IS~平凡な俺の非日常~   作:大同爽

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第72話 海水浴

 

「う~み~は~広い~な~♪おぉ~き~い~な~♪」

 

 浮き輪にお尻を突っ込みひっくり返った亀のような体勢で海にぷかぷかと漂いながら間延びした声で歌う俺。

 

「い~ってみたい~なぁ~♪よそのく~に~♪」

 

「……ねぇ、颯太」

 

「ん~?なんだ~?」

 

「いいの?こんなにのんびりしてて……」

 

 ぷかぷかと浮かぶ俺に近くのターン台からシャルロットが言い、シャルロットの横で簪も頷いている。

 地元民しか来ないような穴場なせいか海には俺たちしかいない貸し切り状態だ。

 

「ん~……なんていうか、今は連絡待ちだからさ。できることってほとんどないんだよ」

 

「連絡って…昨日何かに閃いてからどこかに連絡してたあれ?」

 

「そそ」

 

 簪の問いに頷く。

 

「あれって誰に連絡してたの?」

 

「ん~?駒形さんとアキラさん」

 

「え?アキラさん……?」

 

「駒形さんはわかるけど、どうしてアキラさんまで?」

 

「それは~……ひ・み・つ♪」

 

 ニヤリと笑いながら言い俺は空を見上げる。海と同じ澄み渡った青空には真っ白な綿菓子のような入道雲が浮かんでいる。

 

「……あの雲、中に絶対ラピュタあるな」

 

 などとどうでもいいことを考えながら俺は昨日のことを思い出す。

 昨日、和人のおかげで閃いた俺はすぐさま二人の人物に連絡。駒形さんとアキラさんだ。

 このふたりの協力なくしてはこの事件の謎解きは完成しないだろう。

 

「ねぇ…もったいぶらずに教えてよ」

 

「僕たちにも何かできることってないの?」

 

「ん~……さっきも言ったけど今は駒形さんからの連絡待ちなんだ。駒形さんからの情報がないとまだまだピースの足りないパズルなんだよ。ピースが揃わなきゃ全体像はわかっても絵は完成しないからさ」

 

「女性権利団体系列の土地開発グループに接触するとかは?まだ相手に会ってないでしょ?」

 

「いや、俺今のところ情報が揃うまで会う気ないよ?」

 

「え?なんで……?」

 

 俺の言葉にふたりが首を傾げる。

 

「だって無関係の俺が接触したらこの件を怪しんで調べまわってますよ~って教えるようなものじゃん。そうなったら警戒して向こうも動かないかもしれないし。だから、開発グループに会うのは最後の最後」

 

「そっか……」

 

「でも、何かできることがあったらすぐに言ってね!」

 

「おう。でも、今は本当にできることって何もないんだよ。シャルロットにも簪にも師匠にも、もちろん俺にも。だから、今はとことん遊ぶ!とことん休む!二人も俺や師匠を見習ってとことん遊べ!」

 

「……わかった!」

 

「よ~し、僕たちもせっかくの海を楽しもう!」

 

 そう言ってふたりは立ち上がる。

 

「ところでさ」

 

「ん?何?」

 

「どうしたの?」

 

「なんで新しい水着?臨海学校の時のじゃダメだったの?」

 

 俺は臨海学校で使っていた無難な黒の膝丈の水着だ。しかしシャルロットも簪も新しい水着を着ていた。

 シャルロットはオレンジと黄色のチェックのビキニにジーパンのようなパンツ。その上からピンクのパーカー(確かラッシュガードとかいうやつ)を羽織っている。

 簪はオレンジ色にハイビスカスか何かの模様のタンキニタイプの水着。

 

「ま、まあなんとなく……」

 

「似合ってないかな?」

 

 心配そうなふたりに首を傾げながらも二人をじっくり見て

 

「事情はよくわからんけど、すっごく似合ってると思うぞ。二人ともかわいい」

 

「そ、そう……」

 

「エへへ…ありがとう」

 

 俺の言葉に嬉しそうに微笑む二人。

 女の子はわからん。俺なんて水着は体型変わらない限り同じの使い続けるってのに。

 

「あれ?そう言えば楯無さんは?」

 

「ああ、師匠なら〝家〟に調べてもらってることがそろそろわかるからって電話番を――」

 

「どじゃ~ん!!」

 

「ゴボウッ!!」

 

 突然世界が反転。声にもならないよくわからない言葉とともに俺の口と鼻にいっきに海水が流れ込む。

 うまくはまっていたらしく浮き輪からなかなかお尻が抜けず、数秒ほどもがき、何とか抜け出して水面に顔を出す。

 

「ゴホッ!ゴホッ!うぅえっ、塩辛い」

 

 咽てえづいて口の中の塩辛さに顔をしかめながら視界を確保すると目の前に満面の笑みを浮かべる師匠の顔があった。

 

「どう?びっくりした?」

 

「殺す気か!死ぬかと思いましたよ!」

 

「アハハ~、ごめんごめん」

 

 まったく悪いと思ってない表情の師匠にため息をつきながら浮き輪に体を通す。

 

「あ~…目が痛い、鼻が痛い、のどが痛い」

 

「大丈夫?」

 

 片方の鼻の穴を押さえ、鼻の奥に残っている海水を出そうとフンスフンスと鼻を鳴らす俺に心配そうに簪が訊く。

 

「ああ、大丈夫大丈夫。ありがとう簪。師匠の妹とは思えない優しさだ」

 

「あら、失礼ね。そんなこと言う子にはお姉さん、全力でお仕置きしちゃうわよ?」

 

「ホントすいません勘弁してください師匠の優しさは毎度毎度ひしひし感じております」

 

「うん、よろしい」

 

 俺の早口の言葉に満足そうに頷いた師匠はターン台にあがる。

 

「ところで、お姉さんの水着には何も言ってくれないのかな~?」

 

 言いながらグラビアアイドルの様にポーズをとる師匠。

 師匠の水着はビキニタイプで水色と紺のボーダー。下には太ももの中頃あたりまでの長さの少し透けた水色のベールのようなパレオを巻いている。

 

「うわ~すっごくにあってますよ~(棒)」

 

「なんだかおざなりね。うっかりもう一度ひっくり返しちゃいそう」

 

「スケスケのパレオが艶やかですごく似合ってると思います!」

 

「でしょう?ありがとう♪」

 

 俺の言葉に満足げに頷く師匠がどこから出したのかいつもの扇子を広げる。扇子には「容姿端麗」と書かれていた。いや、自分で言っちゃったよ。てかあの扇子は水にぬれても平気なのだろうか。

 

「で?師匠がここに来たってことは連絡がきたんですか?」

 

「まあね」

 

 三人と同じようにターン台にあがった俺が訊くと師匠が頷く。

 

「彼女、木島さんと女性権利団体を繋ぐ糸が見えたわ。彼女の両親、女性権利団体傘下の会社に勤めてるわ」

 

「へ~…母親辺りがそうだろうとは思ってましたが、両親ともですか。意外っすね」

 

「まあね。でも、父親の方が平社員で母親の方が役職ははるかに上みたいね」

 

「うっわ、肩身狭そう~。まあ今のご時世しょうがないかもですけど」

 

「まあ詳しくは後でゆっくり話すわ。でも、これで彼女の裏に女性権利団体がいる可能性が濃厚になってきたわね」

 

「そうっすね。あとは木島亮子さん自身と黒幕の直接のパイプが見つかればいいんですけど……本当に繋がっているならそろそろ動きがあってもいいんだけどなぁ……」

 

「そう言えば……」

 

 ため息をつきながら空を見上げた俺にふと思い出したように空を見上げる俺にふと思い出したように師匠が口を開く。

 

「さっき〝うち〟から連絡がきたとき颯太君の携帯もなってたわよ?私が出る前に切れちゃったけど。確か駒形さんって人から」

 

「それ先に行ってくださいよ!」

 

 言いながら俺は海に飛び込み急いで砂浜に置いたビニールシートの上の荷物へ駆け寄る。

 携帯を取り出して見ると画面には不在着信。相手は昨日登録したばかりの駒形さんだった。

 俺はすぐさまリダイヤル。数秒のコール音とともに繋がる。

 

「もしもし駒形さん!?すいません席をはずしてました!何かわかったんですか?」

 

『落ち着け井口』

 

 焦って訊く俺に冷静に言う駒形さんの声に俺も落ち着き、一旦大きく深呼吸する。

 

「すいません、で?てっきり夜にでも連絡来るかと思ってましたよ」

 

『ああ、夜でもよかったんだが、早い方がいいかと思ってな』

 

「てことは…何か動きがありましたか?」

 

『ああ』

 

 俺の問いに答え、一拍置いて駒形さんが言う。

 

「木島亮子、彼女はクロだ。先ほど女性権利団体の人間の接触があった」

 

 駒形さんの言葉に俺は沈黙。しかし自身の口角が上がって行くのが分かる。

 

『井口?おい、どうした?何か――』

 

「駒形さん」

 

 急に黙った俺を不審に思ったのか駒形さんが訊くがそれを遮って俺は口を開く。

 

「明日、事件の関係者を集めることできますか?建設グループの責任者か幹部の人も含めて」

 

『何?……と言うことは…まさか……?』

 

「謎解きと行きましょう。必要な情報はそろいました」

 




十話以上続いてる実家帰省編もそろそろ終盤ですかね。
次回辺りから解決編です。

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