年末年始と忙しく今まで更新できませんでした。
久々の投稿です。
第50話 打鉄弐式
コンコン
「は~い、どうぞ。開いてますよ~」
夏休みが始まって三日ほどたったある日。部屋のドアをノックする音に返事をしながら、俺はプラモデルを作る手を止める。
「こ、こんにちは……」
ドアからおずおずと入ってきたのは簪だった。
「どうかしたか?」
「……あの…今って大丈夫……?」
「おう。今日の分の宿題も終わったから。って言っても午後から用事あるけどな」
中途半端な時間だからプラモデル作ってるのだ。
普段の俺ならプラモデルは一気に作る派だが、そうそう手に入る値段じゃないのでもったいぶって手に入ってから三日間箱を眺めるだけで今日やっと開けたところである。
「用事か………」
「なんか大事な用か?できる限りなら手伝うけど」
俺の言葉に少し考え込むように黙った後、簪が口を開く。
「その……私の専用機の武装に荷電粒子砲があるんだけど…連坊小路さんに相談したら《火神鳴》のデータを参考にしていいって言われて……」
「なるほど……確かに《火神鳴》はアームでもあり荷電粒子砲でもあるしな……」
俺は簪の言葉に数秒考え込む。
「………なあ簪。お前今日の午後って暇?」
「…………え?」
○
「いらっしゃ~い、颯太君!よく来たわね!」
「こんにちは、指南社長」
というわけで午後からの用事、指南コーポレーション本社へとやって来た。
「あれ?その子は?」
「っ!」
そんな俺の背後に隠れるようにいた簪に社長が気付く。声をかけられた瞬間簪がビクッと体を震わせる。
「ああ、この子はさっき連絡した……」
「さ…更識簪…です……」
「あ~!はいはい!なるほどね!うんうん、聞いてる聞いてる!アキラちゃんに意見聞きに来たのよね?」
「は、はい……」
「てか、連れてきて今更なんですが、他の会社のISを見てもいいんですか?」
俺はふと疑問に思ったことを口にする。
「ああ、その辺は平気。簪ちゃんの相談にのるってなってからすぐにアキラちゃんが倉持から許可取ってたから」
「おお、流石に手回しが早いっすね」
「まあ権利とか絡んでくるからいろいろ許可とっとかないと面倒なのよ」
「すいません……俺そのへんのことまったく考えてなかったですね」
「いいのいいの。エルエルフなんかはまた『倉持と繋がりができた。これからは良好な関係を築くとしよう』とか何とか言ってたし」
「あはは、ミハエルさんなら言いそうっすね。しかも超そっくり」
指南社長のモノマネを織り交ぜた言葉に笑ってしまった。
「でしょ~?これは自信あるんだ~!コツはね、眉間にこーんなしわを寄せてね――」
「ほう?いったいどんなしわを寄せるんだ?」
「だから、こーんな………ぬわっ!」
そう言いながら指南社長が振り返るとそこには
「ほほう?俺は常にそんなに眉間にしわを寄せているか?」
口元に笑みを浮かべた、しかし、目が全く笑っていないミハエルさんが腕を組んで立っていた。
「あ~……いや……これは……」
「なるほど。お前たちが俺のことをどう思っているのかよ~っくわかった」
「い、いや、別に俺は……」
「似てると思ったんだろう?社長のモノマネ」
「うっ!」
「つまりはそういうことだろう?」
「あ……いやまあ……アハハハハハ」
俺はごまかすように笑う。
「…………はぁ、まあいい。そんなことよりいつまでこんなところに突っ立っているつもりだ?颯太、お前だけならいくらでも雑談していて構わんが今日は他に客もいるだろう?とっとと用事を済ませに行ってこい」
「あっ、はい」
俺はミハエルさんの言葉に頷く。
「じゃ、じゃあ簪、行こうか」
「う、うん……」
「連坊小路はいつもの個人室にいるはずだ」
「はい、わかりました」
「それじゃあ私も……」
「待て」
俺と簪の後に続いて歩を踏み出した指南社長の肩をガシッとミハエルさんが掴む。
「お前はこっちだ」
「で、でもお客さんだしトップの私も行った方が……」
「その気持ちは大切だが、残念だがお前にはそれよりも優先すべき仕事がある」
「いいじゃない。後でパパッと終わらせるからさ」
「ダメだ」
「なによ!いいじゃない!」
「大事な仕事をパパッとで終わらせてもらっては困る。じっくりしっかりやってもらう。今日は時縞副社長が不在な分俺がお前の仕事をしっかり管理してやる」
「あ、春人さんいないんですね」
ミハエルさんの言葉にふとした疑問を口にする。
「ああ、他社の役員との会議でな。そんなわけで来てもらおうか社長」
「えー、私も着いて行きたい!ほら、颯太君もなんとか言ってよ!」
「社長。お仕事頑張ってください」
「裏切者ぉ!」
指南社長の言葉を背に俺たちはアキラさんの個人室に向かって歩き出した。
○
「こんにちは~、アキラさんいますか~?………ってあれ?」
廊下を進み、目指す一室に着いた俺たちは扉を開けて入るが、そこには誰もいなかった。
「誰も…いないね……」
「おかしいな……ここって聞いたのに……」
「どうしたの?」
ふたりで首を傾げていたところに後ろから声がかかる。振り返るとそこには小柄な黒髪の女性が立っていた。長い黒髪をポニーテールにまとめ、黒のスーツに身を包んだ眠たげな半眼の女性。それは
「あ、野火さん。お久しぶりです」
「やあ、久しぶり」
指南社長の学生時代からの親友にして現在は社長秘書の野火マリエさんだった。
「ん?そっちの人は?」
「あぁ、たぶん話は伝わってると思うんですけど、『打鉄弐式』の操縦者、日本の代表候補生の――」
「さ…更識簪です……」
「……颯太君の愛人?」
「違います。てか愛人って何ですか!?そこは『彼女?』って聞くのが普通じゃないですかね!?」
「じゃあ……三号さん?」
「三号って何ですか!?二号とかならわかりますけど……だいたい二号なら愛人と意味一緒だし。だったら本妻って誰なんですか?」
「ん~……シャルロットちゃんあたり?二号は会長さんかな」
「はいはい、違いますよ」
俺はため息まじりに答える。
「簪は元同室のただの友達ですよ」
「……ただの………」
「ん?どうした?」
「な、何でもない……!」
何かつぶやきながら少しショボンとしたように見えた簪に訊くがぶんぶんと手を振りながら否定する簪。変なの。
「まあいいや。それで野火さん、アキラさんどこ行ったか知りません?ここにいるって聞いてたんですけどいなくて」
「アキラは……」
俺の言葉に答えきらずにそのままずんずんと部屋に入って行く野火さん。そのまま部屋の中に乱雑に置かれた大きな段ボール箱の中の一つの前に立つ。
「えい」
そんなまったく力の入っていないような掛け声とともに野火さんが段ボール箱を持ち上げるとそこには
「いた……」
「そんなところで何してんですかアキラさん?」
白衣姿の赤毛の女性、連坊小路アキラさんが体を丸めて入っていた。
「っ!っ!っ!」
ワタワタと立ち上がり野火さんの持つ段ボールを取り返そうとしているが野火さんはユラリユラリとかわす。
「あの……俺前もって連絡しましたよね?簪連れて行くって」
「………つ、つい……」
どうやらアキラさんの対人恐怖症が発動していたようだ。
「まあいいです。――えっとふたりは……」
「画面越しには何度か……でも、こうして顔を合わせるのは初めて……」
「そうか。じゃあ改めて、こちら指南コーポレーションの技術部所属の――」
「れ、連坊小路アキラ……です……」
「で、こっちが日本代表候補生の――」
「更識簪です……」
「「は、はじめまして」」
ふたりで頭を下げあう。
「それじゃあ、問題なさそうだから私行くから」
「あ、はい。ありがとうございました」
フリフリと手を振りながら去って行く野火さんにお礼を言いながら俺は二人に向き直る。
「それじゃあさっそく……」
「うん、要件をすまそう」
俺の言葉にアキラさんが頷きながら簪を手招きする。
ふたりで着いて行くと大きなディスプレイの前まで来てアキラさんがその場の椅子に座る。
「で?どこで問題が出てるの?」
「えっとここの……」
言いながら簪は空中投影ディスプレイを出し、アキラさんに示す。
「ああ、ここは〇〇で××だから……」
「な、なるほど……」
な、なるほど……さっぱりわからん。今のは日本語ですか?っていうレベルでわからん。
「えっと……俺ちょっと下の食堂の喫茶室行ってていいですか?」
「構わない。多分君にはわからないだろうから……」
「ええ、ちんぷんかんぷんです」
俺はアキラさんの言葉に頷く。
「あ、『火焔』だけおいて行って。点検しておくから」
「わかりました」
俺は頷きながら右腕のリングを取り外す。今日来たのも俺のもともとの目的は『火焔』の定期点検だったからだ。
「じゃあ簪、食堂に行ってるから何かあったら連絡くれ」
「う、うん、わかった」
俺の言葉に頷きながらも簪の言葉にはなんとなく身が入っていないようだった。多分もう気分は自身のISのことにうつっているのだろう。
俺は簪とアキラさんにもう一度声をかけてから部屋を後にした。
はい、というわけで改めましてあけましておめでとうございます。
色々と忙しくごちゃごちゃやってるうちにもう新年10日経ってました。
しかも今月中はまだ忙しそうなんで今月中は更新できないかもです。
来月からは少しは時間ができるんで来月からはもう少し頻繁に更新できると思います。