ゼロの使い魔で割りとハードモード   作:しうか

18 / 52
言ったろ!? ストックはもう貯めないと!

改変されたモンモンとマルコの使い魔が出てきます。元になった鳥の名前も入れておきました。余裕のある方は検索してみてください。動画なんかオススメ。


17 初めてのアルヴィーズの食堂

 

 目が覚めて起きてみるとどうやら熱は下がったようで頭痛もほとんどなく、熱によって四肢の関節を苛んでいた鈍痛も和らいでいた。呼吸もほとんど正常。ふむ。ギーシュのイベントが終わったのか? となると、2~3日寝ていたことになる。

 

 サイドテーブルに置いてある自分の杖を取って、ベッドの天蓋にかけられている薄いカーテンとベッドに影を落とすよう少し閉じている厚いカーテンを開いてみると部屋の中はいつものような明るさだった。薄いカーテンだけが窓に引かれているようだ。どうやら日中らしい。サイドテーブルに杖を戻してベッドの背もたれによりかかると、起きた事に気付いたシエスタがこちらに来た。

 

 「クロア様。おはようございます。おかげんはいかがですか?」

 

 「ああ、どうやら落ち着いたらしい。どのくらい寝ていた?」

 

 気遣ってくれるシエスタを安心させてどのくらい寝てたか尋ねると、安心したようで微笑みながら答えてくれた。

 

 「まだ一日も経っておりません。今はお休みなられた翌日の午前中です。それと、ご存知かもしれませんが、ミス・ヴァリエールの召喚した使い魔はヒラガ・サイトさんと言うそうです。今朝洗い場で偶然会いまして、少々お話をさせていただきました。」

 

 ふむ。無事接触は果たしたようだ。そしてイベント=体調が悪くなるというのも眉唾だったようだ。今日はギーシュに絡んで決闘イベントがあるはずである。イベント=体調不良だとすると、今体調がいいのはおかしい。やはり杞憂だったようで安心した。これからずっとあの苦痛を味わうかと思うと、つい取り返しの付かないほど派手に原作ブレイクしたくなってしまうからな。

 

 「ふむ。そういえばシエスタ。アルヴィーズの食堂は本塔の一階だったな? 今日は体調もすこぶる良いようなので、ここは学友達との友情を深めるためにも昼はそこで摂るとしよう。」

 

 と、真面目な顔で告げた。うん。あのギーシュが振られるところ見てみたいとか、何がきっかけで二股がバレるんだろうとか、ギーシュ対サイトの決闘が見てみたいとか、そういうものでは……。いや、完全にそういうものが盛りだくさんなので見逃すのは惜しい! ぶっちゃけあのギーシュが振られるところはぜひとも見てみたい。今の彼から考えると恐らく一生に一度あるかないかのレアシーンになるはずだ。

 

 「いいえ、ダメです。クロア様。お加減の優れない日の翌日は安静にしている決まりだとルーシア様もモンモランシー様も水メイジの方もおっしゃっていたではありませんか。」

 

 と、きつい顔でシエスタに却下された。うむ。確かに、シエスタの言うとおりである。しかしだな、イベントがだな……。シエスタを心配させるようで悪いが、ここは何としても折り合いをつけて昼までにアルヴィーズの食堂に到達するべきだ。

 

 「ふむ。確かにそうだ。しかし、ここまで体調が良いのも珍しいと思うのだよ。そうだな……。医務室から水メイジを呼んできてくれ。彼女の診断を受けて体調が良いようなら昼に食堂へ連れていって欲しい。」

 

 そう、シエスタに頼むと、

 

 「わかりました。でも途中でもしお加減が悪くなったらお部屋に戻ってもらいますがよろしいですか?」

 

 と念を押され。「当然だとも。シエスタ、感謝するよ。」と笑顔で言って協力を取り付けることができた。恐らく現在授業中……、いやミス・ヴァリエールが教室を吹き飛ばして中止だろうか。そうなると隣の部屋にモンモランシーがいる可能性が出てきた。

 

 シエスタが「水メイジを呼んでまいります」と言って出て行くときに、隣の部屋にモンモランシーがいるか確認したようで、少し時間が開いてシエスタがモンモランシーを連れて戻ってきた。そしてシエスタはモンモランシーに紅茶を入れながら、

 

 「偶然、そう偶然部屋を出たらモンモランシー様が訪ねていらっしゃったのでご案内いたしました。」

 

 「ええ、偶然よ。クロア。体調が良くなったみたいで安心したわ。」

 

 と、二人に笑顔で言われた。ぐ、偶然ならばいたしかたあるまいて! 偶然なら、うん。偶然だろう。そして、「それでは改めて行ってまいります。」と言ってシエスタは出て行った。

 

 「ところでクロア。急にアルヴィーズの食堂に行きたいなんて言い出したんですって?」

 

 と、ほんのり怖い真面目な顔でモンモランシーに迫られた。

 

 「ああ、今日は体調がいいからね。一度学院でも評判のいいアルヴィーズの食堂で初めてお昼を摂りながら婚約者であるモンモランシーや普段はあまり一緒にいない学友達と友好を深めるには良い機会だと思ったのだけど、モンモランシーは反対かい?」

 

 と、偶然ですよー。ええ、モンモランシーと豪華な食堂でお昼を摂りたいだけですよー。と聞いてみると

 

 「そう、そうね。水メイジの診断で問題がなければそうしましょう。私があなたの隣にいればすぐに対処できるでしょうし、レビテーションを掛ければ負担もなさそうだし、そ、そうね。二人きりで行きましょうか。後でシエスタには言っておくわ。」

 

 彼女は照れたようで、少しもじもじしながら了承してくれた。か、かわいい。くっ、ちょっと罪悪感が……いや、嘘じゃないから! かわいいモンモランシーとアルヴィーズの食堂でお昼デートをしながらギーシュのイベントを見学するのが目的だから! うん。嘘は吐いてない。それにシエスタにも言ってもらえるらしい。彼女がフリーになるなら才人への賄いも出せるはずだし願ったり叶ったりである。プリシラにもそう報告すると、彼女はその間、他の使い魔の様子を見に行くそうだ。

 

 そしてシエスタが医務室の水メイジを連れてきてくれて、診断してもらうと、体調は悪くなさそうですから大丈夫でしょう。という診断結果をいただけた。いつもよりマシかな? みたいなニュアンスがあった気もするが気にしないようにしよう。

 

 水メイジの診断も悪くなく、モンモランシーがお昼から戻るまで俺の面倒を見てくれるのと、もし体調が悪くなったらプリシラに伝えてもらう事でシエスタは了承してくれた。先に行って色々準備するらしい。いや、ご迷惑をおかけして申し訳ないです。

 

 お昼の時間までまだ結構あるのでモンモランシーが彼女の使い魔を紹介してもらった。大きさはプリシラの報告どおり大体60cmくらい。ペンギンのように直立しており、おなかの部分はふわふわの真っ白な羽毛で翼や背中はきれいなパステルカラーの青とも緑とも言いづらいエメラルドグリーンに近いような色をしている。しかしペンギンにしては足が長い気もするし、翼を広げてもらうとちゃんと羽ばたいて飛べるような構造にも見える。

 

 「私も調べてみてびっくりしたわ。」

 

 と言ってモンモランシーがこの子の紹介をしてくれた。ちなみに名前は原作通りロビンらしい。確か男女両方に使える名前だから問題ない。ちなみにロビンはメスらしい。

 ロビンはこのハルケギニアでも珍しい種類の鳥らしく、前世で言うところのウミガラスのような生態なのだが、特徴的な羽や羽毛が人気で乱獲され、今では絶滅したとも言われていたらしい。

 

 ウミガラスは前世の知識を詳しく掘り起こしてみると、前世の俺は大変気に入っていたらしく、色々な映像が思い出された。ウミガラスはロビンと違ってペンギンと同じような配色だが、やはり絶滅の危機にあったらしい。羽ばたいて空を飛ぶ事ができ、着水の時はまるで戦闘機が空母に着艦するような感じでとてもかっこいい。また、潜水も得意で、水上に着水してから潜水に入るのだが、海の中でも羽ばたき、データでは3分間、深さ50mほど潜るらしい。潜って魚を食べた後は浮上するのだが、そのシーンもまるでロケットが水中から直接空を目指すようなキレイな気泡の後と曲線を勢い良く描く。こんな鳥が前世にもいたのか。

 

 そしてモンモランシーの使い魔であるロビンさんは同じように空と水中を飛び、彼女が調べた図鑑によると潜水能力は約20分ほど、深さは約500メイルまで可能なのだそうだ。オスはエメラルドグリーンのところが真っ青なメタリックカラーになるらしい。特に海水や淡水と言ったこだわりはなく、近くの川で水浴びをすることがあるのでジャックと引き合わせたそうだ。ジャックがあの川の主になりつつあるらしい。

 

 ちなみに一緒に調べたマルコの鳥は前世で言うところのウシツツキのようだ。名前はクヴァーシルでオスだそうだ。ウシツツキにしては少しでかいのだが、確か他のキリンやゾウ、カバといった動物についたダニや寄生虫、虫などを突いて食べていたはずだ。こちらでも同じような生態らしく、ルーシア姉さんに相談した結果、ルーシア姉さんは大変お喜びになり、ジャックの背中がクヴァーシルの定位置になったそうだ。

 

 でも確か共存というよりカバ上位だったような。前世の記憶をたどってみると、カバが大口を開けてウシツツキが口の中をお掃除しているときに、カバがイラッとしたようで、何度かモグモグされたあとペッて吐き出され、プカーと浮いている映像が浮かんだ。ク、クヴァーシルが食われないよう祈ろう。

 

 あと、ギーシュの使い魔は原作通りジャイアントモールのヴェルダンデだそうだ。すでに仲がいいらしい。その光景を見てモンモランシーは軽く引いたそうだ。リアルヴェルダンデは微妙なのだろうか。かわいいと思ったのだがデフォルメされていたのだろうか。うむ。それもありうる。

 

 

 

 

 

 

 予定の時間が来たのでモンモランシーに軽くレビテーションを掛けてもらい、ほんのり浮いて手を繋いで連れて行ってもらった。いや、あ、歩けるとは思うのだがね。手を繋いで歩くのはその、うれしハズカシなのだがね。だがモンモランシーは上機嫌のようで笑顔を振りまいている。うん。かわいいから俺も恥ずかしいのはがまんしよう。

 

 初めて入るアルヴィーズの食堂は確かに豪華だった。三つある恐ろしく長いテーブルはそれぞれ百人ずつくらい座れるような大きな物で、ロウソクや花で飾りつけられている。名前の由来でもあるアルヴィーズ人形も周囲に配置されている。これは確か夜になったら踊るとかそういった話があった気がする。ぜひ確かめたいところだが、まぁ気にしないようにしよう。

 

 中二階もあり、そこは職員が座る席になっている。とりあえず、テーブルは学年ごとに分かれている以外はフリーらしい。一番手前の方は埋まっていたので間を空けて少し入ったところにモンモランシーと並んで座った。まだ少し早かったようで、結構人はまばらでそれぞれ会話を楽しんでいるようだ。

 

 「とてもステキな食堂だね。ここで一人で食事をしたら寂しいだろうけど君と一緒に来れてよかったよ。」

 

 と、笑顔で隣にいるモンモランシーに話しかけると、

 

 「そ、そう。良かったわね。私もあなたと一緒に食事ができて嬉しいわ。」

 

 とほんのり赤くなった顔を少し逸らした。

 

 「そういえばギーシュたちはいるかな? ちょっと遠いとわからないのだけど、モンモランシー、見てくれるかい?」

 

 そう聞いてみると、先ほどの照れを隠すように周りを見回してから

 

 「そうね……。まだ来ていないみたいね。」

 

 と、教えてくれた。そしてしばらくすると、ギーシュとマルコが他の友人を連れて入ってきた。

 

 「おお、クロア。こんなところで会えるとは、今日はどうしたんだい?」

 

 「やぁ、ギーシュ。今日は少し前に起きたのだけど調子がいいみたいだからアルヴィーズの食堂を見てみたくなってね。モンモランシーに無理を言って付き合ってもらったんだ。」

 

 と、驚いたような顔をしているギーシュに説明すると、納得してくれたようで、ギーシュもマルコも「そうか、初めてか」とつぶやいたあと近くの席に座った。彼らの友人達も軽く挨拶をしてからギーシュとマルコの側に座った。入り口側からモンモランシー、俺、ギーシュ、マルコ、ギーシュとマルコの友人達といった席順になっている。

 

 ま、まさかイベントをこんな間近で見れるのか!? 大変好都合でございます。ええ。今までの苦労はなんだったのでしょうか。しかも隣にはモンモランシーというステキな配置で、もはや今までで一番の幸運かもしれません。

 

 そして俺が席に着いたのが知らされたのか、シエスタが俺用のスープを一人前だけ運んできてくれた。いや、豪華な食事もいいけどこれで体調崩れたらもったいないですからね。シエスタの気遣いに感謝してもしきれません。

 

 「クロア様。本日は私が作らせていただきました。」

 

 と言って出されたものはなんとヨシェナヴェだった。おお、なんという幸運。

 

 「ありがとう、シエスタ。君の作るヨシェナヴェは絶品だからね。味あわせていただくよ。」

 

 と言うと、少し照れた感じで笑って、「ぜひご堪能ください」と言って壁際に下がった。そして、そろそろ時間なのか、

 

 「ダメ! ぜぇーったいダメ! ゼロって言った数だけご飯抜き!」

 

 というミス・ヴァリエールの怒りを含んだ大声がアルヴィーズの食堂に響き、みんなの視線を集めていた。我らがサイト殿は順調に原作を消化しているようだ。

 確か、ミス・ヴァリエールの二つ名というかあだ名というか蔑称の『ゼロ』は、彼女が魔法を使うと爆発するということを指しているのだが、それがサイトにバレてゼロゼロと彼女がからかわれたのをお昼直前に食事抜きという罰で反撃したところだったと思う。しかも彼は結構な数を言っていた気がする。シエスタがいなければそのまま餓死の可能性もあるのではなかろうか。いや、空腹を餌に躾だろうか。微妙なラインだと思う。外聞的にだが……。

 サイトが出て行くのが見えたので壁際にいるシエスタに目を向けると彼女は一度うなずいてサイトを歩いて追っていった。

 

 全員揃ったようでハルケギニア流いただきますの挨拶が始まる。「偉大なる始祖ブリミルと女王様。うんぬん」と言うヤツである。女王即位してないじゃん! とか 料理作った人はブリさんや女王じゃないじゃん! とか言うと不敬罪に問われると思うのだが、実はいつも一人で食べているので割りと適当に「ブリミル様と領民に感謝していただきます。」とか言ってたりする。今日は作ってくれたシエスタに感謝だな。いただきます。

 

 しかし、この世界で食べるシエスタ製ヨシェナヴェは絶品ですなー。ヨシェナヴェをこの世界に伝えた彼女の曾爺さんの少尉殿には感謝してもしきれませぬ。モグモグ。と食べていると、

 

 「おや、クロア。珍しいものを食べているね? 別メニューかい?」

 

 と、食の帝王、マルコがギーシュの向こうから話しかけてきた。この独特の香りに釣られたのだろうか。だがしかし、友とはいえ、食の帝王とはいえ! この俺のために作られたヨシェナヴェはおつゆの一滴すら死守する必要がある! 

 

 「ああ、俺は食が弱くてね。いつもスープなのだが、このヨシェナヴェだけはたまにしか口に出来ないお気に入りなのだよ。ただ、一人分なので分けて上げられないのが残念だが、今日は諦めてくれたまえ。」

 

 と、ルーシア姉さんの威圧感溢れる笑顔を意識しつつマルコに告げると、

 

 「そうか、でもとてもいい香りだね。今度もしヨシェナヴェを作ってもらうときは僕も呼んでくれないかい?」

 

 と、笑顔で遠慮してくれた。「おお、友よ。その時はぜひ呼ばせてもらうよ」と返しておいた。いつになるかは知らないが、多分大丈夫だろう。むしろヨシェナヴェパーティをやるなら俺も食べれていいかもしれない。今度シエスタとルーシア姉さんに頼んでみよう。はっ、ルーシア姉さんに頼めば口実もできて簡単に了承されるのではないか? すばらしい名案に思える。モグモグ。

 

 「クロア、その時は私も参加するわね。せっかく初めて一緒にアルヴィーズの食堂に来たのに、別々のものなんだもの。私もヨシェナヴェを頼んでみればよかったわ。」

 

 とちょっと残念そうにモンモランシーが漏らした。うん。そういえばそうかもしれない。だが、せっかくご馳走が並んでいるんだから気にせず食べたらいいんじゃなかろうか。

 

 「いや、俺はモンモランシーと並んで食べられるだけでいつもよりおいしく感じるよ。」

 

 と、言うと、「そ、そう。それならいいわ」と少し顔を赤くしたモンモランシーも食事を再開した。

 

 食事が終わり、食器が下げられると今度はデザートなのだが、ここでギーシュがこちらに話を振ってきた。

 

 「しかし君達はいつも初々しくてこちらまで照れてしまうね。とてもうらやましいよ。」

 

 ふむ。ここは原作の流れを俺に作れというブリミルのお告げだろうか。

 

 「そうかい? でも初々しいのは婚約してまだ一年も経っていないしね。もしかしたら見せつけているように感じるかもしれないけど、そんなつもりはないのでここは出来れば見逃していただきたいところだね。

 それよりギーシュ、いい人は見つかったかい? 今年は後輩も入ってきたことだし、気になる人は出来たかい?」

 

 そう、話を振り返すとギーシュの近くに座っている友人達が冷やかし始めた。

 

 「そうだよ、なぁギーシュ! お前今誰と付き合っているんだ?」

 

 「誰が恋人なんだ? ギーシュ!」

 

 と、どこかで見たことのあるようなセリフが飛び交い始める。確か事前情報では特定の気になる人はいなかったはずだが、ケティと遭遇できただろうか。

 

 「つきあう? 僕に特定の相手はいないのだよ。薔薇は多くの人を楽しませるために咲くのだからね。」

 

 と指を立てて格好良く言い放った。さすがギーシュである。キザなセリフも気負わず言えるナルシストっぷりは半端ない。

 しかし、ギーシュよ。その言い方だと男も寄ってこないかい?

 蝶に限定しなくていいのかい?

 ガリアの王様やゲルマニアの皇帝は薔薇を個人的な庭で育成するのが趣味だそうだよ?

 個人的な庭で育成されちゃうよ? 

と思っていると、視界の隅でギーシュのこちら側のズボンのポケットからなぜかハンカチが滑り落ちた。すごい滑らかさなのだろう。恐ろしく滑らかなのだろう。むしろ手触りが少し気になる。しかしここでハンカチに視線を落とすとイベントが流れてしまう可能性が高い。なんとか平静を装いつつ視点を固定する。

 

 そこを偶然シエスタのデザートの給仕を手伝いつつ通りかかったサイトが、ハンカチを落とすところを目撃したのだろう。

 

 「おい、ポケットからハンカチが落ちたぞ。」

 

 と、ギーシュにハンカチがポケットから落ちたことを告げた。原作では香水のビンだったがハンカチか……。どうなるのかわくわくが止まらない。ギーシュはピクッとしたあとも平然と無視を決め込んだ。あとでこっそり拾うのだろう。

 

 もしかしたらハンカチが自分のものか判断ができないだけかもしれない。香水のビンと違って誰もが恐らく持っているものだ。ハンカチというワードに反応しただけとも取れる。ここで俺がこっそり拾ってこっそり渡してあげてもいいのだが続きの展開が気になる。すまぬ、ギーシュよ。今日のイベントの主役になってくれたまえ。

 

 「落し物だよ。色男。」

 

 と言って、サイトが持っていた銀のトレイをシエスタに渡してハンカチを拾い、ギーシュの目の前に置いた。そして、ギーシュは知らないフリをするのかと思いきや、一瞬で無理と判断し隠す事を優先したのか、とても格好良くスマートに、

 

 「ああ、すまないね、給仕君」と言いながらギーシュはハンカチを瞬きする間に畳んでさっとズボンのポケットに戻した。冷やかしていたギーシュの友人達も特にハンカチに関して言及しない。香水のビンのように特別目立つものではなかったので“誰かから贈られた物”ではなく、“ハンカチは単にギーシュの持ち物”と判断されたようだ。

 

 しかし、テーブルに載った瞬間からハンカチに集中していた俺の赤い目は間近でちゃんと見えたため、端っこにキレイに刺繍された「ギーシュ様へ ケティより愛を込めて」という少し大きめの赤い文字と赤い薔薇を見逃さなかった。だが、ここで

 

 「ギーシュ! もしかしてそれはケティのハンカチではないかい? すばらしい滑らかさのようだね。少々触らせていただけないだろうか!」

 

 などと言うことはできない。むしろケティのハンカチってどういうことか自分でもよくわからない。既製品に刺繍だけした可能性もある。上手くつつく自信がない上に、これは友人としては黙っているべき案件だろう。できれば彼らに気付いて欲しかったのだがスマートに収めたギーシュに軍配が上がったようだ。

 

 アレ? ど、どういうことですかね? これで二股がバレてイベント開始ではなかったですかね? と考えていると、トレイは再びお手伝いであるサイトの手に戻り、

 

 「クロア様。デザートはいかがいたしますか?」

 

 と、シエスタが顔を近づけて耳元でささやいた。急に顔にシエスタの吐息がかかりビクッとしたが何とか平静を保って問い返す。

 

 「え、えっと。今日のデザートは俺でも食べられそう?」

 

 「ええ、食べられそうなものを私がご用意しました。いかがなさいますか?」

 

 シエスタがほんのり頬を染めて言ったのでいただく事にした。ご用意されたら食べねばなるまいて! 

 

 「ありがとう、いただくよ。」

 

 というと、目の前に直径5cm高さ1cmくらいのほんのり黄色い小さくて丸いケーキがのったお皿を置いてくれた。隣のモンモランシーのものを見ると普通のショートケーキのようだ。おお、ここでもクロア仕様なんですね? わかります。ええ、あの量はあとできつそうですからね。主に嘔吐的な意味で。少しスプーンで取って口に入れるとふわっととろけるような感触とほのかに酸味のある甘さが感じられた。シエスタは恐ろしく料理の腕がいいようだ。もしかしてシエスタはチート能力の持ち主なのではなかろうか。

 

 「とてもおいしいよ。ありがとう、シエスタ。」

 

 そうお礼を言うと、シエスタは赤みを増して照れたように笑顔を浮かべて

 

 「お気に召していただけて嬉しいです。」

 

 と喜んでくれた。次の順番であるギーシュのところに配膳するところで、

 

 「チッ、キザな貴族様ですこと」と、いうサイトの独り言のような声が聞こえた。

 

 ふむ。キザだっただろうか。個人的にはギーシュに劣っていると思うのだが……。位置的にはギーシュと俺のどちらとも取れる。もし俺に対して言ったのであれば、カスティグリアとして名乗っている以上見逃せない。ここでスルーすると恐らく“平民に目の前で嫌味を言われたまま逃げた”と捉えられる可能性がある。ギーシュも突然のことで少し思考停止したようだ。

 

 ああ、ギーシュじゃなくて俺がイベントの主人公なのか? ちょうど中間なので何とも言えないが俺の可能性も出てきた。まぁいい。原作のように決闘しないように済ませられるよう今回はサイトに説教でもしよう。せっかくの幸せな気分とデザートが台無しだ。

 

 「まちたまえ、給仕君。聞こえたぞ? そのキザな貴族様と言うのは俺のことかね? それとも隣にいるギーシュのことかね?」

 

 そう告げながらモンモランシーに背中を向ける形になるが、椅子に横向きで座るよう方向を変えた。ギーシュは椅子ごとテーブルと反対向きに回転するとシュタッと足を組んだ。自分でシエスタをサイトの側にいるよう仕向けておいてこれはないが、なんとか彼女に危害が及ばないようにしなくてはならない。シエスタは少し青い顔をしてこちらに体ごと振り返ったあと一歩下がった。サイトは少し顔をしかめたあと

 

 「へいへい、どーもすいませんでしたねー。行こうぜ、シエスタ。」

 

 と軽く流すように言って去ろうとした。ちょっとシエスタの方を向いて視線で一度離れるように指示をすると読み取ったのか少しうなずいて5mほど元来た方向へ離れた。サイトがトレイを持ち、シエスタが配膳する形になっているのでサイトの前を行くシエスタがこちらを向き、戻ったことでサイトは配膳を手伝う事もできず、さりとてシエスタが青い顔をして離れているので追うこともできず、何度かこちらとシエスタを見た後、こちらを睨むようにして一歩近づいた。

 

 「おい、謝っただろ? シエスタを脅すなよ。お貴族様よ!」

 

 ああ、イライラする。シエスタを危険な目にあわせているのは君なのだがね? 

 

 「いやいや、シエスタは平民で所属は学院に勤めるメイドだが、今は俺が借り受けているメイドだからね。むしろ君の無知に巻き込まれないよう保護しただけだ。しかし君は貴族に対する礼儀というものを知らないのかね?」

 

 そう、サイトに告げると銀のトレイを持ったままサイトが凄んできた。

 

 「生憎と貴族が一人もいない世界からきたんでね。大体人を貸し借りできるわけねーだろ。」

 

 困った。ここまで好戦的で無知だとは思わなかった。というか前世の記憶からサイトのいた時代でも女王や王様を初め、世界という括りなら他国には貴族いるだろ。しかも日本にも大正だか昭和まで貴族いただろ。歴史で教わらなかったのか? もしくはサイトのいた地球は前世の地球とは違うのだろうか。

 

 なんとなくだが民主主義や自由と平等が絶対の正義であり、貴族の治める社会は悪だと思っている節がある。前世の記憶もあるのでわからないでもないが、結局のところ生まれた瞬間から不平等で死ぬことだけが平等なのはどこの世界でも一緒だろう。それに残念ながらここはハルケギニアという世界でトリステイン王国だ。平民でも貴族と対等に話したいのであれば、功績を上げてシュヴァリエに叙されるか大金を払ってゲルマニアの貴族になるかロマリアで司教にでもなるしかない。

 

 それに平民は圧政に苦しんでいるわけでもなければ奴隷として扱われているわけでもない。この辺りを理解してもらえればと思ったのだが、メイジや貴族というものをただの金持ちと見ている節がある気がする。いや、普通に考えたら前世でも金持ちはかなりの力を持ってはいたと思うのだがね。恐らく近くにそういう人間がいなかったのだろう。

 

 それともミス・ヴァリエールに折檻されすぎて狂っているのだろうか。チラッとギーシュを見ると彼も何かおかしいと思ったようで少し眉を寄せて疑うような目をサイトに向けている。

 

 「ああ、クロア、彼は確かルイズの呼び出した平民の使い魔だよ。」

 

 と、ギーシュが解説を入れるとギーシュの友人達が口々に「ゼロのルイズの使い魔か」といい始めた。ゼロって言うとご飯抜きにされますよ? まぁこれで俺が知っていてもおかしくない状況になったので、教育と説得をしてみよう。

 

 「ああ、なるほど。平民の使い魔君。貴族の一人もいない世界から来たというのは本当かどうか判断に困るところだが、この際それはあまり問題ではないのだよ。使い魔君。君の飼い主であるミス・ヴァリエールに教育を受けてないのかい?

 知らないことも本来は罪であるのだが、ミス・ヴァリエールが自分の使い魔を教育出来ないというのであれば、同じクラスの(よしみ)で俺が教えてあげよう。いいかい? この国では平民は貴族を侮辱したり逆らったりしてはいけないのだよ。相手や運が悪ければ不敬罪で死ぬ事もあるんだよ? わかったら平民として跪いて床に額をつけて暴言を吐いたことに対する許しを請いたまえ。ちゃんとできたら今回は見逃してあげるよ。」

 

 と、折衷案というよりこの国ではかなり譲歩した提案をしたのだが、

 

 「黙って聞いてりゃいい気になりやがって、何が貴族だよ。たかが魔法が使えるくらいで威張りやがって、一生薔薇でもスプーンでもしゃぶってろ。」

 

 と言ってシエスタの方へ一歩踏み出した。あー。これはダメかもしれない。なんというか、説得が難しい。格好つけるときに薔薇をしゃぶるのはギーシュの得意技だが、俺は別に食べるときしかスプーンをくわえないのだがね。

 

 「待ちたまえ、平民の使い魔君。話の途中で逃げるのかい?」

 

 と、言うと、シエスタに銀のトレイを預けて戻ってきた。

 

 「お前みたいなチビ相手に逃げるわけねぇだろ? 喧嘩売ってんのか? 今ならいくらでも買ってやるぜ? お貴族様よ!」

 

 あー。終わった。説得失敗の瞬間だ。さてどうしよう。別にサイトじゃなければ決闘→焼却コンボで問題ないのだが、彼を焼却するのはいささか問題な気がする。一応ガンダールヴやミス・ヴァリエールの使い魔というのもあるが、何より主人公様だ。ぶっちゃけサイトじゃなければ「再召喚すればいいじゃない」で済んだのだが、まぁとりあえず焼けどか酸欠か爆風で落そう。死ぬ前に折れてくれるのを祈って「平民にしてはなかなかがんばるではないかー」作戦で行こう。きっとプリシラに手伝ってもらうと「平民相手に使い魔まで使うの?」とか周りに言われそうなので自力で手加減するしかない。かなり難易度の高い決闘になってしまった。

 

 少し周りを見回してからサイトに告げる。

 

 「そうか。致し方ないね。決闘だ。」

 

 と、言った瞬間アルヴィーズの食堂が沸いた。ああ、初のモンモランシーとの食堂デート。シエスタのデザート。それがこんな下らないことで終わるとは……。

 

 「ギーシュ、一緒に馬鹿にされた君には悪いが今回は譲ってもらうよ。先にヴェストリの広場に行って仕切りを頼む。」

 

 ギーシュは憤りを隠せないようだが、俺が先に決闘を宣言したので「仕方がないね、今回は譲ろう。友よ」と言って先に広場へ向った。

 

 「モンモランシー、ミス・ヴァリエールに説明をお願いするね。」

 

 と、振り返ってモンモランシーにミス・ヴァリエールへの説明をお願いすると、不安そうな顔をした。「ごめんね。せっかくのデートだったのに。」と言ってそっと彼女の頬を撫でると彼女は目を瞑って自分の手を重ねた。

 

 「我が友、マルコ。すまないがレビテーションで俺を運んでくれ、それと一人、彼の案内を頼む。」

 

 そうマルコと彼の友人に頼むと、「任せたまえ。友よ。」とマルコは笑顔で快諾してくれ、彼の友人も「俺が案内しよう」と言って名乗り出てくれた。

 

 「では、平民の使い魔君。デザートの配膳が済んだらきたまえ。」

 

 そうサイトに告げたとき、シエスタは悲しそうな顔をしていた。彼女の作ったデザート一口しか食べてないのだがね。サイトめ……。いや、せっかく知り合った平民がひどい目に合うと予感して悲しい顔をしたのだろうか。そうなると俺か……。まぁできれば後で埋め合わせしよう。

 

 マルコに運んでもらいながら初アルヴィーズの食堂を後にした。

 




いかがでしたでしょうか。ちなみに原作と同じセリフをいくつか書いたのですが規約でグレーゾーンみたいでちょっとドキドキしてます。
ええ、主人公でツッコミ入れたかったからですが!

ちょっと次の話で詰まりました。マジクロア死ぬかもorz

ここだけの話。ウミガラスの浮上シーンはハイゴッグの基地強襲する時の浮上シーンに似てる気がした。記憶が弱補正なので曖昧ですがね!

モンモンの使い魔は派手なカラーリング&大幅強化になってます。
マルコの使い魔は元のものより大きくなった程度です。頑強のルーンとか入れてジャックにモグモグされても死なない設定にしようかと(え

次回もおたのしみにー!

していただけるとちょっとがんばれます。

参考動画:youtube
Loyalty between a hippo & a bird   (カバさんモグモグ)
Meet the Underwater Rocket Bird    (ウミガラス)

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。