ゼロの使い魔で割りとハードモード   作:しうか

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 それではどうぞー。


1 ハルケギニアに誕生 

 13歳の誕生日、俺は高熱を出して寝込んでいた。そしてこの峠は越えられないと判断され、両親、兄弟が主治医に呼ばれ、家族の涙の中、俺は前世を思い出した。

 

 それまで普通にこの世界で生きてきて、何の疑問も持っていなかったのだが、それまでど忘れしていた事を思い出したようになんの前触れもなく頭に前世の記憶がよみがえったのだ。

 

 高熱が生み出す耐え難い頭痛が妄想を生み出したのかと思ったが、それにしてはかなりはっきりしているし、前世の俺はオタクだったのか理系だったのか、自分の知らない知識がわんさかと沸いてくる。

 

 特に信じられない決め手という知識は微分積分や複素関数論などの高等数学や流体力学や熱力学などの物理の知識だ。ただ、残念な事に前世の俺は記憶力が弱かったのか、役に立ちそうな冶金技術などの細かい数字や記憶力の弱さゆえ化学に手を出さなかったようで周期表すら最初の5個くらいしか覚えてない。しかも「すいへーりーべぼくのふね」が何を指すのかかなり曖昧だ。

 

 この世界は魔法が発達しているため、そのような数学や物理と言ったものは全く発展していない。一番難しいものでも面積や体積の求め方がせいぜいだ。

 

 

 まずは俺の紹介をしよう。俺はクロア・ド・カスティグリア。トリステイン王国にあるカスティグリア領を統治するカスティグリア伯爵家に生まれた長男だ。髪は若干13歳にして白髪混じりでボサボサの薄いブロンド、顔はそこそこ、そして鮮やかな赤い瞳。それはもうルビーアイかというくらい透き通るように鮮やかで赤い。そして肌もカサカサで真っ白だ。

 

 これが女性で髪がツヤツヤで白髪がなくてお肌もすべすべなら、前世の俺がまさに生ける宝石として崇め奉るだろうが、生まれ変わってこの体になってみるとかなりきつい。むしろ保護してくれないと死ぬ。

 

 まず、視力が結構弱い。というかまぶしくてあまり見えづらい。いや、見えることは見えるのだが、文字を読むときは少し暗いところじゃないときつい。暗すぎても見えない。度入りの真っ黒サングラスが切実に欲しい。

 

 あとは熱を出したり、血を吐いたり、急に倒れたりしてよく寝込む。それはもうこれほど虚弱なのは珍しいというくらいに寝込む。というか寝込んでいる日の方が多い。ついでにどこかしら常に痛い。さまざまな医者や水系統のメイジが呼ばれたが揃ってさじを投げた。それもあって発育不良だ。

 

 虚弱さではゼロの使い魔という小説に出てきたカトレアさんを遥かに凌ぐのではないだろうか。むしろよく今まで生きてこれたものである。

 

 兄弟は一つ年上のルーシア姉さんと、一つ年下の弟クラウスがいる。将来はクラウスがこの家を継ぐだろう。ルーシア姉さんは金髪碧眼で金髪も俺と同じ薄いブロンドだがツヤツヤしていてとてもキレイだ。少し波打っていてたまに髪型を変えるとどこかのお姫様のようで……って伯爵の娘ならお姫様みたいなものか。ちなみに14歳にして水のラインでメイジとしても才女である。しかし普段はおっとりしているが、怒らせると怖いらしい。見たことはないが怒らせたら死ぬかもしれん。

 

 クラウスはちょっと濃い目の金髪で同じく碧眼、癖もなくストレートでイケメン野郎だ。いえ、イケメン弟です。系統は土のドットでギーシュを思い出すが家を継ぐ使命感があるようで真面目で頼りがいのあるヤツに育っている。しかも病弱な俺に気を使ってくれるいいヤツで、よく見舞いにも来てくれる。いやまぁ君が継ぐ前に死ぬと思うけどね。もう少し早く前世を思い出せたら兄として支えられたかもしれんが……そう思うと少し残念だ。

 

 そう、まだ断定は早いだろうが、前世の記憶を取り戻したことで、ここはゼロの使い魔の世界で俺は転生したのではないかという考えが浮かんだのだ。まず何と言ってもトリステインなんて名前の王国が他にあるとも思えないし、医者のついでにブリミル教徒が来たこともあるし、父とクラウスが先日までヴァリエール公爵の三女である、ルイズ・フランソワーズの13歳の誕生会に呼ばれていた。そして当然のように語られる系統魔法。

 

 しかし、かなり内容は曖昧だがカスティグリアという姓は特に出てこなかったと思うのでこの家も安泰だろう。戦争を上手く乗り越えられればだが……。

 

 そして、俺は主人公と同い年か……まぁこの虚弱さなら巻き込まれる前に死ぬか、巻き込まれても死ぬだろう。というか今まさに瀕死だしな。無駄なあがきに思える。今例え生き残ったとしても、あの爆発魔法に授業中巻き込まれ、他の貴族の卵達に俺の屍をさらすのは色々な意味で不味い気もする。まぁ物語が始まる前に死亡フラグを回収完了している状況だしな……。

 

 が、しかしだ。ちょっと死ぬ前に一つだけやっておきたいことがある。そう。魔法だ。貴族ならば例え死に掛けだろうが魔法が使えるはずである。かなり辛いし死んで楽になった方がいいと思われるタイミングだが、何の因果か前世を思い出したのだ。ぜひとも魔法を使ってみたい。

 

 クロア(俺)は虚弱すぎて杖の契約だけしてまだ一度も魔法を使っていなかった。使った記憶がないので恐らく使っていないはず……。ならば彼(俺)のためにも一度は貴族としてだな……。いや、ぶっちゃけ使ってみたいだけだが! とりあえず杖、そう杖だ!

 

 「ク、クラウス……」

 「ぐすっ、なんだい? 兄さん…何も心配しないで……」

 

 しゃがれた声が出た。そしてクラウスは泣きながら俺を安心させようとしているが用件はそんなことではない。

 

 「俺の杖どこ?」

 「え?」

 

 しゃがれた声で聞き取りにくかったのだろう。一音節ずつはっきりと伝わるように声を出した。

 

 「俺の 杖 どこ? 渡して くれ」

 「兄さんの杖ならここだよ」

 

 伝わったようでそう言って俺の胸の上に置いてある杖に俺の右手をそっと置いてくれた。って死ぬときの守り刀? 守り杖!? いやまだギリギリ生きてるから!!!

 

 「ありがとう、ちょっと 離れて」

 「いいんだよ。兄ざん……」

 

 弟クラウスは号泣して言葉が濁っているが、あとは詠唱するだけだ! というか詠唱なんだっけ……。くっ、こっちの世界でも記憶力は弱めか! ここは我が弟クラウスに恥を忍んで聞こう。

 

 「ク、クラウス……」

 「な、なんだい? 兄さん」

 

 一度離れてと言ってから呼び戻すのはちょっと恥ずかしい。しかし残された時間は少ない。「はじめてのまほう」のために詭弁を弄してでも使ってみせる!

 

 「貴族 として 死にたい から 魔法の 詠唱 教えて」

 「にいさああああん まだ死ぬなんて言わないでくれ! 詠唱ならこれからも教えてあげるし、元気になれば兄さんなら立派なメイジになれるから!」

 

 クラウスいいヤツだな……しかし残された時間は短いというか激しく辛い。両親やメイドさんは号泣しており、主治医も目から涙を流して悔しそうな顔をしている。ルーシア姉さんは泣きながら微笑んで、クラウスの横に来て俺とクラウスの手に自分の手を重ねた。

 

 「いいから 心残り なんだ たのむ」

 

 というと、ルーシア姉さんとクラウスが俺の手に杖を握らせてそれを二人が支えながら上に持ち上げた。

 

 「兄さん。杖の先に光が灯るようにイメージして『ライト』だよ。」

 「クロア、あなたは貴族でありメイジよ。がんばりなさい。」

 

 と、クラウスが泣きながら教えてくれ、ルーシア姉さんも泣きながら微笑んで応援してくれた。

 よし、イメージイメージ、杖の先から光が……って、この眼でそんな光見て大丈夫か? 

 まぁいいか、恐らく精神力を使い切って最後の時を迎えるだろう。この際だ、全ての精神力をライトにつぎ込むイメージで行こう。燃えろ! 俺の精神力! 

 

 「父上、母上、ルーシア姉さん、そして俺の自慢の弟クラウス。愛していたよ、ありがとう。

 ―――ライト」

 

 そう言うと視界が真っ白になり、今まで苛んでいた体中からの痛みが軽くなり、意識が消失した。

 

 

 

 

 

 

 

 最後の力を振り絞って魔法を使い天に召された、いやブリミルのところへ行った? どうなんだ? ブリミル教。まぁいいか、そんな感じで死んだはずなのだが、目が覚めるとぼんやりと薄暗い部屋の光景が目に入った。死んだと思ったが生き残ったらしい。

 

 体の節々はまだ熱っぽくて少し痛いが、頭はあまり痛くない。この体にしては体調がいいようだ。起き上がって目がはっきりするまでボーっとしていると視界にやけにはっきりと前世?の日本語の文字が浮かび上がった。触ってみようとしても手は空を切るだけ。完全に目に映りこんでいるだけみたいだ。

 

 『いやーわりっす。君は一度神様に会って転生させる予定だったんだけど、ちょっと忙しかったのでその体に入れちゃいました。前世思い出すのも普通は三歳とかなんだけど設定ミスっちゃったみたいで十三歳になっちゃいました。ああ、神様転生とかでチートでしたっけ? そういうの神様は好きみたいだけどアタシはあまり好きじゃないんで、あー、でもほんのちょっと悪いと思っているのでコレ贈っておきますね。ではではー。』

 

 軽いな。途中たまに丁寧語入るけど軽いな。しかしまさかの神様転生か。チートとか欲しい物が……ってあまりないな。強いて言えば完全な原作知識とか病気知らずの健康な身体だが、もう魔法は使えたし割りと満足だ。あとはクラウスにがんばってもらって隠居生活をだな……。

 

 『ぽーん クロア は ラ・フォイエ を おぼえた』

 

 おお、ラフォイエってあれか、あのゲームのロックした敵をいきなり爆発させるテクニックか。懐かしいな。そして俺が一番好き好んで使っていたやつだ……。発動するときの一瞬のタメの音が好きだったんだよな。

 

 あれ? よく考えたらルイズ嬢の爆発魔法とあまり変わらないんじゃね? いやこっちのは燃えるし範囲でかそうだけどさ? 基本あんまり変わらんよね? 使っても失敗魔法言われるだけだよね? しかもフォトンないと思うんだけど使えるの? つかロックってできんの?

 

 やっべー、すごいハズレ引いた気分だ……、いや続きがあるかもしれない。謙虚に待とう。

 

 そして続きはなかった。

 

 

 

 ちょっとした虚脱感を抱えながらボーっとしていると、かすかなノックのあとメイドさんがそっと入ってきた。そして俺が起きているのにビックリしたのだろう、少しフリーズした。

 

 「おはようございます。朝ですか?」そう言うと

 「クロア坊ちゃま……今他の方を呼んできますね!」

 

 そう言って、メイドさんは急いで兄弟を呼びに走った。ちなみに部屋はカーテンが厳重に引かれており、外からの光は入ってこない。ほとんど暗がりだがドアの外は明るい。

 

 「兄さん!起きられたと聞きました。大丈夫ですか?」

 

 そう言ってクラウスが早足でしかも満面の笑みで部屋に入ってきた。そして自分が言った最後になるはずだった言葉を思い出して少し悶えた。

 

 「お、おう。なんか生きながらえたみたいで恥ずかしいな。」

 

 悶えながらなんとかそう言うと、

 

 「そんなこと言わないでください。あのすごいライトのあと兄さんが生きているって知ってみんなどれだけ喜んだことか! さすがは兄さんです!」

 

 「お、おう。そうだったか。ありがとう。」

 

 なんか辛い。死ぬ直前より辛い。

 

 「クロア、起きたって聞いたわよ! 大丈夫!?」

 

 姉さんも来たようだ。微笑んでいるがほんのり涙の後がある。心配をかけてしまったようだ。

 

 「はい、ちょっとのどが渇きましたが大丈夫です。」

 

 「そう、本当によかった。」と言って、ルーシア姉さんが水系統であるコンデンセイションでグラスに水を入れ、俺に持たせたあとも補助して飲ませてくれた。

 

 「父さんと母さんは重要な会議から抜けて来てたみたいで兄さんが起きるまで待てなかったんだ。今はトリスタニアの王城にいると思うよ。」

 

 「そうか、父上と母上にも悪い事をしてしまったな。」

 

 「いや、兄さんが生きながらえてほっとしていたよ。主治医も峠は越えたって言ってたし、安静にしていれば大丈夫だろうって。」

 

 そのあとクラウスから詳しく聞くと俺は3日ほど寝ていたらしい。今は昼で二人とも家庭教師のもとで勉強していたようだ。ルーシア姉さんは来年15歳になるので、来年にトリステイン魔法学院に入学する予定で、結構熱心に勉強しているらしい。あそこは学ぶところではなく社交しに行くところと言っていたのを思い出した。学院で学ぶ内容を全部終わらせてから行く気なのだろう。クラウスは早くラインに昇格したいらしく魔法に重点を置いているらしい。

 

 カスティグリア領のことは他の文官がほとんどやっており、両親は基本的に確認するだけらしい。たまに領地を回って視察も行うそうだ。つまり、兄弟たちは家庭教師に教わるか休憩するかで俺は基本的にぶっ倒れているのが仕事と……。いや、なんというかこれから先が辛い。せめて魔法使いたい。

 

 「そういえばクラウス、魔法教えてくれるって言ってたよな? それって今でもいいのか?」

 

 「ええ!? 兄さん、安静にしてないとダメだよ。」

 「そうよ、クロア。安静にしてないとダメよ。」

 

 オウフ……。しかしここは何としても暇つぶしのために魔法を使いたい。

 

 「そうは言うがな…その、なんだ、ライトを使った瞬間ちょっと痛みが引いて体が軽くなった気がしたんだ。もしかしたら魔法を使うのが身体にいいかもしれん。そう思わんか?」

 

 実際ちょっと体が軽くなったしな。詭弁ではあるまいよ?

 

 「兄さん、それ多分昇天しそうになっただけだよ!?」

 「クロア! そんな危険な状態だったのね……これ以上姉さんを心配させないで……。」

 

 そういえばそうとも取れるな……。

 

 「だがしかし、せっかく使えたのだ。自分の系統だけでも知りたいのだよ。」

 「そう、それくらいなら……。途中で調子が悪くなったらすぐ言うのよ? それでそのあとは絶対に安静にするのよ?」

 

 と言ってルーシア姉さんがしぶしぶ許可してくれた。クラウスに教えている家庭教師が俺の寝室に呼ばれ、ベッドの横には麻の敷物と桶に入った土、そして空の桶が用意された。

 俺はベッドサイドに腰掛けたまま、ここで各系統の魔法を使って系統を見るらしい。さて、ゼロの使い魔で出てくる系統魔法というものは四属性あり、土、水、風、火とある。ちなみに俺に備わっていて欲しい系統の順番でもある。虚無? あれはヒロインや主要人物専用だしライトで爆発しなかった時点で除外だ。

 

 土は何と言っても錬金。化学知識はあやふやだが工業系の知識や冶金関連の知識も少しある。これは是非とも錬金チートで内政ウマーしてクラウスを支えたいところである。

 

 そして水は何しろ治療特化だ。自分の体にも対応できるかもしれないし、のどが渇いたら自分で水を汲めるステキ魔法だ。水道のないこの時代、一番便利な系統と言っても過言ではないはずだ。

 

 次に風魔法。これはスクエアスペルである偏在の便利さはもとより、攻撃方法も見えない攻撃に特化している。フライで飛べるし、レビテーションで浮かせて運べるし、ライトニングクラウドで雷なんかも出せるしぶっちゃけ最強ではなかろうか。しかも、帆船がメインのこの時代、上二つに迫る便利さかもしれない。ミスタ・ギトーの風最強説もまんざら的外れではないと思う。

 

 最後に火だが、ぶっちゃけあまり期待していない。焚き火や放火やお湯を作るくらいしか思いつかない。原作のコルベール先生が平和利用を考えていたが、アレぶっちゃけ錬金メインだし。錬金できる人いないと平和利用も不可能だし! 火が一番重要な動力としたら蒸気機関だろうが、常に蒸気を作るだけの発火をし続けるのは無理だろう。

 しかも攻撃特化とか言いながら他の系統より郡を抜いて強いわけでもない。トリステイン最強は多分烈風さんで風系統だし、土系統トライアングルのフーケに火系統トライアングルのキュルケが全く歯が立たないとか火弱すぎじゃね? フーケが強すぎるの? というわけで全然使えないイメージしかない。

 

 

 「では何から行きますかな?」と家庭教師が言うので欲しい順番で行く事にしよう。「土からお願いします。」というと、クラウスが笑顔になった。「ではこの桶に入っている土に杖を向け、土から腕が出てくるイメージでアース・ハンドと唱えてください。」

 

 「ふむ。アース・ハンド」

 

 土がわずかに……ほんの極わずかに米粒くらいの土がぴくっと動いただけだった。

 

 「クロア殿に土系統は合わないようですな。次は何になさいますか?」そういう家庭教師に促されたがちょっとしょんぼりしたクラウスの顔が目に入り俺もちょっと辛かった。「で、では水で。」そういうと、「ではこの空の桶に水を注ぐイメージでコンデンセイションと唱えてください。」と言われた。

 ルーシア姉さんは笑顔で「クロア、がんばってね!」と応援してくれた。

 

 コンデンセイションはさっき見たばかりでイメージも楽だろう。大気にある水蒸気を集め、凝縮し、杖の先から桶に水を入れるイメージで……「コンデンセイション!」と唱えた。

 

 よーく桶を見ると、桶の中心部分にさっきまではなかったシミができた。生きているのが辛い。

 

 「ふむ。ここまで合わないのも珍しいですな。では次はどちらにしますか?」

 

 

 くっ、現実が辛い。もはや風に賭けるしかないのか!?「か、風で……」そういうと家庭教師は太いろうそくに火をつけて持ってきて、「ではこのろうそくの火に杖を向けて風を吹きかけるイメージで「ウインド」と唱えてください。」と言われた。ルーシア姉さんもクラウスも不安な顔になりつつある。ここは貴族として、一人のメイジとして是非とも使える魔法を習得したいものである。

 

 「ウインド!」

 

 ろうそくの炎がほんのり揺れた。

 

 ふぅ……というため息の方がよく揺れた……。

 

 二重にショックだった。泣きそうである。泣いていい? 俺役立たず決定かも。

 

 「に、兄さん! 気落ちしないで! まだ火があるよ!」

 「そうよ! クロア、火は攻撃最強と言われていて一番尊敬されるのよ!大丈夫。クロアは才能あるはずよ!」

 

 おおぅ、ルーシア姉さんとクラウスの優しさが痛い。しかし、自分で言い出したことなのに心配かけてばかりだな……。

 

 そうさ、火でもいいじゃないか。きっと役に立つ日が来るさ。そう自分を納得させてちょっと強がりで微笑んで「ありがとう、最後に火お願いします。」というと、窓を開けてそこから杖を出すようにしてちょっと手本を見せてくれた。杖から火がポッと出る感じだった。「ではこちらから杖を出してて杖の先から火が出るイメージで「ウル・カーノ」と唱えてください。発火の呪文になります。」と言って下がった。

 

 窓の近くに行くときに少しよろけてしまい、それを見たルーシア姉さんとクラウスに心配そうに支えられ、窓の外に杖を出す。この二人に負担をかけるのは心苦しいが、片方からは優しい香りと柔らかい感触、片方からは爽やかな香りと鍛えられたたくましい感触に支えられていると、なんだか俺が系統魔法が使えなくてもいいという気がして、なんかどうでも良くなってきた。まぁできれば俺も二人のために何かしたいのだがな。

 

 「では行きます。ウル・カーノ!」

 

 と唱えると、窓から突き出された杖から火炎放射器が作り出すような炎が出た。アレ? 発火じゃなかったの? どう見ても10mくらい炎が突き進んで先端に行くほど炎が上に上って行ってますが……。

 

 何これ怖い。消えろーと思ったら消えた。

 

 「すばらしい才能ですな! ここまでの発火を見たのは初めてでございます。クロア殿は間違いなく火の系統でしょう。」

 

 家庭教師の先生に断言されてしまった。左右を見ると兄弟たちは少し放心したあと

 

 「兄さん、さすが兄さん! 見事な発火でございました!」

 「クロア、やはりあなた魔法の才能があるのね! わたしも嬉しいわ!」

 

 と喜んでくれた。そして二人に支えられてベッドに戻された。いや、一人で歩けそうなんだが、ふらつくのが危なっかしくてダメだそうだ。

 

 「でも兄さん、発火でもあの大きさだと危ないから家の中では使わないでね?」

 「そうよ、クロア。使いたいときは私達が支えてあげるからそれまで我慢するのよ?」

 

 と釘を刺されてしまった。いや俺も怖くて使う気にならんが……。

 

 「そ、そうか。では自分の系統もわかったことだし、二人を心配させるのも悪いし、安静にしていよう。でも、もしよかったら火系統の魔法書や何かの本と書くものがあると嬉しいのだが。」

 

 そういうと二人の指示で3人のメイドさんがサイドテーブルに追加のサイドテーブルを用意してくれてその上に本や羊皮紙、羽ペンにインクが載せられた。ベッドの背もたれに寄りかかりながら読み書きできるように補助テーブルも用意してくれた。至れり尽くせりである。

 

 本は魔法書というより、魔法辞典のようなものだったのだが、思ったより薄い。まぁそんなに数がないのだろう。あとは簡単な読み物なんかだった。

 

 そういえばライトが使えるようになったのでコモンスペルも使えるだろうとのことで、この部屋の魔道具の使い方も教えてもらった。光量調整なんかもできるようだ。まぶしくない程度の薄暗さで読書に励みつつ、疲れたら寝ることにしよう。

 

 

 まぁ実はラフォイエを覚えた時点で少し結果の予想は出来ていたのだ。しかし、あそこまで他の系統が使えないとは思えなかった。それに精神的に疲れるとか精神力が減るといった現象は確認できなかった。これについては後々考察が必要だろう。まぁ発動するのだから減らない分には今のところ問題ないが、魔法に関して原作との乖離があるかもしれん。

 

 そして、これはもう使えるとか使えないとか関係なく火系統オンリーで突き進むしかないだろう。まさかあのコッパゲと同じ道をあゆむ……こ……と!? まさか俺も将来禿げるのか!? 早くも白髪交じりで虚弱の上、更にハゲの追撃があったらもう生きていける気がしない。そう思うと彼の不屈で強靭な精神には敬服せざるを得ない。

 

 いや、まだだ、まだ諦めるわけにはいかん。思い出せ―――確か両親はもとより小さい頃何度か会った事のある祖父母もフサフサだったはずだ。ならばこの悲劇は極自然に回避できるはず。……ふぅ。恐ろしい未来を想定してしまったようだ。安静にしなくてはならないのに、なんという心理的負担だ。

 

 今はともかく安静にしよう。魔法を使うより、窓まで歩くより、こんな事で消耗するとは思わなかったがちょっと辛くなってきた。

 

 そしてベッドに潜り込むといつの間にか寝ていた。

 

 

 




 いかがでしたでしょうか。大体こんな感じで進めて行こうかと思います。学院への入学は三話目を予定しています。

 果たしてオリ主は原作開始まで生き残れるのか!?

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