IS~平凡な俺の非日常~   作:大同爽

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長く投稿できずすみません。
アレコレ予定が重なって消化しているうちに気付けばひと月以上たっていました。
お待たせしてしまって申し訳ありません。
最新話です。
それではどうぞ!





ifⅡ-5話 理由

 

「颯太……」

 

「…………」

 

 扉を開けた颯太に簪と一夏は気まずそうにしながら見つめる。対する颯太は感情の見えない視線を二人に向けたまま黙っている。

 食堂での騒ぎの後、先に出て行った颯太を追った二人は颯太の部屋にやって来ていた。さっきの騒動について詳しい話を颯太から聞くためだ。しかし、いざ部屋まで来てはみたものの、先程の颯太の様子から素直に教えてくれるとは思えなかった。

 どうするか迷いながら意を決してドアをノックした二人。

 しかし、ドアの向こうから現れた颯太の表情は二人の知る普段の物ではなかった。先程の決意が鈍りそうになる。

 と、二人の前で颯太がくるりと背を向ける。

 

「「っ!」」

 

 その様子に二人は呼び止めようとするが

 

「……入れよ」

 

「「っ!?」」

 

 颯太の言葉に二人は顔を見合わせて慌てて部屋に入る。

 部屋の中では颯太は自身のベッドで壁に背を預けて座って本を開いてた。

 

「「…………」」

 

「…………」

 

 二人を気にした様子なく読書を続ける颯太へ二人は気まずくなんと声を掛けたものかと微妙な時間が流れ

 

「あぁ~、その……何読んでんだ?」

 

「……『日本科学技術大学教授上田次郎のなぜベストをつくさないのか』」

 

 言いながら颯太は二人へ表紙を見せる。

 表紙には眼鏡をかけた彫の深い男が読み手であるこちらを指さして映っていた。

 

「へ、へぇ~……面白い?」

 

「わりと」

 

「そ、そうか……」

 

「こ、今度私にも貸してね……」

 

「ん」

 

「「「…………」」」

 

 会話終了。再び三人の間に沈黙が現れる。

 

「え、えぇ~っと……」

 

「その……」

 

 二人は次の話題を探すべく視線を巡らせ

 

「……で?そんなこと訊きに来たんじゃないだろ?」

 

 と、そんな二人に颯太が訊く。

 

「その……」

 

「そ、颯太は何であんなことしたんだ……?」

 

 一夏は意を決して一歩踏み込む。

 

「ムカついたから」

 

 対して颯太は本に視線を向けたまま答える。

 

「そんな……」

 

「ムカついたって、それだけの理由で……?」

 

「悪いか?」

 

「いやでも……」

 

「なんか颯太らしくないって言うか……」

 

「………俺らしいってなんだよ?」

 

「え?」

 

 一夏の言葉に颯太が本をぱたりと閉じる。

 

「あいつの言葉に、態度にムカついたから。どうしても許せなかったから。だから水ぶっ掛けたし、あいつとの勝負にも乗った。それが俺らしくないって言うんだったら、じゃあ俺らしいって何?普段の俺ってどんな風に見えてんの?」

 

「それは……」

 

 颯太の言葉に一夏は言い淀む。

 

「ねぇ、颯太…教えてよ。颯太と加奈さんにとの間に何があったの……?」

 

「聞いてどうするんだ?話して共感してくれたら、簪は俺の味方してくれるのか?伊藤と対立できるのか?」

 

「っ!そ、それは……」

 

「無理だろ?だったら変に事情聴いて当事者になって悩むより傍観者として見守ってればいいだろ?」

 

「…………」

 

 颯太の言葉に簪は押し黙る。

 

「で、でも、お前が何かに悩んでいるんなら俺は力になりたい!協力できるんなら協力したい!だって、友達だから!」

 

「……お前のそう言うお節介なところ美徳でもあるけど、線引きを見誤ると相手の踏み込んでほしくないところにずかずか踏み込むことになって嫌われるぞ」

 

「それでも俺は……!」

 

「実際いま俺はちょっとイラッとしてる」

 

「ッ!」

 

 颯太がギロリと視線を向けると一夏が息を飲む。

 

「……まぁいいや」

 

 が、少しの間を空けて颯太が息をつく。

 

「二人とも言わなきゃ納得しないみたいだし、少しだけ教えてあげるよ」

 

 言いながら颯太は二人に視線を向ける。

 

「俺が伊藤を許せない理由、それはあいつが昔した罪を忘れてることだ」

 

「加奈さんがした、罪……?」

 

「それっていったい……?」

 

 颯太の言葉に二人は困惑の声を漏らす。

 そんな二人の視線を受けながら、颯太は冷たい声音でさらりと口にする。

 

「伊藤は昔、俺の友達を死に追いやったんだよ」

 

 

 

 ○

 

 

 その後、それ以上語るつもりはないという様子で読書を再開した颯太に二人はそれ以上聞くことができず、颯太の部屋を後にした。

 そして、あっという間に時間は過ぎ、颯太と加奈の勝負の日となった。

 学園へ申請を通し第1アリーナの使用許可を取り、現在颯太はその控室で試合の瞬間を待っていた。

 企業の専用機持ち同士の試合と言うことで勉強のために生徒への観覧は解放されている。今回の試合でアリーナを使う許可を取る条件として学園から提示されていたのだ。

 

「…………」

 

 椅子に座りぼんやりと座る颯太。と――

 

「お、お邪魔します……」

 

「簪……」

 

 控室のドアがノックされ、簪が訪ねてくる。

 

「その…ごめんね、試合前なのに」

 

「いいよ別に。どうかしたか?」

 

 申し訳なさそうに言う簪に颯太は訊く。

 

「この試合、結局颯太がなんで加奈さんと戦うのか事情は知らないから私も織斑君もどうしていいかわからないかった……」

 

「…………」

 

「いろいろ考えて、とりあえず私は難しく考えるのはやめた……私は颯太を信じることにした……」

 

「へぇ?」

 

 簪の言葉に颯太は興味深そうに見つめる。

 

「事情も分からないのに信じていいのか?俺がただの逆恨みでこの騒動起こしてるのかもしれないだろ?」

 

「4月からこの半年以上颯太とIS学園で過ごしてきて、颯太の人となりはそれなりにわかってるつもりだから……だから、颯太がここまでの事を起こすってことはそれだけ颯太にとって譲れないことなんだって思うから……」

 

「…………」

 

「だから、颯太はお前を信じることにした。でも、私は加奈さんとも友達だから……」

 

「ああ」

 

 簪の言葉に颯太が頷く。

 

「正直こうしてここに来るのも躊躇ったみたいだけど…でも、どうしても伝えなきゃって思ったから……」

 

「伝えるって?」

 

「この試合が終わって、どっちが勝っても、私は変わらず颯太と友達だから……どんな結果になっても、私は颯太の味方だから」

 

「……そうか」

 

 簪の言葉に颯太は少し目を伏せ

 

「ん、そっか……」

 

「うん」

 

「簪――」

 

 そこで視線を上げた颯太は簪を見据え

 

「ありがとうな。なんか元気出たわ」

 

「っ!」

 

 ニッコリと微笑んだ颯太に簪は息を飲む。そんな簪を尻目に、颯太は立ち上がる。

 

「さて、そろそろ時間だし、行くわ」

 

「う、うん……」

 

 颯太の言葉に簪は頷く。

 

「その…頑張ってね」

 

「ああ」

 

 簪に微笑みながらサムズアップし、颯太はアリーナへと踏み出した。

 


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