図となっている。ロマリアという国はゲルマニアのように都市が集まって出来た王国であり、都市ごとに独歩の気風が高い上に、他のゲルマニアを含む四カ国に比べて国力が遥かに劣っている。

 

 そんな中、ロマリアはブリミルの没した地を聖地に次ぐ聖なる土地であると自らが規定し、その地を首都とした。当時ハルケギニアで広く信仰されているブリミル教を最大限利用することによって確立したと言っても過言ではない。

 

 その結果ロマリア都市国家連合はロマリア連合“皇国”となり、その地には始祖ブリミルの弟子の一人でありロマリアの祖王である聖フォルサテの名を冠したフォルサテ大聖堂が建設された。そして、代々の王は教皇と呼ばれるようになり、全ての聖職者、そして全ての信者の頂点に立つことになった。

 

 以前クラウスに聞いた内容は確かこんな感じだった。こうして思い返しても一番ブリミル教を信仰ではなく利用しているのはロマリアという感が否めない。なんというか、一番ブリミル教を信じていないのはロマリアの人間ではなかろうか。成り立ちからすでに歪んでいるロマリアに対し、新教徒というブリミル教実践主義者が現れたのも当然の帰結と言える気がする。

 

 そこで、カスティグリアとして考えた時に発生する問題点がロマリアには二点ある。それは、ロマリアだけがなぜか所有する二つの権利。聖戦発動権と異端審問権とも言えるだろう二つの権利だ。

 

 聖戦の発動に関しては教皇が行い、聖地をエルフから奪回するか集まった戦力が瓦解するまで血みどろの戦いが行われる。基本的にハルケギニアの貴族も平民も大抵ブリミル教なのでそれぞれを治める王侯貴族に率いられ参戦することになる。

 

 しかし、なぜ教皇に聖戦の発動権が認められているのだろうか。ぶっちゃけ三王家は始祖ブリミルの直系であり、教皇は弟子の系統にすぎないのだから、それを鑑みても三王家との合議制というのが最大限こちらが譲歩した落し所ではないだろうか。むしろ三王家が許可を出して初めて発動する事が可能なよう変更してもらいたいくらいである。

 

 そして、異端審問権。これはブリミル教徒の異端者を罰する権利なのだが、その適用方法にかなり問題がある。こちらが例え貴族であろうともロマリアに所属する聖堂騎士や司教などの神官と揉め事を起こしただけで異端呼ばわりされ、宗教裁判にかけられる可能性すらある。そして彼らはそのことに何も疑問を持たず、尊大であり、気軽に異端という言葉を口にする。

 

 前世での中世ヨーロッパでも異端審問というものはあったようだ。しかし、その異端審問は教義の新たな解釈や新たな派閥の形成に伴いその内容が異端であると判断された時に裁判が行われた。しかし、当時力を持っていたスペインの王がバチカンから異端審問権をもぎ取り、自分の意に沿わない者を処刑するために使っていたというのもある。

 

 それらを鑑みてロマリアやブリミル教の神官が持つ異端審問権はむしろ後者の意味合いが強いのではないだろうか。

 

 その二点に共通するのはブリミル教の信者ということを建前に行う内政干渉ということだ。極論してしまえば、ロマリア以外の国が力を持ち、豊かになったら聖戦を発動し、それぞれを消耗させる事もできるし、聖戦への参加を拒否したらそこをつぶすこともできる。その上異端者という罪を着せてその貴族を消す事もできれば、領地の没収も可能だろう。

 

 しかも、今のロマリアに始祖ブリミルの血統に対する信奉と言うものはない。遥か昔からロマリアはブリミル教を道具のように扱い、政治の道具にまで貶めている。実際俺はブリミル教徒と言い切れるか怪しいものだが、国としてそのような矛盾を抱えつつ棚上げし、ブリミル教をこちらへの武器とするような相手を個人的に許容することはできない。

 

 そう、この戦いはガリアの王様が気まぐれで起こしたものではある。しかし、今までの展開からこの戦いはもはやガリアの王様の遊戯盤ではなく、カスティグリアにとって、トリステインにとって、いや、ハルケギニアに存在する三つの王国にとってロマリアに楔を打ち込む好機なのだ。

 

 すでにロマリアは一つ失態を犯している。司教であるクロムウェルが虚無の担い手を自称し、貴族派と共にアルビオン王家を討ったとき、ロマリアは何もしなかった。ブリミル教の根源とも言える王家の滅亡をロマリアが認定したであろう司教が討ったのだ。

 

 ふむ。裏でガリアが暗躍しているとは言え、カスティグリアにとっては都合が良いように思える。もしかしたらガリアの王様は「地獄が見たい」「人として泣きたい」などの理由ではなくロマリアの掲げるブリミル教を、そして始祖ブリミルを殺すのが目的であり、その第一歩がレコンキスタだったのかもしれない。

 

 別段この辺りの理由に関しては彼の手のひらの上だとしても問題があるとは思えない。まぁ彼とそのような話が出来る機会が万が一訪れるようであれば聞いてみることにしよう。

 

 ただ、ガリアの王様であっても、教皇を始めとしたロマリアの神官であっても、マザリーニ枢機卿であっても関知していないであろう、想定外に究極であろう駒がこのアルビオンには存在する。そう、ティファニア嬢である。

 

 以前彼女への対応について考えたことがあったと思うが、以前と違いカスティグリアは想像以上に精強に育った。彼女を囲い込むだけの戦力はあるだろう。そして、俺にアンリエッタ女王陛下とのつながりが出来たのも大きい。

 

 ティファニア嬢は今は亡きアルビオン王の弟であるモード大公の娘であり、アンリエッタ女王陛下にとっては従妹にあたる。さらに虚無の使い手という王族に連なる者の証を持っており、ブリミル教に保護されるべき人物でもある。

 

 しかし、彼女はハーフエルフである。エルフはブリミル教にとって異教徒であり、貴族にとっては悪魔のように恐れられ、嫌われている。その辺りは過去の聖戦やロマリアが改変したであろう教えが原因であろう。つまり、彼女自身が……、ハーフエルフであり虚無の使い手という存在自体が、ロマリアとロマリアの教えるブリミル教に矛盾を突きつけるものであり、ロマリアに対する生きた抗議文のようなものだ。

 

 しかも、好都合なことにレコンキスタによる内乱、そしてこれから始まる侵攻作戦により純粋なアルビオン貴族の数は限りなく少なくなるだろう。つまり、ロマリアにとっては自らに矛盾を突きつける人間であったとしても四人の虚無の担い手を集めることに固執する故に気軽に排除することが出来ない存在なのだ。

 

 そして、彼女の事を知っている人間は数少ない。彼女の事と彼女の持つ虚無の系統に関して知っているのはティファニア嬢の暮らしているウェストウッド村にいる人間以外に恐らくフーケ、いや、マチルダ・オブ・サウスゴータと、あやふやではあるが前世の原作知識を持つ俺くらいなものではないだろうか。

 

 ワルドも恐らくミス・マチルダの大切な妹という存在には気付いていただろう。しかし、原作での彼はフーケを呼び込む駒としては使ったが積極的に手を出すそぶりはなかった。虚無を求めていたワルド元子爵がルイズ嬢より扱いやすいティファニア嬢の奪取に出ないということは彼女の持つ虚無の系統に関しては知らなかった可能性の方が高い。

 

 そう、一つ目の作戦目標は今後のためにティファニア嬢とミス・マチルダの確保である。確保、いや、保護した後で彼女らをそのままアルビオンの玉座に座らせることは難しいだろう。それに、俺はフーケに二度手傷を負わせた上にカスティグリアとしては彼女の未来の恋人になったかもしれないワルド元子爵を捕縛し、トリスタニアに引き渡した経緯がある。俺個人に敵対意識を持たれていても不思議ではない。しかも、ティファニア嬢はハーフエルフという諸刃の剣でもある。それをカスティグリアが抱え込むのはリスクが高すぎるように思える。

 

 むしろ、モード大公の娘であり虚無の系統でもあるアルビオン女王としてティファニア嬢を擁立するのであれば、アンリエッタ女王陛下の下で女王や貴族としての教育を受けるという理由付けでトリスタニアで保護してもらうのが一番良いだろう。

 

 トリステインとしては彼女たちがアルビオンの代表的な立場になることに異存はないだろうし、トリステインの影響力を強烈に刻み付けたいはずだ。幸い、ティファニア嬢はアンリエッタ女王陛下の従姉という血縁関係もある。あの笑顔と悲痛な演技を難なくこなし、親友を死地へと向わせる女王陛下であれば従姉という肩書きだけで見た目だけでも簡単にティファニア嬢を篭絡し、ほのぼのとした従姉妹の関係を築いてくれるはずだ。

 

 そして、カスティグリアとしてはティファニア嬢を盾にミス・マチルダを貴族流に上手く手綱をつけることができれば同時にティファニア嬢への影響力も得る事が出来ると考える。恐らくティファニア女王が生まれた時、ミス・マチルダは宰相もしくは女官などのティファニア女王の側で支えることを選ばざるを得ないはずだ。確か彼女は貴族嫌いだったと思うが元々は貴族だったのだ。その辺りは我慢してもらおう。

 

 さらに、ティファニア女王を頂く彼女にとってカスティグリアの戦力が味方に付くというのは魅力的に映るだろう。ただでさえハーフエルフという危険な生まれである彼女を守る武器はいくらでも欲しいはずだ。利害関係の一致を見込む事はできると思われる。まぁ無理そうならば女王陛下に許可をいただいているご禁制のアノ薬を使うしかないので出来れば俺の拙い口車に乗って欲しいものだ。

 

 ちなみに、ド・ポワチエ総司令官殿に進言したカスティグリア諸侯軍の動きの中に“軍港ロサイスの北約五十リーグに防衛線を張る”というものがある。これはずばりティファニア嬢保護のため、そして、それを悟られないよう、それなりの説得力を持たせて作られた作戦だ。

 

 この防衛ラインを形成する予定の場所は軍港ロサイスから徒歩で一日以上かかる場所であり、三万以上の大軍がロサイスを目指すルートであり、平原の隣に森林地帯があるという条件で絞り込むとこの位置になる。恐らくその森林地帯にウェストウッド村があるだろう。

 

 いや、無かったら無かったでプリシラに頼んで探してもらうので問題ない。何となく俺のつがいは軽く見つけてくれる気がしている。

 

 このことに関してはクラウスにアルビオンの正統な後継者を探し出して保護すると説明してあり、そのような作戦を発動する用意があることをクラウス経由で艦長殿とアグレッサーの隊長殿に伝えてもらうよう言ってある。ただ、極秘事項なのでレジュリュビで何度か話す機会がある艦長殿は迂闊に口に出すようなことはしない。恐らく作戦発動のときにさりげなく合わせてくれるだろう。

 

 

 ただ、次の目標はリスクを許容し、かなり強引に行かなければ手が届かないであろう。水の精霊の依頼でもあるアンドバリの指輪の奪取と、近くにいるであろうガリア王ジョゼフの使い魔であるミョズニトニルンのシェフィールドの捕獲、そして彼女が持っているであろうアルビオンの始祖の秘宝である“始祖のオルゴール”の奪取。まぁ、ついでに敵の旗印であるクロムウェルの捕獲もかなり優先順位は低いが視野に入れている。

 

 普通の軍隊であれば、いや、カスティグリア諸侯軍でも単純に考えれば無謀だろう。しかし、こちらには恐らく有人飛行においてこの世界では最速を誇るゼロ戦とそれを操るサイトがおり、そして水の精霊ご本人がゼロ戦に搭載される予定の自由落下爆弾型の樽の中で待機中である。

 

 首都ロンディニウムプリシラに先行偵察をしてもらい目標を確認、そして竜隊の護衛の下でゼロ戦で首都に突入してもらい、目標が居るであろう場所に自由落下爆弾を投下してもらう。あとは水の精霊様がシェフィールドなり、クロムウェルの精神に干渉し、アンドバリの指輪の効果を切る。そして、竜部隊と後詰の艦隊が突入。目標の確保を行い、それでもなおアルビオンが混乱せずに組織的な抵抗を行う事が可能であるならば撤退してもいい。

 

 それで戦争は終わるとは思うが、終わらないようであればド・ポワチエ将軍の本隊を待てばよい。ちなみに、将軍閣下に対しての言い訳はこの強襲作戦は後から来る本隊のための威力偵察をしようと思ったとかそんな感じにしようと思っている。

 

 しかし、全てが予定通り進行すると確信しているわけではない。何が起こるかわからないのが戦争だ。ただ、もし全てが予定通り進行するのであればカスティグリアにとって、いや、トリステインにとってアルビオンの土地など小さい価値に見えるほどのものが手に入るであろう。

 

 実際にリスクに対する不安はかなりある。なんせ最終的に虎の子であるゼロ戦とサイト、そしてアグレッサーを始めとした竜部隊で敵の一番防御の硬そうな中枢を攻撃するのだ。国軍であれば被害を見積もった上で失笑される作戦であろうし、カスティグリアでも考慮に値しないかもしれない。

 

 しかし、水の精霊という鬼札があり、戦争を一撃で終わらせるという甘美な誘惑には抗いがたいものがある。そして、水の精霊の依頼であるアンドバリの指輪の奪取は後々の交渉で回収可能かもしれないが確実性が怪しい。恐らく交渉相手はガリア王ジョゼフであり、彼に水の精霊に触れさせることで回収できるかもしれないが、そのような手段を取る事はできれば避けたい上に、惚れ薬が俺にあまり効果が無かったように、彼が水の精霊を上回ってしまう可能性もあり得なくは無い。

 

 さらに、あの進化をし続けるアグレッサーならばやってくれるのではないかという期待も大きい。彼らの進化に対し、祝福の意味を込めて最高の場面を与えたいという願望もある。

 

 そして、俺はこの戦争で次の戦争への布石を打つ気でいる。もし、運の良い事に全てがこちらに都合の良いように進むと次の戦争が無くなる可能性がある。しかし、英雄という人種は大きな戦で生まれるものだ。それならばカスティグリアとして巨大な損失が発生するというリスクを背負ってでも、この三年の集大成を全て披露し、英雄になるチャンスを彼らに与えておきたいのだ。

 

 

 

 

 

 ―――そして、作戦開始の日がやってきた。

 

 その日は空にかかる二つの月が重なる日の翌日であり、アルビオン大陸が最もハルケギニア大陸に近づく日である。トリステインもアルビオンも当然のように、この特別な日に照準を合わせている。しかし、風石の消費を気にせず蒸気機関を搭載し、快速で航続距離を稼ぐカスティグリアにとってはアルビオンの距離などはあまり関係ない。

 

 それに、むしろ両用艦隊があれば海上で距離を稼ぎ、浮上することで時間はかかるが風石の消耗を避けることが出来るのではないだろうか。つまり、この特別な日というものをずらすことによって奇襲も可能なわけなのだが、連合艦隊は両用艦隊を持っていないため実行はできない。

 

 露払いのため先行することをド・ポワチエ将軍に伝書フクロウで告げ、ラ・ロシェールに停泊していたカスティグリアの艦隊は将軍から送られた伝令役を数名収容し、当日の朝一番に飛び立つことになっている。

 

 連合総司令部から来る伝令役の方々は各々伝令用の竜を与えられていたため竜母艦の一隻に配属されたのだが、蒸気機関などの機密が多い区画は立ち入り禁止になっている。そして、こちらから連合軍に伝令を頼む時はレジュリュビからその艦の艦長へと伝えられ、伝令役が動くことになっている。

 

 そして、それに合わせ、レジュリュビとタケオも作戦通り朝一番にタルブ村を後にした。現在高度四千メイルをロサイスに向けて飛んでいるはずである。しかし、前日から作戦通り俺の寝ている間に飛び立ったというのに発熱に加え、吐き気が少々、ついでに高山病のように頭がクラクラしている。

 

 艦隊は横に展開し、索敵しつつフネを進めている。同時に偵察や索敵をプリシラにお願いしているが、プリシラの報告では現在進路上に敵はいないようだ。この調子なら橋頭保にする予定の軍港ロサイスにかなり近い場所での戦闘となるかもしれない。そして、今回から正式にカスティグリア艦隊の提督も兼ねることになったレジュリュビの艦長殿の予想でも明日の朝、相手が迎撃に出てくるだろうとのことだ。

 

 忙しい中お見舞いというか、様子見に来た艦長殿とそのような話を短時間で済ませ、俺は再び彼らとは別の作戦を継続している。つまりベッドの上で横になり、シエスタに頭の上に濡れたタオルを乗せてもらっている。みな平気なようだが、俺の敵は戦列艦でも竜でもメイジでもなくこの高度だったようだ。レジュリュビだけでもいいから与圧と酸素濃度を調節するマジックアイテムを開発して搭載しておくべきだったかもしれない。今度カスティグリア研究所に頼んでみよう。

 

 しばし時が過ぎ、昼食後、毛布に包まりながらシエスタの看病を得てもまだ良くならなかったため、モンモランシーがヒーリングとスリープクラウドを使うことになった。明日の予定では基本的に艦隊は朝方敵戦列艦との戦闘を行いロサイスの北約50リーグにて防衛線を張ることだけだ。しかし、偶然や思い付きを装って決行するティファニア嬢回収作戦が存在する。これは俺が直接出向くべきであり、他の人間に任せるのはかなり不安だ。

 

 ある程度の人数には事前に知らせてあるとは言え、エルフに対してよい感情を持っていないであろうハルケギニアの人間に任せるのはリスクが高いだろう。ティファニア嬢およびフーケの件に関しては父上とクラウスにモード大公家の関係者の捜索を同時に行う旨だけ伝えてありティファニア嬢がハーフエルフである事は誰にも話していない。というか居るかどうかすら怪しいはずなのに、「これから探すモード大公の娘はハーフエルフである」などと言えるはずがない。ただ、その作戦で動く事になっているアグレッサーの隊長殿にはかなり詳しく「そのような気がする」と話してある。「気がする」だけで納得してくれる隊長殿はとてもありがたい存在である。

 

 ちなみに、後日行う予定である首都への威力偵察という名の強襲に関しては父上とクラウスに早期決着の手段として余裕があるようであれば実行すると伝えてあり、カスティグリア艦隊の戦列艦以上の艦長級に人間には作戦として提示されている。

 

 全てが順調に進めば二日三日で戦争が終わる可能性が高い。いや、俺の体調不良という微妙なケチがこれで付かなければ良いのだが……。

 

 まぁそのため、全てをうまく終わらせるに大事をとって明日の日が昇るちょっと前に起こしてもらう事と、艦長殿にもそのことを伝えてもらうよう二人に頼み眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 ええ、飛び立っただけでしたね。はい。以前活動報告でお知らせした時点ではすでに防衛ラインの構築まで終わっていました。前半部分のロマリア関連、ティファニア嬢関連、そして今後の作戦の動きなどは書かずにぼかして進める予定だったのですが、それだとかなり不都合が起こり、後付けの理由になってしまいそうで、それを嫌って先に書くことにしました。ええ、マジ書いたあと気付いて良かったorz

 ジョゼフさん仲良しフラグが立ちました!
 ロマリア敵対フラグが立ちました!
 
 さてカスティグリアはどこへ突き進んでいくのでしょうか。ぶっちゃけ私にもわかりません><; だ、大丈夫だ。私のクロアくんのつがいは最強のはず……。

 それでは皆さん、次回おたのしみにー!

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