ソード・アイドル・オレガイル   作:干支

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やはり彼の隠蔽スキルは群を抜いている。

《はじまりの街》を出て三十分ほど歩いたところで、ようやく目的地に到着した。

 

聳え立つ一本の大木を取り囲むようにして遥か彼方まで続く、果てしなく広大な草原。ここが一層の序盤に二つ存在する美味い狩場の内の片方だ。

 

リン「綺麗……」

 

と、隣に立っていたリンが呟く。それについては俺も同感である。

 

辺り一面を埋め尽くす鮮やかな緑と、空の透き通るような青の彩りは絶景で、見ていて気持ちが良い。

 

穏やかな風を肌に感じながら揺られる草木を眺めていると、ついついレベル上げという目的も忘れて昼寝をしてしまいそうになるが、なんとか踏みとどまる。

 

ちなみに、ここに来るまでの時間を利用して全員の使用武器を確認したところ、リンとチエリは昨日から変わらず細剣と短剣、カエデさんが俺と同じ曲刀で、ミカとウヅキは両手剣、コウメが片手棍で、リカとランコが槍ということが分かった。

 

ふむ、やはり斧は安定で女性プレイヤーには人気がないらしい。

 

あ、そうだ。

 

八幡「なあ、チエリ」

 

チエリ「は、はい。なんですか?」

 

八幡「これ、受け取ってくれ」

 

チエリ「えっ?」

 

メニュー画面からトレードウインドウを開き、今朝手に入れたレアドロップの短剣をチエリにプレゼントする。

 

チエリ「これは……?」

 

短剣を手に取って、不思議そうな目で眺めるチエリ。

 

八幡「一層で手に入る中じゃ、多分一番強い短剣だ。強化すれば三層くらいまでは使える」

 

チエリ「え……ええっ? い、いいんですか? そんな凄い物を貰ってしまって……」

 

八幡「ああ。曲刀使いの俺が短剣を持ってても意味ないしな。是非使ってくれ」

 

チエリ「あ、ありがとうございます。これ、大切にしますっ」

 

八幡「ああ」

 

本当にチエリの笑顔を見ていると心が癒されるな。小町、戸塚に続く第三の天使出現かもしれん。守りたいこの笑顔。

 

なんてことを思いながら、リンたちに向き直る。

 

その時、リンがこちら (というか俺) をジト目で見ていたような気がしたが、きっと気のせいだろう。

 

八幡「んじゃ、ここに出てくるモンスターの詳細について説明を始めるぞ」

 

俺のセリフを聞いて、全員がこちらに耳を傾ける……とはならなかった。例外が一人。

 

リカ「わーっ! ここすっごく見晴らしいいね、お姉ちゃん! お昼寝とかしたら絶対気持ちいいよ!」

 

草原の上をぴょんぴょん飛び跳ねるリカ。元気そうで何よりです。

 

ミカ「こら、リカったらもう! ごめんねハチマン」

 

ミカが申し訳なさそうに顔の前で手を合わせる。

 

八幡「いやまあ、うん。ちょっとくらいなら自由時間を設けてもいいだろう。息抜きも必要だしな」

 

まだ息抜きするようなこと何もしてないだろって? 分かってるよ。でも気にしないのが大人だ。ここで華麗にスルーできるかどうかで大人かどうかが決まると言っても過言ではない。いや、過言だな。

 

そして数分後。

 

リカ「ハチマンくん、ごめんなさい。話も聞かずに一人で騒いじゃって……」

 

一通り草原を堪能したリカが、ふと気付いたように慌てて眉を下げて謝ってきた。ちゃんと素直に謝れるのは人として素晴らしいことだと思います。

 

八幡「別に気にしなくてもいいぞ」

 

この景色を今日初めて見たのなら、はしゃぎたくなる気持ちも分かる。リカは見たところまだ中学生くらいだ。好奇心旺盛な年頃なのだろう。

 

リカ「その、怒ってる……?」

 

八幡「いや、全然」

 

この程度のことで怒るとか、短気過ぎるだろ。

 

リカ「本当?」

 

八幡「ああ。俺も初めてここに来た時は、ガラにもなくテンション上がったしな。どうだ、楽しかったか?」

 

俺が尋ねると、

 

リカ「うんっ! すっごく楽しかったよ!」

 

リカは満面の笑みでそう答えた。

 

八幡「そうか。なら良かった」

 

リカ「ありがとう、ハチマンくん!」

 

八幡「え、ああ……」

 

お礼を言われるようなことは何もしてないが……。

 

八幡「さてと、それじゃあ話を戻そうと思う。まず、ここに来る途中にも少し話したが、ここの敵は特殊攻撃がメインだ。出現するモンスターの種類は三つ。一体目は《リトルキャタピラー》。名前から分かるようにイモムシ型のモンスターだ。ただしリトルと言ってもそこそこ大きいから注意な。あとキモい」

 

ミカ「え、えぇっ!? い、イモムシ……っ!?」

 

ミカの顔が瞬時に青ざめる。この反応、もしかしなくても……。

 

八幡「虫、苦手なのか?」

 

ミカ「う、うん……」

 

コクリと力なく首を縦に振るミカ。

 

しかし考えてみれば、虫が嫌いという女性が多いのは当然といえば当然だろう。

 

八幡「えと、この中にミカと同じで虫が無理って奴、いたら手を挙げてもらっていいか?」

 

だが、俺の予想に反して、ミカ以外誰も手を挙げる者はいなかった。

 

八幡「え、ミカ以外、全員虫とか平気なのか?」

 

ウヅキ「平気というわけではないんですけど……」

 

コウメ「あ、あれだけ大きかったら……む、虫も獣も、もう一緒かなって……」

 

あー、なんか一周回って逆に吹っ切れた感じのアレか。

 

リン「それに、モンスターを見た目でいちいち怖がってられないよ」

 

なにこの子、男前過ぎない?

 

八幡「てか、もう虫型モンスター見たのか?」

 

リン「うん。昨日ハチマン達にメッセージを送る前に、自分に合った武器を確かめるために皆で《はじまりの街》周辺のフィールドに出て、その時にね」

 

八幡「なるほどな」

 

ミカ「ねえハチマン。アタシ、どうしたらいいかな……?」

 

自分を足手まといだと感じたのか、ミカが不安気に訊いてくる。

 

八幡「苦手なもんは仕方ねえよ。そこまで気を落とす必要はない。ここには虫型以外のモンスターも出るから、虫型が出現したら下がって、それ以外の敵が来たらミカも戦闘に参加すればいいんじゃねえの? リン達もそれで構わないか?」

 

リン「うん。私はいいよ」

 

カエデ「はい。分かりました」

 

リカ「お姉ちゃん、虫モンスターはアタシ達に任せて!」

 

皆が揃ってミカに笑顔を向ける。

 

ミカ「みんな、ありがとう……!」

 

ミカも安心したように笑顔を浮かべ、胸に飛び込んできたリカを優しく抱きとめていた。

 

姉妹仲良く百合百合してますね。眼福眼福。

 

ランコ「我が同胞よ。邪なる笑みが顔より溢れ出ておるが、如何した?(ハチマンさん。顔がニヤついていますが、どうしたんですか?)」

 

八幡「うえっ?」

 

突然ランコに話しかけられ変な声が出る。つーかニヤついちまってのかよ俺……気をつけねえとな。

 

八幡「あー、あれだ。姉妹が仲よくしてる光景は微笑ましいと思ってな。他意はない」

 

ランコ「ふむ、それは私も同感であるぞ。あの二人は互いに魂を分かち合った存在。切っても切り離せぬ運命共同体とも言うべき関係よ。(私もそう思います。本当に、ミカさんとリカちゃんは仲良し姉妹ですよね。)」

 

分かち合っているのは魂というより血じゃないのか? なんていう野暮なツッコミはしない。

 

八幡「えと、そろそろ説明を再開するぞ」

 

ミカ達の百合が落ち着いた頃合いを見計らって声をかける。

 

八幡「さっき言ったリトルキャタピラーはこの狩場では一番弱いモンスターで、注意すべきは糸攻撃の一つだけだ。これはダメージはないが、喰らうと十五秒もの間、行動速度がかなり下がる。誰かが喰らったら、すぐさまフォローに入るように。ここまでで質問あるか?」

 

チエリ「あ、あの……」

 

八幡「どうしたチエリ?」

 

チエリ「リトルキャタピラーの弱点って……どこなんですか?」

 

言われて気づく。

 

やべ、完全に弱点についての説明を忘れてたぜ。八幡うっかり。

 

八幡「いい質問だ、チエリ。良いところに目を付けたな」

 

それを悟られないように平静を装って、堂々と返す。

 

だが、

 

リン「ただ単に忘れてただけなんじゃ……」

 

八幡「リン、それ以上は言っちゃいけない」

 

水を差そうとしたリンを制止する。

 

八幡「リトルキャタピラーの弱点は腹だ。だが敵が腹を見せるのは糸攻撃をする時のみ。つまり弱点に攻撃を叩き込むチャンスは糸を吐き終えた後の極僅かな間だけということになる。とはいえ、弱点を狙い過ぎると逆に糸の餌食になるから、無理をしてまで狙う必要はない。当たればラッキーくらいの気持ちでいいだろう」

 

チエリ「わ、分かりました。その……丁寧にありがとうございます」

 

にっこりと微笑むチエリ。マジで天使に見えてきた。この笑顔は大天使チエリスマイルと名付けよう。

 

八幡「あ、ああ。んで、二体目は植物型モンスター《パウダーフラワー》。口から毒属性の粉と、腐蝕属性の粉を飛ばしてくるが、モーションも分かりやすく範囲も狭い。落ち着いて対処すれば問題ない。弱点は根と本体の接合部分だ。そして」

 

一呼吸置いてから口を開く。

 

八幡「最後の《クロウバット》。こいつが一番厄介だ」

 

コウメ「……ど、どういう風に、厄介……なんですか……?」

 

八幡「いい質問だ」

 

リン「ハチマン、それ言いたいだけでしょ」

 

よく分かったな。

 

八幡「クロウバットは特殊攻撃のパターンが一番多い。右の爪は毒属性を持ち、左の爪はスタン属性を持ってる」

 

カエデ「スタン属性……というのは?」

 

カエデさんが人差し指を頬に当てながら首を傾げる。あーもう可愛いなっ。

 

八幡「そ、阻害効果の一つです。喰らうと気絶まではしませんが、クロウバットの場合は三秒間、全く動けなくなります」

 

三秒間といえば短く感じるが、複数の敵に囲まれている時に喰らえば致命的だ。

 

八幡「今みたいにパーティーを組んでいるなら、互いにフォロー出来るんで大した問題じゃないですけどね」

 

ちなみに、ソロなら死は免れないと考えていい。ソースは俺。ベータテスト時はクロウバットのせいで何回もリンチされた。

 

八幡「それから、クロウバットにはまだ他にも特殊攻撃があってですね、尻尾の攻撃に腐蝕属性が付いてます」

 

ウヅキ「あの、さっき聞きそびれちゃったんですけど、腐蝕属性って何ですか……?」

 

八幡「腐蝕属性ってのは武器や防具の耐久値を下げてくる効果のことだ。まあ、クロウバットが出た瞬間に俺がやつの尻尾を部位破壊するから、取りこぼしがない限り敵がこの攻撃をしてくることはないと考えてくれていい。だが、俺がヘマをして敵がその技を使ってきた時は剣で受けずに避けてくれ。パウダーフラワーの粉も同様にな」

 

ウヅキ「はい、分かりましたっ」

 

八幡「んで、これがラストなんだが、クロウバットの噛みつき攻撃にも毒属性が付与されてる。クロウバットは動きが速いから各自気をつけてほしい。あ、弱点は頭な」

 

最後のまとめとして、指を二本立てる。

 

八幡「毒状態になる、糸攻撃を喰らう、体力が黄色になる。この三つのどれかに該当したら、即座に下がって回復すること。それと、絶対に無理はしないこと。この二つだけは必ず守ってくれ」

 

リン「うん、分かった」

 

ミカ「了解★」

 

八幡「よし。これでモンスターについての説明は終わりだ。次は戦闘において必須と言えるソードスキルについて話す。リンとチエリには昨日も話したが、もう一度おさらいしておく。全員、武器を構えてくれ」

 

その後。

 

二十分ほど使ってソードスキルのレクチャーを済ませ、ようやく俺たちは実戦に移った。

 

 

 

 

 

 

リンたちが狩りを開始してから早三時間。

 

最初こそ敵が繰り出す様々な特殊攻撃に手こずっていたリンたちだが、四十分ほど経過したあたりからモンスターの動きに全員慣れてきたのか、スムーズに敵を屠ることが出来るようになった。

 

そして一時間が過ぎる頃には、パーティーを四人ずつ二つに分けた状態でも危なげなく狩りを行えるまでに進展していた。

 

レベルの方も順調に上がっており、今は全員がレベル4になっている。この調子なら今日中に6か7まではいけそうだ。

 

ちなみに俺はこの三時間、クロウバットの尻尾破壊しかしていないので、当然経験値も溜まらずレベルは9のままである。

 

(うーむ。これは付き添いが終わったら、こっそり深夜から特訓コースかもな……)

 

と今夜の予定を適当に画策してみる。

 

とはいえ、レベリングの限界が近くなってきているので、これからは今までのようにそうそうレベルは上がらないだろう。

 

誰もが経験したことがあると思うが、ポケ◯ンしかりドラ◯エしかり、序盤のフィールドでは最初はぽんぽんレベルが上がっていくが、ある一定のレベルを超えた途端、そこのモンスターでは全くレベルが上がらなくなる現象。それがレベリングの限界というものだ。

 

一層のレベリングの限界値は恐らく12〜13程度。かなり頑張って14といったところか。

 

まあ、強靱な精神力と根気があればさらに上のレベルまでいけるだろうが、そこまでいくとレベリングよりスキルの熟練度を磨いた方がよほど有意義な気がする。

 

どうでもいいが俺の《隠蔽》スキルの熟練度の上がり具合は異常。なにこれ、俺のステルスヒッキーってゲームでも健在なの?

 

なんて下らないことを考えていると、

 

ランコ「我が眷属よ。(あの、ハチマンさん)」

 

隣にいたランコが声をかけてきた。

 

あれ、さっきは「同胞」だったような……なんか「眷属」にランクアップした? いや、どっちが上なのかは知らねえけど。

 

八幡「どうした?」

 

ランコ「貴方は先程から私たちの織りなす華麗なる舞をただ眺めているだけであろう? (ハチマンさん、さっきからずっと私たちの闘いを見てるだけですよね?)」

 

八幡「まあ、それが俺の役目だからな」

 

ランコ「しかしそれではあまりに退屈に違いあるまい。そこで皆の者と話し合い、これより貴方を加えた九人で三人一組のパーティーを三つ作って狩りを再開しようという話になったのだが、どうだろうか? (でも、それだとハチマンさんが退屈過ぎますよね。そこで皆と話し合って、今からハチマンさんを加えた九人で三人一組のパーティーを三つ作って一緒に狩りをしようという話になったんですけど、どうでしょうか?)」

 

簡単にまとめると、「見てるだけじゃ暇でしょ? なら私たちと一狩り行きましょう!」というお誘いだな。

 

少し思案したところ、実力的にも問題無いだろうし、経験値の面も考慮すれば、スリーマンセル形式をとるのも悪くないという結果に至った。決して俺も体を動かしたいとか、そんな理由ではない。本当だよ?

 

八幡「んじゃ、お言葉に甘えて参加させてもらうとするわ」

 

ランコ「そ、そうであるか! うむ、了解したっ。では皆の者にもそう伝えてこよう。(そ、そうですか! 分かりました! じゃあ皆に話してきますね)」

 

ランコはパァッと明るい笑顔を浮かべると、リンたちの元へ駆け足で向かい、俺が狩りに参加する旨を伝えた。

 

八幡「それで、俺はどこのパーティーに入ればいいんだ?」

 

ランコ「ふふ。それは勿論、我が部隊に決まっているであろう! (もちろん、私と一緒のパーティーですよ!)」

 

リン「ちょっと待ってランコ。何勝手に決めてるの?」

 

チエリ「そ、そうだよランコちゃん。ここは公平にジャンケンするべきだよ……」

 

ランコ「え、でも、だって……ハチマンさんを誘うって提案したの、私だし……」

 

リン「それはそうだけど、それとこれとは話は別でしょ?」

 

ランコ「べ、別じゃないもんっ。関係、あるもん……!」

 

何故か睨み合うリンとランコ。それをおろおろしながら見ているチエリ。なんか、これマズくね?

 

八幡「おい、その辺で」

 

リン・ランコ「「ハチマン(さん)は黙ってて!」」

 

八幡「その辺で散歩でもしよっかなー。でも、やめとこっかなー……」

 

リカ「ハチマンくん、情けないよ……」

 

八幡「いや、あれは無理だって……」

 

結局、カエデさんが仲裁に入り、最初に俺と組むメンバーはジャンケンで決めて、その後は十五分おきにパーティーの編成を変えるという事でリンとランコは納得した。

 

そして厳正なるジャンケンの結果、俺の最初のパーティーメンバーがコウメとリカに決まり、いざ狩りをスタートしようとした瞬間。

 

フィールドの向こうから五人の男性プレイヤーが歩いてくるのが見えた。

 

ここを訪れる奴が現れるのはもう少し後だと予想していたが……この狩場を知ってるってことは、ベータテストプレイヤーか?

 

つーか、なんでこんなに広いのにわざわざこっちに近づいてくんだよ……。

 

しかし、その理由はすぐに分かった。

 

「やぁ、君たち。よかったら俺たちと一緒にレベル上げをしないかい?」

 

はあ……ただのナンパかよ。くだらねえ。

 

ま、女性プレイヤーが圧倒的に少ないこのゲームで、こんな美少女八人を見かければ話しかけたくなる気持ちも分からんでもないが……。

 

リン「いえ、結構です」

 

リンはバッサリと男たちの提案を切り捨てた。その表情からは不機嫌さが窺える。

 

だが男たちもなかなか引き下がらない。

 

「そう言わずにさ。君たち、ベータテストプレイヤーじゃないよね?」

 

リン「だったら何ですか?」

 

「俺たちベータテストプレイヤーだから、かなり力になれると思うよ。俺たちのパーティーの平均レベルは5。今でここまで平均レベルが高いパーティーは俺たちくらいだろうね」

 

いや、昨日の俺らのパーティーの平均レベル7だったぞ。

 

リン「そういうの、もう間に合ってるんで」

 

「間に合ってるって、君たち八人の中にベータテストプレイヤーがいるのかい?」

 

え、八人? あれ、まさか……こいつら俺の事見えてない!?

 

リン「九人ですけど」

 

「え?」

 

八幡「どうも、幻の九人目です」

 

「「「っ!?」」」

 

男たちが全員、目を見開いて俺を見る。

 

マジで気づかれてなかったよ……って、あ、俺《隠蔽》スキル発動してるの忘れてた。てへぺろ。

 

「あんたがこの子たちを率いてるリーダーか?」

 

八幡「まあ、一応そうなるのかもな」

 

俺が答えると、男たちはくすくすと笑い出した。ん、俺何か面白いこと言った?

 

「ははっ! 君たち、やめときなって。こんな見るからに弱そうな目の腐った奴に闘い方を教わるなんてさ」

 

おい、目は関係ねえだろ目は!

 

「絶対俺たちと狩りをした方がためになるよ」

 

「だよなー!」

 

ギャハハと汚い笑みを俺に向ける男たち。

 

面倒くせぇ……嫉妬丸出しじゃねえかよ。こういう奴らには俺が何を言っても意味ないんだよな……。

 

さて、どうしたもんかと頭を悩ませていると、

 

リン「言いたいことがそれだけなら、さっさとどっか行ってくんない?」

 

ミカ「ほんと、あんた等みたいな人って見てて感じ悪いんだけど」

 

リンとミカは確かな怒りを孕んだ声でそう言った。

 

ちょ、なんで二人とも怒ってるの? まさか、俺が悪口を言われたから……?

 

「え?」

 

ミカ「この人のこと、何も知らないくせに勝手なこと言わないで」

 

リン「あんた達みたいな薄っぺらい人間より、ハチマンの方が何倍も強いし頼りになるよ」

 

「なに……?」

 

あーバカ、これ以上刺激したら……。

 

リン「あんた達みたいなのに用は無いって言ってんの。早く私たちの目の前から消えて」

 

「んだと……!」

 

八幡「はい、ストップ。悪いが、彼女たちもこう言ってるし、あんた達は諦めて向こうに行ってくんねえか? なんなら俺たちが場所を変えてもいいが」

 

これで場が収まってくれたらいいなー、とか希望的観測を述べてみるが、

 

「待てよ、お前」

 

もちろん、そうはいかないらしい。

 

八幡「なんだ?」

 

尋ねると、リーダーと思われる男は剣を抜いて俺に突き付けて言った。

 

「俺とデュエルしろよ」

 

うげぇ、ここにきてデュエル脳かよ。目が逢ったら頭の上に「!」マークが出て問答無用で闘いが始まっちゃうの? いやそれはバトル脳。

 

「お前とデュエルして勝てば、俺の方が強いって証明になるよな?」

 

男が獰猛な目を向け、デュエルの申請をしてくる。

 

リン「は、ハチマン……」

 

チエリ「ハチマンさん……」

 

リンたちが心配そうな目で見てくる。

 

八幡「大丈夫だ。心配ない」

 

心底面倒だが、逃げるという選択肢は無さそうだ。仕方ない。

 

八幡「いいぜ。受けてやるよ、そのデュエル。ただ……」

 

俺は一息置いて、

 

八幡「お前には思い知ってもらうぞ。デスゲームと化したこの世界でプレイヤーに剣を向けたその報いと、噛み付く相手を間違えるとどうなるのかをな」

 

俺は「Yes」のボタンを押し、曲刀を構えた。


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