こっちの小説も久々になってしましました
「そう言えば颯太」
「ん?」
奢られたジュースを飲んでいた俺に卓也が言う。
「潮には会ったのか?」
「いや、会ってない…ってかそもそも帰って来てることを教えてない」
「「「………はぁ!?」」」
「「「???」」」
「え?何?何さ急に……」
友人たち三人の驚愕の声に師匠たちは首を傾げ俺もよくわからず訊く。
「だって……潮だぜ?」
「お前仲良かったじゃん」
「超慕われてたじゃん」
「まあ仲良くはしてたけどさ。それはお前らもだろ?」
「「「全然違う!」」」
「へ?」
三人の声を揃えての言葉に首を傾げる。
「確かに俺たちは仲良くはしてた」
「しかし!俺らとお前では全然違ったぞ!」
「俺らが相手の時は人見知り全力で発揮してたぞ」
「え~…そうかな?」
「「「そうなんだって!」」」
三人の言葉に何とも釈然としない俺。
「……そのさっきから出てくるウシオって言うのは?」
釈然としない俺の横で師匠が訊く。
「潮は俺らの一個下の後輩で俺の部活の後輩です」
「颯太君の部活って確か……」
「ソフトテニス部っす」
「へ~……先輩としてアドバイスしてあげてたの?」
「まあ、たまにね。って言っても俺もそれほどテニスうまいわけでもないし」
「それでも…慕われてたんでしょ……?」
「それはほっとけなかったから。潮のやつ超人見知りなんだ。入部届け握りしめてアウアウ言いながらテンパってたところを助けたってのが初見だった。それ以来何かと世話焼いてたってのがあるから」
あの時の潮はそれはもうまるでライオンに睨まれた小動物のようだった。
「俺ら三人は颯太と部活違ったけど一緒にいることが多かったんで潮とも顔を合わせる機会多かったんだよな」
「そうそう」
「それでもやっぱ颯太が一番慕われてたな」
「そりゃ直の後輩だからでしょ」
シャルロットの言葉に納得する。確かに一番合う機会が多かったの俺だし、三人は俺とセットな面は大きかっただろう。
「でも、そんなに慕われてたなら連絡くらいしてあげればいいのに」
「いやいや、あいつ今年が入試なんで、夏休みは追い込みの時期でしょ。邪魔しちゃ悪いし」
「へ~、なるほどね」
「そういや潮ってどこ高受けるんだっけ?」
「なんか家厳しいらしくて進学校行かなきゃいけないって去年から勉強してたぜ。たまに勉強のこと訊かれたし」
「え、颯太に勉強を……?」
「あんまり力になれないんじゃ……」
「三人とも失礼だな」
シャルロット、師匠の言葉に頷く簪にジト目で言う。
「確かにIS学園では俺は勉強教えてもらってましたけど、中学時代俺勉強できたんですよ!――数学と現代文だけは」
「そう言えばその二つの教科はそれほど教えたことなかったわね。それ以外は大変そうだったけど」
師匠が納得したように頷く。
「……まあそんなわけで邪魔しちゃ悪いんで連絡してないんだ」
「なるほどね……」
「でも…会いたがってるんじゃないかな、潮のやつ」
「お前が急にいなくなったから寂しがってたしな」
「ん~……まあこっちにいる間にメールくらい送っておくかな」
「まあそうしてやれ」
うんうん頷く三人。
「でもさ…颯太ってなんか変わったな」
「へ?」
智一の言葉に俺は呆ける。
「なんだよ急に」
「いや、なんていうのか……どこがって言うんじゃないんだけどさ。なんか…雰囲気が?前とは違うかなって」
「あ、それ分かるかも」
智一の言葉に卓也と信久が頷く。
「なんか…うん、どことなくな」
「そう…かな……」
首を傾げる俺。
「なんか変か?」
「いやそんなことはないぜ」
「ああ、なんとなく変わった気がするってだけで、お前はお前だよ」
「超絶美少女の彼女三人も連れて帰って来たけどな」
「………だから、彼女じゃないって」
三人の言葉に笑みを浮かべながら俺は答えたのだった。
○
「あれ?」
その日の夕食後、手伝っていた片付けを終えたシャルロットがふと顔を上げるとあることに気付く。
「颯太は?」
「あれ?そう言えば……」
「どこ行ったのかしら?」
三人は首を傾げる。
「ん?姉ちゃんたちどうしたの?」
そんな三人に海斗がゲーム機の準備をしながら訊く。
「いや、颯太君が……」
「ああ、兄貴ならたぶん……」
言いながら海斗は人差し指を立て天井を指さす。
「………上?」
○
「…………」
俺はぼんやりと空を見上げる。
真っ黒な夜空には無数の星と丸く大きな月。
「…………」
今日はちょうどタイミングよく満月だ。空にはまるで真っ黒な天井にぽっかりと空いた穴の様に月が浮かんでいる。
「…………」
「お邪魔するわよ」
「え?」
背後からの声に振り返ると俺の真後ろ、二階の俺の部屋の窓からするりと俺の座り込む一階部分の屋根に降り立つ師匠。そしてその後ろから
「お邪魔しまーす」
「よ…っと」
「シャルロット…簪まで……なんで……」
よくわからないうちに俺の左右と後ろを囲うように三人が座る。
「弟君に聞いたわよ。颯太君、星見るの好きなんだってね」
「好きですけど、星座とか知らないですよ。見るのが好きなんで」
左隣に座る師匠の言葉に頷きながら視線周りに向ける。
「どうしたんですか、急に?」
「こっちのセリフだよ。急に姿が見えなくなったからどうしたのかと思ったよ」
「さっきまで同じ部屋にいたのに……」
右隣のシャルロットと後ろの簪が言う。
「あれ?言ってませんでした?」
『うん』
三人が頷く。
「……で?どうかしたの?」
シャルロットが訊く。
「何が?」
「こうやって星…見てるから……」
「俺が星見てると何か起きたってことになるのか?さっきも言ったけど見るのが好きなんだよ、星とか月」
「でも、僕ら同じ部屋だったとき一度も星見てるところ見たことなかったよ。ね?」
「うん」
シャルロットの言葉に簪が頷く。
「ここみたいな田舎じゃないと地上が明るすぎて星が見えずらいんだよ。だから向こうではあんまり見なかったの」
言いながら視線を上に向ける。
「まあちょうど今日は満月だし、そういう気になったんだ」
「ふ~ん……」
三人とも一応納得したように頷きながら同じように空を見上げる。
「確かに学園から見るよりもよく見える気がするわね」
「でしょ?」
師匠の言葉にニッと笑いながら言う。
「そう言えば知ってる?星のことをEyes of heavenって言うの。昔の人は地球の周りには天井があって、星はその天井に空いた穴であり、そこから神様が覗いてるって考えていたそうだよ」
「へ~……面白い話だね」
俺の言葉にシャルロットが言う。
「昔の人は面白い考え方するよね。それを知ってから見ると星の見え方も変わってくると思わない?」
「確かに……」
「まあ私は知ってたけどね」
簪と師匠が言う。
「それに何よりやっぱ満月はいいよね。月はウサギやカニ、女性の横顔が見えるなんて言うけど、そういうふうに考える昔の人ってEyes of heavenといい面白い発想だよね」
「確かにそうだね」
簪が頷く。
「大きくて丸くて……」
「ええ。綺麗ですね、月」
「………え?」
師匠の言葉に頷きながら言った言葉に師匠が声を漏らす。
「今なんて?」
「え?……月が綺麗ですね…って……」
「あら、颯太君ったら大胆♡」
俺の言葉に急に頬に手を当てて体をくねらせる師匠。
「は?大胆って……?」
「私死んでもいいわ♡」
「………あっ!」
師匠の言葉に考え込んだ俺は答えに行きつく。
「そういう意味じゃないっすよ!?」
「え?どういうこと?」
「…………」
シャルロットは意味が分かっていないようで首を傾げ、簪は意味が分かったらしく苦笑いだった。
「えっと…なんと説明したものか………シャルロット、I love youを日本語訳すると?」
「え?それは…〝愛してる〟じゃないの?」
「うん、あってる。でも昔の日本人――夏目漱石がI love youを別の訳し方したんだ。それが――」
「――〝月が綺麗ですね〟」
俺の言葉を引き継ぐように簪が答える。
「〝月が綺麗ですね〟?……なんでそんなふうに?」
「ん~……これは俺の解釈だけど、『月が綺麗ですね。こんな綺麗な月をずっとずっとあなたと見ていたいです』って意味なんじゃないかな」
「な、なるほど……」
「で、師匠は俺が何気なく言った言葉を大幅に超絶意図的に違う意味に解釈したってわけ」
「あら、つれないわね。ちゃんと返事したじゃない」
「返事?」
師匠の言葉にシャルロットが首を傾げる。
「〝月が綺麗ですね〟のよく使われる返事は…〝私死んでもいいわ〟なの……。ちなみにYesの時だけど……」
「あ!じゃあさっきの……」
「そっ。師匠が言った返事って言うのはそれ」
気付いたシャルロットに俺はため息をつきながら頷く。
「たく……師匠はわかってて言ってるから質悪いっすよ。冗談でも返事まで……」
「あら?私は本気よ?」
「へいへい。師匠にお返事いただけてマンモスうれぴーなぁ~」
おざなりに手をひらひら振りながら答える。
「もぉ~、颯太君、私は――」
「兄さん大変だ!」
師匠が口を開いたところで部屋の方から海斗が駆け込んでくる。
「どうした?」
慌てた海斗に俺は立ちあがりながら訊く。
「敦さんが……敦さんが!!」