ただ、このお話でトータル話数が300話になりましたのでそっちの番外編は近々書きたいと思います。
もしそれまでにまたお気に入り件数が4000件に行くようでしたらそちらも兼ねて番外編としたいと思います。
と、いう訳で、記念すべきトータル話数300話目です!
どうぞ!
「…………」
「颯太~、飯行こうぜぇ~……ってどうした?なんか元気ないな」
昼休みに入って少し経った。自分の席に座りノロノロと四限目の片付けをしていた俺に一夏が訊く。
「まぁ……あれだ、女心って難しいよな……」
「……どういうことだ?」
「まあ……飯食べながら話そう」
俺の言葉に頷いた一夏とともに俺たちは学食に移動。それぞれ日替わり定食のA(チキン南蛮)とB(野菜炒め)を購入して席に着く。
そして――
「はぁ?更識さんの様子がおかしい?」
「いや、うん…気のせいかもしれないんだけどね……」
呆けた顔をする一夏に俺はどもりながら頷き野菜炒めご飯と一緒に頬張る。
「様子がおかしいってどの辺が?」
「うん、まあここ三日ほどの事なんだが……」
言いながら俺は振り返る。
ここ最近妙に簪が何かと理由を付けて俺のところに来る。
今日は一夏の方が早かったが、昨日一昨日は簪が昼ご飯を誘いに来て一緒に食べたし、その流れで夕飯も誘われ、一緒に食べた。
昨日なんかは生徒会の仕事も無かったので授業後、部屋に直帰して最近日課となっている男磨き特訓の一つ、『仮面ライダーから男の何たるかを学ぶ』をしようとしてたら、簪が訪ねて来た。
まあ俺が見てる仮面ライダー作品は簪が持ってるBlu-rayBOXを借りているもので、昨日からは丁度新たにカブトを見始めるタイミングだったのだが、それを簪は一緒に見たいとやって来たのだ。
しかし、やって来た簪は何故かこれから出かけるかのようにやけに着飾っており、おまけに普段かけている眼鏡(度は入っていない携帯モニターらしい)を外し、何ならうっすらと化粧までしていたように思う。
普段はもうちょっとラフなのにとか思いつつ一人で見るより誰かと語りながらの方が面白いと思い俺は簪を招き入れ、一緒に見始めた。
部屋に備え付けられたTVモニターで再生し、椅子に座ってみる俺の横で簪はベッドの上、それも俺が普段使っている方に寝転がって見ていた。
普段ならベッドの上でも座ってみそうなのに、随分とリラックスした体勢で見ている簪。
短めのスカートをはいているのでチラチラと太腿やその奥が見えそうなギリギリで画面の方に集中できない。
が、同時に一つ気になるのが簪の様子だった。
体勢こそリラックスしたように寝転がっているが、時折チラチラと俺の方を様子を窺っている気がするし、なんとなく恥じらいが表情に見える。
なんと言うか、わかっててやっているような雰囲気だ。わかってるならやらなきゃいいのに。むしろ普段の簪なら赤面ファイヤーでアワアワしそうな状況を自らの意思で行っている、と言うのがどうにも腑に落ちない。
腑に落ちないと言えば、簪の距離感もなんだか変わった気がする。パーソナルスペースが狭まったというのか、前より半歩は近くにいる気がする。そして、ちょっとしたボディータッチも増えた気がする。しかも自分でやっておいて自分で照れてることがある。
他にもあるが大まかにはこのくらいだろうか。
簪に何があったのか知らないが、これじゃあオタク拗らせた俺は勘違いしてしまいそうだ。
「なるほどな……」
俺の話を聞いた一夏は頷きながらチキン南蛮を頬張る。IS学園のはタルタルソースまで手作りで甘辛いタレのチキンによく合う。
「なんだろう……そう言うのなんか見たことある気がする……」
「え?どこで?」
「どこだったかなぁ……」
一夏がムムムッと腕を組んで唸り
「あっ!」
思い出したようにポンと手を打つ。
「ほら、前に颯太に貸してもらった漫画!」
「………どの?お前には色々貸したからどれの事か分からん」
「ほら!主人公がクラスメイトとか先輩とかいろんな女の子から好意を寄せられてるのに一切気付かない……確かハーレムラブコメってジャンルだっけ?」
「あぁ~……」
一夏に少しでも周りの好意に気付いてもらうために貸したアレか。俺が持ってる分全部読み終えて、「なんでこの主人公ここまでアプローチされて気付かねぇんだろうな。ハハハッ、鈍感すぎだろ~」って笑ってるの見て心の中で一夏ラヴァーズに合掌したのは記憶に新しい。
「なんか更識さんの行動ってあの漫画にあった主人公に女の子って意識してほしいヒロインの行動に似てるよな」
「…………」
否定しようと思ったのに、俺はストンと納得してしまった。
「でも……いや……」
論破する言葉を探すが言葉が出てこない。
でも、納得はできても理解はできない。
だって、なんでシャルロットに続いて簪まで……。
なんで……なんで俺なんだ。
なんで俺なんかをあんないいやつらが。
俺よりいい奴は他にもいくらでもいるじゃないか。
それなのに、なんでよりにもよって俺なんかを……。
こんな、友達見捨てて見殺しにした俺なんかをなんで……。
「……颯太?」
「っ!」
心配そうに覗き込む一夏の声に俺は思考を戻す。
「どうした?なんか急に黙り込んで……」
「いや……なんでもない……」
一夏の問いに俺は首を振り、手を止めていた食事を再開する。
「で?どうするんだ?」
「何が?」
「簪さんの気持ちだよ」
「………どうもしない」
「へ?」
「一夏、お前漫画と現実混同しすぎ。あれはフィクション。創作なの」
「でも、事実は小説より奇なりって言うじゃねぇか……」
「じゃあお前は今までに食パン加えて『遅刻遅刻~』って言いながら走って来る女の子と一度でも曲がり角でごっつんこした経験があるか?」
「いや、無いけど……」
一夏の答えに俺はだろうな、と頷く。
「じゃあバレンタインに手作りの義理チョコ貰ったことは?」
「あぁ、それはある」
「…………」
うん、だろうね。自分でも行ってからこいつならあり得るって思っちゃった。
「………そ、それじゃあ、女の子が赤い顔してたから『どうした?熱でもあるのか?』っておでこに手を当てたら引っ叩かれたことがあるか?」
「あぁ、鈴と箒に似たようなことで殴られたことあったな。せっかく心配したのに……」
鈴と箒、何をベタなことしてんだよ……。
「………じゃ、じゃあ海水浴に行って女の子が足をつって溺れかけたから助けに行ったことが……」
「ある……って言うかお前も一緒だったろ?ほら、臨海学校の時に鈴が」
「……そうだったな――じゃ、じゃあこれは流石にないだろ!試着室に半裸の女の子と一緒に閉じ込められたことは?」
「あぁ、さすがにそれは無いな」
「そうだろう、そうだろう!いくらお前でもそんな経験が起こるわけが………あっ」
あったわ。シャルロットに引きずり込まれたわ。
「ま、まあとにかく!簪の件はついては俺の気のせいも幾分かある!だからたぶんお前の思ってるようなことじゃない!簪の行動はきっと何でもなかったんだよ!」
「そうかな……?」
一夏は首を傾げているが、俺は無理矢理話を終わらせる。
「相談に乗ってくれてありがとうよ」
「いいってこと。気にすんな」
俺の言葉に一夏は微笑み、味噌汁を啜る。
「……なんで今の発見が自分には起こらないんだろうな、こいつは?」
「ん?なんか言ったか?」
「いんや。久しぶりに今話題に出た漫画を一から読み返そうかなってね」
「そうか。じゃあまた俺にも何か漫画貸してくれよ」
「どんなのがいいんだ?」
「感動系のがいいな」
「そうか……じゃあオススメのいいのが二つあるぞ。心がキュッとなる切ないお話」
「へぇ?なんてタイトル?」
「うん、『最終兵器彼女』と『エルフェンリート』って言うんだけどね?」
○
俺と一夏は昼ご飯を終え、お盆と食器を返却してから教室に戻ろうと歩き始め
「なあ、あれ更識さんじゃないか?」
「え……?」
一夏の言葉に指さす方向を見れば、確かに簪だった。誰かと一緒にご飯を食べているらしく談笑している様子が見える。
「声かけるか?」
「…………」
一夏の言葉に首を振ろうとした俺は、そこで考えを改める。
ここで逃げたらシャルロットの時と同じになる。
「そうだな……」
頷いた俺は一夏とともに簪の元に行き
「よっ!更識さん!」
「織斑君、それに――颯太!」
一夏を見てから俺に視線を向けた簪の顔がパッと華やぐ。うっ、決心が鈍りそう。だがここは堪えるんだ。ここで変な態度を取ったらそれこそシャルロットの時みたいに傷つける。
「今日も誘いに行ったんだけど…織斑君と食べてたんだよね……?」
「あ、ああ、ごめんな」
「いいよ…約束してたわけじゃないしね……」
「………簪も友達と食べてたのか?」
「うん。あ、紹介するね。彼女は最近うちのクラスに転校してきた――」
簪が彼女の対面に座る子を指すのでつられて俺も視線を向け――ゾクリと寒気がした。
まさか……
そんな……
あり得ない……
なんでここに彼女が……
「颯太……?」
俺の様子がおかしいことに気付いたのか簪が首を傾げながら声を掛けるが、俺はそれに返事できない。
急激に口の中、喉の奥が渇いて行く。
緊張に身体が強張るのを感じながら、ごくりとつばを飲み込み、声を絞り出す。
「加奈ちゃん……?」
「……フフッ」
俺に呼ばれたその少女はニヤリと笑い
「久しぶり、〝ハヤ太〟君?」
そう言って、彼女――芹沢加奈は微笑んだ。