ゼロの使い魔で割りとハードモード   作:しうか

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思ったんだ。なんで私はストック貯めてるんだろう……。
楽しみにしてくれている人がいるなら放出すればいいじゃないと!


9 婚約式に必要なこと

 クラウスから羊皮紙の枚数制限をされたショックからなぜか二度の寝落ちを体験したクロアです。ええ、ファンタジーですからね。思いも寄らない不思議なことが起こるものです。最後はちゃんと寝たと思ったのですが起きてみるとまっさらな羊皮紙がサイドテーブルに置いてありました。もはやファンタジーではなくホラーの領域だと思います。

 

 しかし、いくらファンタジーとは言え、こんな事は初体験です。まさか本格的に死期が近いのでしょうか。いえ式が近いですね、クラウスの婚約式という――シキが……。どっちだ!? 割と真面目にどっちだ!? かなり疑わしいが、仮にいくら俺にイベント補正があったとしても弟の婚約式に死ぬとか縁起が悪すぎるだろう。

 

 ああ、そうか。確かにカスティグリアの今後を左右する重要な局面で俺が安静にしていないのはかなり問題だったのだな。

 ふむ、資料作りはしばらく封印しよう。自慢の弟クラウスを心配させてまでやることではないだろう。

 

 決して! そう、決して! 「また書いたはずの羊皮紙が真っ白になってたら怖い。」とかそういう類のモノではないと断言しよう! 貴族の名に、は……こここ、こんなことで誓う必要はなかろうて! うむ。貴族の名はそんなに安くはないのだよ! まさか死より怖いものがあったなんてな……(遠い目)。いや断じて怖くないが、うん。 

 

 しかし、本当にイベント=俺の死期とかだったら原作始まったらいつ死んでもおかしくないレベルではないだろうか。いや、今もかなり危険だが、今の状態でひたすら自力で地雷原を転がり続けるような危険度に跳ね上がる気がする。

 

 俺一人のことを考えるなら原作が始まる前に原作ブレイクのため虚無を片っ端から暗殺すれば危険度は減るがそんなことが心情的にできるはずがない。

 

 ほとんど、というか、何度……あれ? 俺まだ一度もルイズと話したことないかも……。驚愕の事実ですね! というかルイズって呼んだだけで「アンタにルイズ呼びを許した覚えはないわ!」とか言って叩かれて死ぬかもしれませんね。ミス・ヴァリエールって呼ばないといけませんね。ええ、実はこっちの方の命が危険で危ないですからね。実はまだあの有名な爆発魔法も見たことがありません。

 

 だがまぁ、三ヶ月とはいえ同じクラスで授業を受け(出席回数<<<<<欠席回数)、同じ学院で共に過ごした(授業以外での遭遇は多分ゼロ)仲間(相手が俺の事を覚えているかすら怪しい)であり、メインヒロインであるミス・ヴァリエールに手を掛けるのは俺には無理だ。

 彼女には全く非がない上に、可憐だし、自分の家格に負けないよう、貴族であろうと必死に努力するのはとても好感が持てる。

 

 友であるマルコの初恋の相手(断定)でもあるし、俺には心情的にハードルが高すぎる。

 

 いやまぁすでに少しブレイク気味だとは思いますが、判断は来年の使い魔召還まで取っておきましょう。まだギリギリ取り戻せる範囲のハズです。ギーシュやマルコの原作乖離っぷりが半端ないですが、恐らく彼らは原作小説の行間で、秒間24フレームの狭間で、このような感じで大活躍しているのでしょう。そしてきっとたまたま、そう、極めて極稀(ごくまれ)にたまたま醜態を晒していたに決まっています。そう考えればつじつまが合う気がしなくもありません。

 

 ええ、恐らく婚約式まで8日ほどだと思いますが、ベッドの上での生活を堪能しようかと存じます。

 

 

 

 

 

 

 

 婚約式の日の朝がやってきた。少しカーテンの隙間から外を見るとちょうど晴れていて、俺にはかなりまぶしいがクラウスにはいい門出になるだろう。俺の調子も今のところ大丈夫なようだ。いや、昨日よりは少し悪い気がしなくもないが大丈夫なはずだ……。というかマジでイベント補正あるのだろうか。普通逆なのでは?

 

 そして、遠くから来た方もいらっしゃるようで、この多分巨大な屋敷の部屋数が有効利用され、数日前からカスティグリアで過ごす方もいたようだ。

 遅くとも当日の昼前には招待客が揃い、昼食パーティのあと、婚約式だそうだ。できるだけ予定にゆとりが出来るようにしてあるとルーシア姉さんが教えてくれた。

 

 ちなみに、俺の知り合いも呼んであるらしい。モンモランシ家は全員三日前から、グラモン家も全員昨日入ったらしい。マルコのところはマルコと両親だそうだ。俺と交流のある貴族は全員揃った。いや、三つだけだし、実は何度もクラウスの誕生会とかで来ているらしい。

 

 あまり交流の無いところだと、マザリーニ枢機卿とかトリスタニアの父上の知り合いが集っているとか……。というかマザリーニ枢機卿が式の神父役をしてくれるのですかね? いや、枢機卿は教皇の次くらいの役職だった気がするのだが、そんな彼が神父のようなの役割を請け負ってくれたのだろうか。

 

 すごいな、カスティグリア家。いや、ただのゲストかもしれないが……。

 

 そういえば今日までほとんど寝ていた。それはもうぐっすりと寝ていた。何度か起きた記憶はあるのだが、かなり消耗していたのだろう。そして、昨日までに入ったモンモランシ家、グラモン家、グランドプレ家の方々が挨拶っぽいお見舞いに来てくれたらしい。いや、今日初めて知りました。すいません。

 

 ちゃんと安静に寝ていたのに家族だけでなく他家の方々にまで心配されてしまうとは……。

 

 しかし、その甲斐あって、今日は乗り切れそうな気がします。ルーシア姉さんが朝から予定を教えてくれるついでに俺の調子を見に来たようで、主治医の方も来て診療していただいた。恐らく大丈夫だろうとの診断もいただいたことだし、今日は多分大丈夫だろう。

 

 久々の朝食を摂りおわると、ルーシア姉さんに正装に着替えるよう言われた。いや、早すぎませんかね? まだあと半日以上ありますよ? 安静にしていたいのですが……。と思ったら色々と挨拶の方が来るらしい。いや、俺が行くのは危険ですからね。ええ、ここまで来て不安の種を撒く必要はないでしょう。ちょっと寂しい部屋でお客を招くのは気が引けるのですがしょうがありません。

 

 正装に着替えている間に、どんどん俺の部屋に椅子やテーブルが運び込まれ、座って歓談出来るようにセッティングされていく。テーブルは丸テーブルで、椅子が四つなので多くても二人ずつということだろうか、一対三で知らない人とかだったら体調が崩れる気がする。

 

 そしてティーカートが運び込まれ、紅茶の用意がされる。あ、一応モンモランシー特製俺用香水をちょっと付けておこう。こんなに緊張するのは恐らく転生以来ではなかろうか。決闘したり、オスマンの前で血を吐いたり、コルベールを挑発してもここまで緊張はなかった。

 

 恐るべし、弟の評価がかかったイベント。

 

 そして、挨拶のお迎えの準備が終わると、さっそくルーシア姉さんが段取りのために出て行った。クラウスは毎回こんな事をやっているのか。兄さんは始まる前からちょっと心理的不安がだな……。

 

 「兄さん、正装似合っているね。あ、モンモランシ嬢が一番最初だから準備があるならしておいてね?」

 

 クラウスがなんかいくつか丸めた羊皮紙を持って入ってきて俺の正装姿を褒めてくれた。羊皮紙の内容が少し気になる。ああ、終わったら質問タイムか? ふむ。さすが次期当主。枚数からして緊急性のある案件なのだろう。

 

 とりあえず俺が座る席と、クラウスが座る席を教えてもらって待機する。俺はベッドを背にした形で、今のところクラウスは右側のちょっと俺寄りに椅子が配置されている。対面は二脚だし、多くても二人ずつなのだが、なんかこの部屋に他の人を招くのは初めてなので緊張する。

 ルーシア姉さん主導で来客用に整えてくれたので今までの生活感溢れる部屋ではなくなっているが、一応部屋をぐるっと見回して、確認してちょっと気になったことがあった。

 

 「あ、モンモランシーの香水とか出しっぱなしで大丈夫かな?」

 

 と、クラウスに聞くと、ちょっと肩をすくめて、むしろ出しておいた方がいいと言われた。

 しかし、最初がモンモランシー嬢なのか。いや、ギーシュやマルコ辺りで場を温めてからの方がハードルが下ると思うのだが……。

 

 ルーシア姉さんが外で整理してくれているようで、ルーシア姉さんに招き入れられる形で、モンモランシーが入ってきた。

 

 彼女のドレスは艶やかで鮮やかな海のように青いシルクのような生地で、ひだが多くスカート部分がふんわりとしていてレースをたっぷり使った装飾がされたもので床とヒザの中間あたりまで覆っている。うん、とても似合っている。というか似合いすぎではないだろうか。

 髪飾りはいつもの単色のリボンではなく、白いレースがふんだんに使われ、ドレスに合わせたような生地ものを、後ろでいつもより少し大きなリボンにして付けている。

 

 すごく好みです。どうやって知ったんでしょうね? マジギーシュに……いや、よそう。気にしたら負けだ。いや、気にしなくても負けてる気がするが……。あー、顔が赤くなってないといいのだがね。貴族の仮面をかぶっていてもちょっと際どいかもね。

 

 しかし、彼女は緊張しているのか少し赤いがかなり真剣な顔をしている。いや、俺も緊張してるけどさ……。いや、ここはホスト側として場を暖めねばなるまいて。

 

 「ごきげんよう。モンモランシー、今日は特別ステキなドレスだね。いつもキレイだと思っていたけど、これ以上ないくらいとても良く似合っているよ。

 この部屋は僕のためにちょっと薄暗くしてあるけれど、君が入ってきて輝きが増したようだね。」

 

 そう挨拶すると、モンモランシーは赤くなりつつ真面目な顔のままで、

 

 「え、ええ……どうもありがとう。―――本当はもっと早く来る予定だったのよ? でもあなたの体調が悪いみたいで今日になってしまったの。本当に申し訳ないと思っているわ。」

 

 と謝られた。いや、別に今日でもいいのでは? 何か問題があるのだろうか。と、不思議に思って返答ついでに聞いてみようとすると、クラウスに促されてモンモランシーは俺の正面に座り、タイミングを失った。

 

 そして、俺も妙に真面目な顔をしたクラウスに促されて座る。すると、なぜかクラウスが用意されていたティーカートごとメイドさん達を下がらせてドアを閉め、ロックを掛けたあと錬金でドアや窓の隙間を塞ぎ、固定化の魔法を掛けた。同時にルーシア姉さんは部屋の壁にサイレントを掛けていく(使えるんだ?)。というか何が起こっているのかわからない。

 

 あの、一体何が始まるのでしょうか。もしかして悪魔祓いとかでしょうか。ええ、それならちょっと俺も不安があるのでお願いしたいところなのですが、それだとモンモランシーが今いる意味がわからない。というか、淡々と作業していく二人が少し怖い。なんか特殊部隊があらかじめ決められた動作で配置について次々と決められた処理を作業的に行っているような手際だ。

 

 ええ、マジで何が始まるのでしょうか。

 

 もしかして襲撃とかあんの!? まさかのフラグ回収!? 杖! って、そういえば正装に着替えてから杖持ってないな、どこだっけ? ああ、そういえばルーシア姉さんが着替えを手伝ってくれているときに回収されたままか。この正装だと差すところもないし、預かってくれたんだろう。まぁ危険があるようならすぐ渡してくれるはずだ。きっと内緒話をする程度だろう。

 

 しかし、カスティグリア家の接待はすごい厳重なのですね。ええ、こんな事を毎回やってるクラウスには脱帽です。そして右側にクラウス、左側にルーシア姉さんが座ると、恐らく司会役のクラウスが口を開いた。

 

 「さて、兄さん。今日は婚約式なのだけどね。誰と誰の婚約式かわかるかい?」

 

 今さら何を言っているのかね。俺はそこまでボケたわけではないぞ? まだ確か十五歳だったはずだし。……だったよね? あれ? 十四歳だっけ? まぁ細かい事は気にしないようにしよう。白髪が増えたら大変だ。

 

 「いや、お前と誰かだろう? 今日まで隠すのかと思って聞いてなかったがお相手はどなたなんだ?」

 

 と、今まで聞いてなかったことをほんのりごまかして返答を兼ねて聞くと、俺以外の三人にため息を吐かれた。「やはりここからか……」とつぶやいた後クラウスがさらに質問を重ねた。

 

 「一応話す順序は相談して決めてあるんだけどね……。いや、それでも最後に兄さんに聞きたいことがある。正直に話して欲しい。兄さん、モンモランシー嬢をどう思っている?」

 

 なんかすごいことをすごい真面目な顔で聞かれました。ええ、三人からの見えないプレッシャーが半端ないです。心の弱い兄にはちょっと辛い現状です。

 

 「正直にか。本人の前で? モンモランシー嬢、気を悪くしないでくれ、これでもクラウスはだな……。」

 

 そう、ちょっと話を逸らそうとすると、「彼女も了承済みだよ」と言われた。ううむ。正直にと言われてもだな。これはかなりハードルが高いのではなかろうか、クラウスよ……。心が痛むが覚悟を決めよう。まさか自分から完全にとどめを刺して失恋する羽目になるとは思わなかったがいい経験だろう。最後にこのドレス姿を目に収められただけでも幸運だ。―――そう思うしかない。

 

 「ふむ。では正直に話そう。モンモランシーはとてもステキな女性だ。ぜひ幸せになって欲しいと心から願っている。

 個人的には俺の友でもあるギーシュがオススメなのだがね。彼は四男だし、実家は君と同じ家格の伯爵家だし、君にふさわしいハンサムな外見をしているし、とても社交的だし性格もいい。俺と違って健康だし軍人志望なだけあって体力もある。モンモランシ家が婿に取るなら―――」

 

 と、ちょっと心の痛みを抑えながら無表情を意識してギーシュの売り込みを真面目にしていると、「兄さん、もういい」とクラウスに止められた。いや、正直に話せって言ったじゃん!? クラウスは怖い顔してるし、ルーシア姉さんは迫力のある笑みを浮かべてるし、モンモランシーは了承しているはずなのにうつむいている。

 

 「兄さんは本当に優しくて、本当に嘘つきだね? でもその優しさはいま必要ないんだ。ごめんね。僕としてもこんな事をするのは辛いんだけど、兄さんの為でもあるから許してほしい。」

 

 そして、「まずはこれを見てくれ」と差し出されたのはクラウスがいくつか丸めて持っていたうちの一枚の羊皮紙だった。そこには俺の筆跡で――――ちょっ、え? あれ? 一体ナゼコレガ存在スルノデスカ? コレハタシカ……。

 

 ―――ああ、もう無理。死のう。俺にはもうこの先生きていくことはできない。さらばハルケギニア。今からそちらに向かいます、ブリミル殿(仮)

 

 羊皮紙を隠滅するために破ろうとするが折り目どころか傷すら付かない!

 

 窓を開けて飛び降りようとしたが窓が開かない!

 

 窓を叩いてもびくともしない!

 

 杖を探すが杖がない!

 

 ラ・フォイエは……色々まずい!

 

 ドアに向かうには三人の障害を抜ける必要が!?

 

 こんなときこそ俺の虚弱の魔法!

 

って、思いっきり5日間かけて完全に回復してますね。ああ、詰んだ。俺の壮大な計画がたった今色々な意味で完全に詰みました。そしてこれから背負う業の深さに心が折れました。

 

 ええ、あの羊皮紙です。

 

 一枚目の消えた羊皮紙です。

 

 なんか妙なテンションで書いた気がした羊皮紙です。

 

 モンモンギーシュ攻略のためと自分の語彙力を増やすために色々と本心を書き綴った羊皮紙です。

 

 書かれている内容を見てはっきり思い出しました。まさか回収されているとは思いませんでした。しかも俺が精魂込めて(虚弱)削った痕(擦れて字が読みにくくなっただけ)を修復しようとかなり努力された痕跡があります。ぶっちゃけほとんど完璧に直ってます。これから先生きて行くのが辛い。

 

 くっ、一体どうしたら……って詰んでましたね。無いとは思いますが最後の望みにすがりましょう。

 

 「俺の自慢の弟クラウスよ。後生だ。俺の杖をくれ。そして後を頼む。」

 

 と、救いを求めて弟に頼むと、少し顔を赤くしたモンモランシーが涙を流しながら優しい笑みを浮かべて、

 

 「クロア。恥ずかしいのはわかるわ。本当にごめんなさい。」

 

 と、話し始めた。何かその慰める感じの笑みが今はとても心に突き刺さります。ええ、すごい取り乱しましたからね。もう恥ずかしくて生きていけません。でも、同じ事をクラウスがやったら俺も慰めつつ何日か腹痛と吐血で生死の境をさまようと思います。せめて引き篭もりましょう。

 

 そういえばベッドの天蓋には閉じた分厚いカーテンが……開かない。―――なんという用意周到さだ!

 

 「でも、私は嬉しかった。私は初めてあなたに会った時からあなたの事が好きなの。愛しているの。ギーシュじゃなくてあなたと結ばれたいのよ。」

 

 おっと、何か幻聴が聞こえましたね。ついに狂いましたかね? 目が悪い分、耳はいい方だと思っていたのですが、ええ、気のせい、じゃない、と思い、たい……。いや、しかしだな……。

 

 天蓋についている分厚いカーテンと格闘しているところで、ちょっと確認したいようなしたくないような、聞いていいことなのか、いけないことなのか、わからないことが出来たのでちょっとテーブルに戻ります。気のせいだったら直視するのは辛いので床を見ながら歩を進めます。

 

 カーテンとの格闘が原因か、幻聴が原因かはわからないが心拍数が上がりすぎて息が苦しい。「聞く前に死ぬかもしれんな……」と、思っていたら椅子が見えたところでルーシア姉さんの足が目に入った。ルーシア姉さんは俺の腕を取って椅子に座らせてくれたあとヒーリングをかけてくれた。ぜぇぜぇといい始めていた呼吸が少し楽になった。

 

 「え、えっと、聞き間違いでなければですね。えーっと、なんというか、俺と結ばれたいと聞こえた気がしたのですが、いえ、恐らく、もしかしたら、ちょっとショックで狂って幻聴が聞こえたのかもしれませんので、確認したいのですが……。ええ、もし俺が狂ったのなら後生ですからとどめをですね。」

 

 そう机を直視しながら少し震えた声を何とかしぼりだすと、椅子を引いてこちらに歩いてくる足音が聞こえ、視界の隅に鮮やかな青いドレスの裾が写った。そしてドレスの裾が床に少し広がり、俺の顔を包むように両側から柔らかい感触がしたと思ったら真っ赤になって瞳を潤ませたモンモランシーの顔が目の前にあった。心臓の音がうるさい。そしてまたちょっと息苦しくなってきた……。

 

 「クロア、愛してる。私の全てをあげるから、あなたの人生をちょうだい? 結婚しましょう?」

 

 と、彼女にはっきりと告げられ、そのまま目を瞑ったかと思ったら俺の唇に柔らかい感触がした。そして俺の停止気味の思考がその甘くて柔らかい感触が何であるかを悟った瞬間、前が真っ暗になりカクッと力が抜ける。

 

 あああああ! 多分人生最高の瞬間に! 

 

 と思ったら、俺のうるさい心臓の音と、ルーシア姉さんの詠唱の声と、モンモランシーの柔らかい唇の感触と、俺を包み込むような甘い香りがした。ルーシア姉さんは何度も俺にヒーリングを掛けているようで、詠唱がずっと続いている。

 

 一瞬気絶したのだろう。俺の目も閉じられていて開けたいけど恥ずかしくて開けられない。

 

 ちょっと迷ったところでルーシア姉さんの詠唱が途切れ、モンモランシーが唇を離した。

 は、恥ずかしい。えっと、ファーストキスですね。前世? カウント外です。多分真っ赤です。絶対耳まで真っ赤です。でもとても幸せな時間でした。

 

 そっと目を開けるとモンモランシーの蕩けきったような表情の真っ赤な顔があった。ああ、なんか俺もそんな感じの表情していそうですね。うん。さぁ、俺の瞳よ! 今こそその瞳にこの光景を焼き付けるんだ! 火の系統なら不可能はないはずだ! そう、焼くのが火の本分だ!

 

 「兄さん……。返答は?」

 

 と、言うクラウスの無粋なツッコミが―――俺は瞳への焼き付け作業で忙しい。後にしてくれたまへ。

 

 「答えを聞かせて? クロア……。」

 

 と、目の前でモンモランシーがさっきまで触れていたとても甘くて柔らかい唇でささやいた。えーっと……。モンモランシーの声が再び聞こえた瞬間、頭が甘くしびれて思考がまとまらない。考えるのはもう無理だ。

 

 「あなたに俺の人生を捧げます。えっと、あいしてる。もんもらんしー。」

 

 何か目の前がにじんで最後は少し泣いて声が震えてしまった。モンモランシーも瞳からキレイな雫を落として目を細めて微笑んだ。あー、うん。ごめん、ギーシュ。俺もう無理。と、思ったら再び力が抜けて暗転した。―――あ、えーっと? 捧げた瞬間に喪失? ってええええええええええ!? それが俺の最後の思考だった。

 

 

 




ええ、クロア君弱体化フラグです。私を待ち受けていた罠とも言います。
これからしばらくクロア君の化けの皮が剥がれ、モンモンとの恋愛メインになるかと存じますが、できれば! そう、できればお付き合いくださいorz

次回をおたのしみに!

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