約半年ぶりに故郷に帰ってきた颯太。
父親に出迎えられ家へと帰るはずが思わぬ同行者、楯無、簪、シャルロットの登場に驚愕。
はたし彼女たちの目的は?
てなわけで始まるよ♪
――どうしてこうなった?
俺は目の前に広がる光景にそう思わざるを得ない。
俺の眼前に広がる光景、それは――
「はい、お父様。どうぞ」
「お、ありがとう。オットットットッ……んっく、んっく…ぷはぁ!いや~、やっぱり美人にお酌してもらう酒はうまいね」
「やだ、お父様ったら。ありがとうございます」
アハハハハ~っと笑い合う父さんと師匠。
また一方に視線を向けると――
「で、これに醤油を加えて」
「このくらいですか?」
「そうそう。シャルロットちゃんは手際がいいわね。うちの颯太のお嫁さんに欲しいくらいだわ」
「そ、そんな…お嫁さんだなんて……」
仲良く夕食づくりに精を出す母さんとシャルロットの姿。
さらに別の方に視線を向けると――
「すっげえ、簪姉ちゃん!このコンボは兄さんでも対応できるようになるのに結構かかったのに、こんなに早く攻略されるなんて」
「このゲームは颯太とよくしてるから……」
「もう一戦!もう一戦しようよ、簪姉ちゃん!」
「うん!」
楽しげに対戦ゲームに興じる我が弟海斗と簪。
もう一度言おう――どうしてこうなった?
俺は今のこの現状に至るまでの過程を思い出すことにした。
話は数時間前に遡る。
○
「で?なんで三人がいるんですか?」
父さんの迎えに来てくれた車。最大で八人乗れるその車の一番後ろには四人分の荷物を置き、助手席から後ろの三人に顔を向けながら俺は聞く。
「なんでってそりゃあ、生徒会長権限よ」
「ああなるほど、生徒会長権限ですかそれじゃあ納得…ってできるか!師匠!あんたなんでも生徒会長権限って言っておけばいいと思ってるでしょ!」
「思ってないわよ…少ししか」
「少しは思ってんじゃないですか!」
俺の突込みが車内に響く。
「まあわかりやすく言えば、今回の颯太の警護に任命されたのが僕らなんだよ」
「……はぁ!?」
シャルロットの答えに俺は驚愕の声をあげる。
「え?そういうのって普通政府が用意するんじゃないんですか?」
「これは…政府とIS学園からの正式な依頼……」
「依頼?」
簪の言葉に俺は首を傾げる。
「まあ政府が気を利かせてくれたのよ。颯太君も実家帰るのに知らない人に護衛されたんじゃゆっくりできないでしょ?」
「なるほど。で?本当のところは?」
「家の力を行使して無理矢理ねじ込んでやったわ!」
「だと思ったわ!……てか、俺みたく三人も実家帰ったりとかしなくていいんですか?」
「私たちは特に戻らなきゃいけない用事はないしね」
「うん」
師匠と簪が頷き
「僕は帰る家なんてもうないしね。お母さんとの家に帰ってもどうせ誰もいないし……」
遠い目をして窓の外の空を見るシャルロット。
「あ、うん。なんかごめん」
車内になんとも言えない空気が満たされる。
「………はぁ。もういいです。と言うかここまで来たら変更とかも大変でしょうし」
「じゃあ……」
「約一週間お世話になります」
俺の言葉の後にしてやったりと言った笑みで頷く師匠とハイタッチするシャルロットと簪。
「……話はまとまった?」
ここまでのやりとりを終始無言で運転に徹していた父さんが口を開く。
「ああ、まあね」
「話聞いてる限りじゃ彼女たちが護衛ってことだけど、俺には紹介してもらえないのかな?」
「ん~…母さんたちにも紹介しなきゃだから二度手間になるし、父さん運転中じゃないか」
「そりゃそうだな。じゃああとにしよう。って言ってももう着いたんだけどな」
と、父さんの言葉通り視線を前に向けると見慣れた一軒家が見えてきた。
家の前の駐車スペースになれた感じで駐車し俺たち四人は自分たちの荷物を取る。
「ただいま~」
荷物の無かった父さんは一足先に玄関をくぐる。
「母さん、海斗。颯太が彼女連れて帰ってきたぞ~。それも三人も~。しかも美少女揃い~」
「って、おい!」
思わず叫びながら父さんの後おう。
「ちょっと、父さん何言っちゃっての!?」
「そうだよ、父さん」
玄関に入った俺の言葉に同意するように家の中から一人の少年が出てくる。
「お帰り、兄さん」
「お、おう、海斗。ただいま」
俺に笑顔で頷いた我が弟海斗は父さんに向き直る。
「父さん、寝言は寝て言おうよ。兄さんが彼女なんて作れると思う?そんな甲斐性があったら彼女いない歴=年齢なんて悲しいことにはなってないと思うよ」
「その通りだし自覚はあるけど、自分以外に言われるとすっげぇむかつくな!」
小学生が甲斐性なんて言葉よく知ってたな。誰が教えたんだよ……あ、俺のマンガからか。
「だいたい兄さんに彼女ができたとしてもいっきに三人も、それも美少女揃いだなんてそんな事あるわけ――」
「こんにちは~」
「お邪魔します……」
「お世話になります」
「母さん!兄さんが美少女の彼女を三人も連れて帰ってきた!」
「ぅおいっ!!」
海斗の言葉の途中で玄関から入ってきた師匠、簪、シャルロットを見た途端、ダッシュで家の中に消える海斗。
「母さん!母さん!」
「はいはい、今行きます」
と、海斗が家の中から一人の人物を半ば引っ張ってくる形で戻ってくる。
我が父悟の妻にして俺と海斗の母、井口純子その人である。
「あら、颯太。おかえりなさい」
「あ、うん。ただいま、母さん」
「で、そちらの方たちが……」
と、母さんの視線が俺から俺の後ろに立つ三人に向く。
「はじめまして、颯太君のお父様、お母様、海斗君。私は更識楯無、IS学園の二年生で生徒会長をしています」
「はじめまして、更識簪、颯太と同じ一年生です。更識楯無の妹です」
「はじめまして、シャルロット・デュノア、僕も颯太と同じ一年生です」
ぺこりと頭を下げた後、代表して師匠が前に出る。
「これ、つまらないものですが我々で用意したお土産です」
「あらあら、これはご丁寧にどうも」
母さんが恐縮しながら師匠の差し出す箱を受け取る。
「改めまして俺は颯太の父、井口悟です」
「はじめまして、母の純子です」
「弟の海斗です。いつもうちの兄さんがお世話になってます」
うちの家族もそろってお辞儀する。
「あれ?そういやじいちゃんたちは?」
「ああ、おじいちゃんとおばあちゃんは町内会の老人会で旅行に行ってるよ。明日には帰ってくると思うよ」
「そっか」
父さんの言葉に俺は納得する。
「まあ玄関で立ち話もなんだし、上がってちょうだい」
母さんの言葉に三人が頷く。
「「「お邪魔します」」」
○
「それで、兄さん。実際のところどうなの?」
居間で俺の買ってきたお土産のお菓子をお茶うけにお茶を飲んでいると、海斗が口を開いた。
「どうとは?」
「流石に三人とも彼女ってのは兄さんらしくないしさ。楯無さんと簪さんとシャルロットさんではどの人が本命なのかなって」
「それは父さんも興味あるな」
「私も」
海斗の言葉に父さんも母さんも興味津々で頷く。
「はぁ……どうもこうもないよ。シャルロットはクラスメイト、簪はオタ友、楯無さんは俺のIS関連の師匠だよ」
「へ~、師匠なんているの。やっぱりIS学園はすごいのね」
「いや、俺が特殊なだけで別にみんながみんな師匠がいるわけじゃないからね?」
母さんのどこかぬけた言葉に突っ込む俺。
「で、兄さんはああいってますがみなさんはどうなんですか?」
「おい!どんだけ興味津々だよ!」
「いや、だって将来のお義姉さん候補だよ?気になるじゃん」
「俺たちにとっては娘候補だな」
「気が早いわ!まだ付き合ってすらいない相手に!」
「「「まだ?」」」
「人の言葉の上げ足を取らないでいただけますかね!?」
俺の言葉にニヤニヤと笑みを浮かべて訊く井口家ファミリー。
「そうですね、颯太君は――」
「ちょっと、師匠!?」
「はい、兄さんは黙ってて~」
口を開いた師匠を止めようとする俺を海斗が口をふさぐ。
「颯太君は後輩ですがとても頼りになり、信頼できる男の子だと思います。私は師匠ですが私の方が教えられることもあります。今度私の補佐としてIS学園の副会長に就任してもらうことにもなっていますからね」
「「「ほうほう」」」
師匠の言葉に頷き、今度は師匠の隣に座る簪に視線を向ける。
「えっと……颯太は…その…とても頼りになる、とても優しい人です。私の専用機の完成に尽力してくれたり…仲の悪かったお姉ちゃんとの仲を取り持ってくれたり……とても感謝しています」
「「「ほうほう!」」」
さらに今度はシャルロットの方に視線を向ける三人。
「その……僕は颯太には返しきれない恩があります。実家ともめた時も、僕に居場所をくれました。僕にここにいていいって……僕を指南コーポレーションに誘ってくれました、IS学園に残れるようにしてくれました。だから、僕にとって颯太は……僕に居場所をくれた大切な人です」
「「「ほうほうほう!!」」」
シャルロットの言葉に両親たちと海斗が嬉しそうに笑う。
「おいおい、兄さん。半分冗談で言ってたけど案外高評価じゃん!」
「これはひょっとしてひょっとするんじゃないか!?」
「これで颯太のお嫁さんは心配せずに済みそうね」
三者三様に興奮と喜びを表す家族を尻目に、もはやため息も出ない俺であった。
あれから数時間後。これで初めに戻るわけだが、その間、俺の学校での様子や逆に昔の俺のことなど話に花を咲かせまくった我がファミリーと師匠たち。
父さんと母さんはまるで娘でもできたかのようにはしゃいでるし、海斗に至っては三人を楯無姉さん、簪姉さん、シャルロット姉さんと呼んでいる。
びっくりするぐらい三人が井口家に溶け込んでいる光景に、これは井口家の人間が寛容なのか、三人が人の懐に入り込むのが上手いのか、どっちなんだろうなぁと、考えてしまうのであった。
はい、てなわけで颯太君の両親と弟が登場したわけですが……
なんでしょうね、この外堀から埋められちゃってる感じ(;^ω^)