二月に入るとまた忙しくなるのでできるだけ忙しくなる前に更新したいと思ってます。
とりあえず最新話です。
「おっはよ~颯太君!」
寮の食堂で朝食をとっていた俺に背後から声がかかる。
振り返るとトレーを持ったナターシャさんと他に女性が立っていた。
「ここいいかしら?」
「どうぞどうぞ」
俺が示すと二人は席に着く。
「紹介するわ。こちら井口颯太君、私の命の恩人よ」
「そんな大層なものじゃないです。――井口颯太です」
ナターシャさんの紹介に突っ込みつつ会釈する。
「へ~…この子が最近噂のナタルのお気に入りね」
俺を興味深そうにじろじろと見る茶髪の短髪の女性。
「私は――」
「知ってます。アリシア・マーカスさんですよね。最新作の映画見ました。シリーズ通して大ファンです」
「あら嬉しい」
そう言ってアリシアさんはニッコリと笑う。
アリシア・マーカス。アメリカの国家代表にしてアメリカ1のアクション女優である。彼女の主演する映画はど派手なアクションシーンが売りであり、軒並み大ヒットを記録している。代表作のゾンビアクションもののシリーズは日本でも何度も放送されており、日本にもファンが多い(俺もその一人である)。ちなみに彼女のすごいところはIS操縦者として鍛えた身体能力を使ってスタントなしで行っているアクションシーンである。
「それでどう?よく眠れたかしら?」
朝食に手を付けながらナターシャさんが訊く。
「まあなかなか快眠でしたよ。寝覚めは最悪でしたけど」
「あら?何かあった?」
「朝起きたらガチガチのおっさん臭い腕に抱き枕にされていた経験ありますか?」
「…………」
「えっと………」
俺の言葉にアリシアさんは無言で、ナターシャさんは困惑気味に苦笑いを浮かべる。
「颯太君の同室って……」
「ニコラさんって言う男の人です」
「あぁ…ニコか……」
「知り合いですか?」
「まあ同じ軍所属だし会う機会は多いわ。基本的には気のいい人よ。ただ話したならわかると思うけど、そういう趣味の人だからね」
「抱き枕にされてよく無事だったわね………無事だったのよね?」
「訓練用に配られてた装備に寝袋があって助かりましたよ」
アリシアさんの問いに俺は遠い目をしながら答える。
昨夜、万が一に備えて暑いのを我慢して寝袋に入った状態でベッドに横になった俺は翌朝、つまりは今朝がた昨夜の自分の勘に感謝することになった。
想像してみてほしい。寝起きにやけに動きにくいと思ったら寝袋の上からがっちりとホールドされており、横を見るとどアップでケツ顎のおじさんの顔があったとしたら?控えめに言って地獄である。
「まあそれは置いておきましょう」
俺は朝のことを思い出し背筋を震わせながら言う。
「お二人はこういう訓練は何度も参加してるんですか?」
「まあね」
「私とナタル、あと一人よく一緒にいるやつ――今回は残念ながら別件の任務で不参加だけど、その三人でよく訓練は一緒にこなしてきたわね」
「イーリスっていうんだけど、また機会があったら紹介するわ」
「らじゃーっす」
俺は頷きながら残っていた最後のスープを飲み干す。
「さて、もっと話していたいところですけど、すいません。俺今回は特別参加ってことで訓練を始める前にいろいろとやらなければいけないことがあるんです」
トレーを持ちながら俺は立ちあがる。
「そう。まあまた後で会えるしね」
「はい。それじゃあナターシャさんとアリシアさんはゆっくり食べててください。俺はすいませんがお先に失礼します」
「特訓で会いましょ。あ、それと――」
「?」
トレーを片付けに行こうと歩み出そうとしていた俺にアリシアさんが言う。
「私のことはアリスでいいわ。親しい人はみんなそう呼ぶわ」
「でも……」
「堅いのはあまり好きじゃないの」
「……じゃあそういうことなら――」
俺は一応は納得し頷く。
「それじゃあまた後で、ナターシャさん、アリスさん」
「ええ。訓練初日だけど、あまりの厳しさにぶっ倒れちゃわないようにね」
「大丈夫ですよ。これでも鍛えてますから」
「はじめはみんなそう言うわよ」
アリスさんとナターシャさんの言葉に笑いながら俺は用事を済ませに行く。
今日から訓練開始。まあでも?これでもIS学園に入学してから師匠の出すメニューは欠かさず行ってきた。いくら軍隊の訓練とはいえある程度はついて行けるだろう。
そう思っていた時期が俺にもありました。
「ほら!走れ、走れ!気合いを見せろ!ペースを上げろ!もたもたするな!」
先頭で叫んでいる教官の声が聞こえてくるがそれどころではない。
今俺は訓練のメニューであるマラソン中だ。
マラソンくらいさんざん鍛えてきた俺にはついて行ける!なんて思っていたのだが――めっさキツイやん!痛い痛い!脇腹めっちゃ痛い!
頑張って追いかけるが二十人くらいいる参加者の最後尾のさらに二、三メートル後をよたよたと追いかけているのが現状だ。
「遅い遅い!もっと速く!もっと速く!ほら足を動かせ!」
う、動かしてます。と、思いつつもしゃべる元気も言う勇気もないので黙って足を動かす。
「全た~い、止まれ!」
教官の掛け声に特訓参加者が足を止め、俺も遅れてよたよたと足を止める。
「あの旗を見ろ」
教官が脇に立った高いポールに備え付けられた風にたなびく旗を指さす。
「あの旗は中間地点の目印だ。一番に手にしたものは車で戻れる。ほら登れ登れ!」
教官の掛け声に特訓参加者の男たちはいっせいにポールに殺到する。
女性陣はみんな国家代表や代表候補生の皆さんはまだまだ余裕を見せている。ナターシャさんとアリスさんも涼しい顔をしている。
「颯太君は参加しなくていいの?」
俺は息を整えるために膝に手をついて肩で息をしていると、ニコさんが訊く。
「ちょっと…もお少し息を整えてから……」
「そう……背中擦ってあげようか?」
「結構です――ニコさんはいかなくていいんですか?」
「あたしはいいわ。あたし木登り苦手だし。それにあのポールって登りずらいのよねー。ほら、誰も登れてない」
ニコさんの言葉通り、見ると殺到している人は誰一人登れていない。
「もういい!列に戻れ!ポールから離れろ!」
教官の言葉にみなぞろぞろと列に戻り出す。
「さて、どうするの?挑戦しとく?」
「……やる」
ある程度呼吸の整った俺は立ちあがりポールに向かう。
「行くぞ!速く隊列を組め!――井口!速く列に戻れ!」
教官の言葉を無視してポールの根元に立った俺は
「えっと…ここがこうだから……」
ポールの根元の金具を外し
「えい」
ポールを軽く押す。
バタンと大きな音を立てて倒れたポールの横をスタスタと歩き先端についていた旗を取る。取った旗をクルクルとまとめる。
「感謝します」
まとめた旗を教官に手渡し、車に乗り込む。
「………何か?」
呆然と立っている教官や特訓参加者たちに俺は首を傾げながら訊くが誰も何も言わない。
俺は肩をすくめ
「それじゃあ、お願いします」
運転手と先に車に乗っていた上官の人たちに会釈する。
〇
走り去って行く車をその場のほとんどの人間が呆然と見ている中で楽しげに笑う人物が三人いた。
「ナタルのお気に入りの彼、なかなかおもしろい子ね」
「でしょ?とらないでね」
「はいはい」
ナターシャの言葉に肩をすくめるアリシア。
「あら、じゃああたしとはライバルね」
そんな二人にニコラが飄々と話しかける。
「話には聞いてたけど興味深い子ね」
「聞いたわよ、ニコ。あの子は私のお客なんだから手を出そうとするのはやめてよ」
「それはごめんなさい。でもこういうのは早い者勝ちでしょ?」
「…………」
バチバチと火花を散らす視線を交わす二人を見ながら肩をすくめるアリシア。
「彼にとってはいろんな意味で大変な一週間になりそうね」
特訓開始です。
颯太君はどこ行っても何かしら災難に会いますね(;^ω^)
新キャラのアリシア・マーカスは半分オリキャラ半分クロスキャラです。
わかる人にはわかるなかな~って感じのキャラです。