ゼロの使い魔で割りとハードモード   作:しうか

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うはははは! 日曜日に間に合いましたな!
ええ、ちょっとがんばりました。それではどうぞー!


21 フーケとオスマン

 しばらく三人でヨシェナヴェのことやケティとギーシュのことで談笑していると、部屋にかかっていたサイレントが切れていたのかドーンという音と振動が部屋に響いた。

 

 そういえば今日はフーケさんの活躍する日でしたね。プリシラにとりあえず見てきてもらうため頼みながら少し取り乱しているモンモランシーとシエスタにその事を告げ落ち着かせる。

 

 『大きいゴーレムが塔を殴っているわ。』

 

 というプリシラの報告に

 

 『近くに誰かいるかい?』

 

 と問い返してみると、原作通り黒オス(サイト)とルイズ嬢、フレイムの主(キュルケ嬢)シルフィードの主(タバサ嬢)と彼女の使い魔である風韻竜のシルフィードがいるらしい。ついでにゴーレムの上にミス・ロングビルがいるらしい。どうしよう。盗賊がミス・ロングビルだとプリシラにすでにバレてる……。

 

 しかし、この顔ぶれならデルフリンガーを無事にゲットできたのだろうか。確か原作ではシュペー卿作といわれる飾り用の剣をサイトが欲しがり、二千エキューという高値のため諦め、錆びてはいるがしゃべるインテリジェンスソードであるデルフリンガーを百エキューくらいでゲットしたはずだ。そしてその後キュルケ嬢が同じ武器屋に現れ、店主に軽くラフレシアっぷりを見せただけで買い叩き、サイトにプレゼントした。

 しかしサイトはどちらの剣を選ぶのか選択を迫られたが決められず、結局ルイズ嬢とキュルケ嬢の決闘で決めることになり、立会人のタバサの前で共に宝物庫のある塔に何か的を用意して攻撃。ルイズ嬢の爆発魔法が的を外して宝物庫にスクウェアメイジが頑強に張った固定化を破壊した。それを好機と見たミス・ロングビルことフーケが巨大なゴーレムを使って破壊の杖の奪取に移ったといった感じだったはずだ。

 

 一応サイトがデルフリンガーを持っているかプリシラにデルフリンガーの特徴を教え、聞いてみたところ、しゃべる錆びた剣は持っているようで、「デルフ」という単語も聞こえたそうだ。放っておいて問題なさそうだ。むしろこれ以上彼の出番を取ると原作との乖離が怪しくなる。ぜひともスルーしたい。プリシラに口止めして全力でスルーしたい。

 

 しかし、この事を二人に報告したとして、安心するだろうか。いや、さらに不安になるのでは? もしかしたら討伐に出ることになるかもしれない。ううむ。

 

 「クロア、原因はわかった?」

 

 少し悩んでいるとモンモランシーが不安そうに聞いてきた。まぁわかってもわからなくても不安ならわかった方がまだいいか。未来の夫婦に隠し事はなしってクラウスも言っていたしな。

 

 「うん。どうやら多分正体不明のメイジが中央塔に巨大なゴーレムで攻撃を仕掛けているようだね。」

 

 それとなく、ちょっとした軽い事故みたいだよー。みたいな雰囲気で紅茶を飲みつつ言ってみたのだが、

 

 「ええ!? だ、大丈夫なんですか?」

 

 と、シエスタが取り乱した。モンモランシーは俺がつい気を抜いてポロッと口にした“多分正体不明”という単語に引っかかってしまったようで、「多分?」と少し訝しげにこちらを見ている。

 

 「うん。中央塔にはオールドオスマンがいるだろうし、ゴーレムの近くにはトライアングルのキュルケ嬢とタバサ嬢もいるみたいだから大丈夫じゃないかな?」

 

 と、落ち着かせるように言うと、

 

 「ねぇ、あなた? 少し気になることがあるのだけど。多分ってどういうことかしら?」

 

 はぐらかそうとしたのがバレたようで、モンモランシーが少し怒ったような顔を近づけた。

 「ああ、モンモランシー。キミのその薔薇のように美しい顔を怒りでゆがませないでおくれ。」とかギーシュなら言うのだろう……。でもぶっちゃけモンモランシーは怒った顔もかわいい。むしろ俺にとってレアシーンではなかろうか。そんなことを考えていると、

 

 「ああ、モンモランシー。怒った顔もかわいいね。」

 

 つい本音が飛び出してしまった。すると彼女は少し顔を赤くしてピクッと眉を動かした。更に怒ったのかもしれない。これ以上は不味そうだ。スルーする予定があっさりと介入することに変更されてしまった瞬間だった。

 

 「えーっと。なんと言いますか。んんっ。そ、そうだな。彼女達が心配だ。増援に向うとしようか。ネタばらしはその後でもよかろうて。」

 

 取り繕いながらシエスタの肩に手を掛けると、モンモランシーが軽くレビテーションを掛けてくれた。

 

 「そうね。教えてくれるなら後でも構わないわ。そんなに危険ではないのでしょう?」

 

 そう言いながらモンモランシーがシエスタの肩に掛けた俺の手を取って引っ張ってくれた。シエスタに部屋の留守を任せ、そのまま外に出ると、ちょうど女子寮の前に広がるヴェストリの広場で派手に暴れているゴーレムとサイトとルイズ嬢がいた。

 

 キュルケ嬢とタバサ嬢はシルフィードで上空待機しつつ攻撃をしかけているようだ。せっかくなので視界補助のため、プリシラを呼んで肩に乗ってもらい、意思疎通しつつ視界共有で詳細を見てみると、ちょうどフーケが宝物庫から出てきてゴーレムの肩に乗り、ルイズ嬢が体を張ってゴーレムを引きとめようとしているところだった。

 

 「使い魔君。ルイズ嬢を抱えて下がりたまえ!」

 

 と、俺としては限界ギリギリの大声で叫ぶとちょっとクラッとした。大声でもダメなのか……。この体も奥が深いようだ。

 幸いこちらの声が届き、ルイズ嬢とサイトがこちらを見たあと、サイトが片手でデルフリンガーを持ったまま空いた手でルイズ嬢を抱えてゴーレムからあっという間にダッシュで離れた。ガンダールヴの本領発揮ですな。

 

 「モンモランシー、殺さないようにするつもりだが、もし賊が吹き飛んだら念のため落下に備えてレビテーションを賊に掛けてくれ。」

 

 と、言いつつ杖をゴーレムに向け、モゴモゴと聞こえないようにブレイドの詠唱を唱える。そして、フーケがこちらに気付いたようで、ビクッと体を震わせたのを見逃さず、ゴーレムの下腹部の内部を照準して爆破範囲が胸辺りまでの規模になるよう、少し大きめのラ・フォイエを放つ。

 

 キュィン、ドゴーン という収束音と爆音が響いた瞬間、巨大な火の玉がゴーレムを覆ったかと思ったらゴーレムがチリと化し、ゴーレムの立っていた地面が抉れ、真っ赤に焼け爛れた。そしてプリシラが『おいしそうね』と言ってクレーターの上を高速で一度旋回するとあっさりと真っ黒な穴に戻った。

 

 アレ? ちょっとミスった? と思っているとフライか何かで離脱している途中に爆風で吹き飛んだのだろう。フーケと思わしきボロボロのローブを纏った物体が降ってきた。そして、地面から1mほどのところで少し放心していたモンモランシーのレビテーションが間に合い、ゆっくりと草の生えてる大地に下ろされた。

 

 「あ、あの、クロア? 殺さないようにするつもりって言ってたけど瀕死に見えるわよ?」

 

 そう、少し戸惑い気味にモンモランシーが尋ねてくるが、こちらとしても想定外なのでどうしようもない。

 

 「ああ、どうやら少し威力の調節をミスしたようだね。様子を見てみよう。」

 

 と、平静を装って近づいてみると、フーケはうつぶせで倒れており、メイジの鏡のように杖をかろうじて握ってはいるが杖は半ばから折れている。しかし、予備の杖があるとも限らない。そしてもう片方の腕には盗賊の鏡のように破壊の杖が抱えられていた。原作では箱に入っていたはずだが爆風で吹き飛んだのだろうか。だとしたらまさに盗賊の鏡と言わざるを得ない。

 

 「モンモランシー。使い魔君を呼んでくれ。彼に拘束してもらおう。」

 

 と、サイトを呼んでもらうとその場にいた全員が来た。

 

 「使い魔君。すまないがその賊が予備の杖を持っているかもしれない。生死の確認もしたいので軽く拘束してくれたまえ。」

 

 と、言うとサイトは青い顔をしながら、「わ、わかった」とだけ言ってフーケに近づいていった。そして「彼だけでは心配」と言いつつタバサ嬢も近づいていった。タバサ嬢は賊の拘束に慣れているようで、うつぶせになっている相手に手探りでハンカチをフーケの口に詰め、予備の杖や武器がないか探ったあと、折れた杖と破壊の杖を回収して「もう大丈夫」とだけ言った。さすが雪風さん。クールです。

 

 「かなり重症みたいね。一応治療するからルイズはオールドオスマンに報告をお願い。タバサ、悪いけどシルフィードで医務室に連絡してもらえないかしら。」

 

 と、モンモランシーが治療の手配を始めた。そして彼女がフーケに軽くレビテーションを掛けて仰向けにし、フードを取ったとき、土に汚れ、割れたメガネを掛けたミス・ロングビルの顔が晒された。

 

 「え? ミス・ロングビル?」

 

 と、全員が驚いているところで、淡々とタバサ嬢は医務室へ向う。ルイズ嬢は驚愕のあまり動けなくなったようだ。

 

 「まぁそういうことだね。しかし、君達の手柄を横から掻っ攫ってしまったようだ。心苦しいのでここはぜひ君達の手柄にしてくれたまえ。使い魔君、この前は教育のつもりだったのだがやりすぎてしまって悪かったね。これで埋め合わせにしてくれるとありがたいのだがね。」

 

 と、モンモランシーの治療を見つつ言うと、

 

 「お、おう。俺もその、悪かったよ。ルイズやギーシュにも聞いてたけど本当にアレでも手加減してくれてたんだな。」

 

 とビクビクとした声が届いた。ちらりとサイトを見ると、若干引いてるようにも見える。

 

 「今回も手加減したつもりだったのだけどね? なぜか威力が想定よりも大きくて俺自身少しビックリしているところさ。使い魔君の時でなくて本当に良かったよ。」

 

 と、彼を安心させるように俺が心から安堵して笑顔を浮かべ、サービスで肩をすくめるリアクションまで混ぜて言うと、サイトは額から汗を流し更に一歩下がった。

 

 「そ、そうか。今度からはどうかお気をつけてくださいませ?」

 

 サイトが引きつった笑顔で変な敬語を発し始めた。もしかして爆風に煽られて脳が逝かれたのだろうか。前回やりすぎて後遺症があるのだろうか。そんなことを考えていると、タバサ嬢がシルフィードに医務室の水メイジを何人か乗せて飛んできた。

 

 「モンモランシー。医務室から応援が来たようだ。俺たちも戻ろうか。後は任せるよ。」

 

 と、言ってモンモランシーにレビテーションを掛けてもらい、部屋に戻った。戻ったあとシエスタにも説明するため、プリシラが賊はミス・ロングビルだとあっさり見破ったことを伝えると、二人に大変驚かれた。

 

 むしろ原作どうしよう。一応彼らに手柄を渡したがそれでなんとかなるものなのだろうか。あ、破壊の杖という名のロケットランチャー未使用では? もしかして回収して研究できるのでは? あとで機会があったらオールドオスマンに交渉してみよう。もしサイトの手に渡っていたら彼やルイズに交渉してみよう。

 

 そして軽く紅茶を飲んでみんなリラックスしたころ、モンモランシーは自室に戻り、俺も睡眠を取ることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 目が覚めると寝る前の体調が良かったのが嘘のように体調が悪い。激しい頭痛に嘔吐感、四肢を苛む鈍痛、体中を包む寒気。―――そして額に感じる冷たい布の感触と右手に感じる少し冷たくて柔らかい感触。それが寒気を感じているはずなのに妙に気持ちがいい。誰か看病してくれているのだろうか。目を開けるのも億劫だが目を開けてみるとシエスタが枕元に椅子を置いて心配そうな顔をしていた。

 

 「やぁ、おはよう。シエスタ。手間を掛けさせてしまったようだね。すまない。」

 

 シエスタを安心させるために声をかけたらひどい声が出た。喉も腫れているようだ。

 

 「クロア様。先ほど水メイジの方が診療にいらっしゃいました。モンモランシー様、クラウス様、ルーシア様、ギーシュ様、マリコルヌ様、ケティ様がお見舞いにいらっしゃいましたが今はみなさん、フリッグの舞踏会に参加していらっしゃいます。昨日の盗賊は『土くれ』のフーケと言われている方だったようで、オールドオスマンの使いでミスタ・コルベールがクロア様の様子を伺いに参りました。」

 

 シエスタがいつものように寝ている間のことを教えてくれるが、彼女は悲しそうな顔をして少し目も伏せ気味だ。

 

 ああ、フリッグの舞踏会だから体調が悪いのか? フーケのイベントではいつもと比べるとむしろ体調が良すぎた。もし仮にイベント補正があったとして体調がひどいときといいときの差はなんだろう。ううむ。しかし今はそのことを考えるよりもシエスタを慰めよう。自分の体調が原因で悲しい顔をされるのはあまり好ましくない。

 

 「そうか。クラウスがよく言っているんだけどね? 俺はイベントがあると体調が悪くなるらしいんだ。今日がフリッグの舞踏会ならしょうがないかもね?」

 

 と、かすれて割れ気味のひどい声で笑顔を意識しておどけて見せると、シエスタは一度目を完全に伏せてから彼女らしい太陽のような笑顔を浮かべて、俺の頭に載っている布を取った。そしてその布を彼女の足元に置いてあるであろう、水で一度冷やして絞ったあと再び俺の頭に載せながら、

 

 「ええ、私も聞いておりますし、実際そう思ってしまうことも多々あります。去年のフリッグの舞踏会も散々でしたね。」

 

 と、ちょっと濡れた声で茶化すように言った。

 

 「そうだね、シエスタ。でもあの時は君のかわいい照れた顔を見れてちょっと特したかな?

 そういえば“フリッグの舞踏会で踊った男女は結ばれる”という言い伝えがあるみたいだけど、実際どのくらいの割合で結ばれているんだろうね?」

 

 ふむ。自分で話を振っておいてなんだが、確かに少し気になる。結ばれるという表現がキスや性交を意味しているのであればキュルケ嬢などは割合を上げるのに貢献しているだろう。しかし、ケティのあの感じからギーシュがそこまで行っているとは思えない。逆に割合を下げているのではないだろうか。そして結婚や婚約を意味しているのであればかなり確率は下がりそうだ。

 

 いや、むしろ分母は延べ人数や回数ではなく単純に参加した人間個人の数か? 例えば男女五百人ずつ千人集まって一人ずつ満遍なく五百回踊り、全員が誰かしらと結ばれたらそういう話になるのかもしれない。いや、普通に考えて統計としてはひどいがコッチはファンタジーの中でも縁起を担ぐというかなり曖昧なものだ。

 

 しかし、そう考えるならば別段フリッグの舞踏会でなくても……。ああ、普段と違った雰囲気に惹かれてってヤツか? しかしファンタジーだ。何があってもおかしくないのは実際否定できない。ううむ。

 

 「クロア様。難しいことはわかりませんけど、以前から気になる方にアプローチする絶好の機会にそれでも勇気の出ない方のための言い伝えかもしれませんね。それを信じて成功した方がさらに信憑性を上げているのでしょう。」

 

 確かにそうかもしれない。生粋のファンタジー出身者が言うのだからきっと間違いないだろう。まぁバレンタインデーのチョコと同じようなものか。意外とシエスタはドライなのかな? いや、信じているかいないかより、実際彼女がそう捉えているということかな? 

 原作ではもっとこう、恋する乙女でガンガン……アレ? そういえば何かしら理由があれば即座にアプローチしてましたね。じゃあ、あまり変わらないのか?

 

 「そうだね、シエスタ。そんなステキな言い伝えに割合を求めるなんて野暮だったみたいだ。」

 

 納得がいったのが彼女にもわかったのか、シエスタは「はいっ!」と笑顔で大きくうなずいた。シエスタと話しているうちに少し症状が楽になってきた。声も最初よりは割れていない気がする。いや、気がするだけかもしれないが……。

 

 「シエスタ、少し症状が楽になったよ。ありがとう。」

 

 とお礼を言うと

 

 「では、もう少し休んでください。水メイジの方も安静にしているのが一番とおっしゃっていました。」

 

 と優しく微笑んで頭に載せてある布をまた冷やして載せてくれた。

 

 「そうだね。おやすみ、シエスタ。」

 

 と言って目を閉じると、意外とあっさり眠りについた。寝入りの早さだけは自慢できるかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 途中何度か起きて体調が良くなったのは5日後だった。さらに一日安静にして久しぶりにベッドから離れた。前日にモンモランシーからフーケの事に関してオールドオスマンが訪ねてくると聞いていたので大人しく資料作りをしていた。

 

 午前中の授業が始まって少しくらいのときにオールドオスマンがコルベールを伴ってやってきた。シエスタが丁寧に招きいれ、今回は椅子もカップもあるのでコルベールにも紅茶が出された。

 

 「ほっほっほ、彼女の入れる紅茶はおいしいのぅ。」

 

 などと軽くオスマンが場を暖めて早速本題に入った。最初はモンモランシーから聞いてた通り、フーケのことに関してで、ミス・ロングビルが宝物庫に入り破壊の杖を盗んだだけでなく、宝物庫の壁にフーケの領収のサインを残しており、証人もたくさんいたことから彼女がフーケであるとされたらしい。彼女は原作通りオールドオスマンに酒場でナンパされ彼の秘書になったのだが、他のコルベールを筆頭に他の教師にそのことで怒られたらしい。

 

 いや、経歴詐称して教師やってる人は糾弾できないのでは……? かなり難易度は高いがオスマンが早々にフーケの正体に気付いていれば彼女を金で囲い込むことも可能だったはずだ。いや、まぁすごいお金かかりそうですけどね。まぁオスマンもコルベールに関しては知っていそうだし、生徒を守る戦力としても期待できるので彼についてはわざと見て見ぬフリをしているのだろう。

 

 とりあえずフーケは重症だったのだが、五体満足でトリスタニアまでの護送と裁判をするのかは知らないが、処刑まで耐えられるよう治療されたらしい。その費用はトリスタニアが出したそうだ。先日トリスタニアの監獄へ護送されたらしい。

 

 無傷でそのあと紅茶を楽しむ余裕まであったはずなのだが、俺はあのラ・フォイエに巻き込まれたフーケより重症だったのか……。いや、今回は完全に俺が病弱なだけですな。

 

 フーケ捕縛の手柄については彼女達に譲ったはずなのだが、ルイズ嬢をはじめ「人の手柄は奪えない」とか言ったそうで、少しもめたそうだ。結局落としどころとしてあの場にいた全員お手柄ということになり、俺もシュヴァリエの推薦がされたらしい。シュヴァリエは騎士の称号なのだが、世襲や金で買うことのできない実力と実績が必要な一目置かれた称号になる。格としては准男爵以下だか未満だったと思うが一応国から定期的にお金がもらえる。

 

 いや、まぁ法律変わって軍役に就くことがないと貰えないヤツですよね。俺には一生貰うことはできませんね。わかります。とりあえずこれでフーケ関連の話は終わったようだ。一息吐いて紅茶を飲み終わったところでオールドオスマンが突然真剣な顔をして恐らく今回の本題を振ってきた。

 

 「ところで、ミスタ・カスティグリア。お主、ガンダールヴについて何か知っておるかの?」

 

 ふむ。確かに初回の決闘を見られているだろうし、いきなり平民に対して武器を与えるのは不自然だったかもしれない。しかも、アレクシスの時のように殺すわけでもなく、後遺症もできるだけ抑えた。

 

 いや、もしかしたら何か脳に障害があるかもしれない。前回会った時、サイトは顔を引きつらせて少し変な言葉遣いをしていた。ボクサーがよくなるというパンチドランカーというやつだろうか。少し心配だ。しかしこの世界でその症状を治せるものなのだろうか。

 

 ティファニアが所持しているなんでも治すようなマジックアイテムの指輪くらいしか思いつかない。いや、水の精霊が治してくれないだろうか。確か原作では水の精霊との邂逅もあったはずだ。その時に症状を訴えるようルイズ嬢に相談した方がいいかもしれない。いや、その時は彼女がちょっとおかしくなっている時だからサイトに直接言わないとダメか? 

 

 いや、むしろ事の発端になる惚れ薬をモンモランシーが作るだろうか。俺は彼女に完全に惚れていると言い切る自信があるし、彼女もそれはわかっていると思う。ふむ。しかし完全に惚れている状態で惚れ薬を飲んで彼女を最初に見たらどうなるのか少し興味がないでもない。

 

 ―――思考が逸れたようだ。あとで覚えていたら考えよう。

 

 とりあえず俺は決闘相手だった平民の使い魔と前回口だけとはいえ和解し、手柄まで譲っている。そしてあの後、恐らくサイトはフーケが盗んだ破壊の杖という名のロケットランチャーについて原作通りオスマンに尋ねたのだろう。その際、アレが彼の住んでいた地球の武器であることや、今回は未使用のままだったので使い方まで説明したかもしれない。そこでオスマンはガンダールヴであると確信したのだろう。

 

 「虚無の使い魔―――でしたっけ? 恥ずかしながら神学には疎いものでして、なんせ一度も教会に行った事がありませんからね。」

 

 と言いつつシエスタに紅茶のおかわりを貰い、少し飲む。オスマンとコルベールは“虚無の使い魔”と言ったところでピクッと動いたがその後の言葉で少し判断に困ったようだ。

 

 「そうかの。あ、お嬢さん。ワシにも紅茶のおかわりをいただけんかの? では一つ聞きたいのじゃが、もし仮に今その伝説の虚無の使い魔が現れたとして、お主がその人物と使い魔を知ったならどうするかのぅ?」

 

 そう世間話でもするようにシエスタに紅茶のおかわりを頼みながらオスマンは仮定の話を始めた。恐らくこちらがサイトはガンダールヴでありルイズが虚無の系統であると判断しているとどこかで確信したのだろう。さっきの判断に困ったような感じは単なる“見せかけ”だったようだ。

 

 いや、コルベールはちょっと驚いた顔で「え? 言っちゃうの?」みたいな感じでオスマンを何度もチラ見しているのでこちらは天然のようだ。オールドオスマンのような百戦錬磨のお相手が何を探りに来たのかはわからないが、まさかコッパゲに癒しを感じることになる日が来るとは……。

 

 まぁオスマンに気付かれているのであればシエスタの安全上、彼女が知ってしまわないよう気をつければいいだろう。シエスタはオスマンに紅茶を入れ終わったので軽く微笑みながら視線で今回の癒し担当であるコッパゲ先生にも紅茶を入れてあげるよう指示した。

 

 「そうですね。どこでどのような環境の人間がそれを持つかによりますね。完全に敵対的な位置にいて将来的にカスティグリアやモンモランシに害があるような人間であれば暗殺や誘拐、幽閉と言ったところでしょうか。その辺りはロマリアでもない限りそうどこも変わらないと思いますよ?」

 

 こちらも世間話をするように紅茶を口にしつつ、少々過激な発言で揺さぶりをかける。

 大体、原作では完全に敵対的な位置にいたら虚無の系統や虚無の使い魔であってもロマリアに聖戦を仕掛けられて排除されていることから一般的なハルケギニア人の考えとしては間違っていないはずだ。まぁ仮にと言って揺さぶりをかけられたお返しですな。案の定オスマンは全く反応せずに紅茶の香りを楽しんでいるし、癒し担当のコッパゲさんはちょっと釣られてほんの少し目がきつくなった。

 

 「ふむ。では敵対的でないと判断された場合はどうじゃ?」

 

 「その判断は難しいのでは? 俺が完全に敵対的でない、もしくは殺されても騙されても構わないと考えている人間は数少ないですよ?」

 

 そうはぐらかすと、オスマンは笑顔を浮かべ、本当においしそうに「本当にこの紅茶はうまいのぅ」とか言いながら少し早いペースで紅茶を飲み干した。まさかこれで諦めたのか? と思ったところで、再び口を開いた。

 

 「では、そうじゃの、ミス―――」

 

 まで言ったところで横目でこちらを窺いつつ「紅茶もう一杯くれんかのぅ?」と言った感じでシエスタを一瞬チラッと見てカップを少し上げたあと

 

 「ロッタ。そう、お主の友人が親しくしているミス・ロッタ。彼女は火の系統じゃが、もし彼女のような立場の人間が虚無の使い手として目覚めたらどうかの?」

 

 わざと“ミス”で一瞬だけ合間を入れ、シエスタを使って揺さぶりをかけられた。どうしてもルイズ嬢やサイトに対する俺の対応を知りたいようだ。むしろシエスタの察しがよければそれだけで気付いてもおかしくない。

 

 ちらっとシエスタを窺うとオスマンの会話を遮らないよう、会話が切れたところで空になっているオスマンのカップに自然な笑顔で紅茶を入れている。

 

 まぁ知ったとしてもあまり問題ではない気もする。あっという間に「ルイズは虚無の系統で、サイトはガンダールヴ」ということが広まるだけだ。むしろ、それを封じるためにオスマンが彼女に圧力をかけるか心配になるだけとも言える。しかし探りを入れるには直接的すぎる。他に何か無かったのだろうか。害が低いと判断して実行したのだろうか。まぁそれなら問題ないか。

 

 とりあえず彼は“カスティグリアがどう動くか”や“カスティグリアに知らせるのか?”といったことを気にしているのだろう。ふむ、実際カスティグリアに報告したらどうなるのだろうか。まずマザリーニ枢機卿までは話が行く可能性が高い。

 

 現在カスティグリアやモンモランシはそれほど王政には関わっていないはずだ。マザリーニ枢機卿から依頼(・・)要請(・・)を受けることはあってもカスティグリアが積極的にトリステインを動かしているようには見えない。

 

 もしカスティグリアが知り、マザリーニ枢機卿に知らされた場合。もしかしたら彼は嬉々としてアンリエッタを送り出し、ルイズを女王に即位させるかもしれない。いや、即位させるだろう。そして恐らくロマリアにもその話が送られ、ロマリア公認の虚無としてロマリアから援軍が来てアルビオンからも守られるかもしれない。いや、むしろレコン・キスタを異端とし、滅ぼす方向に動く可能性もある。実はいいこと尽くめなのか? 

 

 しかし、ルイズ女王はどう動くだろうか。彼女は敬虔なブリミル教徒であり、もし虚無の使い手と自覚し、ブリミル教を近くに感じるようならトリステインを巻き込んでロマリアの言いなりになりかねない。そうなるとカスティグリアとしては動きにくくなるかもしれない。あまりいい未来ではなさそうだ。

 

 逆にカスティグリアが知り、そのことを秘匿した場合、得るとしたら女王になる可能性が高くなるルイズ嬢やその保護者たるヴァリエールに早期に接近できるくらいしかメリットが見つからない。いや、ルイズの婚約を破棄させてクラウスが(めと)り囲い込むことも可能だが、そこまでトリステインの中枢に入りたいのであれば風石の産出や軍事力を背景にクラウスをアンリエッタ姫の王配候補にねじ込み、さっさとアンリエッタ姫を即位させた方が手が早そうだ。

 

 しかし、彼女がゲルマニアに嫁ぐ事に関知しな……かった?―――まさかそういう話があったのか!? だから先日アンリエッタ姫の御輿入れに関して意見を求められたのか!?

 

 ク、クラウス……今とても問いただしたいことがあるのだがね? それによってこの答えは変わってしまうのだがね!? ま、まぁ正直に話すことはあるまいて。悟られたら困るのでオスマンとの会話をさらっと終わらせよう。

 

 「ミス・ロッタですか。そうですね。もし彼女であれば……、友人の覚悟と使い魔次第ですね。彼がもし彼女と添い遂げることを覚悟しており、使い魔がその障害であるならば彼に真実を話し、使い魔を殺します。そして二度と召喚させないよう忠告でもするのでしょうかね?

 彼が全く関係ないのであれば様子を見つつ放置します。下手にロッタ家やトリスタニアが知ってしまうとどうなるか予想がつきませんからね。」

 

 そう言いつつ紅茶に口をつける。癒し担当のコッパゲくんはこの回答にホッとしたようで彼も笑顔で紅茶に口をつけた。しかし、オールドオスマンは少し引っかかったようだ。

 

 「ふむ。ではトリスタニアではなく君の実家にはどうじゃ?」

 

 と、さっき考えて疑問が浮かんだ場所を突いてきた。どうやらさっき思い至ったときに悟られたようだ。

 

 はっ! まさかオスマンは俺がカスティグリアに知らせていないことを知りつつ、俺がそのことをあまり考えていない可能性を考えてわざわざ反応を見に来たのか!? そしてその事に気付いた俺が大して考える時間を与えられることなくどう返答するのかも見にきたのだろう。しかも、その返答方法が今後の判断材料に組み込まれる可能性もある。

 

 な、なんという恐ろしい罠だ。病弱で授業にもマトモに出れない学院のいち生徒になんという仕打ちをするんだ、おすまん……。ぶっちゃけもうテーブルをひっくり返してベッドに入り天蓋の分厚いカーテンを引いて三年くらい引き篭もりたい。

 

 とりあえず返答しよう。ごまかすのは恐らく悪手だ。あまり時間を空けるわけにはいかないので直感に頼るしかないが、正直に話した方が今後の展開には良さそうに思える。しかし負けっぱなしも性に合わない。少しだけブラフも混ぜよう。いや、それも判断材料にされるのか? もはやどうしていいかわからない。ここまで来たら開き直っていつも通り行くことにしよう。

 

 「ふむ。実家ですか。正直なところ現在カスティグリアがどのような立場にいるのかすら知りませんが、もし何か相談を受けて自分の知りえたことを知らせるのがカスティグリアのためと判断すれば話すと思います。」

 

 そう、何でもないように普通に話し、紅茶に口をつける。なんかもはや敗北感が濃厚なのでぶっちゃけ早急にお帰りいただきたいところではある。きっと彼にとってはその答えを引き出したとしてこれからが本題なのだろう。さっきまでのリラックスしたような態度から真剣な顔に戻った。

 

 「やはりそうかのぅ。ワシとしてはもし仮にそういった情報を得たときは胸にしまってもらえるとありがたいのじゃがのぅ。」

 

 「ふむ。しかし、仮にそういった方々が現れたとして、誰もが利用しないという状況はありえるでしょうか。カスティグリアには基本的に領民も含めて出来る限り損失を生まないよう進言していますし、すでにある程度戦力を持っているでしょう。その辺りはオールドオスマンの方が詳しそうですが、そのような情報だけが原因でご懸念のようなことにはならないと考えますし、状況によっては知らないことで被害が広がる可能性もあります。いかがでしょうか?」

 

 原作でルイズとサイトはアンリエッタを筆頭に、トリステイン、ロマリアなどにいい様に利用されていた感がある。もし誰の利用も許さないというのであればルイズに虚無の系統であることを告げ、女王に即位させ、ハルケギニア統一でもさせないと無理ではなかろうか。

 

 「お主としてはカスティグリアなら道具として使わないと考えておるのかの?」

 

 「いえ、使うでしょうね。ただ、他の方々よりもカスティグリアは自らが所属するトリステイン王国のことを大切に思っていると思いますよ?」

 

 何か読み合いというより単なる売り込み合戦になってきた。先ほどまであった緊迫感は霧散して少し緊張を緩め紅茶を飲む。オスマンとしては自分が知らせる相手を選びたいのだろう。しかし、彼には国に通用する権力もなければトリスタニアに登る気もない。このことに関しては一歩下がらざるを得ないはずだ。

 

 「まぁ仮に知らせるとしてもカスティグリアだけに留めるよう忠告も同時にすると思います。さらに上まで話が登ると他国にまで絡むでしょうからね。」

 

 「ふむ。それなら許容範囲かのぅ。他国が絡むと碌なことがないからのぅ。ほっほっほ」

 

 オスマンも折れたようだ。完全敗北かと思っていたら意外と最後の本命はこちらが有利だったようで、俺の判断でカスティグリアだけになら知らせても問題ないと認めさせられたようだ。なるほど、本命の前の探りあいは彼にとって不利なこの話題を有利にするためのブラフだったのか? いやそれでも得るものはあった可能性は高いか。

 

 しかし、癒し担当のコッパゲ隊長はもしかしたらここで俺が「トリスタニアに広めて戦乱起こすんだ!」とか言ったら秘密裏に処理するために連れてこられたのだろうか。実際彼は一言も発していない。いや、考えすぎか? まぁ保険程度だろう。

 

 「おいしい紅茶のおかげでつい長居してしもうたのぅ。しかしおかげで有意義な時間を過ごせたわい。ミスタ・カスティグリア、邪魔したのぅ。」

 

 「いえ、毎度の事ながらわざわざご足労おかけしまして申し訳ありません。」

 

 席を立って、そう笑顔でお互いに挨拶してオスマンとコルベールはシエスタの見送りで出て行った。椅子に座ってこれまであった緊張を全て吐き出し、紅茶を飲む。

 

 「クロア様。お疲れ様でした。おかげんはいかがですか?」

 

 シエスタが側に来て座っている俺の顔を覗き込むようにしながら心配そうにこちらを気遣ってくれた。一応口止めしておいた方がいいかもしれない。

 

 「うん。すごく疲れたよ。シエスタ、すまないが今の話の内容は忘れてくれるとありがたいのだが。」

 

 と彼女の顔を見ながら少し苦笑いで言うと、彼女はふわっと笑って

 

 「ふふっ、ご安心ください。私も緊張して皆さんに紅茶を入れるのが精一杯でしたのでお話の内容なんて全然頭に入ってきませんでした。」

 

 と言ってくれた。気遣ってくれているのか本当なのかはこの際どうでもいいだろう。緊張のあとの彼女の言葉が癒しに感じた。

 

 「ありがとう、シエスタ。」

 

 そう言って彼女の頬にそっと手を触れると彼女は目を閉じてその手に自分の手を重ねた。

 

 「クロア様。少し熱が出てきたようですね。病み上がりなのですからお休みになられた方が良いかと存じます。」

 

 少しして、そのように真面目な顔で言われた。確かに精神的に疲れたので着替えて休むことにした。シエスタに着替えを手伝ってもらいつつ体を拭いてベッドに入るとそっと額に手を乗せられた。

 

 「おやすみ、シエスタ」と言って目を閉じると「おやすみなさいませ。クロア様」と彼女の声が聞こえ、安らぎの中夢の世界へ旅立った。

 

 

 

 

 




 いかがでしたでしょうか。

 前話は書く内容が決まっていて前半分くらい書いてあったので後半のネタが浮かんだらサクサク書けたのですが今回はちょっと大変でした。どうも原作に突入してから難産続きな気がします。

 筆がガツッと止まったときにみなさんからいただいた感想を読み返すと落ち気味のテンションが上がったり、意外と筆が進んだりします。
 よろしければご感想お待ちしております。


次回もおたのしみにー!

副題はいつも投稿間際のインスピレーションで決めています。
今回の副題候補
三つの戦い
サイト壊れる!?
オスマンこえー><;
でした。ええ、無難なのにしました。

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