ゼロの使い魔で割りとハードモード   作:しうか

30 / 52
おお、なんとか日曜日に間に合いましたね。
それではどうぞー!


29 タルブ村

 起きてみるとすでに体調は良くなってきているようだ。シュヴァリエ受勲から何日経ったのかわからないが、まだ手を出せる時間帯であれば介入するべきだろう。サイドテーブルにある杖を手にとって、天蓋からかかるカーテンを開け、

 

 「シエスタ?」

 

 と、シエスタを呼んでみると、シエスタは輝くような笑顔でこちらに来た。

 

 「クロア様。おはようございます。体調は良さそうですね。」

 

 という挨拶と共に色々聞いてみると、まだシュヴァリエを受勲した翌日の昼ごろだった。本来は今日も安静にしていなければならないのだが、モンモランシーとクラウスが同行する予定になっているので今回は特別にタルブ村へ行けるらしい。

 

 着替えを手伝ってもらい、体を拭いて、髪を梳かしてもらって椅子に座るとシエスタが紅茶を入れてくれた。ふむ。やはりこの紅茶は落ち着く。

 

 「それではモンモランシー様にお伝えしてきます。」

 

 と言ってシエスタは退室した。昼ごろということはギーシュたちは今頃ラ・ロシェールへ向う途中だろうか。ふむ。距離的に近いようならプリシラが捕捉できるかもしれない。プリシラに頼んでギーシュの居場所を探してもらうと、10分ほどで捕捉した。やはり馬に乗って移動中だそうだ。隣にはルイズ嬢の使い魔(サイト)が同じく馬に乗っており、グリフォンには灰色のおじさん(多分ワルド子爵)に抱えられたルイズ嬢もいるらしい。

 

 一応シルフィードの位置を確認してもらうと、5分ほどで捕捉してくれ、二人を追うコースに乗っているそうだ。順調に原作通り進行しているようで何よりだ。ギーシュが加入できるか少々心配だったが、その辺りの問題がなく、あとはタバサ嬢の風韻竜が無事合流すれば問題はなくなるだろう。あちらはすでに幸運を祈りつつラ・ロシェールでフォローできるかどうかということくらいしかない。プリシラにお礼を言って今日はタルブ村へ行くかもしれないと彼女に伝えると、興味を持ったらしく、今日は一緒に過ごすそうだ。

 

 そしてしばらくすると、シエスタに連れられてモンモランシーとクラウスがやってきた。すでに荷造りや準備も終わっているそうで、俺とモンモランシー、シエスタそしてプリシラに加え、クラウスも同行するようだ。

 

 「基地の説明も必要だろうし、兄さんがビックリするような物もあるんだよ。」

 

 クラウスに笑顔で告げられたが、基地の説明はわかる。わかるのだが、ビックリするような物はアレしか思い浮かばない。できればアレに関してはそっとしておいて欲しかったし、絶対にビックリしたくない。百歩譲って見つかっていたとしても断固として絶対にビックリするようなことになっていて欲しくない。

 

 「そ、そうか。うむ。た、たたた楽しみにしているよ。」

 

 そう言うのが精一杯だった。クラウスは不思議そうに首をかしげているが、俺の気持ちは到底わかるまいて。

 そして俺達と荷物をそれぞれ載せた6匹の風竜がタルブ村目指して飛び立った。そう言えば昼間はまぶしくて風竜からの景色を堪能したことがない。プリシラを呼んで肩に止まってもらい視界共有で景色を眺めながら飛ぶ。

 

 「クロア坊ちゃん。ずいぶんとかわいらしい使い魔を召喚しましたね。」

 

 そう話しかけるのはいつも俺を乗せてくれるアグレッサー隊の隊長だ。名前はかなり昔に聞きそびれた。今さら聞くのは色々とハードルが高いので隊長とか隊長さんと呼んでいる。

 

 トリステインの空では負けなしという公言をしてしまうだけあってアグレッサーの錬度はかなり高いようだ。プリシラに左右後方を見て貰うとキレイなデルタ編隊を組んでいる。本来一番機で先頭を飛ぶであろう隊長機は恐らく俺を乗せているため四番機の位置、ダイヤモンド編隊の一番後ろ、ひし形の一番後ろと言った方が良いだろうか。その位置におり、五番、六番が左右を固めている。展示飛行というわけではないので間隔は広めだが、その広い間隔もよく訓練されているようで一定距離を保ち続けている。

 

 しかし、かわいらしい使い魔か。うん。確かにかわいい。全くもって異論が見当たらない。

 

 「うむ。そうであろう? プリシラという名前を付けたのだがね。なんと言うか、プリシラ以上の使い魔は望めないというほどかわいいのだよ。彼女が飛んでいるところをあまり見たことはないが、恐らくこの世界のどの生物よりも速いぞ?」

 

 少し照れつつもつがいバカ? っぷりを発揮してしまった。いや、全く後悔はしていないが。

 

 「はっはっは。確かにクロア坊ちゃんがそこまで言うのだから違いないでしょう。しかしルーシアお嬢様といいカスティグリアの貴族は総じて使い魔に惚れ込みますなぁ。私の使い魔はコイツなんですがね? それはもう私も一目惚れでしたよ。」

 

 おお、カスティグリア貴族は皆総じて使い魔に惚れ込むのか。それならば問題あるまいて。しかし風竜隊でも風竜を使い魔として引いたのは恐らく珍しいだろう。俺が入学したときには誰も竜種を引いた者はいなかったはずだし、同じ学年でもタバサ嬢だけだ。

 

 「ああ、毎度お世話になっているが確かにこの風竜はすばらしいな。離陸から着陸までほとんど揺れがないのは風を読む能力がすばらしいからか? それとも風の精霊と仲が良いのかね?」

 

 「さぁ、そこまでは。ただコイツに戦闘機動をさせると他のどの竜も付いて来れませんからな。今の目標は竜のは……おっと。まぁコイツ以上の物があるってわかっただけで伸び悩んでた成長がグッと一気に伸びました。」

 

 お、おい? 今竜の羽衣って言おうとしなかったかね? もしかして調査や分解どころじゃなく飛んでるのかね!? ま、まさか……ね? 嘘だと言ってよクラウス!!!

 

 「そ、そうだな。竜用の装備も色々資料を作ったが、実戦で使えるかどうかは君達が考える事だ。むしろ君達も考案してカスティグリア総合研究所の方に提案してみたらどうだろうか。」

 

 「いやいや、坊ちゃん。一応研究所の方に提案はさせて貰ってるんですが、どうにも鞍の形状を変えるくらいしか思いつかないんですよ。何種類もの試作の補助翼をテストしたんですがね、竜との相性もありまして、研究所の竜の管轄はそれで手一杯なんですよ。」

 

 ほっほぅ。補助翼テストしてるのか。どんな結果が出てるのかちょっと興味ありますな。

 

 「ふむ。良さそうなのはあったかい?」

 

 「ええ、そりゃもうコイツにとってはまさに貴族に杖って位のものがいくつもありましたよ。ただ、重さと強度の兼ね合いが難しいらしくて大抵一日しかもたないんですよ。今は確か形状で強度を増やしつつ新素材の研究をしてるそうです。」

 

 おお、そこまで進んでるのか。さすが総合研究所。しかし、一日もてばまぁ実戦には使えるのではなかろうか。フネで大量に持っていけば良いわけだし。いや、その辺りはクラウスや父上の考える管轄だろう。

 

 「そうだな。基礎研究が全てモノを言うような世界になってきているのかもしれんな。」

 

 そんな事を話しつつ飛ぶこと一時間弱。早くもタルブ村に着いた。あ、あれ? こんなに短時間でしたっけ? 打ち合わせしてあったデモンストレーションがあったらしく、一度風竜隊は編隊を密にして花の絨毯と言って良い様な草原を低空で通過した。そして、散開し、隊長さんの竜とクラウスの乗った竜は森の中にあるぽっかりと空いた空間に着地した。ここがタルブ村の竜の発着場になっているらしい。プリシラの目を借りて見てみると、大体500m四方のかなり大きい平地になっている。その平地に隣接するようにいくつもの建物があり、風竜や火竜の飼育小屋もあるようだ。前線基地と言った高揚感が何もない空間に漂っている。

 

 「兄さん。体調はまだ大丈夫みたいだね。ここがタルブ村の空軍基地の本拠地だよ。ここから西の海側に船での補給も考えて道が続いている。あと有事の際はタルブ村の避難者を受け入れるため、ここから少し離れた村側には半地下の避難施設が作られていて、兄さんの設計方法から考え出された感じだと戦列艦の墜落にも耐えられると考えられているんだけど。あとで見てくれないかな?」

 

 クラウスにレビテーションを掛けてもらい、隊長さんにお礼を言ってから空軍基地を見学する。木造の飼育小屋にログハウスのようなメイジの待機部屋、竜の発着のための広場が50m四方くらいだと思ってた。しかし広場は目算で想定の100倍の広さがある。結構平らなのでゼロ戦なら離陸着陸ができるのではなかろうか。竜の小屋も一つじゃなくていくつも点在しているらしい。恐らく爆撃による被害を分散させるためだろう。大体2匹ひと小屋といった感じで離れた3つの小屋の中間にメイジの待機するための小屋があるそうだ。

 

 小屋自体内装は木造だが、外から見るとどう見ても簡単な防御装甲が使われている。想定していたよりもずっとカスティグリアの技術力は高いようだ。そして、海側に続く道には細いレールが敷かれている。トロッコの実用化が終わっているらしい。牽引には馬を使っているそうだ。ちゃんと行きと帰りのレールがあり、風石や食料などの物資を海から船で運び、基地までこのトロッコを使って運び入れるそうだ。

 

 タルブ村の避難所は密閉空間ではなく、いくつも柱があり、森と同化することを目的とした感じで、どこからでも入れる。屋根だけは結構いいものを使っており、それを岩のような柱が支えている。そう、ほとんど加工されておらず、ぱっと見た感じだと自然に出来た洞窟のようないでたちだった。しかし、内部には井戸もあり、トイレや長椅子、そしてけが人用だろうか、ベッドもいくつかあった。コレならば蒸し焼きになることもあるまいて。暑そうだが。

 

 しかし、さすがファンタジーと言わざるを得ない。作ってから偽装ではなく、偽装目的で必要な場所を魔法で作って行ったのだろうか。木の生えた地面をそのまま持ち上げたようにしか見えない。実際木の根が結構むき出しになっている箇所もある。

 

 「兄さん。満足してもらえたかな?」

 

 「いやいや、やりすぎではないかね? まさかここまでの物とは思わなかったよ。」

 

 クラウスが嬉しそうに尋ねてきたので、実際思った事を口にした。そして、俺は一つ前世であったものを思い出してしまった。そう、フランスのマジノ線である。大金を掛けて最強の防御要塞を作ったのだが、普通に回避されて別のところから侵攻されたというアレである。ここまでやりすぎていると、ぶっちゃけアルビオンは回避するのではなかろうか。俺なら普通に風石を大量に積んでトリスタニアを直撃すると思う。

 

 ふむ。航続距離に問題が出るのだろうか。原作では確かに王家を打倒し、新政権となった神聖アルビオン共和国は奇襲でトリステインの王軍の艦隊を撃滅し、ラ・ロシェールに砲撃を加えつつ、タルブ村に前線基地を作るべく侵攻した。しかし、トリスタニアやトリステインの軍備を見る限り、空戦のできる部隊は王軍でもグリフォン隊を始めとした近衛隊くらいではなかろうか。しかし、竜騎士の部隊もいるのだろうか。アルビオンへの逆侵攻を行ったとき、若いメイジの乗る竜がサイトのゼロ戦の盾になるべく飛んだのも覚えている。

 

 トリスタニアの防空能力がどの程度あるのかはわからないが、直撃が無理と判断したのか? 確かにトリスタニアを抑えたところでアンリエッタ姫を始めとした要人や近衛隊が早々にトリスタニアを放棄してゲルマニア方面のヴァリエールにでも逃げられたら面倒くさいかもしれない。それならばラ・ロシェール、タルブ村に前線基地を置いて補給線を維持しつつ侵攻してもあまり変わらないだろう。

 

 ああ、一応親善訪問として出てきたから艦隊の数を抑えたのか? なるほど、ということは基本的に橋頭保を築いてくると考えていいだろう。となると、艦隊を置きやすく、最も近いラ・ロシェール、そしてラ・ロシェールからも程近い南に位置するタルブ村、逆に北に位置するカスティグリア方面の中間地点も考えられるか? とりあえずラ・ロシェールを抑えようとするのは確かなはずだ。あそこならタルブ村からでも捕捉できるだろう。そして北に行くようならタルブ村とカスティグリアから艦隊を出せばよい。マジノ線のような悲劇は起こりづらいと考えてよいかもしれない。空軍基地でよかった。

 

 ふむ。と、なるとアルビオンからトリステインを攻略する場合、まず橋頭保は必ず必要になると考えて良いだろう。風石が切れるとフネが浮かないのもあるが、トリステイン直撃のための兵力、そこまでの道のりを制圧する兵力が足りない。制空権を重視しているカスティグリアとしては一度陸に上がってしまったアルビオンはそれほど脅威ではないだろう。ただ、一つの懸念はカスティグリアを直撃してくることかもしれない。あそこは現在風石が出る。あそこに橋頭保を築かれるとアルビオンから運んでくる物は食料や人員だけ……。なるほど、カスティグリアも守らなければならないのか。

 

 「クラウス、カスティグリアの防御は大丈夫かい? タルブがここまでの物になっているともしかしたらカスティグリアかトリスタニアを目指すかもしれない。」

 

 「ふむ。カスティグリアは防衛力も戦力もここ以上だからね。アルビオンが橋頭保を築くとしたら来る時にデモンストレーションした平原かラ・ロシェールじゃないかな。他に艦隊を下ろせるところは海とここくらいしかないよ。」

 

 ふむ。なんとなく問題はなさそうにみえる。とりあえず風竜隊のところへ戻りシエスタの家の近くまで送ってもらった。少し開けた広場にアグレッサーの残りの4匹の竜が打たれた杭に繋がれている。そこが臨時に作られた竜の居場所になるらしい。そしてその近くに大きいテントが張られ、その周りをロープで囲っている。

 

 ロープの周りにはこの村の子供と思わしき平民が数人いて、俺とクラウスを運ぶ二匹の竜が降りると歓声が上がった。

 

 「何度か来てるんですがね。やはりまだ珍しいみたいです。」

 

 そう言いながら隊長さんに竜から降ろしてもらった。タルブ村にいる間はここにいるらしい。お礼を言って初めて訪れるシエスタの家に案内された。弟の方が詳しいというのはその、いや、いまさらか。プリシラは周りを見てくると言って飛び立った。

 

 クラウスに連れられてシエスタの生家を訪れるとシエスタのご家族が家の前で迎えてくれたが早々に中に案内された。日本式だと思ったが意外とハルケギニア式だった。テーブルに案内され、椅子に座った。テーブルは八人掛けの大きなもので、恐らくシエスタの家族全員が座れるように大きい物にしているのだろう。俺の両隣にはモンモランシーとシエスタ、モンモランシーの逆隣にクラウス、対面はシエスタの両親と村長殿。そして恐らく兄弟の長男だろうシエスタよりも背の低い男の子が座っている。少し親近感が沸いた。

 

 全員椅子に座ったところでシエスタにご家族とタルブ村の村長を紹介された。村長殿は貴族が来るので挨拶に来たそうだ。風竜が来る度に足を運んでいるのだろうか。いや、風竜が来ると子供たちが騒ぐだろうし、わかりやすくていいのかもしれない。

 

 シエスタの両親にシエスタの兄弟が7名。ぶっちゃけ名前は覚えてない。嬉しそうに紹介するシエスタをチラチラ見つつ隣に座るモンモランシーのヒーリングを貰っている状況だ。よく考えたらコレはモンモランシーとの婚約式のときの焼き直しかもしれない。シエスタは8人兄弟の長女のようで、こちらの紹介はクラウスがした。と、言ってもクラウスとシエスタの父親は少し交流があったようだ。

 

 クラウスから一言挨拶が欲しいと言われたがぶっちゃけ何を言っていいのかわからない。こういうのは大抵クラウスに任せていたのが仇になったかもしれん。しかし、ここはシエスタを迎える身。シエスタに恥をかかせるわけにはゆくまいて。

 

 「シエスタのご家族殿。シエスタを介助兼側室候補に迎えることになったクロアだ。こちらは先に紹介のあった俺を婿として迎える予定のモンモランシー。双方の地位に差はあるが、シエスタは俺にとって欠かせない人間になっている。今後もご家族殿に配慮はするつもりだ。そうだな、シエスタを通して何かあったら言ってくるといい。」

 

 シエスタの母親と兄弟たちはニコニコ笑うシエスタをキラキラした目で見ているが、シエスタの父親は何か俺を睨んでいる気がしてならない。顔は確かに笑顔で固定されているのだが、目が完全に笑っていない。ううむ。何か懸念があるのだろうか。

 

 「な、なにかあったら言っていいとおっしゃいましたが、本当に何でも言っていいんで?」

 

 ふむ。平民が貴族に意見するのはかなりの覚悟が必要なはずだ。サイトのように全く知らない場合や、軍隊などは除外するとして、このような場では下手すると命懸けで意見を言おうとしていると思ってもあまり間違いはないかもしれん。それならばこの笑っていない目も納得できる。

 

 「ふむ。そうだな。クラウスやモンモランシーに対しては問題になるが、俺に対してだけなら構わんぞ。」

 

 そう貴族らしく不遜に言うと、父親は眼力を上げ、顔が無表情になった。

 

 「では無礼を承知して一つだけ。シエスタを泣かせるようなことがあらば命を賭してでもお命頂戴いたす。」

 

 ふむ。すばらしい覚悟と愛情だ。シエスタの兄弟はあと七人もいるというのに、その七人と妻を路頭に迷わせることをいとわないのかね? チラッとシエスタを見ると顔を青ざめさせている。シエスタにテーブルの下でツンツンしてこっちを向かせてから小声で「大丈夫だから」と言うと、ちょっとだけ笑顔を見せた。

 

 しかし、命を頂戴されるのか。覚悟は立派だが命を頂戴されるのはいただけない。ううむ。まぁ相手はシエスタの父親とは言え平民だし、あまり考える事もないだろう。後でシエスタ特性ヨシェナヴェを頂けるだろうし、正直に行こう。

 

 「ふむ。平民にしては覚悟のある良い恫喝だ。俺の見た目はこんなだし、確かに虚弱で病弱だし長生きが出来るとも思ってない。しかし、早々簡単にこの命を獲れると思われても困るのだよ。俺が知っているだけでも俺は過去二回シエスタを泣かせている。これからも泣かせることがあるかもしれん。だがね。相手が平民だろうがメイジだろうが貴族だろうが国だろうが、モンモランシーとシエスタ、そしてカスティグリアの名を持つ者以外には早々簡単に俺の命を獲らせはせんよ?」

 

 そう嗤いながら告げると、シエスタの父親殿は歯を食いしばり、シエスタの兄弟達は信じられないという顔をした。母親殿はニコニコ笑っているが……、肝っ玉かあちゃんなのだろうか。

 

 「そうだな、こちらからも一つ宣誓しておこう。聞いたことはあるかい? そう貴族の誓いだよ。俺は過去一度破棄したことがあるのであまり信じられたものではないかもしれんがね? シエスタは俺が生きている限り誰にも渡さん。相手が王だろうがエルフだろうがシエスタの父親であろうが誰にも渡さん。そして誰であろうとも、例えシエスタ本人だとしても、シエスタのご家族だとしてもシエスタを傷つけることは許さん。シエスタを傷つけていいのは俺だけだ。理解したかね? シエスタの父親殿。」

 

 シエスタの父親は呆気に取られ混乱し始めた。ビビってる感じは無いのだが、どうしていいのかわからないのだろう。そしてその父親に肝っ玉かあちゃんのゲンコツが落ち、シエスタの兄弟たちが痛そうに目を背けた。……シエスタの母親に簡単に命を獲られそうで少し怖い。

 

 「ふふっ、小さいかわいい貴族様だと思ったら他のどの貴族様よりも欲張りなんですね。」

 

 「ああ、そうだとも。母親殿。この小さい身なりが示す通り子供なのさ。一度手にしたら絶対に誰にも渡したくないのだよ。」

 

 シエスタの母親が言う通り俺は欲張りなのだろう。モンモランシーだけでさえ考えられないほどの俺の人生には望み得ることのできない幸せだろう。それなのにシエスタを側室候補に迎え、俺の大切なもの、守りたいものはどんどんと増えている。カスティグリアにモンモランシにタルブ村、そしてそれらを含むトリステインと許容量のオーバーっぷりが半端ない。

 

 母親殿には全てお見通しなのかもしれない。伊達に子供八人も育ててないと言ったところだろうか。俺は早々に白旗を揚げ、素直に認め一度肩をすくめた。

 

 「そして、イタズラ好きなんですね? 平民に対し、勿体無い宣誓。ありあがたく受け取らせていただきます。シエスタをよろしくお願いします。」

 

 母親殿はシエスタに教わったのだろう。一度立ってぎこちないカーテシーを丁寧に行いつつ頭を下げた。そしてそれに合わせキョロキョロしていた兄弟たちがそっと頭を下げた。そしてようやく父親殿が気付いたようで、真面目な顔でテーブルに頭をつけるようにして頭を下げた。

 

 「ああ、了承したとも。」

 

 そう告げると、お互いの挨拶が終わったようで、村長殿は自宅へ帰った。そして、お待ちかねのヨシェナヴェをいただいた。今回のヨシェナヴェはシエスタが兄弟たちと一緒に作ったらしい。ふむ。これはこれで味があって悪くない。というかやはり本場のヨシェナヴェ、少々味が違う気がする。なんというか懐かしい味とでも言うのだろうか。モグモグ。

 

 「あなた、やはり本場のヨシェナヴェは少し違うみたいね。」

 

 「うむ。さすがは本場。はるばる来た甲斐があるな。」モグモグ。

 

 「そ、そうですか? そう言っていただけてよかったです。」

 

 ううむ。この前の海鮮ヨシェナヴェは確かに豪華で濃厚なカニの味が記憶に残るほどすばらしかった。しかし、今回のヨシェナヴェも中々……。なんというか濃厚な野菜の旨味と……

 

 「ああ、なるほど、鳥の助骨か。」

 

 そうポロッとこぼすと場の空気が一瞬止まった。

 

 「あ、あの。クロア様。もしかして骨が入ってましたか?」

 

 「いや、全くそんな事はないとも。あまりにおいしいダシだったのでね。少々考えてみてつい口に出てしまったようだ。うむ。大変すばらしい味だとも。機会があればいつでも、ぜひとも食べたい味だ。」

 

 「そうね。確かにすばらしい味だわ。何度でも食べたい味ね。」

 

 「そ、そうですか? その、よろしければそちらでもお作りしますね。」

 

 「うむ。ぜひ頼む」と、言うと、止まった空気が和んだ。確かに見ようによっては鶏ガラは捨てる部位に見えるし、貴族に出すものには間違っても思えないだろう。しかし、コレが存在しているのに食べられないのは悔いが残るだろう。この世界に来て鶏ガラスープは初めてかもしれない。さすが佐々木氏。すばらしいものを残してくれたものだ。モグモグ。

 

 ちなみにまだ夕食にはかなり早い時間帯なので食べているのは俺とモンモランシーだけでクラウスは父親殿とシエスタの支度金の話をしている。まぁシエスタの仕送りの前払いみたいなものだからな。あまり問題はあるまいて。

 

 「い、一万エキュー!? でででですか!? 支度金が!? 平民ですよ?」

 

 「はい、兄がそのようにしたいと申して用意したのですが、どのように受け取られますか? こちらとしては一括でも書面でも分割でも構いませんが……。」

 

 ふむ。父親殿は先ほどは命懸けの意見をしたというのにビックリしてますな。肝っ玉かあちゃんのはずの母親殿も驚愕で目を丸くしている。兄弟達はよくわかっていないようだ。ふむ。一応間違いは訂正しておこう。

 

 「いや、クラウス。それは少々違う。その一万エキューの中のほとんどはシエスタがこれからご家族に仕送りしていたであろう金額だ。シエスタのご両親。まぁそういうことだからあまり気にすることでもあるまいて。」モグモグ。

 

 やはりおいしい。問題はこのどうしても残ってしまうであろうスープをどうするかだ。いつもならば気合で最後までスプーンですくうのだが、今使っているスプーンはシエスタの家で用意されたもの。つまり木製で分厚いのである。最後の方はどうしても食器を傾ける必要が出てくるであろうし、それでも残ってしまう気がする。食器に口をつけるのは貴族としてあるまじき行為。

 

 こ、これはどうしたら……。ぶっちゃけ一万エキューの受け取り方なんぞよりこちらの方がよほど重大な問題であろう。そして残された時間は少ない。このペースを崩すことなく食べ進めると、具はあと2度ほどでなくなるし、スープだけをひたすら飲むことになったとして果たしていつまでもつものだろうか……。モグモグ。

 

 チラッとモンモランシーの方を見ると、残ったスープはパンにひたして食べている。俺の分は基本的に最初からパンが投入されているためそのような手段を取ることができない。ううむ。しかしここで残すというのはだな……。

 

 と、モンモランシーをチラチラ見つつカツカツとスープをすくっていると、モンモランシーがこちらに気付いて

 

 「あなた、おいしくてパンをいただきすぎてしまったみたい。良かったら食べていただけないかしら。」

 

 と言ってスープに追加のパンを入れてくれた。おお、ナイスアシスト! 「ありがとう、モンモランシー。」と言ってパンで出来るだけスープを回収して無事スープの攻略に成功した。いや、残しても問題はないのだが、このスープを残すと後々後悔が残りそうだったのだよ。それに気付いたモンモランシーはやはり俺の奇跡の宝石。

 

 支度金の受け取り方は結局二千エキューを即金で、あとの八千は毎年千ずつタルブ村に置かれている空軍基地経由で送られることになったそうだ。ご両親は200ずつくらいが良いと言っていたのだが、それだと50年かかりますからな。クラウスもさすがにそれはめんどくさかったらしく、家族にしか開けられない貯金箱が送られることになった。お金で問題が起きるようなら空軍経由でカスティグリアに知らせてくれれば対処するらしい。

 

 シエスタは折角の帰郷なので親子水入らず、シエスタの生家に泊まることになっている。俺とモンモランシー、クラウスは空軍基地の方に泊まる事になっている。アグレッサーも同じように空軍基地にベッドが用意されたらしいのだが、彼らはなんか独自のローテーションがあるそうで、常に夜も竜の近くにおり、誰かしら起きているそうだ。

 

 「いや、休む時は休んだ方が効率が良いのでは?」と隊長さんに言ったのだが、完全にフリーな日も作ってあるので安心してくださいと返された。しかし、何か職業病になっているらしく、あまり長い時間竜から離れていると不安になり、自然と集まって竜の近くでレクリエーションしていたり、昼寝をしていたりするのが基本らしい。

 

 お、恐ろしい。アグレッサーはなんて恐ろしい部隊なのだ。そのうち「コレは俺の竜。俺がいなければ役立たず。この竜がいなければ俺も役立たず。」とか言い出しそうで怖い。いや、むしろ最高を目指すと自然にそうなるのだろうか。ふむ。俺も杖に名前をつけて磨くべきかもしれない。いや、よく考えたらすでに俺はプリシラのつがいだった。そう、彼らを越えていたのである。

 

 そしてタルブ村滞在一日目、日は落ち、クラウスとモンモランシーは基地の歓迎会に招かれて出かけた。俺は「ちょっと明日も体調を崩したくないから」とか言ってベッドに横になっり、歓迎会はパスさせてもらった。

 

 

 

 

 

 

 




 タルブ村やシエスタのご両親や兄弟や生家に関する描写は原作に断片的に書かれているものを拾い集めたのですが、どこにどんなことが書かれていたかほとんど覚えていなかったため回収不足かもしれません。一応回収できたものをこの作品にすり合わせてみました。

 次回、文字数によりますが、多分ゼロ戦出てきます><b

 ついでにちょっとアナウンス。火曜日から予定が入りまして。その辺りから更新が開く可能性があります。ご容赦ください><;


次回おたのしみにー!



▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。