今回はトータル話数300話の記念です。
このお話はハーレム√ではない√に生きるクリスちゃんのお話です。
お楽しみください!
どうぞ!
「クリスちゃんって好きな人いないの?」
「は、はぁぁ!!?」
突然のバカの意味不明な問いに対してあたしは思わず口に含んでいたココアを噴きだす。
『S.O.N.G』の休憩スペースでダベっていたあたしたち。と、そんな中で何かの話の流れで恋愛話になったところであのバカが先ほどの問いを投げて来たのだ。
「おぉ!クリス先輩顔真っ赤でデス!!」
「意外……」
「そうか、雪音にはいい相手がいるのか」
「お、お前ら……先輩まで……」
驚いた様子の切歌&調の後輩コンビに加え、翼先輩まで興味深そうに見てくる。
「ま、まあ?クリスも年頃な訳だし?そ、そう言う相手の一人や二人くらい……」
「オイオイ、マリア。年下に恋愛出先越されたからって泣くなよ」
「泣いてないわよ!――ま、まぁ?多少は?ほんのすこ~しくらいは羨ましく思わなくもないけど……」
「姉さん、すごく言い訳がましいよ」
横でマリアと奏先輩、セレナ先輩が話しているのをなんとなく触れてはいけない気がしてスルーする。
「と言うか勝手に話が進んでいるけど、あたしにそんな相手はいない!」
「え?そうなの?さっきの顔はてっきり誰か思い浮かべてるのかと思ったけど」
あたしの言葉に未来が半信半疑な様子で訊く。
「お前までこのバカに乗せられんなよ……」
「でも、さっきのクリスちゃんすっごく恋する乙女って顔してたよ!」
バカの言葉に七人が同意するように頷く。
「そ、そんな……」
あたしは思わず自分の口元を覆い隠して顔を背ける。
「みんな察しが悪いなぁ~」
そんな中で今までニヤニヤしながら黙って成り行きを見守っていた海斗が口を開く。
「なんだよ?じゃあお前はクリスの片恋相手が誰なのか知ってんのか?」
「まったく、みんなちょっと考えればわかりそうなものなのに……」
やれやれ、と腹の立つ動作で肩を竦めた海斗はニヤリと笑い
「クリス姉さんの好きな相手なんて、そんなのうちの兄貴しかいないじゃ――」
「もってけダブルだッ!!」
「ドイヒー!」
とんでもないことを口走り始めた愚弟を思わず往復ビンタする。
「お、おおおおお前何馬鹿なこと言ってんだよ!!!」
「痛い!クリス姉さん痛い!家庭内暴力だ!ドメスティックな姉貴だ!弟いじめ!!」
首根っこを掴んでガクガク揺さぶりながら怒鳴ると、海斗も叫ぶ。
「あぁ、そっか!確かにクリス先輩の好きな人はお兄さんデス!!」
「それ以外ないね…」
が、あたしたちを尻目に何故か他の面々は納得したように頷いている。
「ちょ、なんで全員納得してんだよ!?何この愚弟の妄言を信じ込んでんだよ!?」
「いや、だって……」
「ねぇ?」
「うん」
叫ぶあたしに奏先輩とマリア、セレナ先輩がお互いに顔を見合わせて頷く。
「雪音はお兄さんの事大好きだろう?」
「いつも憎まれ口叩いてるけど、それも愛情の裏返しって言うか」
「クリスちゃんってブラコンだよね!」
「だ、誰がブラコンだ!!?」
「うわぁぁぁ!!クリスちゃん、もの投げないで!!危ない!危ないから!!」
不名誉な称号を口にした馬鹿に向けて思わず手近にあったモノを投げつける。
「でも、実際クリスは端から見てるとお兄さんの事すごく大事にしてるように思うよ?」
「セレナ先輩まで……」
キョトンとしながら言うセレナ先輩の言葉にあたしはため息をつく。
「なんていうか、いい意味でお兄さんには遠慮が無いって言うか、信頼してるのが目に見えるって言うか……」
「愛、ですねぇ~」
「はいはい、愛は愛でも家族愛、な。お前と兄貴、お義父さんやお義母さんへの気持ちは同じだよ」
「わお、父さんが聞いてたら泣きながらお小遣いに万札差し出しそうなセリフ、いただきました~」
「茶化すなよ」
ニヤニヤしながら言う海斗にあたしはギロッと睨みつける。
「でも、クリス姉さんの気持ちは嬉しいけど、実際クリス姉さんにとって兄貴は別格な気がするよ?」
「そんな訳ねぇだろ?」
海斗の言葉にあたしはため息をつく。
「もし、あたしが兄貴のことを特別視してる様に見えるとしたら、それは――」
その顔を覚えている。
目に涙を溜めて、生きている人間を見つけ出せたと、心の底から喜んでいる男の姿。
それがあまりにも嬉しそうだったから。
まるで救われたのはあたしではなく、男の方ではないかと、思ったほど。
「生きてる!生きてるッ!生きてるッ!!」
そうして、死の直前にいる自分が羨ましく思えるほど、男は何かに感謝するように――『ありがとう』と、言った。
見つけられてよかった、と、君が生きていて――『救われた』と。
あたしが兄貴に出会ったのはバルベルデ共和国で奴隷のように扱われる生活を送っていた頃だった。
あの当時内乱でごたつく紛争地だったバルベルデ。パパとママが理想を胸にボランティア活動を続け、そしてテロに倒れた日からあたしは三年間地獄のような日々を過ごしていた。
当時小学生くらいだった幼いあたしは日々振るわれる暴力におびえながら心を少しずる摩耗させながら生きていた。
そんな中紛争は激化し、あたしは懲罰で監禁された地下に置き去りにされた。
ちょっとした失敗からちかの懲罰房に入れられたあたしはその当時外の様子を知る由もなかったが、どうやらあたしをこき使っていたやつのその屋敷のある地域にも戦禍が広がり始めていたらしく、その主たちもさっさと逃げだしたらしい。そして、あたしはそれに置いてきぼりを喰らった。完全に忘れ去られていたらしい。
あたしはそのまま食料もなく水もないまま三日を過ごした。
そろそろ三途の川に片足をツッコんだ頃、そいつは現れた。
一ミリの光も差し込まない完全な闇の中でただ漫然と死を覚悟していたあたしに重い扉の開く音ともに懐中電灯の光が当たった。
薄ら寒い闇の中でその光はとても暖かだった。
「おい!大丈夫か!!?」
叫びながらあたしに駆け寄り抱き上げた男の声に閉じていた瞼を微かに開いた。かなり消耗していたせいで本当に微かにしか瞼を開けられなかった。
そんなあたしに、それでもあたしが生きていることが分かったそいつはボロボロと涙を流しながら、誰に対するものなのかわからない感謝を口にしながら、そいつはあたしを優しく抱きしめた。
こうして私はそいつ――井口颯太に保護された。
聞いたところによると兄貴、井口颯太は当時IS学園への国連の依頼からバルベルデへの難民救済のチームを補助する任務のために学園の仲間とともに来ていたらしい。
そんな中で偶然立ち寄った地で何の気なしに入った屋敷でたまたま偶然あたしを見つけたそうだ。
そんな偶然あるか?と呆れるあたしに
「本当になんで立ち寄ったかわからない。なんでかそこを調べなきゃいけないような、そこにどうしても見つけ出さなきゃいけない何かがるような気がした」
と、兄貴は大真面目な顔で冗談みたいな話をした。
正直荒唐無稽な話な気もするが、何故かあたしはそれが信じられた。
実際あたし自信もこいつの妹になる、という選択をした時、何故かよく分からない確信があった。こいつは信じられる、と言う確信が。
「こんにちは」
保護され、国連が安全を確保した町の病院で治療を受けたあたしの病室にそいつは優しく微笑みながら訪ねてきた。
「君がクリスちゃんだね?率直に訊くけど、孤児院に預けられるのと、初めて会った俺に引き取られるの、君はどっちがいいかな?」
ニコニコと微笑みながら訊くそいつの問いにあたしは呆然とした。
こいつはほんの数時間前に死にかけのあたしを地下で見つけ助け出した、が、それが初対面であり、こいつとあたしには何の縁もゆかりもないはずだ。
ただもしかしたら知らないだけでひょっとしたら親類なのかもしれない。
試しに「あんたはあたしの親戚かなんかか?」と訊けば、「まぎれもなく赤の他人だよ」なんて返答した。そして、
「あ、もちろん俺はまだ未成年だから身元引受人になるのは俺の両親だよ」
なんて笑いながら付け足す。
微笑む顔を訝しく思いながらあたしは考える。
三年に及ぶ捕虜生活であたしは必要以上に人を疑うということを覚えた。
こういう人の良さそうな笑顔を張り付けている奴ほどヤバイ、ということをあたしは痛いほど思い知っている。
――でも、何故かあたしはその笑顔を信じられるような気がした。
少し考えた後、あたしはゆっくりとそいつを指さす。
「そっか、よかった」
そのあたしの返事に、そいつは目に見えて嬉しそうに微笑む。
「なら早く身支度をすませよう。新しい家に一日でも早く馴れなくっちゃいけないからね」
そう言って慌ただしく荷物をまとめ始める。
その様子は端から見ても浮かれてるのがまるわかりだ。
こうして、あたしはそいつ、井口颯太の両親に養子縁組される形で引き取られた。
丁度帰国するタイミングだったようで、あたしは兄貴とともに日本に帰国した。
三年ぶりに降り立った日本の地、空港であたしたちを迎えた義父さんと義母さんと海斗に迎えられた。
そして、今日までとても満たされた生活を送れた。
だから、きっとあたしの抱く気持ちは『恋慕』ではなく、『感謝』のはずだ。
あたしをあの地獄から救い出してくれたこと、掛け替えのない第二の家族を与えてくれたこと、感謝してもしきれない。だからきっと、この気持ちは――
「どうだ、二人はそれぞれ仕事頑張ってるか?」
と、あたしと海斗に兄貴が訊く。
ここは兄貴と奥さんの家のリビング。今日は兄貴の奥さんが出産後初めて家に帰って来るということでお義父さんたちとともに兄夫婦を訪ねたのだ。
「まあね。それなりにやってるよ」
「まああたしは学生の時からやること変わらないしな」
兄貴の言葉にあたしたちは応える。
ちなみにお義父さんたちは今は兄嫁さんと話している。
「ま、問題ないならいいさ。お兄ちゃん一安心」
「キモッ」
「クリスちゃんやめて。マジのトーンで言われると泣きたくなるから」
「いい年こいてお兄ちゃんとか自分で言うのはさむいだろ」
「……確かに」
「自分で認めるのかよ」
頷く兄貴に海斗は苦笑いを浮かべる。
「でもま、なんかあったら相談しろよ」
「なんだよ、心配なのか?」
「心配くらいするさ、大事な弟と妹だからな」
そう言ってニッと笑いながら兄貴はあたしの頭を撫でる。
「ガキ扱いすんなよ!」
あたしはそっぽを向きながら手を払いのける。
「アハハハ、すまんすまん。つい」
そんなあたしに悪びれた様子なく兄貴は笑う。
「お~い颯太~」
「はいはい、なんざんしょ?」
と、お義母さんに呼ばれて兄貴が席を立ち、そのままお義母さんたちのいる方に歩いて行く。
「たく……いつまでたってもガキ扱いしやがって……」
「兄さんにとってはいつまでも可愛い可愛い妹なんだよ、クリス姉さんは」
「…………」
海斗の言葉にあたしはなんとも微妙な気持ちで兄貴の方を見る。
そこでは慈愛に満ちた目で赤ちゃんを抱きながら奥さんと話す兄貴の姿が見られた。
そんな兄貴の顔をあたしは初めて見た。あんなに愛おしさに溢れた、愛情に満ちた瞳で対する人物を見つめている。それは、あたしではなくて――
「…………」
「…………」
あたしはその光景を黙って見つめる。海斗も何も言わず、ただ黙ってあたしの隣に座っていた。
○
それから、昼食をみんなですましてから少しゆったりと過ごした後にあたしたちは兄貴の家を後にした。
お義父さんたちとも別れ、同じ社宅に住む海斗ととみに歩むその帰路で――
「ねぇ、クリス姉さん」
唐突に海斗が口を開く。
「なんだよ?」
「夕飯食いに行かない?僕奢るからさ」
「はぁ?」
首を傾げながら時計を確認する。
確かにそろそろ夕飯の時間ではあるが
「なんで奢ってくれるんだよ?何が目的だ?」
「別に。ただなんて言うかさ……」
あたしの問いに海斗は少し言い淀み
「姉さん、大丈夫?」
「……なんでそう思うんだよ?」
海斗の問いにあたしは聞き返す。
「なんて言うか、今の姉さん、何か大事なことに気付いたのに、それは気付いちゃいけなかった、みたいな……そういうなんとも言えない気持ち抱えてる様に見えるよ」
「お前……いつ気付いたんだ?」
「姉さんが気付く前からうすうす、ね。これでも僕、姉さんの弟だよ」
「そうか……」
あたしは海斗の言葉に頷き
「ハンバーグがいいな」
「え?」
「奢ってくれんだろ?近くに上手い定食屋があるんだ」
「……うん、行こう!たくさん食べて!」
「ああ……」
嬉しそうに頷く海斗を連れてあたしは歩き出した。
正直、この気持ちには気付かない方が幸せだったのかもしれない。それでも、あたしはこの気持ちを見据え、抱えて歩き出す。いつかこの気持ちを自分の中で折り合いを付けられる日が来るはずだ。
と、いう訳でハーレム√とは違う世界のクリスちゃんでした。
ところで、これ書いてる途中で気付きましたが、ISの登場人物が一人もいませんね(-_-;)
ほぼオリキャラとた作品のキャラしか出てない……
ま、そんなこともありますよね!!
そんな訳で番外編もかけたので次回から本編に戻ります。
お楽しみに!