ピンポーン♪
織斑家お泊り二日目。時刻は9時前。朝食後時間つぶしに昨日同様ゲームに興じていた俺たちは玄関から聞こえるチャイムの音にゲームを一時停止する。
「来たみたいだな」
「だな」
俺たちは顔を見合わせ頷き、テレビやゲームの電源を落とし、必要最低限の物だけを持って玄関へ。
「おっす、おはよう」
「おはよう」
玄関を開け、そこに立っていた人物に挨拶する。
「おはよう、颯太、一夏」
そう笑顔で返してきた人物――シャルロットに頷きながら俺たちは外に出る。
今日の俺たちは少しラフな、それでも一応は余所行きを意識した格好。それに対してシャルロットの服装は制服の夏服だった。
「そいじゃま、行きますか」
俺の言葉に頷いたふたりとともに俺たちは織斑家を出てすぐ目の前に止められていた車に乗り込んだ。
なぜこの時間にシャルロットが車とともに俺たちを迎えに来たのか、それはとある用事のためだ。
その用事というのは――
「でもよかったのか?」
車の中、後部座席の右側に座る一夏が口を開く。
「何が?」
一夏の隣に座る俺が訊く。
「これって指南コーポレーションの正式な仕事だろ?無関係な俺がいてもいいのか?」
「ああ、それは――」
「いいんだよ」
一夏の言葉に答えようと口を開いた助手席のシャルロットの言葉を遮ったのは現在運転中の犬塚さんだった。
「確かに今回のCM撮影に君は関係者じゃないけどシャルロットさんや颯太君の友人だしその辺は大丈夫だよ。強いて言えば君もそのうちこういうことをする機会があるかもしれないから、その時のための社会見学ってことで。学校の許可も出てるしね」
そう言ってミラー越しに一夏へと爽やかな笑みを向ける犬塚さん。
「え、俺もそういう仕事しなきゃいけないんですか?俺どこにも所属してないですよ!?」
「所属してなくても依頼くらいは来るんじゃないかな」
「まじかよ!?」
シャルロットの言葉に驚愕の一夏。
「まあ一夏はイケメンだしな。その点俺は――」
「あ、颯太君にもメディアの仕事依頼来てるって聞いたけど?」
「嘘ぉぉぉ!?」
犬塚さんの言葉にだらりと背もたれに預けていた体を勢いよく起こして訊く。
「俺は経理部の人間だからそういう依頼については詳しく知らないから、そういうのは営業部の山田……は把握してなさそうだな。翔子や春人、ミハエルなんかに訊くのがいいかもな」
「そうします」
可及的速やかに解決すべき事案の発生だった。
「はぁ……もし本当に依頼来てたらどうしよう……」
「なんだよ、嫌なのか?」
「嫌だよ。だって俺元一般人だよ?」
一夏の言葉にため息まじりに答える。
「元一般人の俺がテレビとか……俺演技力とか自信ないよ……」
『…………』
俺の言葉に一夏とシャルロット、犬塚さんまでミラー越しにジト目で見てきた。
「な、なんすか……?」
「だって……」
「なあ……?」
「どの口が言ってるんだよ」
どうやらみんな俺の演技力の無いという自負に文句があるようだ。
「いやいや、ないですから。中学の文化祭で劇をしたけど、俺の役は村人Aだったんですけど」
「もう何度目かわからないけど、あえて言わせてもらうぞ。颯太は自己評価が低い!」
一夏の言葉に深く肯定の意を込めて頷く犬塚さんとシャルロット。
「特に僕は颯太の演技力を目の当たりにしてるんだよ?大会社の社長やあの大天災をブラフだけで言い負かす人が演技力無いなら、今テレビに出てる俳優はみんな大根役者だよ」
「……そこまで言う?」
シャルロットの言いすぎな言い分に一夏も犬塚さんも苦笑いだ。
「……はぁ…わかりました。もし本当にそんな仕事が来てたら全力でやらせていただきます」
肩をすくめながら答えた俺の言葉にシャルロットは不満そうな表情をしながらも、とりあえずは納得してくれたようだった。
さて、ここまでの話でお察しいただけたかと思うが、俺たちが今回向かっている場所、それは以前指南の本社ビルで話題に上がったシャルロットのCM出演の撮影現場だ。
今回の撮影にはスケジュールを調整して指南社長も来るらしく、また俺の全力のお願いにより(あとで聞いたことによると初めから頭数に入っていたらしいが)俺も撮影見学となった。
さらに以前から社長が興味あったらしくいい機会ということで一夏も今回の撮影見学に参加する運びとなった。
そして日程的にちょうどよかったため俺は一夏の家に泊まり、今日この日を迎えたわけだ。
さて、そんな取り留めのない会話をしているといつの間にやら目的地、今回の撮影スタジオへと着いたのだった。
「すっげ~。こんなのドラマでしか見たことない。こう言うと変な感じだけど、テレビのまんまだな」
窓にへばりついて感嘆の声を漏らす俺。その間に車はすいすいと進み、いくつかのゲートで入館許可の証明をすませていく。
「やっぱりこういうところは警備が厳しいんですね」
「まあ当然っちゃ当然だろ。有名人もたくさんいるし、まだ詳細の公開してない映画なんかの撮影をしてるところもあるしな。無関係の人がホイホイ入れるような警備じゃまずいだろ」
一夏の言葉に許可の確認が取れたことで開いたゲートをゆっくりとした運転でくぐりながら犬塚さんが頷く。
「あっ!某有名解散騒動のあった五人組アイドルグループだ!――あっ!火サスの帝王!――あっ!某コント番組優勝のお笑いコンビ!」
車で通り過ぎていく道すがらに見える超有名人たちの姿にワクワクが止まらない。
「ほら、興奮するのもいいがそろそろ着くぞ」
犬塚さんの言葉とともに車は並び立つ建物の中の一つの前で停車する。
「ここで?」
「そう。聞くところによると流木野さんは前の仕事の関係で少し遅れてくるらしいから、シャルロットさんは先に準備を進めてほしいってことだ」
「了解です」
「OK。それじゃあ行こうか」
○
「デュノアさん入られまーす!」
撮影所のスタッフの言葉に振り返ると入口から数人のスタッフとともにシャルロットがやってくる。その服装は先ほどのIS学園の制服とは違い、一般的なジャージ姿だった。
「おかえり~」
「た、ただいま」
こちらにやって来たシャルロットにフリフリと手を振りながら迎える。
「……なんでジャージ?」
やって来たシャルロットの服装に一夏が首を傾げる。
「ああ、そっか。一夏は知らないんだったな。俺は前もって聞いてたから知ってたけどさ」
俺は納得しながら言う。
「今回のCMで宣伝する商品はいうなればスポーツドリンクなわけよ。そんなわけでこのCMのコンセプトは……部活!」
「部活?」
「そう。設定は運動部活のマネージャーが選手に休憩中にドリンクを渡す……みたいなの。だよな?」
「うん。その中で僕は後輩のマネージャー、流木野さんは先輩のマネージャーって役柄でやるんだよ。ちなみにこのCMのBGMは流木野サキさんの新曲なんだって」
「へ~、なるほど」
納得したように頷く一夏。
「さらにちなみにその新曲CDももうすぐ予約受付開始だ。もちすぐさま予約するぜ」
「颯太のオタク趣味って二次元だけじゃないんだな」
「まあな」
「じゃあ今日とか大興奮だろ?」
「あたぼうよ!」
一夏の言葉に力強く頷く俺。
「16年生きて来た中で一番の出来事だな。あぁ~、本物に会える♪…し・あ・わ・せぇ~♪」
夢の世界へとリップ仕掛けた俺を引き戻したのは
「流木野さん入られまーす!」
スタッフの声だった。
「っ!!」
グリンと顔だけを入り口に向けた俺に両隣で一夏とシャルロットがビクッと震えたのが目の端に見えたがそんなことはどうでもいい。
「フンスッ!フンスッ!」
「颯太、鼻息荒い」
「こー…しゅー…こー…しゅー…」
「ダース○イダーみたい」
「コーホー!コーホー!」
「おい、なんか颯太が機械の超人みたいなことになってるぞ」
シャルロットと一夏の言葉に俺はいったん呼吸を整える。
「…………OK、落ち着いた。さあ来い流木野サキさん!!」
バッと身構え視線を向けた先では
「いやぁ、お待たせ!ごめんね、ちょっと遅れちゃった!」
スキップまじりに登場した指南社長だった。
「………チェンジ!!!!」
気付けば俺は叫んでいた。撮影所に俺の叫びが響き渡っていた。
久々の更新になってしまいました。
お久しぶりです。
さてヴァルヴレイヴの中でVVV操縦者だったメンバーの最後の一人がそろそろ出せるかと思ったんですが、話の長さの関係で分けました。
次回こそは!
さてさて少し前から息抜きとして三作目を投稿しております。
原作はラブライブ!です。
良ければそちらも読んでいただけると嬉しいです。
あくまで息抜きですんで平凡な…や無い物…の方をメインで書いて行きます。