【習作】一般人×転生×転生=魔王   作:清流

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護堂より早く六人目の正体が公表された場合を想定して書いてみました。想定外なことに、先に書いたものを肯定する感想を多く頂き、正直あのままでいいかなとも思ったのですが、折角書きましたのであげます。
どちらが自然か、どちらの先を読みたいか活動報告の方に意見を頂けたら幸いです。

※アンケートになりますので、感想にどちらがいい旨はおやめ下さい。お手数ですが、活動報告の方にお願いします。

2014/10/21
どうするか決めましたので、アンケートは終了させていただきます。僅か一日でしたが、多くの感想と意見をありがとうございました。非常に参考になりました。私自身、本作で何を書きたかったのかを今一度見つめなおすことができたと思います。読んで頂いた全ての方に心より御礼申し上げます。



#06-IF.予期せぬ遭遇と新たな火種

【グリニッジの賢人議会により作成された、神無徹についての報告書より抜粋】

 すでに述べたとおり、神無徹は6人目のカンピオーネである。彼の王はオーストリアでの大規模破壊事件『魔王の狂宴』(詳細については日本の正史編纂委員会から提出された報告書を参照のこと)において初めて公的に確認された王であり、日本の正史編纂委員会からの報告によれば、その三年ほど前に日本の神殺しの神である迦具土を殺害し、カンピオーネになったものと推測される。

 彼は魔王の狂宴において見せた白銀の巨狼へと変身する権能『神喰らう魔狼』(北欧神話のトリックスターロキの息子である魔狼フェンリルから簒奪されたものと思わわれる)、カンピオーネとなる際に迦具土から簒奪した権能『神滅の焔』等、非常に攻撃的な権能を持つ魔王である。また、その戦歴は定かではないが、彼の魔王としての在位期間を考えれば、他にも複数の権能を所有している可能性もあるので、諸兄らは注意されたい。

 彼の王は護国という明確な方針を打ち出しており、民草の保護に熱心なアメリカのジョン・プルートー・スミスにつながるものを持っている。しかし、誤解してはならない。彼は故国とその民が無事であれば良いのであって、それ以外の国や民についてまで寛容でも慈悲深いわけではない。「俗世の権力争いに興味はないが、日本に呪的干渉をすれば、相応の報復をする」という彼の言葉がその証左である。日本に対して、今後は慎重な対応が求められよう。

 

 

 

 

 

 

 それは、賢人議会を通しての自身の正体の公表を済まし、大きな貸しがある『剣の王』サルバトーレ・ドニを盟主と崇めるイタリアの魔術結社に顔見せがてら、日本に下手なことをするなと脅……もとい釘を刺していた時のことだった。

 《赤銅黒十字》《青銅黒十字》をはじめ、《老貴婦人》《雌狼》《百合の都》《蒼穹の鷲》《楯》と名だたる魔術結社を脅し終え、折角近場に来たのだからとかつての恩師を訪ねようと思ったのが間違いであった。

 

 当初の予定通り、サルバトーレが会う前にさっさと退散するべきだったと、徹は心底後悔していた。カンピオーネになる以前に術の手解きをしてくれたことのある旧知の魔女ルクレチア・ゾラが住むサルデーニャ島には、覚えのありすぎる神気の痕跡があったからだ。

 

 「義兄さん、これは……!?」

 

 「ああ、まず間違いないだろうな。ここのところのありえない天気は十中八九まつろわぬ神の仕業だったのだろうな。だが、それにしてもなぜこの神気をここで感じる?」

 

 「かの神の神具か魔導書があったのかな?でも、神代のものがそう都合よくあるもの?」

 

 「あの人なら、案外隠し持っていてもおかしくないのが怖いところだ。

 まあ、なんにせよ、ここで魔術関係で頼るならあの人以上の適任はいない。どうも事後のようだし、急ぐぞ!」

 

 「うん、了解!」

 

 脳裏を過ぎるいやな想像を押し殺しながら、徹と美雪は足を速めるのであった。

 ちなみに、二人がここで退散を選ばなかったのは、カンピオーネの騒動誘引体質を実体験から骨の髄まで理解していたが故だ。逃げても追ってくるorもっと厄介な事態に遭遇するのどちらかでしかないのだ。ならば退散したところで、それは先送りでしかないのだから無意味であると判断できる程度には、慣れてしまっていたのだった。

 

 

 

 

 「おや、久しぶりだな。ここの所、千客万来だな」

 

 そんな声と共に徹と美雪を迎えたのは、亜麻色の長い髪が美しい20代半ばの美女だ。だらしなくネグリジェのままでどこか気だるげだが、60を超える老婆とは思えない色香が漂っていた。呪力が至純の域に達した魔女は肉体を若さを保つ特権を持つ。その若々しい外見は、美雪同様ルクレチアもその域にある実力者であることの証左にほかならない。

 

 「ご無沙汰しています。直接会うのはおよそ10年ぶりでしょうか?こっちは義妹の美雪です」

 

 「……」

 

 美雪が徹の紹介に合わせて頭を下げる。

 

 「相変わらず御堅いことだな。まあ、適当に座ってくれ。

 それにしても、もうそんなになるか。時が経つのは早いものだ。結婚の報を聞いたのがついこの間のように思えるのにな……。

 まさか、君も(・・)魔王様になっていたとは夢にも思っていなかったがな」

 

 「それについてはご勘弁を。私もなりたくてなったわけではありませんから……」

 

 「……まあ、詳しくは聞くまい。大体、今や君の方が遥かに上の立場にあるのだからな。敬語など使う必要はないぞ?いや、むしろ、私が敬語を使うべきかな?」 

 

 徹の言の葉から何かを感じ取ったのか、ルクレチアは追求を早急に諦めた。代わりにどこか悪戯っぽい表情でそんなことを言った。

 

 「やめて下さい。貴女に敬語使われるとか、鳥肌がたちそうです」

 

 本気で嫌そうに叫ぶ徹。

 

 「に、義兄さん、いくらんでもそこまで言わなくても……「甘い!」……えっ!?」

 

 その反応に、流石にあんまりだと思った美雪が苦言を呈するが、徹は一顧だにせず切り捨てた。

 

 「この人に師事している間に、私がどれだけからかわれたか分かるか?散々玩具にされたのは忘れていない!」

 

 「いやー、あの頃の青年は純情でからかいがあったというのにな。今じゃ、すっかりすれてしまって……私は師として悲しいぞ」

 

 「誰のせいだと思っているんですか……(この若作りババアめ)」

 

 およよと泣真似すらするルクレチアに、血管を浮き立たせて徹は言う。

 

 「さて、誰のせいだろうな?」

 

 だが、どこ吹く風でしれっと言い放つルクレチア。その様にぐぬぬと歯噛みする徹。とても無所属の魔術師と神殺しの魔王のやり取りには見えない。まあ、それだけ両者の関係は深いということだろう。

 

 「だが、いい目をするようになった。今の君は確かにこの世界で生きているようだ。

 あの頃の君は、術式の研究以外では生きていなかったからな。旧友の頼みで、かつ君に並外れた才能がなければ、さっさと放り出していただろうな。まあ、純心だったから、からかい甲斐はあったがね」

 

 痛いところを突かれて、徹が黙り込む。徹がこの世界で本当の意味で生きられるようになったのは、亡き妻美夏のおかげなのだ。それまで、彼は惰性で生きていたようなものなので、返す言葉はない。

 

 「まさか、その為に義兄さんを?」

 

 美雪がルクレチアを見直したように問うが、答は期待したものとは全く違った。

 

 「いや、純然たる私の趣味だ。なに、純心な青年を誘惑するのは、魔女の嗜みというものだろう。それに戸惑う様は中々に愉快だったぞ」

 

 「どうせ、そんなことだろうと思ってましたよ」「!?」

 

 悪びれなく胸を張って宣言するルクレチアに徹は諦めたように呟き、あんまりな答に美雪は絶句した。

 

 「やれやれ、そこのお嬢さんくらいにいい反応をしてくれるかと思えば、すっかりやさぐれてしまったようだ。からかい甲斐がなくてつまらん!人生にはユーモアが必要だというのに、まったく分かっていないな。

 まあ、いい。それで今日は何の用かな?王になってまで、今更私に師事しにきたわけでもなかろうし、旧交を温めにきただけでもあるまい」

 

 「ご慧眼です、流石は地の位を極めたサルデーニャの魔女。といいたところですが、最初は本当に旧交を温めに来ただけだったのですよ。ですが、この地でありえないものを感じましてね。是が非でも貴女に聞かなければならないことができたのです」

 

 「ありえないもの?それは何だ?」

 

 「天気もそうですが、何より問題なのは、この地に僅かに漂うプロメテウスの神気です」

 

 「うん?天気は分かるが、プロメテウスの神気だとなぜそこまで特定できる?」

 

 ルクレチアは怪訝な顔をする。それも無理もない。この地には先だってウルスラグナにメルカルトと名だたるまつろわぬ神がいたのだから。確かに、プロメテウスの《偸盗》の力を封じた神代の魔導書『プロメテウス秘笈』が存在したとはいえ、現在では消滅しているし、実際に顕現していた前者二神とは比べくもないはずなのだ。

 

 徹はルクレチアのもっともな問に僅かに逡巡した後、迷いを振り切るように口を開いた。 

 

 「……まあ、貴女ならいいでしょう。簡単ですよ、私は先頃まつろわぬプロメテウスを殺めたからです」

 

 「義兄さん!プロメテウスのことは、賢人議会にも明かしていないというのにいいの?」

 

 殺めた神の情報は所持する権能と直結する最重要機密である。故に6人目のカンピオーネとしての正体を明かした今も、迦具土以外は賢人議会にすら教えていない。それをあっさりと話してしまったのだ。思わず美雪が声を上げたのも無理もないことであった。

 

 「大丈夫だ、美雪。この人はふざけちゃいるが、一線は守る人だ。ですよね?」

 

 「ああ、もちろんだ。だが、君も人が悪くなったな……」

 

 信頼の証といえば聞こえはいいが、その実ルクレチアを絡めとる鎖だ。賢人議会すら知らないことを知れたというのは大きいが、その一方で対価となるようなものを渡さねばならなくなった。情報ならば、一切の隠し立てはできない。なまじルクレチア自身の疑問に答えるという形であったから、尚更である。

 

 「貴女の薫陶を受けたおかげですよ」

 

 内心で舌打ちするルクレチアを余所に、そんなことをしれっとのたまう徹。

 

 「この狸め!あの純心な青年はどこへいってしまったのやら……。まったく嘆かわしい。

 ハア、それで、何が知りたい?」

 

 「そうですね、何よりもなぜここにプロメテウスの神気の残滓がここにあるのかを。後は、ここ最近この地で起きたまつろわぬ神関連の情報を」

 

 「それは全てというんだよ、やれやれ。分かった、私の知る限りを話そう。ただ、長い話になる。茶を淹れてくれ」

 

 そう言いながらも、平然と王をあごで使おうとするあたり、ルクレチアも大した玉である。

 

 「分かりました。勝手知りたる人の家ですからね」

 

 徹は苦笑して頷く。かつて師事していた時、炊事洗濯をはじめとした家事全般は彼の役目だったのだ。ルクレチアの小間使いなど、慣れたものである。

 

 「義兄さん、私が」

 

 フットワークも軽く、あっさりと了承して立ち上がった徹に、すかさず美雪が代わりを申し出る。義妹としても、魔術師としても、流石に神殺しの魔王に給仕の真似事をさせるなど受け入れられなかったからだ。

 

 「ああ、いいよ。美雪は座っていてくれ。その人が逃げ出さないように見張っといてくれ。中々往生際の悪い人だからな」

 

 だが、徹は取り合わない。その手は淀みなく動き、着々と準備を整えていく。妹の心、兄知らずというべきか。

 

 「やれやれ、そんなに警戒しなくても逃げたりはしないとも。私が魔力を使い果たして休養中であることは理解しているだろうに」

 

 「この手のことで、貴女の言葉は信用できませんからね」

 

 「ふむ、お互いに相手のことをよく知っているというのは便利なようで、存外不便なことなのかもしれんな。ありもしない裏を読まれてしまう」

 

 「……」

 

 気心の知れている両者の掛け合いに美雪は疎外感を感じた。なんというか、除け者にされているようでおもしろくない。思わずムッとしてしまう。

 

 「おっと、すまないな。お嬢さんをないがしろにするつもりはなかったのだが、久方ぶりの再会だったものでな。まあ、君は普段独占しているのだから、今くらい貸してくれてもいいだろう?」

 

 そんな美雪の様子に目敏く気づいたルクレチアは、人の悪そうな笑みを浮かべてそんなことを言った。

 

 「そんな。私はただ!」

 

 「ああ、安心していい。誘惑してからかったりしたことはあるが、私とあれはあくまで師弟関係だ。実際の男女の関係など皆無だよ」

 

 「っ!?」

 

 最も気にしていたことをあっさりと言われてしまい、言葉に詰まる美雪。ルクレチアは対照的に新しい獲物を見定めた狩人の目をしていた。

 

 「ふふふっ、何そう心配することはない。あの青年、いや今は魔王陛下と呼ぶべきかな?まあ、ともかく、彼が私に師事していたのはそう長いことではないし、今ならともかく当時のあれは術式をこねくり回すこと以外では生きていなかったからな。流石にそんなものに体を許す程、私は安い女ではないよ」

 

 「生きてはいないですか……」

 

 美雪は義兄のそんな姿を知らない。美雪が徹と会った時には、すでに徹は美夏により立ち直った後だったのだから無理もない。それはある意味幸運なことなのだが、自分が知らない想い人のことがあるというのは愉快なことではない。他者がそれを知っているなら、尚更である。

 

 「ああ、知らないなら知らない方がいいぞ。昔のあれは惰性で生きていた男としての魅力のかけらもない奴だったからだな。目的も意思もなく、流されるままに生きているだけだった。まあ、純心な分からかい甲斐はあったがそれだけだ。よくぞ、あれを今の状態に叩き直せたものだ。私は君の姉君を心から賞賛するよ」

 

 ルクレチアは何かを思い出すかのように遠い目をした。

 

 「姉さん……」

 

 ルクレチアの言い様を見るに、魅力のかけらもなかったというのは真実なのだろう。

 だが、そんな状態の徹を美夏は愛したのだ。姉はルクレチアにもできなかったことをやってのけたのだ。今更ながらに亡き姉が想い人に与えた影響の大きさを痛感する。

 

 「昔の話は勘弁してくれませんかね。これでも結構後悔しているんで」

 

 そうこうしている内に、人数分の茶を徹が運んできた。どうも筒抜けだったようである。まあ、別段声を潜めていたわけでもないので、無理もないが。

 

 「ご苦労。うん、そうだな。いつまでも過ぎ去ったことを話すのもあれだ。それに正直過去の君はは不毛極まりない存在だったからな。語るだけ無駄というものだ」

 

 「事実ですけど、えらい言われようですね」

 

 「君自身、否定しないのだからそういうことなのだよ。

 さて、本題に移ろう。そもそもの始まりは、ウルスラグナとメルカルト二柱の神々が争ったことに端を発する」

 

 「そういうことですか。その消耗、巻き込まれたんですね?」

 

 「ご明察だ、限界まで魔術を使って生き延びることが精一杯だったよ。おかげで呪力はすっからかんで、この様というわけだ」

 

 ルクレチアは気だるげで動こうしないのは、けして本人のずぼらさだけが理由ではない。呪力を回復し肉体の消耗を抑える為でもあるのだ。

 

 「それにしてもウルスラグナとメルカルトですか?プロメテウスの神気は一体どこから?」

 

 ウルスラグナ、イラン神話の勝利の神で、その名は「障害を打ち破る者」を意味する。インド神話のインドラにあたる神格である。ゾロアスター教における中級の善神(ヤザタ)で、10の化身を持つとされる軍神である。また、ミスラの武器の鋭い牙の猪がウルスラグナとも称されている。

 メルカルト、ティルスの主神。冥府の王にして、植物の生長サイクルを司る者にして狩人であるカナン神話の英雄神。審判者バールとも同一視されるが、バールの妹アシュタルテの息子にあたり神としての性質も異なる。また、ヘラクレスとも同一視されるが、神性はそれよりも古いとされる。

 

 両神ともに出てくる神話も異なり、プロメテウスのプの字もない。あえて言うならば、プロメテウスを助けたというヘラクレスと同一視されるメルカルトだが、それでプロメテウスの神気が残るとは考え辛い。徹が疑問に思うのも、もっともな話であった。

 

 「まあ、そう急くな。はじまりといっただろう?話の重要なところ、いや、本当の発端はこれからだ。

 先程、千客万来といったとおり、実は君達以外にも休養中の私を訪ねてきたものがいる。一人は赤銅黒十字の大騎士、もう一人は私の旧友の孫だ。と言っても、大騎士の方は私に用があったというよりは、旧友の孫が私に返そうとしたものに興味があったようだがね。

 そう、その大騎士が気にしていた返却物こそ、君が気にしているプロメテウスの神気の原因だろう。私がかつて所有していたそれは神代の魔導書でね。《偸盗》の力を封じたもので『プロメテウス秘笈』という」

 

 「『プロメテウス秘笈』、それが私の感じたものの原因か。神代の魔導書、それも《偸盗》の力を封じたものならば尚更だな。なるほど」

 

 なるほど、己が手に入れた権能と同種のものだったせいで、他のニ神のものより薄いにも関わらず鋭敏に感じ取れたというわけだ。謎は解けたと徹は納得顔で頷いた。

 

 「それにしても神代の魔導書を一時的にとはいえ、手放していたのはなぜでしょう?いくら貴女でも相応に貴重なものであったはずでは?」

 

 美雪が疑問を呈する。神代の魔導書など、現代では早々お目にかかれるものではない。それは魔術師として当然の問であった。

 

 「なに、手元にあっても始末に困る代物だったからさ。実は日本で物騒な祟り神相手に使用済みでね。すでにあれには神の力が溜め込まれていたのさ。

 あ、使えばいいとか思ったろう?それができれば良かったのだがね、生憎とそれはできない。なにせ、使えばまず間違いなく死ぬのだからね。実際、私の前の所有者はそれで亡くなっているくらいだ」

 

 「え、それじゃあ……」

 

 「そう、今更持って来られても始末に困る。正直に言えば面倒くさいことになったというのが本音だったよ。そこで私はあえて有効につかえないであろう大馬鹿者の旧友の孫にそれを押し付けた。そうすることで、彼を血気盛んな大騎士の枷とすると共に、間接的に『プロメテウス秘笈』を真実有効に使える者に渡るようにしたのだ」

 

 「使える者?まさか……!」

 

 「君の御同輩、サルバトーレ卿だ。カンピオーネである彼ならば、有効に活用できるだろうからな。まあ、これは見当違いというか、斜め上の結果となったんだがな」

 

 「えっ、あの剣バカの手には渡らなかったということですか?」

 

 剣バカ、『魔王の狂宴』以来、徹はサルバートレをそう呼ぶようになっていた。最も、この世でそんな風にかの王を公然と呼ぶのは同胞たるカンピオーネか、『王の執事』アンドレア・リベラだけだろうが。

 

 「うむ、そうだ。旧友の孫である少年は見事大騎士の枷としては機能としたようだが、結果として『プロメテウス秘笈』はサルバトーレ卿には渡らなかった。使ったのは、なんと他ならぬ少年自身だったのだ」

 

 

 「「えっ!?」」

 

 驚きで徹と美雪の声が重なる。

 

 「ちょっと待って下さい。その旧友のお孫さんて、大騎士の枷にしたっていうくらいですから、魔術師でもなんでもない一般人なんですよね?」

 

 最悪の事態に思い至ったのか、問いかける徹の言葉は震えている。

 

 「ああ、祖父共々魔術とも神とも無縁の一般人だとも」

 

 「それじゃあ、その子は……!」

 

 使えば超一流の魔術師でも死ぬ可能性が極めて高い『プロメテウス秘笈』に溜められた神の力。それをただの一般人が使用して、ただで済むわけがない。

 

 「ああ、当然の如く死んだ。但し、ウルスラグナと相討ちになってな」

 

 淡々と結末を語るルクレチア。だが、そこに悲壮感はない。当然だ、彼は現在も生きているのだから。

 

 「「はあっ!?」」

 

 予想通りの結末である前半はともかく、予想外の後半部分で徹と美雪は思わず声を上げた。

 

 「くっくっくっ、おもしろいだろう?」

 

 「面白いで済むか!ルクレチア、まさかその子は!?」

 

 あまりの予想外の展開に敬語を使うことすら忘れた徹が詰め寄る。

 

 「ああ、察しのとおりだ。八人目の神殺しとして新生し、君の同輩となったわけだ。

 しかし、旧友の息子と孫がカンピオーネになろうとは私の人脈も捨てたものではないな。

 しかも、片方は誕生に大幅に寄与していると来た。人生、何があるか分からないものだ」

 

 それを尻目にさも愉快気に語るルクレチア。

 ありえない情報に落ち着こうとして紅茶に口に含んだ美雪は、正確に情報を咀嚼して認識した結果、噴き出すなど一人漫才のようなことをやっていたのは余談である。

 

 

 

 

 

 しばし後、徹や美雪の混乱が収まり、落ち着いてきたのを見計らって、ルクレチアが意外なことを頼んできた。

 

 「それでだ、同郷のよしみで魔王レベル1の少年を助けてやってくれないか?」

 

 「助ける?それはまたなんでですか?」

 

 「生憎相討ったのはウルスラグナだけでな。メルカルトは現在も健在だ。実のところ、君達が来る少し前ににそのことで件の彼から電話で相談されたところだったのだよ。どうも権能の扱いに難儀しているらしくてな。

 流石に初戦の相手として、神王メルカルトは厳しいんじゃないかと思うわけだよ。旧友の孫だし、私自身が少年がカンピオーネになるのに一役買ってしまっているからな。放置して死なれるのは、寝覚めが悪い」

 

 「その少年がどんな人間だったかは知りませんが、神殺しになったというのなら、相手が誰であっても関係ありませんよ」

 

 「ほう、それはなぜだ?」

 

 「お忘れですか?私達カンピオーネはただの人間であった時に、遥か格上であった神を殺した者達です。である以上、権能がうまく使えなかろうが、格上であろうがそんなのは大した問題じゃありません。それでも勝機を見出すのが神殺しですから」

 

 よく誤解されがちだが、カンピオーネが強いのは権能があるからではない。確かに権能は強力無比だが、それでも神との力の差は明確であるのだから。カンピオーネになる者はいずれもその明確な差をひっくり返す何かを持っているのだと徹は考えている。

 特に八人目がただの一般人から神殺しになったというのなら、尚更だ。これで相手が《鋼》か知恵の神とかなら心配もしようが、神王としてのメルカルトならば、相性は悪くないだろう。

 

 「……経験談かな?」

 

 「そうとも言えるし、そうでないとも言えます。

 ――――――そうですね、貴女には恩義がありますから。必要ないとは思いますが、その要請を受けるのは吝かではありません」

 

 ルクレチアにはかつて本当に世話になったし、また新しく同胞になった少年にも興味がないと言えば嘘になる。それに同郷ということは、いずれ嫌でも顔を合わせることになるのは間違いない。万が一にも敵対した時に備えて、少しでも情報を得ておくのは損ではないと徹は判断したのだ。

 

 「ふむ、何か条件があるのか?」

 

 「いえ、そんなけちなことを言うつもりはありません。その新しく同胞となった少年の名は?」

 

 それはある意味、当然の問だった。いかに同胞といえど名も知らないのでは捜しにくいし、助力しにくいからだ。うっかりしていたと、ポンとルクレチアが手を打つ。

 

 「おお、そういえば言ってなかったな。中々に気持ちのいい馬鹿でな、面白い少年だったよ。名は草薙護堂という。ああ、赤銅黒十字の大騎士エリカ・ブランデッリが侍っているだろうから、ついででいいのできにかけてやってくれ。パオロ卿の姪御だからな」

 

 「承知した――――――草薙護堂か」

 

 些か面倒だが、暴れても問題のない国外で神を名乗る愚者を殺せるなら、徹に否はない。まだ見ぬ神との対決を予感して血が沸き立つのを感じながらがら、それを抑えるように八人目の名を呟くのだった。

 

 

 

 

 神の怒りたり嵐を黄金の剣が切り裂き、次いで黒き猪が巨人と格闘戦を披露し、そこに空間全てを蝗が埋め尽くしたと思いきや、東天よりフレアの槍が射出される。それはまさにリアルな怪獣映画そのものだった。

 

 「黄金の剣、神の来歴を明らかにすることでその神力を切り裂く智慧の剣か。後輩君は便利なものをもっているな。それに加えて、神獣らしき猪の召喚に大火力の太陽の焔と来たか。なって間もないというのに多彩で羨ましい限りだ」

 

 その光景を間近で見ながら、感心したように徹は言う。生まれたばかりでありながら、この権能の多彩さは目を瞠るものがあったからだ。とても元一般人のド素人の初陣だとは思えない光景である。

 

 「八人目草薙護堂が手に入れた権能は恐らくウルスラグナの十の化身に間違いないと思う。いかなる盤面においても勝利を掴む勝利の神らしい極めて応用性の高い権能ね」

 

 それに対し、美雪の態度は冷徹そのものだ。八人目の権能を観察し、冷静に見極め考察している。まるでいつか敵対する時を想定しているようであった。

 

 「ああ、その通りだな。だが、あのタイプは使用制限や使用条件がきついことが殆どだ。自由自在というわけにはいかぬだろうな。

 しかし、これならば援軍の必要はなかったようだな。まあ、単純に間に合わなかっただけとも言えるが……。

 これでは骨折り損のくたびれ儲けといったところだな」

 

 徹は諦観と共に嘆息する。ルクレチアの要請を受け、援軍に行くことにしたのはよかったのだが、護堂とメルカルトがいる肝心のパレルモに行く手段が軒並み駄目になっていたのが痛かった。メルカルトが起こしたと思われる嵐は、公共の交通機関を完全にシャットアウトしてしまったのだ。なまじ欧州がカンピオーネやまつろわぬ神にへの対処に慣れていることも災いした。君子危うきに近寄らず。魔王であることを隠した状態では強権も振るえない。サルバトーレが襲来する危険性を恐れて、地元の魔術結社の協力を拒絶したののも失敗だった。その上、有力な魔術結社には脅しをかけたばかりである。流石に協力要請するのは躊躇われた。いかな魔王様といえど、そこまで徹は厚顔無恥になれなかったのだ。

 

 で、散々悩みぬいた結果、フェンリルの権能を用いて、自力でパレルモに行くことにした。まず、間違いなくサルバトーレが襲来するだろうが、援軍が間に合わなかったのでは意味がないし、最悪来る前にさっさと帰国すればいいと判断したからだ。まあ、白銀の巨狼が大地を駆け抜ける様は地元魔術結社の者達を震撼させたが、それに構っている余裕は徹にはなかった。これが結果的に徹が六人目であることを周知させることになったりするのだが、完全な余談である。

 

 しかし、それでも一歩遅かったようであった。八人目のカンピオーネである草薙護堂と神王メルカルトの戦いはすでに佳境に入っている。というか、あのフレアの槍で終わりだろう。いかに神王メルカルトといえど、神獣をしとめようとした隙を突かれては、避けることも防ぐこともかなうまい。

 

 「いや、どうやら出番はありそうだな。横取りするようであれだが、どうせ権能は増えないだろうから構うまい」

 

 「義兄さん!?」

 

 「美雪はここにいろ。すぐに迎えに来る!」

 

 徹は叫ぶようにそう言うと、陸へとあがった護堂達のもとに『猿飛』の術で跳んだのだった。

 

 

 

 

 

 「なんていうか、ちょっとすさまじすぎるな……」

 

 「断っておくけど、ほとんどあなたひとりでしでかしたことよ」

 

 自らの手によって滅茶苦茶になったシチリアの古都の惨状に、護堂は他人事のように感嘆した。すかさず、おまえがやったことだとエリカから突っ込みが入るが、それでもあまりに現実味のない光景であった。

 神にも魔術にも無縁な一般人であった護堂には、それが己の所業であるなど現実味が薄いのは無理もないことだろう。

 

 だが、現実は優しくない。観光名所と名を馳せたかつてとは変わり果てた目の前の光景とエリカの言葉が否応なく現実を護堂に理解させた。――――――これは己がしでかしたことなのだと。

 

 「ここに100年前、太陽のかけらが落ちてきたとか言っても、うっかりしんようされちまうかもしれないぞ……」

 

 鉄筋や石造りの建物、アスファルトの道路などはどうにか原型を留めているものの、どろどろに溶けてから固まった硝子のように、やたら輪郭がぐにゃぐにゃしていた。燃えやすいものは跡形もなく消滅し、フェリーチェ門さえもどろどろでぐにゃぐにゃである。冗談めかして、そんなことを言ってみた護堂だったが、全然洒落になってないことを自覚して、頭を抱えた。

 

 ――――――俺はなんてことをしでかしたのだ!

 

 荒波の如く忸怩たる後悔が護堂に押し寄せる。そして、それはどうしようもない程の決定的な隙であった。

 

 「少年、戦いにおいて残心は重要なものだ。特にまつろわぬ神との戦いではな」

 

 その言葉に護堂がはっと振り向けば、何者かが傍に立って何かを受け止めていた。大きさが変化していたが、護堂はすぐにその何かの正体に思い当たる。

 

 「まさか、アイムールとかいう棍棒!?あれで生きてたのかよ!」

 

 「なるほど、これが海神ヤムを倒すために工芸神コシャル・ハシスがバアルに与えた魔法の棍棒か。名は「撃退」を意味するのだったかな?が、生憎と私とは相性が悪かったな」

 

 何者か、黒髪の男がそう言いながら力を込めると、アイムールは溶けるように消滅した。護堂はその光景に驚きながらも、目の前の男から目を外せない。彼の直感が言っているのだ。目の前の男は、あるいはメルカルト以上の脅威であると。

 

 「護堂!」

 

 エリカが焦ったように走ってくるが、生憎と今の護堂に意識をさく余裕はなかった。そのくらい、目の前の男に集中していたのだ。

 

 「ぬう、ここに来て神殺しがもう一人だと!?我が小僧との戦いで消耗するのを待っていたのか!?」

 

 メルカルトらしき声がいずこから聞こえてくる。よく見れば、棍棒の飛んで来た方向に球電が浮かんでいるではないか。さしものメルカルトの肉体もフレアの槍には耐え切れなかったらしいが、霊体は健在のようだ。

 

 「いや、そんなつもりはなかったんだがね。思った以上に、後輩がよくやるんで手を出す必要がなかったんだよ。本当なら、最後まで見ているだけのつもりだったが、お前さんの最後っ屁を感知してな。折角、華々しく初陣を飾ったのにあそこで無防備にくらうのは、流石に格好がつかないだろう?

 なんで、余計な手出しであることは百も承知で、手を出させてもらったわけだ」

 

 「ぬうう、おのれ!」

 

 「おっと、逃げようとしても無駄だ。私はお前達、まつろわぬ神は見つけ次第抹殺すると決めているのでね」

 

 そう言いながら、男の姿がたちまち変化していき、白銀の巨狼が現れる。

 

 『お前はここで死ね!』 

 

 酷薄な死刑宣告と共に白銀の巨狼が襲い掛かる。風により逃げ去ろうとした物言う雷は、すんでのころでその顎から逃れたが、白銀の巨狼の攻撃は終わってなどいなかった。その巨大な口を開けると、吸い込んだのだ。その吸引力は凄まじく、離れていた護堂やエリカにも影響があった程だ。確固たる肉体を失い、物言う雷と化したメルカルトにそれに抗える術はなかった。

 

 「おのれーーーーー!」

 

 断末魔を上げながら、白銀の巨狼の口に吸い込まれる。そうして口を閉じ何かを噛みしめるように口を動かした白銀の巨狼は、護堂とエリカに向き直った。

 

 『横取りするような真似をして、すまないな。だが、見ていた限りこれ以上戦えるだけの余力はあるまい?あのままなら逃していただろうからな。流石にそれは見過ごせん。

 どの道、権能は増えないのだから、大目に見てくれると助かる』

 

 「それは別にいいけど……。あ、あんたは?」

 

 護堂としてはこれ以上、身に余る力は欲しくないので、権能が増えなかったことについてはどうでもよかった。ただ、目の前の白銀の巨狼となった男の正体が気にかかる。

 

 「護堂、この方は恐らく六人目の……」

 

 「六人目?正体不明とか言ってなかったか?」

 

 「つい先日、正体を明かされたのよ。アイムールを燃やし尽くした炎の権能『神滅の焔』に、白銀の巨狼に変身する権能『神喰らう魔狼』。御身は六人目の魔王『神無徹』様でいらっしゃいますね?」

 

 『いかにも。同郷の神殺しよ、お初にお目にかかる。私が六人目のカンピオーネ神無徹だ。以後見知りおき願う』

 

 ちょっと気取った言い回しをする白銀の巨狼。その様子がなんともいえず、妙な人間臭さを護堂に感じさせる。

 

 「まさか、俺以外にも日本人のカンピオーネがいたのかよ」

 

 『それはすまない。ちょっと事情があって秘匿していたのだ。驚かせたようだが悪く思わないでくれ』

 

 「確かに驚かされたけど……まあ、いいさ。そんなことよりあんた元に戻らないのかよ?流石にもうメルカルトは生きちゃいないんだろう?」

 

 『ああ、本来はそうすべきだろう。私としても色々話したいことがあるからな。だが、そういうわけにもいかないんだ』

 

 「なんでだよ?」

 

 『ここへ来るのに、少し無茶をしてな。恐らく今頃、超特急で剣バカがこちらにむかっているだろうからな。八人目の君の噂に私と来れば、奴はあらゆる障害を切り伏せて絶対に来る。押し付けるようで悪いが、私は早々に逃げさせてもらうよ。あれの相手は色んな意味で面倒なのでな』

 

 「剣バカって……」

 

 あんまりな言い様に護堂は言葉を失くす。一方でエリカは、それで誰が来るか分かってしまったことに微妙な気分になった。

 

 『それはその娘から聞くといい。この話の続きは帰国してからとしよう。

 あ、一つだけ忠告しておこう。まつろわぬ神も我々カンピオーネも常人より遥かに生き汚い。勝ったと思っても最後まで気を抜かぬことだ。そうでなければ、此度のような無様を晒すことになるだろう』

 

 「っ!」

 

 痛い所を突かれて、護堂が押し黙る。気を抜いていて不意を突かれたのは事実なだけに反論できないからだ。

 

 『フフフッ、再会を楽しみにしている。サラバだ』

 

 白銀の巨狼は別れ際に一声嘶くと、あとは振り返ることもなく去っていた。

 そうして、イタリア、シチリアの古都パレルモで、本来ありえなかった六人目と八人目のカンピオーネの邂逅はなされたのだった。

 余談だが、この後押っ取り刀で駆けつけた《剣の王》サルバトーレ・ドニにお茶を呑もうレベルの気軽さで決闘してみないと誘われた護堂は、冗談だと思いあっさりとかわしたのだが、それが原因で帰国して間も無くトラブルに巻き込まれることになる。最終的にイタリアへ乗り込み、結局サルバトーレと決闘する羽目になった護堂は六人目が早々と逃げた理由を嫌と言う程知ることになるのだった。

 

 

 

 

 

 

 「うーん、八人目の坊やは中々だったね。でも、まだ未完成という感じかな。次戦うにしても、護堂が十の化身を完全に掌握するのを待ちたいところだね」

 

 護堂との決闘を終え、引き分けという形になりながらも、《剣の王》サルバトーレ・ドニはご機嫌だった。新たな同胞が誕生し、その力を確かめられたのも嬉しかったが、何よりも『魔王の狂宴』以来探し求めていた六人目の正体と所在が明らかになったのが嬉しかったのだ。

 

 「でも、僕は待つのって好きじゃないんだ。だというに、君は些か以上に待たせてくれた。

 だから、いいよね?我慢しなくても」

 

 ドニの視線の先にはリベラから渡された六人目の資料がある。権能や為人の情報と共に添付された顔写真を穴が開くのではないと言う程に真剣に見つめるドニ。

 

 「でも、何の手土産もなしって言うのは、君も怒るだろう?だから、お土産を持って行くよ。君宛ではないけど喜んでもらえるものだと自負しているよ」

 

 そう呟くドニの掌中には、十数匹の蛇の絵と人の顔を模した稚拙な絵が刻まれた拳大のメダルがあった。それはゴルゴネイオン。本来の歴史ならば、それは草薙護堂の手に渡るはずだったが、徹の脅しが効いたイタリアの有力魔術結社ははなからその選択肢を捨てざるをえなかった。いや、考えることすらしなかったと言っていいだろう。そうして、順当にイタリアの盟主であるドニにそれは渡ったのだ。

 

 「前みたくじいさまのかわりに護堂を入れて三つ巴というのも捨て難いけど、君の場合、護堂と共同して僕を討ってきそうだからね。まあ、それならそれで楽しめそうだけど、今回はやめておくよ。やっぱり決闘は1対1でやるべきだと思うんだ。だから、少し惜しいけど護堂にはこれに引き寄せられた神をあげるさ。そうして、肝心要の君は僕と決闘するのさ!

 つれない君は、折角間近まで来たのにさっさと帰ってしまったけど、今度は逃がさないよ」

 

 ドニは恋に焦がれる少女のように、六人目との戦いを切望していた。なまじやりあったことがあり、それが不完全燃焼で終わったせいで余計にである。しかも、先日邂逅することもなく去られたことが、燻っていたドニの導火線に完全に火をつけていた。

 

 「ああ、本当に楽しみだよ」

 

 闇夜の中、魔剣の主は来る戦いに胸躍らせるのであった。


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