「青い海!白い砂浜!照りつける太陽!――うぅ~みだぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
着替え終わって外に出た俺と一夏を待ち受けていたのは輝かしいまでの青い海だった。
「あ、織斑君と井口君だ!」
「えっ、うそっ!?私の水着変じゃないよね!?」
俺たちが出てきたことで女子たちがざわつく。
とりあえずは気にせず俺たちは砂浜へと歩を進める。
「「あちちちっ」」
ふたりして声を揃えて同じようにその場で足踏みする。燦々と照りつける太陽で焼かれた砂。が、そんな砂の熱にもすぐに慣れ、普通に歩けるようになる。
「とりあえずまずは泳ぐか。そのためには準備運動だな」
「おう」
一夏と並んで劣化ラジオ体操のような動きで体の節々を動かし筋を伸ばす。
「い、ち、か~~~~っ!」
と、準備運動中だった俺の横で同じように準備運動をしていた一夏によじ登る鈴。その姿はまるで猫のように身軽だった。
「相変わらず真面目ね。ほらっ、終わったんなら一緒に泳ぎに行きましょ」
そう一夏の背中で言う鈴の水着は鈴らしいスポーティーなタンキニタイプ。オレンジと白のストライプでへその出ているものだった。
「こらこら、お前もちゃんと準備運動をしろって。溺れても知らないぞ」
「あたしが溺れたことなんかないわよ。前世は人魚ね。たぶん」
そう言いながらスルスルと一夏の肩まで登る姿はまるで猿のようだった。絶対人魚じゃねえなこれ。
「おー、高い高い」
周りを見渡して楽しそうに笑う鈴。
「あっ、あっ、ああっ!?な、何をしていますの!?」
と、そこにやって来たセシリア。手には簡単なビーチパラソルとシート、そしてサンオイルのボトルを持っている。
セシリアの水着はブルーのビキニ、腰にはパレオが巻かれている。
「何って、肩車」
「降りてください!一夏さんには私にサンオイルを塗ってもらうことになっているんですの!」
「「「え!?」」」
セシリアの言葉に周りの女子たちが沸き立つ。
「私サンオイル取ってくる!」
「私はシートを!」
「私はパラソルを!」
「じゃあ私はサンオイル落としてくる!」
いや、それはもったいないから。
「相変わらずの人気だねー、おりむーは」
「あ、のほほんさん。………えっと、それは水着なのか?」
「そうだよ~」
そう言いながらパタパタと手を振るのほほんさんの姿は普段のパジャマのような(本人曰く)水着だった。あれで泳げるのだろうか。日焼けはしなさそうだが。
「コホン。そ、それでは一夏さん。お願いしますわね」
そう言ってしゅるりとパレオを脱ぐセシリア。
「え、えーと……背中だけだよな?」
「い、一夏さんがされたいのでしたら、前も結構ですわよ?」
「いや、その、背中だけで頼む」
「でしたら――」
セシリアはいきなり首の後ろで結んでいたブラの紐を解いて、水着の上から胸を押さえてシートに寝そべった。
「さ、さあ、どうぞ?」
「お、おう」
「長くなりそうだから、俺は先に泳ぎに行ってるぞ」
「お、おう……」
俺の言葉に一夏が返事をし、セシリアへと向き直る。
俺はそんな一夏たちを置いて、一人海に歩いて行った。てか、サンオイル塗ってもらうとかラノベとかでありそうなシチュだよな。
○
「――ん?」
地元に海があったおかげで泳ぎが得意な俺は、少し深いところ、ブイの浮くあたりを泳いでいた俺は浜辺が少し騒がしくなったのに気づく。
セシリアが怒ったように暴れ、そこから逃げるように一夏と鈴が海に入ってくる。どうせ一夏が何かやらかしたんだろうな。
海に入った一夏と鈴は競争でも始めたのか俺のいる方向に向かって泳いでくる。
「……よしっ、ちょっとおどかしてやろーっと」
泳いでいる真下から平行に俺が現れたらきっと驚くだろう。
一夏と鈴に向けて泳ぎ始める俺。
(ターゲットは……鈴だな)
一夏より先を泳ぐ鈴を目標に定め泳いでいく俺は、ふと、様子がおかしいことに気が付く。
(なんか……焦ってる?というかもしかして……)
俺の思考が結論に行きつく前に目の前にいた鈴がブクブクと沈んでいく。
(あいつ、溺れてるじゃんっ!)
急いで水面に顔を出し、大きく息を吸った俺はそこから潜水。先に沈んだ鈴に向かって行く。
(とどけ!)
パニックになっているのか、もがいている鈴の手をなんとか掴み、抱えて水面へと急浮上。
「ぶはっ!」
「ごほっ!ごほっ!」
水面から顔を出した俺の横で鈴が大きくむせる。
「おい、大丈夫か、鈴?」
「う、うん。なんとか……」
「鈴!颯太!」
心配げな顔で横にやって来た一夏。
「二人とも大丈夫か?」
「俺は平気だ。鈴もとりあえずは大丈夫そうだ。意識もはっきりしてるし」
「そうか……」
安堵の笑みを浮かべる一夏。
「とりあえず浜に戻ろう。一夏、鈴を頼む。今潜ってた俺よりお前の方が体力あるだろうし、鈴を連れてってやってくれ」
「おう。任せろ」
鈴を背負った一夏の横に並び、浜へと向かう。
「……颯太」
「ん?なんだ?」
「………あ、ありがと……」
ポソポソと、きっと隣にいなければ聞こえなかったであろう大きさではあったが、鈴が言う。
「まったく、とんだ人魚だよな。まあ気にするなよ。――今は一夏の背中でも堪能してろ」
「なっ!?」
ニヤニヤと小声で言う俺の言葉に鈴が顔を赤く染めながらも、一瞬の間の後に一夏の首に回していた手に少し力を籠め、さらに密着する。
「ん?どうかしたか?」
俺の言葉が聞こえていなかったらしく、一夏が首を傾げるが、鈴は
「……何でもない」
と答え、そんな光景を俺はニヤニヤしながら見ていた。
○
「あ、颯太、一夏。ここにいたんだ」
鈴をセシリアたちに任せた俺と一夏のもとにシャルロット、そして――
「な、なんだそのタオルおばけは」
タオルを全身に巻いたミイラ状態の謎の人物がやって来た。タオルから出ている銀髪のツインテールや背格好からラウラだとは思うが、それにしたってこの格好はなぜに?
「ほら、出て来なって。大丈夫だから」
「だ、だ、大丈夫かどうかは私が決める……」
タオルの中から聞こえるくぐもった声はやはりラウラだった。
その声は弱々しいものだった。いつもの自信満々な雰囲気はどこ行った。
「ほーら、せっかく水着に着替えたんだから、一夏にも見てもらうでしょ?」
「ま、待て。私にも心の準備というものがあってだな……」
「もー。そんなこと言ってさっきから全然出てこないじゃない。一応僕も手伝ったんだし、見る権利はあると思うけどなぁ」
「「?」」
俺も一夏も状況が飲み込めず首を傾げる。
「うーん、ラウラが出てこないんなんら僕だけで颯太や一夏と遊びに行こうかな」
「な、なに?」
「うん、そうしよう。颯太、一夏、行こっ」
言うなりシャルは俺と一夏の手を掴んで歩き出す。
「ま、待てっ。わ、私も行こう」
「その格好のまんまで?」
「ええい、脱げばいいのだろう、脱げば!」
そう叫びながら自分の体を包んでいた数枚のバスタオルを取り去ったラウラは
「わ、笑いたければ笑うがいい……」
顔を赤く染め、モジモジとしていた。
黒のビキニ。しかもところどころにレースのあしらわれた、まるで大人の下着のような水着。さらにいつもの飾り気のないストレートの銀髪は左右一対のアップテールにまとめられている。その姿はおかしなところはなく、一言で言えば可愛いと思った。
「おかしなところなんてないよね、一夏、颯太?」
「お、おう。ちょっと驚いたけど、似合ってると思うぞ。なぁ?」
「ああ」
「なっ……!」
俺たちの言葉にさらに顔を赤らめるラウラ。
「しゃ、社交辞令ならいらん……」
「いや、世辞じゃねえって。普段と違う髪型ってのもあって可愛いと思うぜ」
「か、かわっ!!」
一夏の言葉に、ボンッと音の出そうなほどの勢いで顔を赤く染めるラウラ。
「うん。僕も可愛いって褒めてるのに全然信じてくれないんだよ。あ、ちなみにラウラの髪は僕がセットしたの。せっかくだからおしゃれしなきゃってね」
なるほど。道理で普段のラウラとは違うわけだ。
「そういえば、その水着は俺と一緒に買いに行ったやつだな。あの時も言ったけどよく似合ってると思うぞ」
「う、うん。ありがとう」
少し頬を染め、嬉しそうに微笑むシャルロット。
「おーい、ぐっちー、おりむー!」
「さっきの約束!ビーチバレーしようよ!」
と、少し離れた位置にあるバレーのネットの位置から本音とクラスメイト数人。そして簪がやってくる。
簪の水着は黒のビキニタイプ。下はフリルがあしらわれ、ミニスカートのようになっている。腰や胸元には白いリボンがあしらわれている。
「へ~……」
「な、何……?」
俺が簪をじっと見ていたせいか、簪が恥ずかしげに訊く。
「簪はもうちょっと控えめのを着るのかと思ってたからちょっと意外で」
「に、似合わないかな……?」
「いや、よく似合ってると思うぞ。可愛いと思う」
「そ、そう……。ありがとう……」
恥ずかしそうに、しかし、嬉しそうに笑う簪。
「よーし、じゃあビーチバレーっするか!」
一夏の号令にみんなでのビーチバレーが始まった。
何度かチーム代えもし、お昼まで続いたビーチバレー。
その後昼食を取り、午後からは回復して戻ってきた鈴やセシリアも入れてビーチバレーをしたり泳いだりして過ごし、あっと言う間に夕方となった。が、その日海で遊ぶ間俺も一夏も、篠ノ之に出会うことはなかった。
――おまけ――
「あれ?颯太何してるの?」
「棒倒し」
昼食後、満腹で気持ち悪くならぬように砂遊びに興じる颯太。傍らでシャルロットが訊く。
「よし、こんなもんかな」
出来上がった砂山の頂上に旗を刺す。
「でも、一人で棒倒しやって面白いの?」
「見ててみ」
颯太はシャルロットにニヤリと笑い、砂山に向き直る。砂山に手を刺し、ザクッと砂を削り取る。サラサラと崩れる砂山に――
「っ!」
シュッシュッシュッ
「シュッシュッシュッ!?」
傍らのカバンから取り出した霧吹きで砂山に水を吹きかける。横ではシャルロットが驚愕の表情を浮かべる。
「確かに水分で固めれば崩れにくくなるけど。でもそれ反則じゃないの?」
「まあまあ」
呆れ顔のシャルロットをなだめつつ颯太は続きの作業に戻る。
カリカリ シュッシュッ カリカリ シュッシュッ
「…………もう、男らしく一気にやればいいのに……」
「いやいや、まだまだこれからだよ」
そう言いながら颯太は傍らのカバンから新たなアイテムを取り出す。
それは片眼に着ける顕微鏡のような装備、そして先のとがったピンセット。
「何その装備!?」
驚愕するシャルロットを置いておいて、装着した顕微鏡で拡大した視界でピンセットを使ってさらに削っていく。
カリカリカリカリカリカリカリ……………
「ふぅっ……」
どれくらいの間削っていたのだろうか。颯太は満足げに顔を上げ、装備を外す。
「あ、できたの……って、細っ」
シャルロットが驚愕の声をあげる。
それもそのはず。さっきまで砂山だったものは颯太が極限まで削ったことで細い棒状になり、頂きには先ほど刺した旗が刺さったままである。
「えっ!?これ本当に砂だけでできてるの!?棒倒しって言うかもう全体的に棒状になってるし!」
「いや~、前に読んだ漫画でやってたから、ホントにできるかやってみたかったんだ~。いや~うまくいった。さて、写メって――」
颯太がカバンから携帯を取り出そうとすると
「復活っ!ほら一夏!さっきのリベンジにもっかい競争するわよ!」
「おい、待てよ鈴!」
ドタドタドタッ!と颯太の目の前を走り去る二人。
後に残ったのは平坦な砂浜と倒れた旗。
「ま″ぁぁぁぁぁぁぁ!!?」
声にならない悲鳴を上げながらその場に崩れ落ちる颯太。
「そ、颯太?」
「………………」
「……その……大丈夫?」
「…………何色だ……」
「えっ?」
「一夏!鈴!てめえらの血はなに色だーっ!!」
そこから怒りに我を忘れた颯太といまいち状況の理解できていない一夏&鈴の鬼ごっこが開始され、それを苦笑いで見守るシャルロットであった。
思ったように書けない節があるんで、もう開き直ってネタに走ってみました。
なぜこのネタを選んだかというと………なんででしょうね(^ω^)