長く忙しい時期が続きましたがやっとこさ一区切りつきました。
というわけで久々の更新です。
「おやおや?颯太君じゃない」
食堂に来てどのくらい時間が経っただろうか。俺が一人寂しくコーヒーを飲んでいると、後ろから女性の声が聞こえてきた。
「あ、七海さん。こんにちは」
振り返ると笑顔の女性、七海リオンさんがトレーを持って立っていた。
「お久しぶり。元気してた?」
「見ての通り絶好調です」
「そう。それは何より」
笑いながら俺の向かいに座り、机にトレーを置く七海さん。
「あ、座ってから言うのもなんだけどここいいかな?」
「ええ、どうぞどうぞ」
笑顔で頷く俺の答えに七海さんは安心したように笑い、トレーの上のカップを持ち上げ口を付ける。
七海さんのトレーの上にはカップ(おそらく紅茶)とチーズケーキ、シュークリームの乗った皿があった。
ちなみにここの食堂の物はどれも絶品だ。普通の食事メニューからケーキなんかのお菓子類、果ては飲み物までどれもこれもおいしい。ただ一つ不満を言わせてもらえれば、たまに日替わり定食のメニューで「社長こだわりの特製メニュー」を出すのはやめてほしい。しかもなぜか高確率で俺が出社した日に限ってメニューに上るんだもの。不思議とおいしいのだが如何せん見た目が悪い。なんだよ、「ウエハースの福神漬のせ」って。おいしかったけどさ!
そんなことを思いつつコーヒーに口を付ける。
「お?颯太君はコーヒー?おっとな~♪」
「砂糖入れてますけどね」
七海さんの言葉に肩をすくめながら自分のトレーの上のミルクレープにフォークを刺す。
「それで?今日はいったいどうしたの?」
「『火焔』の定期メンテナンスと友人の付き添いです」
「友人?」
俺の言葉に七海さんは首を傾げる。
「ええ。俺の友達に日本の代表候補生がいまして。その子も専用機持ちなんですが、その専用機を自分で組み立ててるんですよ、彼女」
「え、自分で!?」
「ええ」
驚愕の表情の七海さん。
「でも、その子の専用機の開発元は?わざわざ自分で作らなくてもその会社がいくらでも……」
「彼女の専用機作ってる会社――『倉持技研』なんですけど、ここ、もう一人の男性操縦者織斑一夏の専用機の開発もしてるんです。一夏の専用機の『白式』って正直いろいろおかしなところ多くて、その解析やら何やらに追われて、彼女の専用機製造のスタッフまで一夏の専用機の方に回しちゃってるらしくて、結果彼女の専用機開発がストップしちゃったんですよ。で、仕方なく彼女はプログラムから何から自力でやってるわけです」
「へ~、なるほどね。でも、その子がなんでうちに?」
「プログラミングとかその他IS作りで問題が出たり、何かしら手に負えない時にアキラさんにいろいろ教えてもらってたんですよ。今日はちょうどいいから直接来たんですよ」
「ふ~ん、なるほどね」
俺の説明に納得したようで、七海さんは頷きながらチーズケーキをぱくりと食べる。
「で?その子は颯太君の彼女?」
「ブッ!」
七海さんの言葉に何気なく口を付けたコーヒーを吹きだす。
「……なんでそうなるんですか?」
「だって、連坊小路さんに意見してもらえるように口利きしたのって君でしょ?だから、そうやって気を回してあげるくらい親しいのかなって」
「だからって彼女って……」
ため息まじりにコーヒーに口を付ける。
「簪は本当にただの友達です」
「へぇ~、簪ちゃんって言うんだ」
「…………」
「ねぇねぇ、その子ってどんな子?」
楽しげに笑う七海さんに俺はあきらめ、口を開く。
「……まあ、なんというか俺のオタク友達ですよ。俺と同じようにアニメとかも好きですけど、特に勧善懲悪のヒーローものが好きみたいですね。内気でちょっと臆病なところがありますし、今はそうでもないっすけど初めてあった頃は人を寄せ付けない感じのところありましたね。俺もたまたま彼女の好きなアニメ好きだって言う共通の話題があったからってのは大きいでしょうし」
まったくもってグレンラガン様様だ。
「へ~、だいぶ難しそうな子だね」
「アハハ、かもしれないっすね。しかも、内気で臆病なのに変に頑固で、これと決めたらどんだけ言っても信念を曲げないし」
専用機を自分で作るって言い出したときは頑なだったな。
「でも、そこがアイツのいいところっすね。真面目で一生懸命で、専用機の製造停止とか本当ならすっげえ悲しいはずなのに、自分で完成させようと頑張って。俺には絶対にできませんよ」
俺は七海さんにニッと笑いながら続ける。
「だから、あいつはすげえやつなんですよ。日本の代表候補生になったのも、専用機を自分で組み上げてるのも全部実力。俺に無い物をたくさん持ってて、正直羨ましいっすよ」
「ふ~ん………で?その簪ちゃんって可愛いの?」
「………話聞いてました?俺今結構いいこと言ったと思うんですけど」
「アハハ。ちゃんと聞いてたよ。でも気になるじゃない?」
「………可愛いと思いますよ。セミロングの内側に癖毛でカールしてて、小柄で、なんというか小動物系ですかね」
「ふ~ん……その子って眼鏡かけてる?」
「ええ。と言っても視力矯正のためじゃなくてIS用の簡易ディスプレイで、むしろ視力はいい方らしいです………ってなんでわかったんですか?」
「いや、だって……その子がそれっぽかったから」
と、七海さんが俺の背後を指差すので、つられて視線を向けると
「んなっ!」
顔を羞恥に赤らめた簪が立っていた。
「いたの?」
俺の問いにコクンと頷く簪。
「聞いてたの?」
コクン。
「い、いつから?」
「う~ん、私が〝その子は君の彼女?〟って訊いたあたり?」
「結構な序盤から!」
七海さんの答えに俺は頭を抱えて突っ伏す。
「は、恥ずかしいぃ!聞かれてるとも知らずにペラペラと喋っちゃってたよ!本人がいるとも知らずに思っている事そのまんま口にしちゃったよ!」
「『俺に無い物をたくさん持ってて、正直羨ましいっすよ』キリッ」
「やめて~!掘り返さないで~!」
七海さんのモノマネに俺は悶絶する。
「簪!い、今のは違うんだ!いや、別にウソを言ったわけではないんだけど!全部本当に思ってることだけどさ!」
「っ!?」
俺の言葉にさらに簪の顔が赤く染まる。
「うん、忘れてくれると助かる!ていうか忘れて!」
「……無理っぽい………」
「だぁ!無理か~!!」
このまま机にめり込んでしまいたいほどに机に突っ伏す俺。
「初めまして。私、ここの受付とか事務やってる七海リオンです」
「更識…簪です……」
突っ伏す俺を尻目に挨拶し合う二人。
「で?颯太君はああ言ってたけど、簪ちゃんは彼のことどう思ってるの?」
「ふえっ?」
「はっ!?」
七海さんの楽し気な笑顔とともに言われた言葉に俺も簪も素っ頓狂な声をあげる。
「ちょ、七海さん!?」
「まあまあ、いいからいいから」
何がいいのかわからんが俺をなだめるように言う七海さん。
「で?どうなの簪さん」
「……そ、それは………」
アワアワと動揺していた簪は視線をぐるぐるとさまよわせた後、頬を赤く染め、一瞬俺を見た後視線を外しながら口を開く。
「その……すごく感謝してます。仲が良くなかった私たち姉妹の仲を取り持ってくれたり……何度も私のことを助けてくれて……なんというかヒーローみたいです……」
「へ~……」
簪の言葉に楽しそうにニヤニヤと笑みを浮かべる七海さん。
「そ、颯太は…颯太に無い物を私が持ってるって言ってたけど……私は、私に無い物を持ってる颯太が羨ましいですし……その…かっこいいと思ってます」
簪のそんな言葉に俺は照れ臭くなり、頬をポリポリと掻く。
「青春してるわね。颯太君も隅に置けないな~。このこの~」
「んんっ!それで簪――」
楽しそうに笑いながら俺をつつく七海さんを無視しながら俺は口を開く。
「打鉄弐式の方はもういいのか?」
「うん……問題は解決したから…あとは帰って仕上げるだけ。七月中には終わると思う」
「そっか。アキラさんは?」
「今、火焔のメンテしてる……。すぐ終わるって言ってたから颯太を呼びに来たんだけど……その……」
「あ、うん。オッケー、了解」
簪の言わんとすることを察し、俺は残っていたケーキを頬張りコーヒーを飲み切り席を立つ。
「じゃあ七海さん、俺らはこれで」
「うん、お疲れ様。またね。簪ちゃんもまた今度ゆっくりね」
「は、はい……」
手を振る七海さんにお辞儀をしながら俺たちはそそくさと食堂から退散したのだった。
○
「はいこれ。メンテ終わったから……。特に問題は無し。いつも言ってるけど、何か気になることがあったらすぐに報告して」
「了解です」
「更識の方もまた何かあったらいつでも連絡して」
「は、はい……ありがとうございました」
「…………なんで二人とも顔赤いの?なんかあった?」
「「何もありません!」」
改めましてお久しぶりです。
リアルの方で色々と用事やら何やらが立て込んで忙しかったのですが、それもあらかた片付き、4月くらいまではだいぶ時間がとれそうです。
この間にできるだけ更新できればと思っております。
4月入ったらどうなるかわからないんで(;^ω^)
この期間にあっちも復活させようかな(ボソッ