ゼロの使い魔で割りとハードモード   作:しうか

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 なんというか、一つ気付いたことがあります。ええ、主人公が動くと筆が止まるのではないかと! き、気のせいですよね? 
注:水の精霊に関してDisってると感じるかもしれませんがご了承ください。
 それではどうぞー!


36 水の精霊

 現在、火竜隊第一中隊に運ばれてモンモランシへ向っている。このような状況でモンモランシの大地に立つことになるとは夢にも思わなかったが、今度の長期休暇あたりにゆっくりと来るための下見だと思えばそれほど悪くないかもしれない。俺を乗せているのは中隊長殿で、それぞれ一人ずつ乗せてもらっているのだが、ルイズ嬢だけはサイトと一緒に乗せてもらっている。

 

 そして、今回は水の精霊と交渉が必要になる可能性が高いため、モンモランシーは自分の使い魔であるロビンを連れてきている。火竜隊の鞍は風竜隊のものと違い、かなり大きめで余裕を持って作られているため特に問題にならなかったのは幸いだった。

 

 アグレッサーは風竜隊と共にパレードで展示飛行をするために出席する予定で都合が合わなかったため、今回は火竜隊の第一中隊が送ってくれることになった。火竜隊はパレードに出席する予定は無かったそうで、しかも、第一中隊は元々モンモランシで竜隊の訓練をしたりテスト艦に降りて新型の無誘導爆弾のテストや新装備のテストをすることが多いらしい。

 

 ほとんどの期間、モンモランシに作られた空軍基地にいる部隊なので今回の依頼にはうってつけだったそうだ。火竜は風竜よりも遅いが、火竜独特の鞍や装備を鑑賞しつつ、隊長殿の話を聞きながらのんびりと空の旅を堪能している。

 

 カスティグリアやモンモランシの竜部隊の中隊のメインは九人のメイジと九匹の火竜で構成されている。部隊の編成については国や領地、そして部隊の種類や都合によって数が変わる。歩兵、つまり銃や短槍などを使う平民がメインの部隊だと小隊で4~50人といったところだろう。そしてトリステインの竜騎士部隊は中隊での竜騎士の数が10名となっているが、カスティグリアの竜部隊は三人で一小隊、九人三小隊で一中隊となっている。

 

 竜に関しての規模については最小単位はアグレッサーが空戦技術を研究している時に、戦闘効率を考えて二騎という意見もあったのだが、カスティグリアの竜の最大数と、他の部隊の錬度を加味して損害を抑えて確実に勝つために三騎としたらしい。あとは基本的に三小隊分で一中隊、三中隊分で一大隊といった感じなのだが、その辺りは編成時の要因でざっくりと決めているそうだ。小隊よりも小さい単位で分隊や班といったものがあったと思うが最大数やかかる予算などから考えると別段小隊でも問題なさそうだ。いや、この世界に班があるのかは知らないので最小単位が小隊なのかもしれない。

 

 カスティグリアではまず三人の竜騎士が雇われたのだが、全員乗騎が偶然風竜だったため、風竜がメインになったらしい。しかし、竜騎士になる事を希望するメイジは増えても風竜だけでは調達が難しくなり、竜の数が足りずに使いまわすようになった。そして、そんなメイジ達の希望で途中から火竜が追加されたそうだ。火竜隊には火竜を使い魔として召喚した曰くエリートのような人間はいないそうだが、皆火竜にベタ惚れらしい。中隊長殿は何でも初めて火竜に出会ったとき、初恋のような、身体がしびれるような感覚を覚えたそうだ。

 

 火竜隊は空戦もできるがほとんどが対地攻撃や対艦攻撃をメインにしており、火竜用に開発される装備もほとんどそのために作られるそうだ。軽量化よりも強度、機動性よりも防御性能、最高速度よりも乗りやすさというまさに攻撃機のような思想が浸透しているようで、砲弾や魔法の雨の中でも当りながら笑って突っ込めるような人間じゃないとカスティグリアの火竜隊には向いていないらしい。

 

 確かアグレッサーは風竜だけの部隊だったはずだ。それを聞いて、対地攻撃や対艦攻撃専門の火竜で編成された教導部隊を作った方が良いのではないだろうかと中隊長殿に聞いてみたのだが必要ないそうだ。アグレッサーが全て網羅しているらしい。むしろ、今のところ竜に関してはどの分野でもアグレッサーの足元にも及ばないので全ての部隊はまずアグレッサー部隊に追いつくことが目標になるそうだ。

 

 風竜隊と火竜隊の住み分けはかなり特色が出ているが、元々互いにどちらも普通の竜騎士以上にこなせるのでよいライバルとして認め合っているそうだ。むしろ、一つ特別オカシイ部隊が存在してるので、どんなに自慢し合ったり、いがみ合っても、最終的にその話題になり意気投合してしまうらしい。

 

 火竜隊は基本的に怪我を恐れずに砲弾や魔法の雨の中を飛ぶため、かなり竜やメイジの装甲が厚めに作られている。そして、メイジも粗野な者や怖い者知らず、命知らずのような者たちが集められたらしいのだが、誰もがアグレッサーによる強化訓練を恐れているそうだ。

 

 アグレッサーが編み出した訓練方法は多岐にわたり、最近はアグレッサーが監修する事は少なくなったのだが、必ずと言っていいほど誰もが恐れる訓練が数ヶ月に一回あるそうだ。それがアグレッサーによる強化訓練なのだが、最初は簡単な飛行訓練で少々細かい程度だと思わせておいて、被撃墜時の緊急訓練という名のトラウマ生産訓練などがあるらしい。

 

 高度三千メイルほどで二名を杖なしで鎧を着たまま放り出し、地面に落ちるまでに小隊の残りの一人が竜に乗り、空中で落ちていく二人を救うという訓練なのだそうだ。放り出されてから約三百メイルほど落ちたところで竜が救助に向い、間に合わずに高度千メイルを割ると死亡判定を出してアグレッサーが回収してくれるそうだ。

 

 前世ではスカイダイビングなどそれを楽しむスポーツがあり、上空での体勢次第では落下速度を変えることはできるがその辺りの資料を作った記憶はない。独自で編み出したのだろうか……。その辺り、アグレッサーに聞く機会があったらどの程度の知識があるのか聞いてみたい気もする。

 

 しかし、大抵のメイジは空を飛ぶことに慣れていると思ったのだが、杖無しでのフリーフォールは誰もが怖がり、初めてだと泣き叫ぶ者もいるそうだ。どんなに度胸があっても失敗すれば自殺とあまり変わらないため、しょうがないと思う。ま、まぁ、なんとも言えないがきっと必要な訓練なのだろう。うん。

 

 ちなみに、中隊長殿はもうすでに慣れたそうだ。しかし、慣れてはいてもあまりに間隔が開くとその訓練を乗り越えられるか不安になるらしい。そしてそのような感じの生命の危険が伴うトラウマ生産訓練を数多くこなしていたら、タルブ防衛戦という初めての本番での戦闘で敵の艦隊やメイジの群れに突っ込むのはむしろぬるく感じたらしい。

 

 「強化訓練に比べたら遊びみたいなもんでしたぜ」と豪快に笑っていた。

 

 そして火竜隊では独特の遊びというか、訓練があるらしい。高度千メイルから垂直パワーダイブ。つまり、羽ばたいたり翼を格納して魔法で推進力を稼ぎ大地に向けて一直線に下降し、互いに妨害しながらどちらが先に大地に接触できるかを競うという訳の分からないものが流行っているそうだ。チキンレース通り越して事故レースに近いのではないだろうか。しかし、不思議と怪我人や怪我竜は必ず出るが死人は出ていないらしい。しかも、後遺症を残すような怪我はなく、大抵数日で完治するそうだ。

 

 ぶっちゃけアグレッサーより頭が逝かれているのではなかろうか。と思いながら聞いていたら、その火竜隊が編み出した訓練でもアグレッサーには勝てなかったそうだ。ま、まぁアグレッサーの風竜は速いからね。きっとそんな理由だろう。そうに違いない。

 

 そして、その訓練だけでもアグレッサーに勝ちたいと火竜隊では日夜研究が盛んに行われているそうだ。最近ではテストに上がってきた竜の速度を上げるためのロケットを持ち、降下速度を上げる訓練が行われており、打倒アグレッサーに燃えているらしい。

 

 しかし、その辺りの兵器のテスト項目はアグレッサーにも割り振られているのではないだろうか。むしろすでに使いこなしており、さらに危険なモノで遊んでいてもおかしくないように思えてきた。だが、折角燃えているところに水を差すのも悪いので、「ぜひがんばってくれたまえよ」とか言っておいた。

 

 

 

 

 

 モンモランシ領にあるラグドリアン湖と思わしき場所の上空に到達すると、降下が始まった。プリシラを呼び寄せて視界を共有してラグドリアン湖を見ると、思ったよりも広大だった。そして、プリシラの視界ならば水の底までも見通せるようで、水の精霊が沈めた村や底に広がる水の精霊と思わしき魔力が色彩を補正されたようにくっきりと映っている。

 

 少し揺れながら湖から50mほど離れた場所に降りると、火竜隊はここに駐留するための簡易施設を設営してくれるとのことでこちらは目的を果たすべく湖へ向った。モンモランシーにレビテーションを掛けてもらい、シエスタの肩を借りてゆっくりと向う。

 

 湖畔までの短い時間にモンモランシーが水の精霊に関して説明をしてくれた。水の精霊は個にして全、全にして個、繋がっていても離れていても意思は一つでブリミルの誕生する六千年前よりも古くから存在し、水の精霊を怒らせて水の精霊に触れられると操られるらしい。

 

 アンドバリの指輪も死者を操るマジックアイテムであり、アンドバリの指輪から生まれた雫がトリステインの兵士数万人を操ったというエピソードが原作にあったはずだ。そして、惚れ薬も同じく人の感情を操る。つまるところ水の精霊というものは生物を操るのがその根本なのだろうか。

 

 しかし、それならばなぜアンドバリの指輪はやすやすと奪われたのだろう。湖にも生物は生息しているはずだし、いなければスカウトしてくれば良いのではないだろうか。もし完璧を期してアンドバリの指輪を湖底で守り続けるのであれば、その周りを水がギリギリ通れるくらいの穴だけ開けて岩などで封印し、その周りに地球の生物で考えるならデンキウナギや、ワニ、カバそしてそれらの食料になるであろう魚や水草を大量に繁殖させて養えばかなり難易度が上がるのではなかろうか。

 

 カバであればルーシア姉さんのジャックに頼んでお仲間を連れてきてもらえば良さそうな気もする。いや、まぁ自然環境を考えなければだが……。

 

 ついでに、原作では色々あってこの土地や水の精霊との交渉役はモンモランシではなく他の貴族が務めているのだが、再来年あたりから領地はモンモランシに戻されるそうだ。色々というのは本当に色々なのだろう。大きな引き金はモンモランシ伯爵が水の精霊を怒らせて干拓事業に失敗したことだが、それだけで何代にも渡って水の精霊との交渉役を務めてきたモンモランシが排斥されるというのは……、まぁありえなくはないかもしれない。

 

 ただ、俺がモンモランシーと婚約したことで、領地の変更と共に水の精霊との交渉役を交代することになったそうだ。しかし、以前のモンモランシ伯爵ではなく、モンモランシーに代わることが決まっているらしい。学院の卒業に合わせて領地と水の精霊との交渉役がモンモランシーに移るということらしい。まぁその辺りは元々王宮でも色々あっただろうし、モンモランシ伯爵は一度水の精霊を怒らせて交渉役を外されていることを考えれば自然な流れだと思う。

 

 そんなことを考えつつモンモランシーの説明を聞いているとふと、モンモランシーが周りの景色と見比べたあと、疑問を浮かべた。

 

 「でも変ね。水位が上がっているわ。昔、ラグドリアン湖の岸辺はずっと向こうだったはずよ。」

 「プリシラの視界で見るには家が沈んでいるようだね。村が飲まれたのかな?」

 「そうみたいね。何があったのかしら。」

 

 モンモランシーが湖の波打ち際に近づくと指をかざし、目を瞑った。そして、何かわかったのかこちらへ戻った。

 

 「水の精霊はどうやら怒っているようね。」

 「ふむ。この水位の上昇と関係がありそうだね。その辺りも水の精霊に聞いておいたほうがいいかもしれないね。」

 「そうね、そうするわ。」

 

 そんなことをモンモランシーと話し、モンモランシーが使い魔のロビンに自分の血を一滴飲ませ、水の精霊を呼び出すことになった。

 

 「いいこと? ロビン。覚えていればの話だけど、これで相手は私のことがわかるわ。偉い精霊、旧き水の精霊を見つけて、盟約の持ち主の一人が話をしたいと告げてちょうだい。わかった? いい子ね、よろしくお願いね。」

 

 モンモランシーがロビンにそう告げると、ロビンは一声鳴いて飛び立ち、30mほどのところで着水し、潜っていった。

 

 「これでロビンが水の精霊を連れてきてくれるわ。それまで待ちましょう。」

 

 モンモランシーがそう言うと、サイトがなぜか首をかしげ、独り言のように話し始めた。

 

 「やってきたら悲しい話でもすればいいのかな? 主人想いの犬の話でもしようかな。かなり古いけど、かけそばのやつがいいかな……」

 「悲しい話? なんでそんなのするのよ。」

 「だって涙が必要なんだろ? 泣いてくれないと困るんじゃ?」

 

 サイトの少し天然の入った発言に、モンモランシーが説明を始めた。水の精霊の涙というのは通称で、実際は水の精霊の一部だ。つまり、交渉や力ずくでその一部をいただくわけだ。しかし、そもそも水の精霊は水で出来ているという説明があったはずなのだが、サイトは水から涙が出ると思ったのだろうか。

 

 少々サイトの思考回路に疑問を持たざるを得ない……、はっ!? もしや以前の決闘時の後遺症で少しアホになってしまったのかもしれない。う、うむ。今後は罪滅ぼしに極力彼をフォローすることにしよう。

 

 「しかし、モンモランシー。少々疑問があるのだが、個にして全というのであれば俺やルイズ嬢に入っているであろう水の精霊の一部はもはや水の精霊ではないということなのかな?」

 

 「あなた。そうね、水の精霊を強力な炎で炙って蒸気にしてしまえば再び液体として繋がることができなくなってしまうわ。確か薬を作るときに何度か炙る工程があったと思うんだけど、それで変質しているんじゃないかしら。」

 

 「なるほど。その工程の温度管理が細かかったのはそのせいか。しかし、プリシラの目で水の精霊はあの時俺やルイズ嬢の体内に存在していたことを考えると、変質しつつも水の精霊としての存在は保っていることになる。そうなると、媒体や炎、つまりパンやムチを使って水の精霊を使役していると考えてよいのかもしれないな。」

 

 「そうかもしれないわね。研究してみると面白そうね。あなたがモンモランシに定住したらゆっくり考えてみましょうか。」

 

 そんな事を話していると、ロビンが戻ってきた。水面に勢いよく浮上し、泳いでこちらへ来ると、ペンギンのようにぴょこんと岸辺に上がって一度ぶるぶるっと水をはらった。しかし一向に水の精霊は現れない。

 

 「おかしいわね。ロビン、水の精霊には会えた?」

 

 モンモランシーが訝しげにロビンに疑問をぶつけるとロビンは首を縦に振った。

 

 「うーん。もしかして私のこと忘れちゃってた?」

 

 彼女が困った表情を顔に浮かべてロビンに尋ねるとロビンは首を横に振った。

 ふむ。モンモランシーとの盟約があり、覚えていても話したくないような状況なのだろうか。同じ事を考えたのだろう。モンモランシーも少し考えつつ再び岸辺で指を水面にかざすと、ビックリしたような表情をして戻ってきた。

 

 「さっきまでは確かに水の精霊は怒っていたみたいなんだけど、今はすごく恐れのような感情がみえるわ。何があったのかしら。」

 

 モンモランシーがそう言うと、プリシラが俺に話しかけた。

 

 『もしかして私の事を怖がっているのかしら。ちょっと呼んでくるわ。ご主人様。』

 『ふむ。すまないけどお願いするよ。俺のつがい。』

 「プリシラが様子をみてきてくれるらしい。ちょっと任せてみよう。」

 

 プリシラの言葉をぼかして告げると、プリシラは『ふふっ、任せておいて、私のつがい』と、言って俺の肩から飛び立ち、30mほど離れた場所で垂直に水面へ突っ込んでいった。プリシラの主食は精霊だからな。相手が本能的に察していれば、プリシラを恐れているという可能性は少しある。プリシラが水中へ潜れるとは思わなかったが、ここは彼女に任せよう。まったく水しぶきが上がらず、音もなかったのが不思議でしょうがないが、きっと考えたら負けな現象だと思う。

 

 数十秒すると湖面を突き破るようにしてプリシラが戻った。

 

 『ご主人様。一応呼んだけどついでにちょっと採取してきたわ。』

 『おお、すまなないね。プリシラ』

 

 フタ付きの容器をモンモランシーから借りてフタを外すとプリシラが容器の淵に止まり、クチバシを開くとプリシラの大きさからは考えられないほどの水の精霊を吐き出した。

 

 「あ、あなた、これってもしかして……」

 「うむ。呼びに行くついでにプリシラが取ってきてくれたらしい。俺のつがいは俺には勿体無いほど愛らしくて能力が高いな。」

 「え、ええ、確かに愛らしくて能力もすごいわね。でも水の精霊が怒らないかしら。」

 

 モンモランシーと話しながらプリシラの様子を見つつ、吐き出し終わった頃フタを閉めて再びモンモランシーに渡した。しかし呼ぶまでもなく用事が終わってしまった。いや、まぁ水位を戻してもらわないといけないので呼ぶ必要もあるのかもしれないが、その辺りもプリシラに任せれば良かったかもしれない。

 

 『やっぱり水の精霊はおいしくないわね。ご主人様。口直しがしたいわ。』

 『おお、俺のためにすまなかったね。発火でいいだろうか。』

 『構わないわ。わたしのつがい。』

 「プリシラが口直ししたいそうなので少々魔法を使うよ。ウル・カーノ」

 

 湖面に杖を向け、発火の呪文を唱えると杖から40mほどの火炎放射器のような火が出る。そしてその周りをプリシラが嬉しそうにぐるぐるとバレルロールで包み込むように飛び始める。そして、『もう結構よ。おいしかったわ。ご主人様』と言ってプリシラが俺の肩に戻ったので発火の魔法を止めて杖を仕舞うと3mほど先の湖面がボコボコと揺れ始め、七色に輝き出した。

 

 水の精霊がようやく来たようで、連れてきたのはプリシラだが、交渉手順が一応あるらしいので交渉自体はモンモランシーに任せることにした。

 

 「私はモンモランシー・マルガリタ・ラ・フェール・ド・モンモランシ。水の使い手で旧き盟約の一員の家系よ。私の血に覚えはおありかしら。覚えていたら私たちにわかるやりかたと言葉で返事をしてちょうだい。」

 

 水面が盛り上がり、こねこねと粘度細工を作るように動きだした。そして一瞬ピクッと止まると再び動き出し、水の精霊は水面から肩口から上だけを出したモンモランシーの胸像といった形を作り上げた。原作では確か全身だったと思うのだが、気を使ってくれたのだろうか。水の精霊は意外と優しいのかもしれない。

 

 そして、その水の精霊でできたモンモランシーは表情を確かめるように喜怒哀楽を何度か表現し、それを見たサイトやシエスタ、ルーシア姉さん、そしてモンモランシーまでもがクリスタルのようでキレイだと言っていた。確かにキレイなのだが、個人的にはなんというかイマイチ心の琴線に触れない気がする。そして、水の精霊がしばらく表情を試したあとようやくモンモランシーに答えた。

 

 「覚えている。単なる者よ。貴様の身体を流れる体液を我は覚えている。貴様に最後にあってから月が52回交差した。しかし、その、我は今色々と忙しい。できればお帰り願いたい。」

 

 アレ? 最初の方は原作通り水の精霊だったのだが、後半ちょっと何かオカシイ気がした。原作の水の精霊は傲慢で怒ると怖く、だが意外と律儀で気が長いといった特徴だったはずだ。人間を単なる者と呼び、それでいて意外と人間の事を知っていた。想像の枠を出ないが、単なる者というのは水の精霊の特徴である“全にして個、個にして全”に比べてということだろうし、人間のことは代々交渉役がおり、接点が多いからだろう。

 

 しかし、まさか丁寧語が出るとは思わなかった。プリシラが呼んでくる時に何かあったとしか思えないが、あまり追求するのはよそう。そしてプリシラが生物でない可能性が出てきたのもきっと気のせいだということにしておこう。

 

 ふむ。しかし、確かにすでに水の精霊の涙はプリシラが取ってきてくれたので帰ったところで問題はないのだが、個人的にはアンドバリの指輪の情報をこの場で共有したいと思っている。水位に関しての交渉をしてその辺りの情報を引き出す必要があるかもしれない。それにうまく行けば原作から乖離することになるだろうが、中々良い手も思い浮かんだ。ぜひご協力いただきたいところである。

 

 モンモランシーも後半の反応に戸惑っているようで、中々言葉が出ないようだし、恐らく水の精霊の涙もすでに採取済みで何を話していいのか迷っているのかもしれない。ここは彼女の婚約者としてフォローしつつ交渉を引き継ごう。

 

 「ふむ。水の精霊よ。お忙しいところ悪いが尋ねたい事がある。ああ、用件が完全に済んだら帰るとも。ラグドリアン湖の岸はもっと先だと聞いている。是非とも止めていただきたいのだが、なぜ水位を上げているのかね?」

 

 「お前達に話してよいものか我は悩む。いや、そちらの方のつがいであるのであれば是非話させていただく。」

 

 やはり水の精霊はプリシラを恐れているようだ。肩にとまっているプリシラを見ると、愛らしく首をかしげたり翼の羽づくろいをしていてとてもかわいらしい。水の精霊はおいしくないと言っていたし、きっと水の精霊がプリシラを恐れるのは相性の問題だろう。

 

 「数えるのも愚かしいほど月が交差する間、我が守りし秘宝をお前達の同胞が盗んだのだ。」

 

 それから語られた内容は俺の知識にあったものとほとんど同じだった。モンモランシーとサイトが疑問を挟みつつ、聞いたところによると、アンドバリの指輪は死者に偽りの生命を与え操る事ができ、その結晶を溶かし、少量生きている人間に含ませることができればその人間も操る事ができるというもので、約二年前の夜、クロムウェルという名の人物を含む数人が水の精霊が住む一番濃い場所からアンドバリの指輪を盗み出した。

 

 クロムウェルに関してなぜか誰も知らなかったので、俺が補足することしよう。原作では誰かが補足したはずなのだが、他にメンバーがいただろうか。イマイチ記憶に無い。

 

 「恐らく神聖アルビオン共和国の新しい皇帝だね。そうなると、彼の虚無はアンドバリの指輪の効果かもしれないね。」

 「そうね。それなら今までのことも色々と説明が付きそうね。」

 「そういえばウェールズ様が信用厚い忠臣すら裏切ったって言ってたな。それで、お前は人間に復讐するために村を飲み込んじまったのか?」

 

 サイトが神妙な顔をして水の精霊に尋ねた。

 

 「復讐? 我はそのような目的は持たない。ただ、秘宝を取り返したいと願うだけ。我にとって全は個。個は全。時もまた然り。今も未来も過去も我に違いはない。いずれも我が存在する時間ゆえ。水が全てを覆い尽くすその暁には、我が体が秘宝のありかを知るだろう。」

 

 「気の長いヤツだな。でもさっき忙しいとか言ってなかったか? って、そもそもアルビオンにあるんじゃ全てを覆い尽くしても届かないんじゃねぇか!?」

 

 サイトが驚愕と共に疑問を浮かべた。キレのあるナイスなツッコミだ。ついでに、ちょうど良いので交渉に入るとしよう。

 

 「うむ。全くもって無理だな。この大陸には水が存在するには難しい土地がある上に、覆い尽くす前にメイジを初めとした人間の抵抗に遭うだろう。しかも、アルビオンは上空三千メイルほどに存在すると何かに書いてあった。幾万幾億の時が必要になるだろうな。

 しかし問題はそこではない。水の精霊よ。その秘宝は消耗するのではないかね? 君が永遠であり、過去、現在、未来も全てが君だとしても、その秘宝は永遠ではないのではないかね? 今この時もソレが使われ、消耗し、磨耗し、消滅に向っているとは考えなかったのかね?」

 

 水の精霊が戸惑うようにモンモランシーの形をした顔で様々な表情を作った。先ほどモンモランシーを始め、この場にいる人間が水の精霊はクリスタルのようにきれいだと言っていたが、こうして見るとやはりオリジナルのモンモランシーのキレイさには敵わない気がする。やはりモンモランシーは奇跡の宝石。

 

 「水の精霊よ。いくつか頼みを聞いてくれるというのであればその秘宝を取り返す手伝いをすることは吝かではないとも。だた、君が俺を信じることができるか、そして、君が俺に対して協力を厭わないというのであればだがね。」

 

 「しかし、我は悩む。そなたがかのつがいであろうとも単なる者には変わりない。我とそなたではあり方が違う上、盗んだのはそなたの同族。疑念が多い。」

 

 少々面倒くさくなってきた。水の精霊が恐れるプリシラが俺の肩にとまっている以上、直接俺の思考を読ませたほうが早いのではなかろうか。

 

 『プリシラ、俺のつがい。水の精霊の協力は今後何度か必要になる。俺の思考を読ませたいのだが、構わないだろうか。』

 『ご主人様、わたしのつがい。水の精霊を使役したいのね? 構わないわ。』

 

 し、使役ですか? いえ、協力してもらいたいだけなのだが……、ふむ、恐らく表現の違いだろう。きっとその、プリシラ流の協力ということだろう。完全に間違いではないので問題はないだろう。俺もプリシラにようやく慣れることができたのかもしれない。そう思うと少し嬉しくなった。

 

 「『ふむ。確かにそうとも言えるかもしれない。ありがとう、俺のつがい。』水の精霊よ。生物の思考は読めるな?」

 

 プリシラと頭の中で話しつつ言いつつ水面に立つと、手のひらを水面につけた。

 

 「クロアっ、ダメよ。危険よ!」

 「大丈夫だよ、モンモランシー。俺にはプリシラがいる。水の精霊も無茶はできないさ。」

 

 モンモランシーが焦ったような声で止めようとしたが、笑顔で彼女を安心させた。そして、水の精霊はモンモランシーを模倣した顔を崩すと、5mほどの高さに盛り上がりドラゴンというより、胴の長い龍のような形になった。

 

 「よいだろう。そなたの寿命が尽きるまで、我はそなたに協力するとしよう。」

 「ああ、よろしく頼む。水の精霊。」

 

 水の精霊の協力が取り付けられたので、取り合えず水位を戻すように言って、学院に戻ろうとしたところで少々問題が起きた。龍の形をした水の精霊に学院まで竜に乗って戻ることを告げ、速度的について来れるか聞いたところ、龍の形なのに飛べない上に、陸上でも歩く程度の速さでしか移動できないらしい。

 

 見かけ倒しとは……、なんというか少々残念な精霊なのかもしれない。いやまぁ、龍の形になって飛べるようなら自分で取り返しに行くか。そんなことを考えながら、火竜隊に樽のような容器を用意できるか聞いてみたところ、近くにテスト艦がいるのでちょっと行ってくると言って取りに行ってくれた。

 

 しかし、水の精霊の涙は一滴ほどの量しかもらえないと思っていたのだが、まさか樽で確保できるとは思っていなかった。というか、もしかしたら解除薬を作る手間すら省けるのではないだろうか。その辺りを周りに聴かれないよう、プリシラに聞いてみたところ、水の精霊にプリシラが聞いてくれた。

 

 必要なら手を湖面に浸せと言われたので再び湖面に手を浸すと、惚れ薬の効果を打ち消してくれたらしい。ただ、俺は判別が無理なのでプリシラに聞いたところ、俺の中に存在した水の精霊は完全に消え、惚れ薬の効果も水の精霊が言うには完全に消えたらしい。

 

 「モンモランシー。水の精霊が惚れ薬の効果を打ち消してくれたようだ。」

 「あら、そうなの? だったらルイズもお願いできないかしら。」

 

 婚約者殿を呼び、そのことを告げると、モンモランシーは驚いたようだ。プリシラ経由でルイズ嬢のことも頼んでルイズ嬢に湖面に手を触れるように言うと、最初はごねたのだが、サイトが優しく彼女の手を握り、一緒にしゃがんで手を繋いだまま湖面に触れた。

 

 ルイズ嬢を観察していると、最初は蕩けてボーっとしていた目の焦点がきつくなり、顔が赤くなり、手を繋いだまま逆の手を握り込み、いきなりサイトの顔面を殴った。特に問題になりそうな事はモンモランシーに防がれていただろうし、サイトも自制していたはずなのだが、何かあったのだろうか。

 

 ルイズ嬢は無言でひたすらサイトを殴り続けており、サイトもなぜか無言で殴られ続けている。一体何が彼女を怒らせているのかはかなり不明だが、恐らくルイズ嬢もサイトもルイズ嬢の貴族の矜持を守るため、無言を貫いているのだろう。両者ともかなり怖いが、彼女も恥ずかしい思いをしてしまったのだし、ここは放置、いや、見なかったことにしよう。

 

 そして、最後の非情の一撃がサイトの股間に決まり、サイトが撃沈したころ、火竜隊が大量の樽を竜に持たせて戻ってきた。水の精霊を全ての樽に収めると俺たちは火竜に乗せてもらい、学院へと戻った。サイトは気絶したまま運ばれていた。その光景をみて、自分に重ね合わせてしまったのはしょうがないと思う。

 

 学院に戻ると、ルーシア姉さんはクラウスに報告するために手紙を書くと言って別れ、モンモランシーはルイズ嬢と一緒にサイトをルイズ嬢の部屋へと輸送するため手伝うとのことで、俺はシエスタと一緒に部屋に戻った。

 

 何樽か確保した水の精霊はひと樽は俺の部屋に、そして残りはすべてセキュリティの一番堅いカスティグリア研究所へ運ばれた。アルビオンとの戦争のために戦力を構築し、何年も掛けて準備したのだが、プリシラというつがいと水の精霊という因子だけであっさりとケリが着いてしまうかもしれない。確かに犠牲者の数も減りそうなことは喜ばしいのだが少々釈然としない。

 

 やはり戦争というものは決闘のように人間が死力を尽くすからこそ、悲劇的であり、感動的であり、英雄を生み出す土壌だからこそ憧れるのだろうか。守りを破られ蹂躙されるのは全くもって悲劇であり、耐え難い屈辱だろう。だからこそ備え、戦争を恐れる。しかし、この戦争はすでに始まってしまっており、参加する誰もが金や名声を望み、志願するだろう。

 

 原作のサイトだってそうだ。なんだかんだ言いつつも戦争に参加し、人死にを目の前で体験し、なんだかんだと言いつつもシュヴァリエを戴いた。辞退するための文句に英雄になるつもりがないという内容のセリフはなかったはずだ。

 

 人は水の精霊と違い原作のサイトと同様に矛盾を抱え、変わっていくのだろう。それに関しては問題ない。それに、この世界で暮らす人間が変われば世界も同時に変わっていくかもしれない。それがきっと単なるものの宿命であり、生存意義だ。一人の間違いが罠を見出し、後の人間に警告を残し、一人の成功が世界をより住みやすいものに変えていく。

 

 そして、戦争になり生存への渇望と、死への恐怖が増せば増すほどそれは顕著になり、技術は躍進するのだろう。同時に人が生きるために必要な感情を、生きるための意義を、死ぬ事への恐怖を思い出すのかもしれない。なるほど、ガリア王のジョゼフはそれを望んでいるのか?

 

 しかし、彼が敷いたゲームの盤上では恐らく彼の想像外のことが起きていることだろう。アルビオン内戦という目の前の脅威に対してカスティグリアは人類の存在意義を心から味わうように、驚異的な発展を見せた。

 

 確かに礎は俺だろう。しかし、俺を生物としてだけでなく、知識として、道具として、伴侶として生かすと決めたのはカスティグリアであり、父上であり、クラウスであり、モンモランシーだ。英雄に憧れる人間には悪いが、恐らく短いこの命はカスティグリアのため、モンモランシのため、そしてそれを抱えるトリステイン王国のために使うと決めている。

 

 そして、もはやここまで揃ったのであれば原作に沿うことに固執する必要は無いように思える。ククク、未来の英雄達には悪いが、俺も少々人生を楽しむことにしよう。ガリアの王様がその盤にカスティグリアを含めるというのであれば、彼の暇つぶしに付き合うことも吝かではない。カスティグリアがその盤で楽しんだとしても問題あるまいて。

 

 そんな事を考えながら、ちょっとナルシズムに浸り、上フタの開けられた樽の淵に止まっているプリシラの頭を軽く撫でていると、ベッドの準備をしていたシエスタに腕をつかまれ、「もうお休みしましょうね」と言われ、強制的に着替えさせられ、ベッドの中へと押し込まれた。解せぬ……

 

 

 

 

 

 

 




 いかがでしたでしょうか。今回はラグドリアン湖に着いてからが難産でした。ええ、なぜか最近思考が中々まとまらず、脳みそスカスカ状態なので手抜き感が否めません><;

 何かギーシュやマルコ、クラウスなんかが出てくる話の方がノリノリで書ける気がしてきたのに彼らの出番が中々ないという;;

 こんな状態ですので、あまり期待はできないかもしれませんが、続けてきたのであえて言わせていただきましょう。



次回もおたのしみにー!

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