これから少しの間「井口颯太実家帰省編」となります!
第58話 颯太、彼の地に立つ
八月上旬。
座席の下から伝わるカタタンッカタタンッという定期的な振動。
現在俺は実家へと帰省する途中、電車の中だ。
IS学園から現在まで何度か乗り換えここまでの長い旅路もあと数十分で終わる。
俺はふと顔を上げ、視線を窓の外に向ける。
夏を感じさせるじりじりと肌を焼くような日差し。
窓の外を流れる風景が数十分前と比べて自然が多くなってきた。
のどかな風景が後ろへと流れていく。
窓の外の景色から視線を外し、俺は手元の本に視線を戻す。
「ふぅ………」
なんとなく漏れ出たため息も人の少ないこの車両の中に溶けていく。
車内は静かで聞こえてくるのは電車のレールを走る音と冷房の効いた中ですべて閉められた窓の向こうから聞こえるセミの合唱だけだった。
「~~♪~~♪~~~♪」
なんとも心地よい感覚に鼻歌まじりに読書を続ける。
「……そう言えば、俺の警護ってどんな人がするんだろう……」
ふと、数時間前のことを思い出していた。
○
「お世話になりました。また一週間後に帰ってきます」
俺はIS学園の寮の前でぺこりと頭を下げる。
「まったく、お前には世話を焼かされたよ」
「久しぶりのご実家への帰省ですからゆっくりしてきてくださいね」
俺の言葉にため息まじりの織斑先生と笑顔の山田先生が頷く。
「すみませんね、どうせならもう少し長く帰省できるようにしたかったんですが、警護などの関係で一週間だけとなってしまって」
「いえいえ、それはしょうがないですよ」
山田先生の申し訳なさそうな言葉に俺は頷く。
「そういえば俺って警護つくって聞いてましたけどその警護の人たちは?」
「ああ、お前の警護は三人の人物が担当するのだが、顔合わせは向こうに行ってからということになっている。ただ道中の警護も陰ながらするということになっているから安心しろ」
「了解です」
織斑先生の言葉に頷く。
「………それじゃあそろそろ電車の時間なんで」
俺は足元に置いていたボストンバッグを手に取る。
「お世話になりました」
「ああ。まあゆっくりしてこい」
「ご家族によろしくお伝えください」
○
『次は~――』
俺の思考を聞き慣れた駅名を呼ぶアナウンスが呼び戻す。
「おっと、もうか……」
座席の上の荷物置きにおいていたボストンバッグを下ろす。
窓の外に視線を向けると見慣れた景色が広がっている。
と、窓の外の景色の流れる速度がゆっくりになる。
最後にゴトンと大きく揺れ、電車が完全に停止する。
「さて」
下ろしたボストンバッグを背負い、電車の出口から外へと出る。
「…………」
駅から出た俺は周りを見渡す。
約半年ぶりに帰ったはずだがなんとも懐かしい気持ちになる。
「お~い、颯太!」
ぼんやりとノスタルジックな感傷に浸っている俺を呼ぶ声にそちらに視線を向けると、一人の中年男性が手を振っていた。
「あ、父さん!」
手を振っていた眼鏡に白髪交じりの中年男性、うちの父親のもとへ小走りで向かう。
「ただいま、父さん」
「おう、おかえり。元気そうだな」
「まあね」
俺の言葉に嬉しそうに笑みを浮かべる人物、井口悟こと俺の父親だ。もうすぐ五十代とは思えない若い見た目、かと言って地毛の半分ほどが白くなった頭髪のせいでその見た目は年齢不詳だ。服装も比較的若者よりの服を着こなしているのでそのことがさらに年齢不詳を加速させている。
「母さんと海斗は?」
「家で待ってるよ。どうせ駅に迎えに来るだけだから俺だけでいいだろうってことでな」
「そっか」
父さんの言葉に納得する。
「とりあえずここに突っ立てるのもなんだし、行くか」
「そうだね。車は?」
「お前の荷物がどの程度かわからなかったからでかい方できた」
「ういうい。それじゃあ帰りますか」
「ああ――あ、そっちの三人もどうぞ」
「へ?」
俺の言葉に頷いたのち、俺の背後に視線を向けるながら歩きだす父さんに首を傾げながら後ろを向くと
「は~い、お世話になりまーす」
「よろしくお願いします」
「お、お邪魔します……」
シレッと、まるでそこにいることが当たり前とでも言わんばかりに俺と同程度かそれ以上の大荷物の制服姿の師匠、シャルロット、簪が父さんの後をついて行く。
「…………」
「ん?どうした颯太?おいて行くぞ」
「そうよ、颯太君、暑いんだから早く行きましょ」
「熱中症になっちゃうよ」
「早くいこう?」
父さんの後に師匠とシャルロットと簪も言うが、それよりなにより――
「………なんでいんの!!?」
俺の疑問が響き渡ったのだった。
こうして、俺の故郷へと帰ってきた。
最初のノスタルジックな気分はどこへやら、頭の痛くなるような幕開けとなったのだった。
はい、と言うわけで始まりました実家帰省編。
今回は話逃れ的に少し短くなりました。
次回もお楽しみに~。