少し用事など立て込んでしまいました。
まだ少しいろいろと面倒な用事が待ち受けているので更新が滞ってしまうかもしれません。
できる限り執筆頑張りますのでよろしくお願いします。
そんなわけで最新話です。
どうぞ!
IS『火焔』を纏い、アリーナに立つ俺の前についに伊藤が姿を現す。
彼女の纏うISは真っ黒な装甲。大きな翼を広げた様なスラスターにまるで鋭い爪のような巨大な両手の籠手。背部の腰のあたりから伸びる鋭い尾のようなもの。太くどっしりとしたとげとげとした装飾の両脚。こめかみに伸びる一対の角のような装飾の施された、爬虫類系生物が口を開いたようなデザインのバイザー。
流線型のフォルムのその機体を一言で表すなら『ドラゴン』だった。
「へぇ?それがお前のISか?」
「そう。私が所属する『ユグドラシル』の第三世代IS『ニーズヘッグ』よ。――まぁ、私はもっとピンクとかパステルカラーのがよかったんだけどねぇ」
言いながら伊藤は肩を竦めて鋭い爪の右手を何度か握ったり開いたりを繰り返す。
「こんなの全然可愛くない」
「そうか?よく似合ってるぞ」
「……それ褒めてないでしょ?」
「さて、ね……」
言いながら俺は《火人》を腰に展開し、鞘から抜き構える。
「北欧神話のたくさんの蛇を従える黒龍。おまえを倒して龍殺しになるのも悪くない」
「何それ?高校生にもなって中二病?」
「男の子はいくつになってもそう言うのは大好物なんだよ」
「あっそ」
俺の言葉に伊藤はそっけなく返し、ニヤリと笑みを浮かべ
「悪いけど、そう簡単に倒せるほど私弱くないから」
不敵な笑みのまま構える。
「さ、私を倒せるかしら、英雄さん?」
「倒すさ、必ず」
言いながらお互いに睨み合い
「「っ!!」」
同時に駆け出す。
「シッ!」
振りかぶった《火人》で伊藤に斬りかかる。しかし、それを彼女は右手受け止め刀身を握る。
「はぁぁぁ!!」
そのまま俺を引き寄せ右手で引き裂く様に突き出してくる。
「っ!!」
それをシールドで反らしながら《火神鳴》の四つの砲門を向け
「よっせい!!」
しかし、放つよりも先に伊藤は膝蹴りで俺の顔面を狙う。
「フッ!!」
顔を反らして蹴りを寸でで避ける。伊藤も砲門から逃れるために《火人》を離すので互いにバックステップで飛び退く。同時に俺は四つの砲門から荷電粒子砲を放つ。
荷電粒子砲を滑るようにスラスターをふかして避ける伊藤。
追撃で荷電粒子砲を連射するがそれらは当たらず、伊藤は距離を詰めてくる。
俺は荷電粒子砲での攻撃から近接攻撃にシフトし『八咫烏』を周囲に展開。右手に一基を装着する。
「はぁぁぁぁぁぁ!!!」
右手を振りかぶり、接近する伊藤へと拳を放つ。しかし、直前で伊藤は大きく踏み込み飛び上がり体を回転させ
「おりゃぁっ!!」
回転の勢いのまま伊藤の腰から伸びる尾が鞭のようにしなりながら俺の拳を弾く。
そのままもうひと回転を加えた伊藤の右足による蹴りが放たれる。
「させるかっ!!」
しかし、一瞬先に俺の砲門が荷電粒子砲を放つ。この近距離でならロクに狙いをつけなくても当たる。
「がっ!?」
四つの砲門から放たれた荷電粒子砲が伊藤を襲い空中にいた彼女は吹き飛ぶ。
しかし、数回地面を転がりながらも両脚で踏みしめ両手を地面に突き立てる様に留まる。その姿はまるで四足歩行の獣のような体勢だった。
「やってくれるねぇ」
「よく似合ってるぜ、その這い蹲ってる格好」
「違うわよ。これは女豹のポーズよ。ミャ~オ」
「……………」
「……何か言いなさいよ」
「きっつ!」
「チッ、私の魅力がわからないなんてどうかしてるんじゃないの?」
「そいつは失礼。俺はギャルより清楚系が好みなんだ」
俺は鼻で笑いながら肩を竦める。
「あっそ。たく失礼なこと言うし、さっきのは痛いし。次はこっちの番なんだから――ねっ!」
言いながら掛け声ととともに四足歩行のまま駆け出した。
俺もそれに応戦するため《火人》を構え――
○
二人が戦う様を私はグッとこぶしを握り締めて見守る。
颯太にはもちろん負けてほしくない。でも、加奈さんもまだ出会ってひと月も経っていないが私にも気さくに話しかけてくれる大事な友達だ。
できるなら二人が戦う姿は見たくないが、どうしても数日前に颯太の言っていた言葉が頭から離れない。
『伊藤は昔、俺の友達を死に追いやったんだよ』
颯太の友達って?死に追いやったってどういうこと?そんな疑問がずっと頭をぐるぐるしている。
颯太はそれ以上のことは教えてくれなかった。私にはそれ以上を知るすべはない。だから、今私にできることは――
「となり、いい?」
と、考えていた私に誰かが声をかけた。
振り返ると、そこにいたのは
「お姉ちゃん」
「やっ。お邪魔するわね」
言いながらお姉ちゃんは私の隣に腰を下ろす。
「……どうして?」
そんなお姉ちゃんに私は問いかける。
「どうしてお姉ちゃんは止めなかったの?」
「……………」
「お姉ちゃんは、颯太が戦う理由を知ってるの?」
「………ええ、知ってるわ」
「っ!」
お姉ちゃんの返事に私は息を飲む。
「でも、それを教えてあげることは出来ないの」
「っ!?どうして!?」
「颯太君に口止めされてるから」
「そんなの――」
「もし誰かに、特に簪ちゃんに漏らしたら、弟子を辞めて絶交したうえで私の秘密を新聞部にリークするって言われたのよ。弟子が師匠を脅すなんていい度胸してるわ、まったく……」
「弟子に脅されるお姉ちゃんもお姉ちゃんでしょ……」
「うぐっ……」
私の指摘にお姉ちゃんの口から苦悶の声が漏れる。
「まあそんなわけで、残念だけど教えてあげることは出来ないの」
「…………」
お姉ちゃんの言葉に私は押し黙る。やはりそう簡単に知ることは出来ないようだ。
「……今からだいたい六年前」
「え?」
突然話し始めたお姉ちゃんの顔を見るがお姉ちゃんは私の方は見ずにそっと手で制しながら続ける。
「当時、颯太君はまだ京都市内の小学校に通っていた。伊藤加奈――当時はまだ芹沢って苗字だった彼女もクラスメイトとして同じ学校に通っていた。赤木杏もね」
「赤木杏?」
知らない名前が出て来た。首を傾げているとお姉ちゃんは話を続ける。
「赤木杏は颯太君の保育園からの幼なじみ。家も近所でとても家族ぐるみで仲が良かったようね。優しくて友達思い、クラスでも男女ともに人気があったらしいわ」
「颯太の幼なじみ……」
「当時ISが使えることがステータスとなり、女尊男卑の思想が広まり始めていた頃で、女性権利団体傘下の会社の社長だった母の影響で芹沢加奈もその思想に感化され、元来の性格もあり、彼女はクラス内カーストでも上位――言ってみればクラスの女王様になっていた。みんな彼女の言いなりで彼女の機嫌を損ねないように必死だった。彼女に目を付けられたらクラスから爪弾きにされるから」
「っ!?」
お姉ちゃんの言葉に私は息を飲む。
「始まりは些細な事だったらしいわ。それでクラスの中の一人の気の弱い女の子がいじめの対象になった。誰も彼女を助けなかった、たった一人を除いて」
「それって――」
「クラスでたった一人、赤木杏だけがその子に手を差し伸べた。彼女へのいじめを、いじめているクラスメイト達を否定した。赤木杏の行動によってその子へのいじめはなくなった。そして、代わりの標的が生まれた」
「っ!」
お姉ちゃんの言葉に私は息を飲む。
「赤木杏へのいじめは前の子への物よりも何倍も悲惨で、陰湿だったらしいわ。直接の暴力は無くても、モノを隠すとか無視は当たり前、歩いてるときに足を引っ掛けて転ばせるとか他にもいろんな嫌がらせをしていたらしいわ。担任が気付いてたのかは知らないけど、私が調べてこれだけ情報が出るんだもの、気付いてたんでしょうね。まぁ気付いていたとしても主犯の芹沢加奈の母親は当時力を持ち始めていた女性権利団体の関係者。下手な動きをすれば自分の立場が悪くなるわ」
「そんな……」
「小学三年生の終わりごろから始まった赤木杏へのいじめは四年生に上がってからも続き、とうとう四年生の三学期の頭、一月の中頃に最悪の形で終結したわ」
「最悪の形?」
「一月のとある土曜日、赤木杏は道路に飛び出し、通りかかったトラックにはねられた。病院に運ばれたけど治療の甲斐なくその夜に亡くなったそうよ」
「っ!」
お姉ちゃんの言葉に息を飲み私はお姉ちゃんの顔を見る。しかし、お姉ちゃんはまっすぐ前を見つめ、淡々と話し続ける。
「彼女が道路に飛び出す前に近くの公園に複数の子ども達がいたっていう情報もあるけど、そのことが彼女が道路に飛び出したことと関係があるかは分からないわ。わかっているのは彼女が事故にあって病院に運ばれた時、一緒に一人の男の子が搬送されたってこと」
「それって――」
「彼がどうしてその日その場にいたのかわからないけど、わかっているのはあの日彼、井口颯太は赤木杏がトラックに轢かれる瞬間を目の前で見ていた」
「っ!!」
「見ていた人たちも目を覆いたくなる光景だったそうよ。小学生の男の子が同じくらいの、大人でも目を背けたくなるような状態で倒れてる女の子に広がる血だまりもいとわずに追い縋って泣き叫んでいたってね」
「…………」
私は言葉を失っていた。その時の颯太の悲しみを推し量ることは出来ない。いったいどれほどの悲しみだったのだろうか?
「その後、颯太君は残りの三学期をほとんど休み、新学期には父方の実家近くの小学校に転校したらしいわ」
これが私の知っていることの全て、とお姉ちゃんは息をつく。
「どうして…教えてくれたの……?」
「あら、なんの事かしら?私は何も教えて無いわよ?」
「で、でも……」
「教えたら弟子を辞めて絶交した上に私の秘密ばらすとまで言われて教えないわよ――まぁ独り言を言うなとは言われなかったから、私のつぶやきを誰かが聞いてても知ったこっちゃないわね」
「お姉ちゃん……」
したり顔で笑うお姉ちゃんに私は笑う。
「ありがとう、お姉ちゃん……」
「あら?何の事かしら?私はただ隣に座って独り言呟いただけよ」
「うん、そうだね……それでも、ありがとう……」
「……何のことか知らないけど、どういたしまして」
微笑むお姉ちゃんに頷き、私は立ち上がる。
「ごめん、ちょっと行くところができた」
「うん。行ってらっしゃい」
頷くお姉ちゃんの前を通り、私は観覧席の階段を駆け上がる。
試合の終わった颯太を一番に出迎えるために。そして、颯太と一番に話をするために。
階段を駆け上がり出入り口のドアを目指して踏み出した時、観覧席がざわつき始めた。
アリーナ内に視線を向けると、そこにあったのは《インパクト・ブースター》を装着した颯太の右手と胸元が氷に覆われていた。
○
一体何が起こったのかわからなかった。
互いに一進一退の攻防を繰り広げた俺と伊藤。俺の攻撃を避けたことで生じた一瞬の隙をついて俺は右手に『八咫烏』を装着して殴りかかった。しかし、体勢を崩したかのように見えた伊藤はそれにすぐさま反応。俺の右手の手首のあたりを掴み俺の拳を止めた。
伊藤の手を振り払って逃れようと身構えた俺はその違和感に気付く。
『八咫烏』の能力を使っていないのに『火焔』に溜まっていた熱エネルギーが急速に減った。困惑する俺の目の前で伊藤の口に笑みが浮かぶ。
「はぁっ!!」
「っ!?」
彼女の右手が俺の胸を抉るように叩き込まれ俺は殴り飛ばされる。
「ぐっ!」
俺は慌てて立ち上がる。そして、その異様な光景に驚愕した。
先程伊藤に掴まれた右腕と殴られた胸が凍り付いていた。
「なん…だよ、これ……?」
「いやぁ~、やっと十分なエネルギーが溜まってくれたよ」
困惑する俺に朗らかに笑みを浮かべながら伊藤が口を開く。
「伊藤、これはどういう……!?」
「ハヤ太君、君のISと私のISは似た仕様の、でも真逆の能力を持っているんだよ」
「似た仕様……?真逆の能力……?」
伊藤の言葉の意味が分からずオウム返しで首を傾げる。
「ハヤ太君、君のISは稼働する中で機体に熱エネルギーが溜まり、最終的にそれを一点集中で放出するようにできてるんでしょ?」
「……よく知ってるじゃねぇか」
「調べたからね」
にっこりと笑みを浮かべて伊藤が答える。
「そして、私のIS『ニーズヘッグ』も開始直後には最大にして唯一の武器を使えない。使うためには一定以上のエネルギーが充填されている必要があるの」
ね、一緒でしょ?と微笑みかけてくる。
「最初に最大の武器を使えないっていう共通点はあるけど、その能力は真逆なの。君のは熱を、そして、対して私のISは――『冷気』を武器にする」
「『冷気』!?」
伊藤の言葉に右手と胸の氷の意味に気付く。
「特殊なナノマシンの作用によって機械すら凍り付かせる絶対零度の冷気を操ることがこのIS『ニーズヘッグ』に搭載された《ニヴルヘイム》の能力よ」
「っ!」
ニヤリと答え合わせをする伊藤の言葉に俺は息を飲む。
「ふ、ふん。確かに強力な能力だ!でもな!タネがわかればなんてことない!その両手に触れられないように立ち回ればいいだけの話だ!」
「フッ、フフフ……アハハハハハッ!!」
俺の言葉に、しかし、伊藤は高らかに笑う。
「な、何がおかしい!?」
「だって……《ニヴルヘイム》が近接武器だなんて、誰が言ったの?」
「え……?」
困惑する俺の目の前でニヤリと笑みを浮かべた伊藤は
「はぁっ!」
指同士を交互に組み合わせて両手を顔の前で合わせる。
組み合わせた両手からするりと左手を抜き取った伊藤。その右手には先ほどまで左手に装着されていた左手の籠手と右手の籠手が組み合わさり一つの装備へとなっていく。
組み合わせた鋭い爪だった指は鋭い牙となり、右手の甲に伸びていた装飾は角となり、その角の下には鋭い眼光が光る。先ほどまで籠手だったその装備はほんの数秒でまったくの別物――まるでワニやトカゲのような爬虫類を思わせる巨大な頭に姿を変えていた。
「それ……!」
「これが第三世代装備《ニヴルヘイム》の真の姿」
言いながら左手を添えてその装備――《ニヴルヘイム》を俺へと向ける。
その瞬間に『火焔』が警告を発する。
『注意、ロックオンされています』
「っ!?」
意味が分からないまま咄嗟に飛び退く。しかし、俺の視線の先で《ニヴルヘイム》がその口を開く。と、同時にその口の奥が一瞬煌めき――
「がっ!?」
俺の左肩に衝撃が走り吹き飛ばされる。
地面を転がりながらなんとか体勢を整え立ち上がってみると右手と胸と同じように左肩を氷が覆ってた。
「近接でしか使えなきゃ、不完全でしょ?」
驚く俺に伊藤はニヤニヤと笑いながら言う。
「ほらほら、悔しかったら君も熱エネルギー使ってみれば?まあ氷に覆われてて使えるなら、ねぇ?」
「くっ……」
俺は伊藤の言葉に唇を噛む。伊藤の攻撃で『火焔』が冷やされたせいだろう。蓄積されていた熱が急速に下がっている。今の数値では一発分使えるかどうかだ。
「舐めんな!!」
俺は左手に『八咫烏』を装着。そのまま右手の氷を掴み『シェイクハンド・モード』で熱を送り込む。
水蒸気を上げながら氷が小さくなっていくが、同時にすごい勢いで蓄積していた熱エネルギーが消費されていく。
熱エネルギーが0になる頃、やっと右手を覆っていた氷が砕け――
「隙だらけだよ?」
「っ!」
伊藤の声に咄嗟に飛び退くが
「遅い!!」
伊藤の声と同時に俺の右足を先程の攻撃が襲う。ガクンとシールドエネルギーが削られると同時に俺はその場から動けなくなっていることに気付く。見れば俺の右足と地面が一緒に凍り付いていた。
「つ~かま~えたッ!」
不敵に笑みを浮かべながら伊藤が一歩ずつ近づいてくる。
「ねぇ、ハヤ太君。君、私に杏ちゃんに謝れって言ったよね?」
「何を……?」
伊藤は笑みを浮かべながら問いかけてくる。
「それってさ……私がいじめてたから杏ちゃんは死んだって思ってる?」
「っ!」
伊藤の言葉に俺は息を飲む。
「ああ、そうだ……お前が、お前が杏をいじめたから!あいつを追い込んだから!お前があいつをいじめなかったらあいつは道路に飛び出すことも、トラックにも轢かれることもなかった!お前が殺したようなもんだろ!!」
「ん~、なるほど。そう言う見方もできるねぇ~」
俺の言葉に伊藤は頷き
「でもさ、それって私だけのせいなの?」
「え……?」
伊藤の言葉に俺は困惑する。
「確かに私は杏ちゃんを無視したし足引っ掛けて転ばしたりもしたよ。でもさ、それって――私だけがしてた?」
「っ!!」
伊藤の言葉に俺は息を飲む。
「京子ちゃんも、みーちゃんも、キヨちゃんも、舞ちゃんも、かず君も、けんちゃんも、りゅう君も、まっひーも、み~んな私と同じように無視してたし物隠したし爪弾きにした」
「それは……」
「それに、ハヤ太君だって」
「っ!?俺は杏をいじめてなんか――」
「そうだね」
伊藤の言葉を否定しようと叫ぶが、伊藤はニコニコと微笑みながら遮る。
「確かに君は杏ちゃんを無視してない。足引っ掛けて転ばせることも、物を隠すことも、体育でわざと顔を狙ってボールをぶつけることもしなかった」
「そ、そうだ!俺は――」
「そう、〝何も〟しなかった……」
「っ!」
伊藤の言葉に俺の心臓がドクンと痛いほど脈動した気がした。
「君は確かに私たちと一緒にいじめてはなかった。でもね、君はそれ以外の事もしていないんだよ」
「やめろ……」
伊藤の言葉がまるでナイフのように突き刺さる。耳鳴りがする頭痛で吐き気がする。ドクドクと心臓が早鐘を打ち今にも胸を突き破って飛び出してきそうだ。
「やめてあげてと私たちを止めることも、彼女が隠された物を一緒に探すことも、転ばされた彼女に手を指し伸ばすことも――道路に飛びだす彼女を引き留めることも」
「やめてくれ……」
「君は彼女に何をしてあげた?何ができたの?」
「やめてくれ……!」
「自分可愛さに何もしなかった、ただ傍観していた君と私たち。いったいどこが違うって言うの?」
「違う!俺は――!」
「何も違わないよ。君は彼女を助けなかった。何もしなかった」
「っ!」
伊藤の言葉に俺はそれ以上言葉が出て来なくなった。
「君は杏ちゃんを見殺しにした。もし私が――〝私たち〟が彼女を殺したんだとしたら、その〝私たち〟の中に君だって入ってるんだよ」
「あぁぁぁ……あぁぁぁぁぁぁ……!!」
ズキズキと痛む頭を抱えて俺はそれ以上の言葉を聞きたくなくて耳を覆う。それでも、彼女の声は俺の耳に入って来る。
「君の私への怒りはただの八つ当たりなんだよ。自分が何もできなかったことを認めたくないだけのただの子どもの癇癪、悪いのは全部私と実際にいじめていた人。自分はただ見ていただけ。見ていた自分は何も悪くない。そう思いたいんだよね?」
「俺は…俺は……!」
「本当に見ていただけの君は悪くないの?見ていただけで助ける努力をしなかったのに?ねぇ?どう思う、友達を見殺しにした井口颯太君?」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
たまらず俺は叫ぶ。叫んでいれば彼女の声は聞こえない。聞きたくない。それ以上の言葉を俺は――
「君に、私を罰する資格なんて無いんだよ」
言いながら彼女は俺に《ニヴルヘイム》を向ける。それはまるで巨大な龍が今にも俺を飲み込まんと口を開いているようだった。
「ISを動かしたことで自分を特別だと、弱者を救う英雄にでもなったと錯覚した?――違うよ。君はただの〝人殺し〟だよ。〝私たち〟と同じ、ね?」
そう言って禍々しく、どこか憐れむように笑みを浮かべ
「君と言う人間は何も特別じゃない。周りに流されて保身に走るどこにでもいる凡人と変わらない」
どこまでも優しく憐れむように語り掛ける。
「副会長っていう役職も、専用機を持った友人たちも、今君が持っているものはすべて君は分不相応だ。だから――」
言いながら伊藤は一層優しく微笑む。同時に大きく開いた龍の口が輝き
「立場を弁えろ、平凡な男風情が」
今までで最大の冷気の光が俺を包んだ。