『先輩、私怒ってるんですからね』
「……すいません」
俺は電話口から聞こえる不機嫌そうな潮の声に謝る。なぜか電話では潮には見えるはずもないのにしっかりと頭を下げる。
『ずっと連絡がもらえなくて…久しぶりに会えたのに……いつの間にかIS学園に帰っちゃって……』
「重ね重ねごめんなさい」
不満げな潮に再度謝る。
昨日実家を出て電車に乗りIS学園に帰ってきた俺たち。そんな中先ほど潮から電話がかかって来た時、俺はあることに気付いた。
あ、潮にIS学園に帰ること伝えてなかった…と。
『先輩にとって…私はその程度の後輩だったんですね……』
「いや…俺も帰る日を前日に思い出してさ……実は潮に言ってなかったように卓也たちにも言ってなかった。むしろあいつらまだ知らないと思う」
『そんなことはどうでもいいんです!』
「お前、仮にも先輩をそんな事って……」
大人しい潮の妙な剣幕に度肝抜かれた俺。
『せっかく先輩に相談にのってほしいことがあったのに……』
「相談?」
俺は首を傾げながら訊く。
『実は私、勉強頑張ったおかげで最初に予定していた学校よりも上の学校を狙えそうなんです』
「へ~!すごいじゃん!頑張ったな!」
『はい』
俺の言葉に嬉しそうな声が電話口から聞こえてくる。
『それで、その……うちの両親とも相談したんですが…東京の全寮制の女子校を受けようかと思ってるんです』
「へ~……ん?東京?もしかしてIS学園の近く?」
『え!?…え~っと……はい…まぁ…そ、そうですね……比較的近いと思います…よ……?――そ、それでですね!』
なんだか歯切れ悪くなりながら無理矢理話を変えるように言う潮。
『その…両親が全寮制とは言え私だけ親元を離れるのが心配らしくて……九月の祝日の連休にそっちに学校の周辺を見に行く予定なんですけど……あの…』
「なるほどね。予定が合えば案内しようか?」
『っ!はい!お願いできますか!?』
「おう。でも、俺女の子が行きたがるような店とか知らないしあんまり力になれないかもしれないけど」
『い、いいです!むしろ先輩がよく行くところが知りたいです!』
「そう?まあ詳しく日時わかったら教えてくれよ。はやめに分かった方が予定も開けられるし」
『はい!ありがとうございます!』
電話口から聞こえてくる声があまりにも嬉しそうで俺もつい微笑む。
『あ、あの……ところで先輩…IS学園の入試って――』
と、潮がさらに何か言いかけたところで
コンコン
「颯太。そろそろ時間だけど準備できてる?」
「あ、おう!――悪い、潮。俺、今からちょっと出掛ける用事があるんだ」
『え?出掛けるって……今のシャルロットさんですよね?も、もしかして……デート…ですか?』
「ん?デート?違うよ」
オドオドと訊く潮に俺は答える。
「シャルロットとは同じ指南所属だからさ。今日は二人で会社に呼ばれてるんだ」
『あ……そ、そうなんですかっ?』
「ああ、そんなわけで悪いが続きはまた改めてでいいか?」
『は、はい!すみません、先輩。お忙しいところを……』
「気にするな。かわいい後輩の相談だし、俺の連絡ミスだし」
俺は恐縮している潮に苦笑いを浮かべながら言う。
「それじゃあ、また。勉強頑張れ」
『はい。ありがとうございます』
○
「お待たせ、シャルロット」
「ううん。何かしてたの?」
「ああ、ちょっと電話」
部屋から出た俺をシャルロットが笑顔で迎える。
「それじゃあ行こうか」
「おう」
シャルロットの言葉に頷き俺たちは歩き出す。歩き出したんだが……
「~♪~♪」
「なんだ?やけにご機嫌だな」
「え?そう?」
「なんかいいことでもあったか?」
「んふふ。まあねぇ~」
俺の問いに満面の笑みで答えるシャルロット。
「今日は前からずっと言われてた僕の専用装備のお披露目なんだよ」
「ああ、そう言えば今日だったか」
シャルロットの上機嫌な様子に俺も笑みを浮かべる。
「よかったな。ずっと楽しみしてたもんな」
「うん!すっごく楽しみなんだぁ!」
「そっか……じゃあ急いで会社行ってはやく見せてもらうか!今急げば一本はやい電車に乗れるかもしれないし」
「うん!」
大きく頷いたシャルロットは俺の手を引きながら走り出した。
一方その頃……
「「「そ~お~た~くんっ!あ~そ~ぼっ!」」」
「あら、大下君に山本君、加山君じゃない。颯太なら昨日楯無ちゃんたちと一緒にIS学園に帰ったわよ?」
「「「……………え?」」」
というわけで実家帰省のロスタイム、潮への事後報告ですね。
颯太君……いろいろ忘れすぎだろ(;^ω^)