IS~平凡な俺の非日常~   作:大同爽

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お久しぶりです。
短めですが、無い物と合わせて久しぶりの投稿になりました。
お待たせして申し訳ないです。


第45話 切腹

「くっ!この!」

 

 福音の翼から放たれる弾幕の雨をぬって一夏は零落白夜による攻撃を加えるが、二撃目が通らない。そうしている間に一撃目で切り落とした片方の翼が再構築される。

 

「くっ!」

 

 ――エネルギー残量二〇%。予測稼働時間、三分。

 

(くそっ!このままじゃ……)

 

 リミッターのない軍用ISのエネルギーがどれほどのものか見当もつかない。対して着実に稼働限界の近づく自身の機体。他のみんなのISも同じかもしれない。このままでは……。そんな思いが一夏の中で大きくなり、それは焦りへと変わる。

 

「くそっ!どうすれば――」

 

『みんなっ!』

 

 一夏たちの中で焦りが広がりつつある中で、オープンチャネルを通して簪の声が響く。

 

『どうしたの、簪!?』

 

『それが……颯太の反応が……上昇してる!徐々に正常な数値に!』

 

「なんだって!?」

 

 一夏を含め全員の驚愕が通信を通して伝わってくる。そして――

 

『みんな!』

 

 オープンチャネルにさらに新たな声が加わる。

 

「まさか……」

 

『『颯太!』』

 

 一夏の驚愕にかぶさるようにシャルロットと簪の声が響く。

 

『悪い、待たせた!』

 

 

 

 ○

 

 

 

「悪い、待たせた!」

 

 俺は立ち上がりながら叫ぶ。

 

『お前、無事だったんだな!?』

 

 オープンチャネルから一夏の声が聞こえてくる。

 

「話は後だ!それよりもみんな頼む!一分でいい!あと一分ほど時間を稼いでくれ!」

 

『一分を稼いだらどうなるって言うんだ!?』

 

 通信を通してラウラが疑問を飛ばしてくる。

 

「俺にもわからん!」

 

『なっ!?アンタにもわからないのにこの状況をどうにかできるの!?』

 

 俺の言葉に鈴が呆れたように言う。

 

「しょうがねえだろ!あいつ、詳しく教えてくれねえんだもん!」

 

『誰よ、〝あいつ〟って!?』

 

「だから説明してる時間がないんだって!それよりあと一分ほどでいいから福音の相手をしててくれ!」

 

 俺は叫びながら視線を視界の端の数値に向ける。あともう少しで600を超えるだろう。

 

『わかった!』

 

 通信を通じてシャルロットの声が響く。

 

『なんだかよくわからないけど、一分稼げばいいんだね!?』

 

「頼む!」

 

『みんな……やろう!』

 

『くっ!やるしかないか!』

 

『ホントにどうにかできるんでしょうね!?』

 

『信じましたわよ、颯太さん!』

 

『一分と言わずに我々だけで終わらせてやる!』

 

『箒の言う通りだ!颯太の出番なく終わらせてやる!』

 

『バックアップは任せて!』

 

 通信の向こうからはみんなの頼もしい声が聞こえてくる。

 

「みんな頼んだぞ!」

 

『『『『『『おお!』』』』』』

 

 皆の返事を聞きつつ俺は数値に目を向けると数値が600を超える。

 それと同時に目の前に一つのディスプレイが広がる。

 

「これは……!?」

 

 そこに書かれていたのは――

 

 

 ○

 

 

 

「はぁぁぁ!!」

 

 一夏が通常の雪片弐型で斬りかかる。が、それをいともたやすく回避する福音。そんな福音に背後から弾丸が被弾する。

 

「僕らがいることを忘れないでね!」

 

 シャルロットが両腕のアサルトライフルの銃口を福音に向けたまま叫び、

 

「そうですわ!」

 

 また別の方向からはセシリアのレーザーライフルによる砲撃が襲う。

 それらを回避しながら福音は飛び回る。

 

「そっち行ったよ、ラウラ!」

 

「任せろ!」

 

 シャルロットの言葉に返事を返すとともに福音の翼にラウラのレールカノンの砲撃が被弾する。

 

「動きが!」

 

「止まった!」

 

 ラウラの砲撃により一瞬硬直した福音の両脇から箒と鈴が攻撃を仕掛ける。

 

「――っ!」

 

 自身に向かってくる二つの機影に反応した福音は自身の右側からくる箒の二刀の近接ブレードを手で受け止め、鈴の斬撃を翼で防ぐ。

 そのまま鈴と箒を放り出し、距離を空けたところで自身を包むように翼を広げる。

 

『福音のエネルギーが翼に集まってる!みんな……気を付けて!』

 

 簪の言葉とともに全員が防御態勢を取る。

 それと同時に福音からのエネルギー攻撃『銀の鐘』があたり一面に振り撒かれる。

 福音のエネルギー弾が雨霰の如く一夏たちを襲う。

 

『颯太!これ以上はもう持ちそうにないよ!』

 

 ガーデン・カーテン改を構え、ラウラと自身を守りながらシャルロットがオープンチャネルに叫ぶ。

 

『OK!ちょうど一分!準備完了だ!』

 

 通信を通して颯太の声が聞こえるとともに先ほど颯太の墜落した小島から眩いまでの光が放たれる。

 

『待たせたな。ここからは俺のターンだ』

 

 

 

 ○

 

 

 

 666を迎えると同時に俺の体を包む『火焔』の装甲が燃え盛る炎のようなオーラを発する。

 それと同時に《火人》以外の装備――《火ノ輪》《火神鳴》《火打羽》《火遊》が操作してもいないのに展開を解除される。

 

「待たせたな。ここからは俺のターンだ」

 

 今までうんともすんとも言わなかった機体がウソのようにスムーズに動く。むしろ今までで一番スムーズだろう。

 そのままふわりと上空に浮かび上がる。

 

『颯太!福音が!』

 

「ああ、わかってる」

 

 簪の言葉に頷く。突如として発光現象とともに出現した『火焔』を一番の脅威と判断したらしく、福音がこちらに全速力で向かってくる。

 

「福音と俺の射線上に絶対に入るなよ!俺も初めてだから上手くやる自信はない!」

 

 全員に向かって叫びながら腰の鞘に納められた《火人》を引き抜き、真上へと掲げる。

 

「行くぞぉぉぉ!!」

 

 そのまま掲げた《火人》を自身の腹に当て、いっきに突き刺す。

 

『颯太っ!?』

 

『ハラキリだと!?』

 

『気でも狂ったか!?』

 

 シャルロット、ラウラ、箒の言葉が通信越しに聞こえてくる。どの声も驚愕と困惑の色が見える。

 

『いや、待って!よく見て、颯太の背中!《火人》の先が突き抜けてない!』

 

 鈴が叫ぶ。

 そう。自分のお腹にまるで切腹の要領で突き刺した《火人》は俺の体に触れた時点で量子化されている。そのため俺は無傷だ。ではなぜこんなことをしたかというと――

 

「はぁぁぁぁ!!!」

 

 俺は自分に突き刺した《火人》を一気に引き抜く。

 その刃は先ほどまでと比べ物にならないほどの大きさに膨れ上がる。それは刀とは言えず、まるで光の波のようであった。

 

「これが俺の!単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)!『ハラキリ・ブレード』だぁぁぁ!!」

 

 鞭のようにしなる光の波となった刃を大きく振りかぶる。

 

「いっけぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」

 

 振りかぶった《火人》を両手で握り、向かってくる福音に放つ。

 接触する寸前にエネルギー翼で自身の体を包むようにガードする福音。だが――

 

「はぁぁぁぁ!!!!!!」

 

 そんなものまったく意味をなさず、俺の『ハラキリ・ブレード』が福音を切り裂く。

 

「よっしゃ!………って、やべっ!」

 

 俺が福音を切り裂いたことでアーマーを失い、ISスーツのみとなった搭乗者が海に向かって落下していく。

 すぐさま救出のために加速しようとした時

 

「って、あれ!?」

 

 先ほどまでの炎のようなオーラが消え失せ、別の光が『火焔』を包む。その光が消え失せた時

 

「ちょっ!『火焔』さんっ!?」

 

 『火焔』の装甲も消え失せていた。

 

「なぁぁぁぁぁぁぁ!!?」

 

 ISの出力のなくなった俺は海面に向かって自由落下を始める。漫画の如く空中で泳ぐようにもがくがやはり意味を持たない。

 

「死ぬ死ぬ死ぬ!!これ絶対死ぬってぇぇぇぇ!!!」

 

 落下の恐怖からきつく目を瞑って叫ぶ俺の体から不意に落下の感覚がなくなる。

 

「…………あれ?」

 

 恐る恐る瞼を開くと、そこには

 

「まったく、無茶するんだから颯太は」

 

「シャルロット……」

 

 目の前にシャルロットの呆れた顔があった。

 

「ねぇ、普通逆じゃないかな?」

 

 言われて確認すると、いわゆるお姫様抱っこの状態で俺を抱きかかえるシャルロット。

 

「………面目ない」

 

 照れ臭くなり、顔を背けながら頬を掻く。が、そこで俺はまだ終わっていないことに気が付く。

 

「そうだ!福音の操縦者は!?」

 

「それなら――」

 

「私が助けたわよ」

 

 声のする方を見ると、先ほど一瞬見えた落下していった福音の操縦者を抱き抱えた鈴が俺たちの真横にやって来ていた。

 

「まったく、アンタも詰めが甘い上に無茶するわね」

 

「……重ね重ね面目ない」

 

 呆れ顔の鈴に苦笑いで答える。

 

「やったな」

 

「これで終わりましたわね」

 

 ラウラ、セシリアもやってくる。

 

「長かったな……」

 

「でもま、これで帰れる。戻ろうぜ。千冬姉たちが待ってる」

 

 篠ノ之と一夏もやってくる。

 

「………待ってる……よなぁ。鬼の形相で……」

 

 一夏の言葉に俺はため息まじりに呟く。

 

「………帰りたくない……」

 

『バカ言わないで……』

 

 俺の言葉に呆れたような声が聞こえてくる。ISを展開していない俺でも聞こえるように設定を変えたらしい通信を通しての簪の声らしい。

 

『………みんな無事だったんだから……戻ってくるまでが任務……』

 

「だよなぁ~……」

 

 簪のごもっともな言葉に頷く。

 

「それじゃ、帰りますか」

 

 いつの間にかオレンジ色に染まっていた空を見ながら言った俺の言葉にみんな笑みを浮かべ、頷いたのだった。




やっと出せましたよ、ハラキリ・ブレード。
長かった。ここまで来るの長かった。
そして早かった。無い物に追いつくの早かった。
………どうしてこうなった。

さて、『ハラキリ・ブレード』のことは次回詳しく解説すると思いますが……もしかしたら先に番外編を挟むかも。
というか多分挟みます。

てなわけで次回もお楽しみに。

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