ゼロの使い魔で割りとハードモード   作:しうか

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書いて何度も確認しましたが、まだまだ誤字や抜け、継接ぎのアラがありそうです。
 それではどうぞー!


28 シュヴァリエ叙勲

 ふむ。ルイズ嬢とサイトに何かアドバイスをするために呼んだのだが、アドバイスの内容も切り出し方も思いつかない。シュヴァリエの件をルイズ嬢とサイトに説明して謝ることはまず口実として用意したが、サイトにどのような助言を与えるか全く考えてなかった。ルイズ嬢とサイトが接近するような助言はダメだろう。クラウスの計画があるのかわからないがもしあった場合困りそうだ。と、なるとワルド子爵対策だろうか。警戒ではなく、風メイジとの戦闘方法、接近戦も含めた戦闘方法に関する助言が良さそうだ。しかし、ぶっちゃけ俺自身風メイジと戦ったことがない。

 

 おあつらえ向きに明日はミスタ・ギトーの授業があり、彼の授業を最後まで、いやユビキタスを使うまで真剣に受けることが出来れば助言の必要もないのだが、彼は使い魔だ。授業自体に興味を持つのはコッパゲ先生の授業くらいなものだろう。

 

 しばらくするとシエスタが先に戻って「いらっしゃるようです」と笑顔で俺に紅茶のおかわりを注いだあと、追加で紅茶の準備を始めた。

 

 「あなた、来たわよ。ルイズとサイト、入れていいわね?」

 

 モンモランシーが少し硬い声で確認を取ってからルイズとサイトを部屋に入れる。モンモランシーはルイズに俺の対面の席を勧めてから隣に座るが、どうも表情が晴れないようだ。ふむ。そういえば呼んだ理由を言っていなかった気がする。問題があると思っているのだろうか。ルイズ嬢もサイトも固い表情をしている気がする。

 

 「ルイズ嬢。急に呼び出してすまない。使い魔君。今日は君も席についてくれたまえよ。」

 

 対外的にこちらの扱いを示すため、平民や使い魔と言っているが今回はこちらが謝ることから始まるのだ。席について貰っても特に違和感があるとは思えない。

 

 「ミスタ・クロア。お招きいただきありがとうございます。サイト、貴族としてこう言ってくださる方は珍しいのよ。今回は座りなさい。」

 

 「あ、ああ、えっと失礼します。」

 

 ルイズ嬢は挨拶の時に可憐なカーテシーをして自分の椅子を引かせて座ってからサイトにも座るよう言った。貴族への対応に関する教育は順調に進んでいるように見える。

 

 「ああ、紅茶でも飲んで気楽に接してくれるとありがたい。本日来ていただいたのはね。口頭になってしまうが謝罪をしようと思ってね。本来ならこちらから出向くものだということは重々承知している。しかし、今部屋から出る事は認められていなくてね。」

 

 「謝罪、ですか?」

 

 ルイズ嬢が意外な単語が出たかのように問い返し、サイトも何のことかわからないような顔をしている。とりあえずサイトは言葉を発する事はなく、全て会話はルイズ嬢に任せることにしたようだ。そして、困惑は一瞬で終わらせ、すでに気にせず笑顔で紅茶を飲んでいる。すばらしい対応力かもしれない。

 

 「ああ、先日フーケの捕縛をしたときにお詫びも込めて君達に確かに手柄を全て譲っただろう? しかし、君達が受け入れられないと言ったため、俺にもシュヴァリエの推薦をすることでそのことは落ち着いたとオールドオスマンから聞いたのだが、間違いないだろうか。」

 

 こちらもサイトに負けじと紅茶に口をつけながらルイズ嬢に問いかけると、

 

 「ああ、あの時の……。間違いありませんわ。ミスタ・クロアのお気持ちは嬉しいですが、譲られてそのまま受け入れられることではありませんでしたから。」

 

 そう、楚々とルイズ嬢が確認の言葉を発すると、サイトが小声で「使い魔の手柄は譲られるのが当然なのにな。」とボソっとつぶやいた。そして、その瞬間ルイズ嬢の拳がサイトの頬にめり込む。き、聞こえなかった。うん、何も起こらなかったことにしておこう。

 

 「うむ。君達のその気持ちはとても嬉しかったのだがね。ただ一つだけ問題が起きてしまったのだよ。そう、シュヴァリエ受勲のための規定が変わってしまったようでね。“軍役に就く”ことが一つの条件になってしまってね。しかも、間の悪いことに“軍役に就くのが困難と正式に認められた場合はこれを除く”という文言も追加されたらしい。

 つまるところ、とても言葉に出しにくいのだが、その、ルイズ嬢とその使い魔のサイト殿に手柄を譲ったというのにだね。どうやら俺だけが受勲するという事態になってしまったのだよ。そのことについて是非とも謝罪しようと思ってだね……。」

 

 そう、理由と告げたあと、やはりちょっと言いづらくて謝罪を口にしようとしたところで失速してしまった。

 

 「まぁ、ミスタ・クロア、おめでとうございます。しかしそのような謝罪は必要はありません。私もサイトもあの時は命を救われたと思いましたもの。」

 

 少しうつむいていたのだが、ルイズ嬢の言葉に顔を上げると彼女は言葉通りに思っているようで輝くような笑顔で許してくれたようだ。サイトの方も見てみると、彼はウンウンと頷いている。か、かわいいかもしれない。使い魔君! はっ、やはり俺はチョロいのかもしれない。気をつけよう。

 

 「ふぅ、そうか。そう言ってくれるのであればこちらとしてもありがたい。しかし、使い魔君への埋め合わせがなくなってしまったな。

 ふむ。そうだな。もし何か良いものを思いついたらその時に何か良いものを贈るとしよう。その時を楽しみにしていてくれたまえよ。」

 

 そういうと、サイトは「おう! ありがとうな!」と笑顔で元気良く返事した。そういえば本題の話に繋げるのが少々難しい気がしてきた。いや、何とかつなげよう。

 

 「そういえば、使い魔君。こちらの世界の生活には慣れてきたかね?」

 

 紅茶を飲みつつ世間話でもするようにサイトに話を振ると、

 

 「おお、本当にあの話信じてくれてるんだな! あー、そうだな。慣れてきたといえば慣れてきたのかな? ただイマイチ使い魔って言われても実感沸かないんだよなー。」

 

 と、サイトは一度喜んだあと困ったように話した。ふむ。確かに「やったね! 君は今日から私の使い魔だよ!」って言われただけでは何をしていいのかわからない。実際俺の使い魔であるプリシラは基本的にフリーだし、サイトのようにずっと拘束された生活環境というのも珍しいだろう。いや、自由時間くらいはあるだろうけど。

 

 「確かにそうかもしれないね。人間の使い魔を召喚したのはこの学院でもルイズ嬢が初めてである可能性が高い。前例が無いためルイズ嬢に限らず君の扱いに関しては難しいのだよ。その辺りは君も含めて全員で手探りで探っていくしかあるまいて。

 しかし、ルイズ嬢が使い魔に何をどの程度求めるかによるが、以前見た君の身体能力を生かすことを考えたら、公爵家の三女殿の護衛として雇用されたと思えば良いのではないだろうか。それなら、ルイズ嬢の許可があればだが、将来君が自分の生活を過ごすことも自分の家族を持つ事も出来るかもしれないね。」

 

 そう、紅茶を口にしつつサイトにワルド子爵対策の助言をどう与えるか考えていると、

 

 「ああ、なるほど。でも給料出ねぇんだよなー。」

 

 「ちょっ、アンタ何言ってるのよ。使い魔は本来給料なんて貰わないわよ!」

 

 と言い合いを始めてしまった。ふむ。確かに給金なしはきついのかもしれない。いや、使うところあるのだろうか。とりあえず俺には今のところ存在しない。

 

 「うーん、ルイズ、お小遣いくらいあげたら?」

 

 モンモランシーも少し提案してみるが、「この剣買ってあげたじゃない!」とデルフリンガーを差してルイズ嬢も譲らない。確かにその剣にかかった百エキューや以前の決闘の治療費の半分も彼女が負担していた。給料として考えれば少なくとも一年分先払いしているようなものだろう。

 

 「ふむ。フーケ捕縛のときにもチラッと見たが中々の業物のようだね。よろしければ抜いてテーブルに置いてくれないだろうか。ぜひよく見てみたいと思っていたのだよ。」

 

 そういうと、「おお、いいぜ! デルフもいいよな?」と言ってデルフリンガーをテーブルに抜き身で置いてくれた。するとデルフリンガーはガチガチと鍔を鳴らしながら話し始めた。

 

 「おうおう、俺はデルフリンガー様だ! そこのチビ貴族! 業物とは見る目があるな!」

 

 ふむ。チビ貴族とは……、やはり駄剣なのかもしれない。デルフリンガーは片刃で全長150cmほどと、結構長い上にかなり分厚く見える。しかし、俺の方が少し全長は長いはずだ。いや、同じくらいか!? う、うむ。まさか学院最小のタバサ嬢でもあるまいし、俺が駄剣ごときに全長で遅れを取ることはあるまいて。

 

 しかし、こうして見るとかなりでかい。ぶっちゃけかなり重そうだ。しかも、コレは駄剣かもしれないが主人公の持つ特別な剣。個人的に錆びていても頑丈な剣というのはこの隠されているはずの中二病を大変刺激する逸品だ。ここは是非とも試さねばなるまいて。

 

 席を立つとデルフリンガーに手を伸ばし、柄を握って持ち上げようとしたのだが、ピクリとも動かない。両手で持ち上げようとしても柄の部分は浮くが持ち上げられない。しょうがないので刀身の峰の部分と柄の部分を持って持ち上げると何とか少し浮いた。

 

 お、重い。思った以上に重い。テーブルに戻してぜぇぜぇ言いながら鍔についているデルフの口の部分の構造を見ているとデルフリンガーがしゃべり始めた。

 

 「あっはははは! 兄ちゃん、どんだけ非力なんだ? このデルフリンガー様を持ち上げることもできないヤツなんて初めて見たぜ!」

 

 くっ、な、なんという駄剣! これはもはや決闘を申し込まれているのではなかろうか。よろしい、相手が伝説のインテリジェンスソードだろうが構うまい。カスティグリア貴族の意地、お見せしようではないか。

 

 「サイト、ちょっとこの剣の柄を握ってくれ。ああ、端の方でいい。」

 

 そう言うと、サイトは疑問を浮かべながらもデルフリンガーの柄を握った。そしてその後、俺は無言のまま杖を抜き、射線上に誰も被らないよう、杖先を剣の刃に突き付け、ブレイドの詠唱をささっと済ませる。

 

 「え? あ……。お、おい、ちょっ、ちょっと何?」

 

 「この駄剣! なんてこと言ってるのよ!?」

 

 サイトの焦る声とルイズ嬢の怒ったような声が聞こえるが気にしない。うまく行けば八つ当たりをしつつデルフリンガーを目覚めさせることが出来るかもしれない。そして、ブレイドを発動させると杖の先からブレイドが伸び始め、デルフリンガーの刃に当るとバリバリと轟音が起こり始め、剣が発光し始めた。

 

 「ちょ、止めて! 溶ける溶ける溶ける! あ、相棒!」

 

 「いやいやいやいや、クロア様。ど、どうかお怒りをですね。コイツには後できびしーく言いつけて置きますのでどうか!」

 

 ふむ。本当に溶けるのだろうか。確か固定化がかかっているという噂があった気がするのだが、気のせいだったのかもしれない。サイトもなんだかんだ言いつつ柄を握っており、少しルーンの光が増えた。そして数秒もすると突然デルフリンガー自身が光を放ち始め、錆が全て落ち、丁寧に研がれたばかりのようなキレイな刀身を現した。そしてブレイドの反発が無くなり、デルフリンガーの刀身へと徐々に吸い込まれる。

 

 「デルフ? はい?」

 

 「お、おう。わ、忘れてた! そうコレが本当の俺の姿さ、相棒! チャチな魔法は全部俺が吸い込んでやるよ!」

 

 おお、なんか思い出したようだ。意外とキレイな刀身をしているじゃないか。しかし、チャチな魔法か。初めて言われた気がするね? うん。記憶を探ってもそのように言われたことは今まで一度も無いようだ。なるほど、ここは貴族の意地に掛けてこの駄剣を躾けねばなるまいて。

 

 「よかろう、駄剣。チャチな魔法とやらを全て吸い込んで見せてくれたまえよ?」

 

 そう言って、最少の威力に抑えていたブレイドの出力を徐々に上げ始める。

 

 「ククク、どこまで持つかね? まだ俺は半分も実力を示していないのだがね?」

 

 そう言いつつまだまだ上げ続ける。

 

 「あ? あ、ちょ、ちょっと待った、もう無理! もう砕けるから! 俺砕けちゃうからもうヤメテ! チャチじゃない! それもうチャチじゃないから!?」

 

 全力から考えて半分ほどの出力でデルフが限界を迎えてしまったようだ。ふむ。チャチじゃないなら問題なかろうて。スッとブレイドを収め、杖も収めるとデルフは器用にため息を吐いてガチガチと鍔を鳴らし続けた。

 

 「こ、こえぇ、このアンちゃんマジこえぇ!?」

 

 「お、おい、デルフ。お前大丈夫か?」

 

 サイトはピカピカになったデルフリンガーを持ち上げてデルフの刀身に恐る恐る手を触れたり、鍔の部分に話しかけたりしている。ふむ。特に溶けていたりはしないようだ。少々観察するとデルフリンガーは切っ先から柄尻までキレイになっている。俺はそれを確認したあと座って紅茶に口をつけながら周りを見回すとモンモランシーやルイズ嬢、シエスタもビックリしているようだ。

 

 「おう相棒! このアンちゃんは規格外だが、本当にチャチな魔法なら吸収できるから安心しな!」

 

 「そ、そうか。」

 

 いや、しかしこのままではただの短気な貴族として映ってしまうかもしれん。本当に上手くいくとは思っていなかったが一応釈明はしておこう。

 

 「ふむ。やはりか。インテリジェンスソードのようだったからな。大抵そのような剣には固定化を掛けたりして自然に出来る錆など浮かせるようなことはすまいて。驚かせて悪いが少々試させて貰ったのだよ。そう、断じてチビやチャチという単語に反応したわけではないが、よい結果になったようで良かったな。」

 

 「お、おう、クロア、ありがとうな?」

 

 サイトが戸惑いながらもそう言いながらデルフリンガーを鞘に収めた。結局このあと何もいい助言が思いつかず、とりあえず貴族の魔法がライバルになるだろうから授業に出てくる魔法も含めてできるだけ見て対処方法を考えておくように言っておいた。そのあとはモンモランシーとルイズ嬢が楽しそうに話をして、それを俺とサイトが聞くという感じのお茶会になり、紅茶が飲み終わる頃、解散になり、ルイズ嬢とサイトは帰った。

 

 

 

 しかし、恐らく本当の戦いはこれから始まる。そう、タルブ村へ行くという事はモンモランシをないがしろにしていると思われても仕方がない。このことはクラウスと話しているときに気付いたわけだが、なんとか自分から切り出してモンモランシーを納得させないと今後の火種になりうる。浮気をしたわけではないのだが、なんとなく原作のギーシュの気持ちがわかってしまった。もしかして俺の語彙力が試されてしまうのだろうか。

 

 ふむ。しかし、よく考えたら特に原作に関わることをせず、モンモランシに引き篭もっていてもよいのではなかろうか。水の精霊が清潔にしている湖もある。そこでキレイな魚でも探しつつ優雅に隠居するのもいいかもしれない。いやいや、ここで逃げたら後が怖い。優雅に隠居も消えるかもしれん。シエスタに紅茶のおかわりを貰いながら、少し緊張しつつも隣に座るモンモランシーに体ごと向いて話しかける。

 

 「モンモランシー、シュヴァリエの受勲が終わったら次の日までにタルブ村を訪れるつもりなのだけど、一緒に来てくれないだろうか。その、シエスタのご家族への挨拶など色々な用事があるのは確かだが、本場のヨシェナヴェを食べてみたくなってしまってね。ぜひ君も一緒に食べて欲しいのだよ。

 モンモランシを訪れる前にタルブ村を訪れるのはいかがなものかとも思ったのだが、モンモランシにはできれば長期休暇にゆっくりと訪れたいと思っているのだよ。それだとタルブ村を訪れるのが遅くなってしまうだろう? どうだろうか。」

 

 モンモランシーも少々気になっていたのだろう。少し硬い表情が残っていたのだがふっと淡雪のように解け、きれいな笑顔を見せてくれた。

 

 「あら、そうね。ええ、それなら構わないわ。シエスタのご家族への挨拶は私もしておいた方が良いものね。」

 

 と、モンモランシーは俺の顔にそっと手をあてた。ふむ。確かにそうだ。まだ少し恥ずかしいが俺も彼女の柔らかい頬にそっと手をあてる。

 

 「すまないね、モンモランシー。本来ならモンモランシを先に訪れるべきだし、常々モンモランシを訪れたいと思っていたのだよ。しかし、モンモランシは広そうだし、有名なラグドリアン湖を少ししか見れないのは惜しいしね。何より、君が生まれ育った場所だからね。ゆっくり堪能したいのだよ。」

 

 言っていてちょっと恥ずかしくなってきた。本心だから恥ずかしいのだろうか。この間ラグドリアン湖での結婚式を思いついたから恥ずかしいのだろうか。モンモランシーは顔を赤くしているが、俺も赤くなっていそうだ。

 

 「ふふっ、でも結婚したらあなたの故郷にもなるのよ? そのあとゆっくり見てもいいんじゃないかしら。」

 

 「そうだね。モンモランシー。でも、結婚前に初めて君とラグドリアン湖を見るというのはきっと特別なことじゃないかな? もしかしたら君と俺の結婚式場になるかもしれない。きっと俺にとって幸せな時間になると思うのだよ。だからゆっくりと見たいのさ。」

 

 「あなた……」と言って俺の頬に当る片方だった手が両方になり、モンモランシーがそっと目を瞑り、顔を近づける。俺もそっと目を瞑ると、

 

 「んんっ! ミス・モンモランシー。協定違反ですよ!」

 

 というシエスタの咳払いと声が響いた。その声で目を開けると、モンモランシーはハッとした表情で両手をひざの上に戻した。

 

 きょ、協定? どんな協定なんですかね? キスにも協定があったんですか!?

 

 「えっと……、ごめんなさい。シエスタ。その、わ、わざとじゃないのよ。」

 

 「ええ、解らないでもありません。私も先ほどは危ういところでしたからね。でも今日明日で終わりますから我慢してください。」

 

 「ええ、本当にごめんなさい。そうね、お互いがんばりましょう。」

 

 ふむ。どのような協定なのだろうか。今日明日で終わると言う事はシュヴァリエ絡みの可能性が高い。はっ! ま、まさかキスで体調が悪くなって復帰できない可能性を考慮されてるのか!? な、なんという管理システムだ。恐らくクラウスだろう。協定を考えたのは間違いなくクラウスだろう。クラウスの管理っぷりが半端ない。

 

 「えっと、その。もしかしてシュヴァリエのアレかな? その、えーっと……。」

 

 言い出したはいいけど言葉が続かない。謝るのも何か変に気を使わせそうだし、俺もがんばるよ! とかはおかしいだろう。よくわからないけどがんばってね! みたいなことは間違っても言えない。ううむ。

 

 「そ、そうですね。クロア様。お加減に障るといけませんから今日はもうお休みになりましょう。」

 

 「そ、そうね、シエスタ。あなた、眠るまで一緒にいてあげるから今日はもう休みましょう?」

 

 と、二人にはぐらかされたような感じで、レビテーションで強制的にベッドに輸送され、シエスタによってベッドに寝かされ、モンモランシーが俺の目を手で軽く塞ぎ彼女のスリープ・クラウドで夢の世界へ旅立たされた。解せぬ。

 

 

 

 

 

 目が覚めると万力のようなもので頭を締め付けられるようなひどい頭痛を感じた。頭痛で目を開けるのも億劫だ。熱が出てしまったのだろうかとも思ったが、発熱による四肢の痛みはあまり無い。ふむ。頭痛だけなら我慢すれば何とかなるかもしれない。薄い天蓋からかかるカーテンの先には何人かの陰があり、少し控えめな話声も聞こえる。来客だろうか。

 

 できるだけ頭痛に影響を与えないようにそっと目を半分くらい開け、もぞもぞと背もたれに寄りかかると、シエスタが天蓋のカーテンを少し開けてこちらを覗き込んだ。

 

 「皆様。クロア様が起きたようです。少々失礼します。」

 

 と、シエスタは部屋にいるであろう人物達に声をかけた後、こちらに近づいた。

 

 「クロア様。おはようございます。あまり顔色が優れませんが、体調はいかがですか?」

 

 シエスタは心配そうに俺の顔を覗き込んだあとそっとおでこに手のひらを乗せた。ああ、もしかしてシュヴァリエ受勲当日だったりするのだろうか。

 そういえばミスタ・ギトーの授業……、寝過ごしたのか。オウフ。

 

 「シエスタ、おはよう。良いとも言えないが悪くはなさそうだよ。今日はもしかしてイベントかな?」

 

 そう少し小首をかしげながら苦笑すると、シエスタが現在の状況を教えてくれた。モット伯が本日早朝に学院に入り、クラウスと合流。続けて午前中にマザリーニ枢機卿とアンリエッタ姫が近衛隊である魔法衛士隊の護衛で学院に入ったそうだ。モット伯とクラウスは俺の部屋でモンモランシーやシエスタと共に俺の起床を待っていたらしい。もう少し遅くなるようなら起こすことになっていたそうだ。

 

 しかし、このひどい頭痛を隠すことに失敗したのだろうか。シエスタの顔が晴れない。少し俺の体調に関する判断に迷っているようだ。

 

 「でも、なんか我慢してませんか? モンモランシー様もいらっしゃいますし、診て頂いた方がいいかもしれませんね。」

 

 「シエスタ。このくらいなら問題ないよ。本当さ。イベントの日とは思えない体調の良さでびっくりしていたところさ。」

 

 と、頭痛の中なんとか安心させるよう、笑顔を浮かべて彼女の不安を取り除くよう、努力する。シュヴァリエの受勲はどうでもいいが、今日明日中にはタルブ村へ行かねばならぬのだ。

 

 「さぁお客がお待ちなのだろう? 着替えを手伝ってくれたまえ。」

 

 と、言ってそそくさと服を脱ぎ出すと、ゾワッと寒気がした。意外とヤバイのかもしれない。

 

 「いえ、しばらくお待ちください。―――モンモランシー様。少々よろしいでしょうか。」

 

 シエスタに脱ぎ出した服をささっと着せられ、背もたれに預けていた体をベッドの中に戻されてしまった。そしてシエスタがモンモランシーを呼ぶとモンモランシーも天蓋の中に入りこちらへやってきた。

 

 「クロア、おはよう。起きられたみたいだけど体調悪そうね。」

 

 モンモランシーはこちらの顔を覗き込んだあと、診断をするための魔法を掛けたあとおでこ同士をくっつけた。ちょっと恥ずかしいので目を瞑るとおでこ独特の少しだけ硬い感触がする。しかもちょっと冷たくて気持ちがいい。彼女の香りに包まれて、額におでこを付けられているだけでなんだかボーっとしてきた。耳元に落ちた彼女のロールヘアも少しくすぐったいが彼女の髪に触れることはあまり無いのでちょっと嬉しい。そんなことをボーっと考えているとモンモランシーが離れてしまった。

 

 「シエスタ。これから悪くなりそうよ。終わったら桶と布の準備をして頂戴。水は私が出すわ。」

 

 そう、モンモランシーが診断すると、天蓋を出て言った。あ、し、しまった。つい強がるのを忘れて診察を受け付けてしまった。「え、あの?」とか言っても着々と準備が進んでいき、額に濡れた冷たい布が置かれ、シエスタは枕元の椅子に座り監視体制に、モンモランシーは天蓋の外でクラウスに説明しているようだ。

 

 「兄さん、モンモランシー嬢から聞いたよ? 無理しようとしたんだって?」

 

 そう言ってクラウスが天蓋の中に入ってきた。シエスタが立ち上がり座っていた椅子を勧めるとそこにクラウスがシエスタに何かを言付けてから座った。そして、シエスタは軽くカーテシーをして天蓋の外に出て行った。

 

 「兄さんが気にしているのはもしかして“明後日”のタルブ村かな?」

 

 ク、クラウス? 君は一体何を気にしているのだね? き、気のせいだよきっと。

 そっと掛け布団を口元まで引き揚げてすぐに潜れるよう、警戒態勢を取ると、クラウスは少し笑った。笑顔と言うのは本来攻撃的な―――。

 

 「きっと何か理由があるんだろうね? ああ、でも大丈夫だよ。シュヴァリエの受勲さえ無事に終えてくれて、兄さんの体調が良くなればすぐにタルブ村へ向えるよう、オールドオスマンの許可を貰ってあるから安心していいよ? 学院の外にも風竜隊が待機しているしね。」

 

 そ、そこまで大事なのか。シュヴァリエ受勲。

 

 「ただ、モンモランシー嬢の見立てだとこれから悪くなるみたいだから、安静にしていて欲しい。それと、ちょっと残念だけど、この部屋で受勲式をやる事になると思うよ。」

 

 「ど、どういうことかね? クラウス。先ほどから少々理解が追いついていないのだがね。」

 

 何とか抗議の声を上げると、「何か考えてるのはわかってるよ。でも今回は見逃してあげてもいいかな?」とでも言うようにちょっと首をかしげて笑った。

 

 「そうかい? まぁ今回はこちらも少し強引なところがあったからね。兄さんの気が楽になるのであれば協力は惜しまないさ。」

 

 おお、何か見逃してもらえるらしい。いや、別段俺のためだけというものではないから少々引っかかるものはあるが、確かに気を揉んでいるよりはいいだろう。

 

 「そうか。自慢の弟よ。すまんな。」

 

 掛け布団を少し下げて言うと、クラウスも「まぁ今回だけだと思うけどね」と苦笑いした。そして少しすると、モンモランシーが天蓋の中に戻ってきて、「いらっしゃったわ」とだけ告げてシエスタを連れて天蓋の外に出た。

 

 「兄さん、一応誓いの確認をしたいんだけど構わないかな?」

 

 「ああ、えっと、火の精霊、水の精霊、トリステイン王国に忠誠を誓いうので、良かったよな? 覚えているよ。」

 

 不安げなクラウスが「うん。じゃあ始めるよ」と、言ってクラウスが立ち上がって天蓋のカーテンを全て開けた。遠くて見えないが、紅茶を入れる準備をしているシエスタとお客さんの案内をするモンモランシーの他に、マザリーニ枢機卿とモットおじさん。あと同い年くらいの女性が一人いる。アンリエッタ姫だろうか。布団から出て着替えなくていいのだろうか。

 

 「クロア殿、あまり体調が良いようではないようですな。受勲の時はベッドから出てもらうことになるが、まずは紹介しよう。こちらにいらっしゃるのが先の王が残したトリステイン王国の誇る可憐な一輪の花、アンリエッタ姫殿下でいらっしゃる。姫殿下、こちらが今回シュヴァリエを授けるクロア・ド・カスティグリアです。」

 

 モット伯が勅使の顔で俺とアンリエッタ姫の双方を紹介した。アンリエッタ姫は一瞬いぶかしんだあと、花のような笑顔を浮かべた。アンリエッタ姫は肩口より少し長めの栗色の髪と青い瞳を持った美人だ。恐らく10人に聞いたら10人とも美人というだろう。肌も白く、体型も出るところが出ており腰はかなり細い。それを包む白いドレスが彼女を引き立たせている。

 

 例えるのであれば温室で丁寧に育てた白い百合だろうか。しかし、手紙の考察をしてしまった俺にとっては蘭のような国によっては検疫に引っかかるイメージが付き纏う。いや、蘭もキレイなのだが、少々毒々しさが否めない。人を比べるのはあまりいいとは思えないが、人によってはこの姫様に言い寄られたら恋人がいてもなびいてしまうだろう。

 

 しかし、俺にはモンモランシーという深海と上空を司る奇跡の宝石と、大地と太陽に育まれたシエスタという癒しがすでにある。―――『つがい』、そ、そう。そしてプリシラという、全てを共有してやまない俺の半身とも言えるつがいもいる。もしモンモランシーがいなかったら彼女に良いように使われてしまっていたかもしれないと思うと少々怖くなった。そして、今どこにいるのかはわからないが、あっさり思考に突っ込んでくるプリシラにも少々、いや、こっちは彼女が俺に慣れてくれたと思った方が良さそうだ。

 

 ふむ。しかしこうして比較対象が現れてみると、さらにモンモランシーの完璧さが浮き彫りになってしまうのではないだろうか。いや、むしろ彼女は完璧なのではなく完璧を追い求める事ができる素質というものを持っているのだろう。花に水をやり、生き生きと育てることは可能だ。しかし、人が汗をたらし、慎重に、長い年月を掛け磨き上げられたこの宝石には叶うまいて。誰でも最初は原石であり、磨き続ける事で輝きを増していく。モンモランシーという宝石は本人が丹念込めて磨き上げ、それでいて本来の美しさも完全に残されている。まさしくどこから見ても魅力的な表情を魅せてくれる宝石だ。

 

 しかし、百合や薔薇と言ったものは花はきれいでも見る者にとっては意外と球根や根に関しては重要視されていないのではないだろうか。育てるにあたっては重要な部分だ。しかしキレイに土の中に隠されている。シエスタのように土に隠されていてさえ、その土が魅力を引き出しているというほどの花には見えない。

 

 ふむ。やはりモンモランシーは最強の系統―――。などと考えていると、そっとモンモランシーが近くに来て顔を寄せた。

 

 「あなた、今何か考えていたみたいだけど?」

 

 「ふむ。アンリエッタ姫の美しさに関して考えていたのだがね。確かに彼女は誰が見ても美しいという感想を持つだろう。しかし、深く考えてみた結果、やはりモンモランシーを超える人はこの世界にいないのではないかという結論に至ったところなのだよ。やはり君はこの世に二つとない奇跡の宝石。ふむ。もし納得いかないようであれば詳しく―――」

 

 考察の結果を詳しく教えようとしたのだが、顔を真っ赤にしたモンモランシーに口を塞がれてしまった。最初ヤキモチのような感情が顔に出ていた気がしたのは気のせいなのだろうか。もしヤキモチなら嬉しいのだが、要らぬ誤解を払拭すべくここは詳しく説明しておくべきだと思うのだよ。

 

 「ひ、姫殿下の前で失礼よ。聞こえたらどうするのよ。そ、そうね。ちょっと聞いてみたいから今度覚えていたら教えてちょうだい。」

 

 「んんっ、兄さん。モンモランシー嬢。そろそろいいかな?」

 

 そうクラウスに呼ばれ、シュヴァリエの叙勲式が俺の部屋で始まった。簡単にマザリーニ枢機卿が受勲の理由と推薦者、そして認可した者の告げたあと、跪くよう言われたのでシエスタとモンモランシーに支えられてベッドから這い出し、彼らの前に跪いた。するとアンリエッタ姫が一歩前、俺の正面に来たので頭を伏せると俺の右肩に杖の重みが加わる。

 

 「我、トリステイン王国王女、アンリエッタ。この者に祝福と騎士たる資格を与えんとす。高潔なる魂の持ち主よ、比類なき勇を誇る者よ、並ぶものなき勲し者よ、火の精霊と水の精霊と祖国に変わらぬ忠誠を誓うか?」

 

 誓いの相手は本来始祖と我と祖国になるのだろう。モットおじさんからマザリーニ枢機卿へ、そしてアンリエッタに伝わってちゃんと改変されていた。

 

 「誓います。」

 

 「よろしい。始祖ブリミルの御名において、汝を騎士(シュヴァリエ)に叙する。」

 

 そうして、アンリエッタ姫は俺の右肩を二回叩き、次に左肩を二回叩いた。そして、モット伯が俺にシュヴァリエのマントを掛けると、両脇に手を入れて俺を立たせた。

 

 「クロア殿。おめでとう。これからもトリステインのため、共に進もうではないか。」

 

 「モットおじさん。ありがとうございます。アンリエッタ姫も、マザリーニ枢機卿もご足労をおかけして申し訳ありません。」

 

 そういうと、モットおじさんはニカッと笑って俺をモンモランシーとシエスタに預けた。そして俺はマントを外されてベッドへ逆戻り、クラウスを始め、モットおじさん、マザリーニ枢機卿、アンリエッタ姫は部屋から出て行った。これから何か会議をするらしい。

 

 「意外とあっけなかったね? モットおじさんだけで良かったんじゃないかな?」

 

 「そうね、でもあなたの体調が悪かったから略式にしてもらったのよ。本当ならもっと大きなところで生徒や先生を全員集める予定だったんですって。」

 

 お、おう。何かすごい高いハードルだったんですね。体調が悪くてよかったかもしれない。とりあえずこれ以上体調が悪くならないよう、額に濡れたタオルを乗せられ、モンモランシーのスリープ・クラウドで再び夢の世界へ旅立たされた。あ、風竜隊に伝言が……。

 

 

 

 

 

 




 うっへー。マジ頭痛い;; パブ○ンSゴールドもロキ○ニンも効かない……だと……!? 
という中で書いたのでかなり微妙かも;;
特に最後の方適当すぎかもしれません。アップするのをためらう出来だと思います。

 クロア君も私に影響されて色々なミスや手落ちがすでにいくつか確認されております(え
 風竜隊はともかくプリシラに監視依頼とかギーシュの配置とかですね^^

さぁどうなってしまうのでしょうか?

1 クロア君が目覚めない
2 何もかも忘れてタルブ村へ慰安旅行
3 実はクラウスが暗躍

当然答えは用意されておりませぬ!(爆

 次回をおたのしみにー!


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