IS~平凡な俺の非日常~   作:大同爽

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かぁぁぁぁなぁしぃぃぃぃぃみぃのぉぉぉぉ♪

むこぉぉぉぉぉぉへぇとぉぉぉぉぉぉぉぉぉ♪



第39話 学校の日々

「はふぅぅぅぅぅ……」

 

「はぁぁぁぁぁ……」

 

 露天風呂なので学園の浴場ほど響かないが、それでも二人しかいない温泉に俺と一夏の間抜けな声は響いたように感じた。

 夜。夕食後に一夏と連れ立って温泉にやって来た。現在この旅館はIS学園の貸し切り状態なので男湯には俺たち以外の人間はいない。広く豪華な温泉をふたりで満喫している。

 え?男の入浴シーン見ても何も楽しくない?……まあそう言うなよ。俺も同意見だから。

 

「しかしまあ、つくづくすごい学校だよな、IS学園って」

 

 俺は横で風呂の縁に頭を乗せ体を預けている一夏に言う。

 

「こんな豪華な旅館を貸し切りって」

 

「確かにな。夕食もすっげえ豪華だったし、美味かったし」

 

 一夏もうんうんと頷いている。

 

「今まで生きてきた中でここまでのレベルの温泉旅館とか初めてだよ。この臨海学校だけでもIS学園に入学できた奇跡を噛みしめられるね」

 

 俺は笑いながら言い、ふと、自分の言葉に引っ掛かりを見つける。

 

「………ん?どうかしたか?」

 

 急に黙った俺を不思議に思ったのか、一夏が首を傾げながら訊く。

 

「いや、もうそろそろ四ヶ月経つんだな~って思ってさ……」

 

「ああ……」

 

 俺の言葉に一夏は理解したように頷く。

 半年前。二月の中旬に俺がISを起動したから今俺はここにいる。それまで一般的でごくごく平凡な日常を送っていた俺に突如現れた非日常。

 それから約一ヶ月半は政府の指定したホテルに籠ってほとんど参考書とにらめっこだった。まあ頼めば欲しいものはだいたい手に入ったから不自由はなかったが。

 そして、四月。今から約三か月半から四か月前、俺はIS学園に来た。

 

「ここまで来るの、あっという間だったよ。人間は慣れる生き物だ、なんて言葉は漫画やアニメでよく出てくる言葉だけど、……実際その通りだったな」

 

「そうだな……」

 

「半年前には思ってもみなかったよ。まさか俺が女の園IS学園に入学して……専用機まで貰えるなんてな」

 

 俺は右腕――赤いリングのブレスレッドを撫でる。一夏も感慨深げに白いガントレットを見つめている。

 

「………そういえば、女の園と言えば――」

 

「ん?」

 

「こっち来る前に友達に、『夏休みになるころにはお前にも彼女出来てるんじゃないか』みたいなこと言われたな」

 

「ああ、俺も似たようなこと言われたな」

 

 横で一夏が笑いながら言うが、俺はだらけていた姿勢から背筋を戻し

 

「なあ……一夏」

 

「ん?」

 

「お前って、好きな奴いる?」

 

「………はぁ!?」

 

 俺の言葉に一瞬の間を空けて一夏が驚きながら体を起こす。

 

「なんだよいきなり?」

 

「いや……なんとなく?」

 

 俺は苦笑い気味に答える。

 

「ほら、うちの女子ってみんなレベル高いし、お前の周りにいる人とか特に」

 

「ん~………今まで考えたことなかったな……」

 

「じゃあ……例えば篠ノ之は?」

 

「箒?箒は……幼なじみだな」

 

「…………えっ?それだけ?」

 

「おう」

 

 予想通りだな。予想通りすぎる。

 

「じゃあ、セシリアは?」

 

「セシリアは……いい奴だよな。クラスメイトとしてもそうだし、ISのことでもよく教えてくれるし」

 

「…………あ、それだけ?」

 

「ん?そうだぞ」

 

「そ、そうか……」

 

 えっとじゃあ……

 

「それじゃあ、鈴は?」

 

「鈴?鈴は……セカンド幼なじみだな」

 

「…………ん?またそれだけ?」

 

「おう」

 

「篠ノ之やセシリアもそうだけど、他にもっとねえの?鈴なら……ほら、毎日酢豚を~のこととか」

 

「あ~、毎日タダで酢豚くわせてくれるってやつだな。幼なじみとはいえいい奴だよな」

 

「………あ…そうですか……」

 

 いくら本人がそう言ったからって……いや、何も言うまい。

 

「じゃあこいつはどうだ!ラウラは!?」

 

「ラウラは……変わってるよな」

 

「…………えっ!?それだけ!?ラウラは一番思うところありそうだろ!?」

 

「えっ?」

 

「『えっ?』じゃねえよ!ほら!いきなりキスされたこととか!」

 

「あー、あれには驚いたな」

 

「だろっ!?」

 

「いくら外国ではキスは挨拶だからってまさかいきなり唇にされるとは思わなかったな。普通頬とかだよな」

 

「……あっ、じゃあ嫁宣言はっ!?」

 

「あれも驚いたな。テレビとかでは見たことあったけど実際いるんだな、オタク文化に変に影響受けた外国人って」

 

「じゃ、じゃあ朝裸で押し倒されたりはっ!?」

 

「あれも驚きだよな。ドイツにはああいう風習でもあるのかな?」

 

「………………」

 

 絶句。箒、セシリア、鈴は予想通りとは言え、一番アプローチを行っているラウラでさえこの程度の認識とは………。駄目だこいつ…早くなんとかしないと…。

 

「……ん?どうかしたか?」

 

「…………いや、うん、なんでもない」

 

 唖然としていたせいだろう。一夏が訊くがこれ以上言うのはやめよう。

 

「なあ一夏。頼むから後ろから刺されるなよ?」

 

「なんだよいきなり」

 

「いや、なんかお前って将来女性関係で大失敗しそうな気がして……。例えば複数の女の子といい感じになって、そのうちの一人が妊娠。その子に子供をおろせって言ったら刺し殺されて、刺した子も別の子に殺され、『やっぱり……中には誰もいませんよ』ってその子が刺した子の腹かっ捌いて言い残し、最後にはその子はお前の生首を抱えてヨットで大海原へと去って行く――みたいなことにはなるなよ?」

 

「なんだそれ。怖いしリアリティないのにやけに細かいな」

 

「知らないならいい」

 

 そうなったら『かぁなしぃみの~♪むこぉぉへと~♪』がお前の葬式のBGMだ。

 

「でもさ、そういう颯太はどうなんだよ」

 

「え?俺?」

 

 突然のことに俺は驚きながら訊く。

 

「俺はちゃんと一人の人を選んで、ちゃんと愛し続け――」

 

「いや、そうじゃなくて。お前は好きな人とかいないのかって話だよ。例えば今お前が名前を挙げたやつとか」

 

「いや、そいつらはないな。理由は言えないけど」

 

 好きな奴がいる(それは俺じゃない)ってのがあるから、どうしてもそういう対象には見れない。

 

「楯無さんとかその妹の簪さんとかシャルロットとか」

 

「師匠に簪にシャルロットか……」

 

 俺は呟くように三人の名前を言いながら上を向く。屋根がない露天風呂からは夜空を見上げることができる。満天の星空だった。

 

「………まあ俺はお前と違ってちゃんと考えてるよ」

 

「お?そうなのか?」

 

「いいなあ……とか、可愛いなあ……とか思う相手はいる。でもそれが付き合いたいほど好きかと言われればわからない。だから、その人たちとは今はこのままでいいかなぁって思う」

 

「へ~。ちなみに誰なんだ、その相手って?」

 

「言わない」

 

「なんだよっ!言えよ!」

 

「絶対言わねぇ!」

 

「俺に訊いといて自分は言わねぇのは不公平だろ!」

 

「黙れ朴念仁!大体お前にはそういう対象いないんだから言ってないようなもんだろ!」

 

「いないっていうのを言っただろ!」

 

「じゃあ俺もいねぇよ!」

 

「さっきいるって言ってたじゃん!」

 

 そんな感じで男湯は少しの間にぎやかになった。

 

 

 ○

 

 

 風呂から上がった俺は部屋に戻ろうと一夏と歩いていると

 

「ん?」

 

 マナーモードにしていた携帯が着信を告げる。

 

「悪い一夏。電話かかってきたから先行っててくれ」

 

「おう、わかった」

 

 一夏と別れ、廊下の端に移動する。画面を見ると電話の相手は楯無師匠だった。

 

「もしもし、師匠?無事帰れましたか?」

 

『もしもし。お陰様でね』

 

 電話口から若干不機嫌そうな師匠の声が聞こえてくる。

 

『虚ちゃんにものすごく怒られた。仕事終わるまで生徒会室から出してもらえなかった。やっとついさっき終わったところ』

 

「そ、そうですか……」

 

 今度は若干泣きそうな声になっている。相当怖かったんだろう。

 

「師匠。自業自得って言葉知ってますか?」

 

『ぶー!だって私も遊びたかったんだもん!』

 

「はぁ、二日後には帰るんですからおとなしく待っててくださいよ。夏休みになれば海でもプールでも行けるでしょう」

 

『みんなで遊ぶことに意味があるのよ!』

 

「いいこと風に言ってますけど、それだと臨海学校に来た俺らと師匠だけで、布仏先輩だけ除け者になっちゃいますよ」

 

『あっ……』

 

 師匠の間の抜けた声が聞こえてくる。

 

「どうせなら布仏先輩も入れてみんなで遊んだ方がいいでしょ。夏休みまでの辛抱ですよ」

 

『…………お土産買ってきてよ』

 

「生乾きの乾燥ヒトデでいいですか?」

 

『何そのチョイス!もっといいもの買ってきてよ!』

 

「アハハハ。冗談ですよ。適当に見繕って帰ります」

 

『もう、絶対だからね』

 

「はい。……それじゃあ、生徒会の仕事頑張ってくださいね」

 

『うん。颯太君たちもくれぐれも気を付けてね。特に事件とかは起きないとは思うけど』

 

 そう言って師匠は電話を切った。俺は数秒、切れて暗くなった画面を見つめてから携帯をしまう。

 

「あ、颯太」

 

 部屋に向かって歩いていたところで風呂上りらしく若干髪の湿っているシャルロットと簪に出会う。

 

「………………」

 

「ん?……どうかしたの、颯太?」

 

 一瞬二人をじっと見つめて黙ってしまった俺にふたりが不審に思ったらしく訊く。

 

「あ、いや、なんでもない。お前らも風呂上がりか?」

 

「うん……シャルロットと今上がったところ」

 

「颯太は一人?」

 

「さっきまで一夏と一緒だったんだけど、師匠から電話かかってきたから先に行ってもらったんだ」

 

「お姉ちゃんから?」

 

 俺の言葉にふたりは首を傾げる。

 

「あぁ……言ってなかったか。実は師匠、朝の時点では臨海学校にこっそり着いて来てたんだよ」

 

「「えっ!?」」

 

「でも、俺と一夏が見つけて織斑先生に引き渡したんだ。それで無理矢理学校に強制送還されて布仏先輩にこってり怒られたらしい」

 

「もう……お姉ちゃんったら……」

 

「アハハ……楯無さんらしいね……」

 

 簪は頭を抱え、シャルロットも苦笑いだ。

 

「で、今本人から電話があって、無事学園には戻ったらしい。お土産も頼まれた」

 

 俺も若干苦笑いになりながら言う。

 

「それで、ふたりはこれから暇?点呼までは時間あるし、部屋で一緒に遊ばないか?のほほんさんとかも呼んで」

 

「うん。僕は大丈夫だよ」

 

「私も……行く」

 

「じゃあいったんそれぞれの部屋に戻って俺の部屋に集合な」

 

 三人で頷き合いながら俺たちはいったんそれぞれの部屋へと向かった。

 




あー、何が楽しくて男同士の入浴シーンと書かねばならんのか。
でも、一夏と二人で語らいをさせようと思ったらここしかなかったのも事実……。

次回はとうとう颯太がやつと完全遭遇です。



――追記――
変更したはずのところが変更されずに投稿してしまったので編集しました。
編集前に読んだ方はすみません。

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