IS~平凡な俺の非日常~   作:大同爽

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と言うわけで始まります。
前回、前々回のお話で伊藤加奈――芹沢加奈というキャラクターが出ましたが、今回のお話で彼女が颯太君とどういう関係かわかりますのでお楽しみください。
さてさて、彼女はいったい何者なんでしょうね?
それではどうぞ!





ifⅡ-4話 悪いのは誰?

「――と、言う訳で改めて……」

 

 昼休みに簪と一緒にいた思わぬ人物。その関係を簪と一夏に追及された颯太は放課後に改めて場を設けた。そして現在、颯太たち四人は寮の食堂に集ったわけだが

 

「芹沢加奈こと伊藤加奈で~す。よろしく~」

 

「え~と…芹沢さん?伊藤さん?はさ」

 

「あ、加奈でいいよ~、一夏っち」

 

「じゃ、じゃあ、加奈さん?」

 

 人懐っこい笑みを浮かべて加奈が一夏に言う。一夏はたぶんこういうぐいぐい来るタイプは苦手なんだろう。少し戸惑った様子で訊く。

 

「加奈さんは一週間くらい前に学園に転校して来て更識さんのクラスに入ったんだよな?」

 

「そうだよ~」

 

「でも、颯太とはもっと前から知り合いだったんだよな?その…どういう関係なんだ?」

 

「あぁ、それは――」

 

「芹沢――伊藤さんとは小学校が一緒だったんだよ。まあ小5に上がるときに俺が転校したっきりだったけど」

 

 加奈が答える前に颯太が答え、目の前の自分の烏龍茶に口を付ける。

 

「も~、名字で呼ぶなんて他人行儀だな~。小学校の時みたいに『加奈ちゃん』でいいんだよ、ハヤ太君」

 

「「ハヤ太?」」

 

 そう言って微笑む加奈の言葉に簪と一夏が首を傾げる。

 

「俺の小学校の時のあだ名だよ。『颯』って言う字が『ハヤテ』って読むからそれに『太』を合わせて『ハヤ太』。当時俺の名前をそう読み違えた先生がいてそれが定着したんだよ」

 

「あぁ、なるほど……」

 

 颯太の説明に納得したように頷く簪。

 

「それにしても、久しぶりだよね~、ハヤ太君。五年ぶりだよね。一夏っちに続いて二人目の男性操縦者としてニュースに名前出た時はびっくりしたよ~」

 

「伊藤さんこそ元気そうだね。なんだってこんな中途半端な時期に転校を?」

 

「うちの会社の方針でね~。あ、うちの会社って言うのは『ユグドラシル』の事ね。私今そこの所属IS操縦者やってるの」

 

「所属IS操縦者ってことは……」

 

「うん、専用機もあるよ~」

 

 言いながら加奈は首元から黒いネックレスを見せる。どうやらそれが彼女のISの待機状態らしい。

 

「なんかすごい偶然だね~。小学校の元同級生が久々に会ったらお互いに専用機持ちの企業の所属操縦者、なんてね」

 

「……そうだね」

 

 加奈の言葉に颯太は何とも言えない微妙な気持ちで頷く。

 

「も~、なんか暗いぞ~?そんなだったけ、ハヤ太君?」

 

「さぁ?自分が変わったかなんてわかるわけないだろ?まあ五年も会ってなきゃお互い多少なりとも変わってるでしょ。君だって苗字変わってるんだし」

 

「そりゃそっか。その通りだわ」

 

 そっけなく返す颯太に笑いながら頷く加奈。

 そこから少し微妙な沈黙が流れ――

 

「あ、飲み物無くなってるね……」

 

「あ、じゃあ俺おかわり入れてくるよ」

 

「私も手伝う…一人で四人分は運べないから……」

 

「おう、ありがとう更識さん」

 

 二人の雰囲気――特に颯太のそっけなさにになんとなく居心地が悪くなった簪と一夏が立ち上がる。

 

「ありがと~。私同じレモンティーで」

 

「俺はまだあるからいい」

 

 ニコニコとグラスを差し出す加奈に対し、颯太は烏龍茶に浮かぶ氷をグラスを揺らしながら見つめている。

 

「そっか……」

 

「じゃあ行って来るよ」

 

 二人にそう言って簪と一夏は飲み物を取りに行く。

 

「あの二人、何かあったのかな…?」

 

「何か、って…?」

 

 コップに飲み物を注ぎながら言う簪の言葉に一夏は首を傾げる。

 

「なんて言うか、颯太の様子、変だったでしょ?」

 

「う~ん…まあちょっと…なぁ……」

 

 簪の言葉に一夏も頷きつつ感じていた違和感を上手く言葉にできない様子で眉を顰める。

 

「まあでも、本人が言わない以上こっちからアレコレ根掘り葉掘り聞くわけにもな……」

 

「うん……」

 

 一夏が微妙な顔をして言うのを簪も頷いて認める。

 

「更識さん的には二人がギクシャクしてるのはイヤ?」

 

「まぁ……加奈さん、友達だし……」

 

「そっか……」

 

 簪の言葉に一夏は頷き

 

「まあたぶん颯太は久々に会った元同級生に戸惑ってるだけだろうし、大丈夫だろ。きっと颯太の事だからすぐに――」

 

 言葉の途中で二人はやけに周りが騒がしいことに気付き、その騒ぎの方向に視線を向ける。

 そこにいたのは、前髪から水滴を垂らし頭のてっぺんからびしょ濡れになった加奈と、そんな加奈に向けて空のコップを握ったまま冷たく、しかし、その瞳に激しい怒りを覗かせる颯太が彼女を睨みつけている姿だった。

 

 

 ○

 

 

 

「じゃあ行って来るよ」

 

 そう言って二人が歩いて行くのを見送った俺は少しの間を空けて

 

「でも、ホント懐かしいね」

 

 伊藤が俺にニコニコと笑いながら言う。

 

「ハヤ太君、小4の三学期急に来なくなったと思ったら4月には転校しちゃうんだもん。ホントビックリ」

 

「…………」

 

 ニコニコと言う伊藤に、俺は数秒考え

 

「……なあ、伊藤」

 

「もう、名前~……まあいいや。なぁに?」

 

 俺は身の前の伊藤加奈に視線を向け、ずっと胸の内に燻っていたことを聞くことにした。

 

「お前、『赤木 杏』って覚えてるか?」

 

「赤木……杏……?」

 

 俺の挙げた名前に一瞬首を傾げた伊藤は

 

「あぁ!!うんうん、覚えてるよ!あの4年生の三学期の頭に交通事故で死んじゃった杏ちゃんね!」

 

 ポンと手を打って言う。

 

「懐かしいねぇ…優しい子だったけど道路飛び出しちゃってそのまま……だったね」

 

 シミジミと言った伊藤は

 

「でも、死んじゃった子に対してこういうのは失礼かもだけど、あの事故は彼女の不注意もあるよね」

 

「ッ!?」

 

「信号のない道路に急に飛び出すなんて、自業自得って言うか――」

 

 そこが、我慢の限界だった。

 俺は自身の前に置いてあるコップを掴むとその中身を伊藤目掛けてぶちまけた。

 

「な、何すんのよ!?」

 

 突然のことに立ち上がって言う伊藤を俺はじっと見つめ

 

「寝惚けたこと言ってるから目を覚まさせてやろうと思ってな。目ぇ覚めたか?」

 

「はぁ?何言って――」

 

「おい颯太!?これどういうことだよ!?」

 

 と、そこで一夏と簪が戻って来る。

 俺と伊藤を見比べた一夏が

 

「おい!これ一体どういう――」

 

 言いながら俺の肩に手を置く一夏に

 

「黙ってろ!」

 

「「っ!?」」

 

 俺は一夏を睨みつける。

 俺の視線に二人が息を飲む。

 二人が押し黙ったのを見届けて俺は視線を伊藤に戻す。

 

「伊藤……まさかお前、杏がなんで道路に飛び出したか、忘れたわけじゃねぇよな?」

 

「はぁ?何のこと?」

 

 俺の問いに伊藤は首を傾げるばかりだ。

 

「……そうだよな、覚えてるわけないよな……」

 

「颯太……?」

 

 簪が戸惑いの表情で呟くが俺は応えない。

 

「そうだ。お前らはいつだってそうなんだよ。お前らは例え誰かの足を踏んづけても忘れてしまえる。踏まれた方は踏まれたという事実も、その痛みも、ずっとずっと忘れる事なんてできないって言うのに!」

 

「颯太、お前何言って……?」

 

 一夏の問いに答えず、俺は伊藤を睨みつける。

 

「何訳わかんないこと言ってんの?ハァ~、もう最悪!ちょっとこんなにしたこと謝ってよ!」

 

「順序がちげぇだろ?」

 

「はぁ?」

 

 叫ぶ伊藤に俺は睨みながら言う。

 

「まずお前が杏に謝るのが先だろうが!!」

 

「意味わかんないんだけど?」

 

 俺の言葉に伊藤はため息をつき、すぐに何かを思い付いた顔をする。

 

「だったら、勝負しよう」

 

「はぁ?」

 

「ハヤ太君が勝ったら杏ちゃんへ謝罪するわ」

 

「……何?」

 

 伊藤の言葉に俺は眉を潜める。

 

「俺が勝ったら?お前に烏龍茶ぶっかけたこと謝ればいいのか?」

 

「まっさか~。私がそれで納得すると思う?人をこんなの濡れ鼠にして、わけわからない謝罪要求して、『僕が間違ってました~ごめんなさい~』って言うだけで済むわけないじゃん」

 

「じゃあどうすれば納得する?」

 

「そうねぇ……」

 

 俺の問いに少し考えた伊藤は

 

「そう言えば、ハヤ太君って生徒会副会長なんだよな?」

 

「それが?」

 

「私が勝ったら代わってよ、副会長」

 

「何?」

 

 伊藤の言葉に俺は眉を顰める。

 

「人にこんな侮辱してるんだから、負けたらその責任取って副会長の座を私に譲ってよ。その条件を飲むなら、私も負けたら杏ちゃんのお墓に向けて土下座でも何でもしてあげるわよ」

 

「へぇ?」

 

「どう?」

 

 挑発的な伊藤の笑みに

 

「いいだろう」

 

「颯太!?」

 

「そんな……」

 

 頷いた俺に一夏と簪が驚愕の表情を浮かべる。

 

「いいね、そうこなくっちゃ。精々無様な姿曝さないでね」

 

「お前こそ、約束忘れんなよ」

 

 不敵に笑う伊藤を睨みつけ、俺は三人を残してその場を後にした。

 




なんで颯太くんが怒っているのかについては「第151話 ヒーローになれなかった凡人」を読んでいただければわかるかと思います。

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