前回の一話目を間違えて削除してしまったので上げ直しています。
そんなこんなで最新話です。
どうぞ!
『ありがとう、簪』
『簪の気持ちはすごく嬉しいよ。でも、俺はもう簪の気持ちに答えることはできない。だから、簪。幸せになれよ』
『それじゃあ、みんな。バイバイ』
「っ!」
目を覚ました時、そこは見慣れた自分の部屋の天井だった。
「夢?でも、内容を思い出せない……」
呟きながらふと自分の頬に触れてみる。そこには――
「涙?私なんで涙なんて……?」
夢の内容は覚えていない。ただ、なんとなく漠然と悲しい夢だったのを覚えている。それと、なんとなく颯太に関係している気がする。
なんとなく、颯太がどこか遠くへ行ってしまうようなそんな夢だった気がする。
一体なんでそんな夢を見たのか――いや、きっと私の不安が夢になったのだろう。
颯太へ爆弾が送り付けられたあの一件から気付けば二週間が経っていた。
あの事件は先生たちが最終的には解決に動いたので、結末がどうなったのかはわからない。
あの事件の翌日、颯太はシャルロットに謝った。それはそれは美しいまでの所作での土下座だった。
それから私たちは元通り。いつもの日常が帰って来た――かに思えた。
あれから颯太は自分を見つめ直すために男としての格を上げる、と自分磨きを始めたらしい。
他に何をしているのかわからないが、とりあえずハードボイルドを勉強するために私のところに『仮面ライダーW』を全巻セットで借りに来た。颯太の中で『カッコいい男=ハードボイルド』と言うイメージがあるようだ。ただ、あれはハードボイルではなくハーフボイルドなので颯太の求めるものではない気もするが、まあ仮面ライダーシリーズは全部カッコいい男のバイブルだと思うから大間違いということはないだろう。ちなみにWを見終えたらカブト見る予定らしい。
他にもお姉ちゃんに日々の特訓のメニューを新しいものにしてもらったらしい。
たぶん私の知らないところで颯太はもっともっと頑張っているのだろう。
そして、それはシャルロットの気持ちを知ったからこそで……じゃあ私ならどうなんだろう?私の気持ちを知ったら颯太は同じように思ってくれるのだろうか?
――私はついそう考えてしまった。
そして、同時に私はその考えを否定する。
きっと颯太は私が相手ではここまで頑張らない。きっと颯太は私が相手ではここまで悩まないだろう。
私はそう確信している。だって、颯太の好きな二次元のキャラたちはみんなスタイルがいいし大人っぽい美人たちだ。背が低く子ども体系な私とはかけ離れている。
何より、颯太にとって私はこの学園で一番の『オタ友』だろう。
これはお姉ちゃんの『師弟関係』とも、シャルロットの『同僚』とも違う、私だけの唯一無二の颯太との関係だ。
この関係を、私は失いたくない。もしも私のこの気持ちを彼に伝えて、拒絶されたら、今のこの唯一無二の関係すら失ってしまう。それがどうしようもなく怖い。
だから私は言葉にしない。伝えない。少なくとも今のこの関係なら同じ方向を向いて歩けている。
でも、これはあくまでも同じ方向を向いて歩いているだけ。同じ歩幅で歩いているわけでも、ましてや同じ道を並んで歩いているわけでもない。たまたま同じ方向を向いていただけ、私と颯太の道は交わったわけじゃない。
いつか颯太と私の間には大きな差が開くのかもしれない。颯太の道が誰かの道と交わり、同じ道を歩む誰かが現れるのかもしれない。そのまま私の事を置いて振り返らずに歩いて行ってしまう。私だけ取り残されてしまう。
そうなるのが不安で、だからこそ、そんな夢を見たのかもしれない。
でも、だったら私はどうすればいいのだろうか?
関係を壊すのが怖くて思いを伝える勇気もなくて、かと言って今のままでいる事への不安を抱えて、私はどうしたいのだろう?
そんな、なんとももやもやした気持ちを抱えたまま私は登校し、自分の席に着く。
そのままフゥと息をつき、窓の外にぼんやりと視線を向ける。と――
「おっは~!」
教室の入り口から元気な挨拶が聞こえた。
見ればボリュームのある茶髪をツーサイドアップに纏めた人物がニコニコと微笑みながら立っていた。
そのまま教室にいたクラスメイト達に笑顔で手を振りながらすいすいと進み
「おっは~、簪っち!」
「お、おはよう…伊藤さん……」
「もう~、苗字じゃなくて名前で呼んでよ~。加奈でいいよ~」
と、私の返事に笑いながら伊藤さ――加奈さんは私の隣の席に座る。
伊藤加奈さん、彼女は三日前に私のいるこの4組に転校生としてやって来た。
彼女はここ2、3年の間に規模を拡大してきているIS関連企業『ユグドラシル』の所属IS操縦者で専用機もあるらしい。――もちろん某仮面ライダーに出てくるあの大企業とは無関係。バケモノを呼び出す錠前とか変身ベルトばら撒いて若者を争わせたりはしません。
そんな彼女は偶然にも私の隣の席になり、専用機を持っている私に興味を持ったそうだ。
転校してきてまだ三日だが、コミュニケーション能力も高いのですぐにクラスで人気者になった。それに対して人付き合いが苦手な私。
加奈さんはぐいぐいフレンドリーに来るが、なんとなく私は一歩引いてしまっている。せっかく親しくしてくれているので、私ももっと仲良くしたいのだが……。
「どうしたの?なんか元気ないじゃん」
「えっと……ちょっと夢見が悪くて……」
「ふ~ん。そんな嫌な夢だったの?」
「いや…内容は覚えてないんだけど……」
「えぇ~?何それ~?」
私の言葉にケラケラと笑う加奈さん。
「なんか…大事な人がどこか遠くに行っちゃうような…そんな夢……」
「ふ~ん……」
私の言葉に加奈さんは興味深そうに頷き
「それって井口颯太君の事?」
「え……えぇぇぇぇっ!!?」
思わず大きな声が出てしまう。
クラスメイト達の視線を受けて慌てて苦笑いを浮かべて「何でもないです……」と否定しながら加奈さんに視線を向け
「な、なんで加奈さんが颯太の事……」
「みんなが噂してたからね。簪っちがあの世界で二人目の男性操縦者の井口颯太君と仲がいいって」
「そ、それは……」
「で、どうなのどうなの!?簪っちは井口颯太君にLOVEなの?」
「らっ!?」
加奈さんの言葉に私は言葉が続けられずにパクパクと口を開けたり閉じたりする。
「簪っち可愛い~!わかりやすすぎ~!」
「うわっぷ!?」
言いながら楽しそうに加奈さんは私を強引に抱き寄せてまるで犬か何かの小動物を撫でる様に私を撫でる。
「そっかそっか~、簪っち恋してるんだねぇ~。女は恋をすると魅力的になるって言うけど、確かに今の簪っち最高に乙女って顔してるよ~!」
ニシシッと楽しそうに笑った加奈さんは
「よし!その恋、私が協力してしんぜよう!」
「え?」
突然言い出した言葉に私は目を丸くする。
「で、でもそんな――」
「あぁあぁ!みなまで言わなくていいから!」
私の言葉を遮って加奈さんは言う。
「この伊藤加奈様に万事任せなさい!」
「で、でも、そんな……悪いし……」
「何遠慮してんの?私たち友達でしょ?」
「え……?」
加奈さんの言葉に私は一瞬呆けてしまった。
「……急に馴れ馴れしかったかな?」
「え?」
「ごめんねぇ~…私空気読めてなかったよねぇ~……アハハ、まだ知り合って三日くらいなのに急に友達とかウザかったよねぇ……」
「そ、そんなことっ!」
「ううん、気にしないで!」
加奈さんは苦笑いを浮かべて頷く。
「なんていうかさぁ、あたしもちょっち不安だったんだよねぇ~。この学園に来て、知り合いもいなくてさ。でも、同じクラスに同じ専用機持ちの子がいて、仲良くできるかなぁ~って思ったんだけど、ちょっと焦り過ぎちゃった~」
「加奈さん……」
「アハハ、ホントごめんね。忘れて忘れて!」
「…………」
決まりが悪そうに頭を掻きながら笑う加奈さんを見つめ、少し考えた私は
「その……私、コミュ障で人付き合いも苦手だから……でも、友達って言ってもらえてうれしかった」
「簪っち……」
「その、だから……相談に、乗ってもらってもいい……?」
「っ!」
私の言葉に驚いたように目を見開いた加奈さんは
「もっちろん!任せてよ!」
嬉しそうに笑みを浮かべたのだった。
チャ~ラ~ラ~ラ~♪
チャ~ラ~ラ~ラ~♪
チャ~ラ~ラ~ラ~♪
チャ~ラ~ラ~♪
チャンチャララ♪
チャンチャララララ~♪
――簪ニ友達ガデキタ
というわけでオリキャラのギャルちゃんの登場です。
お話の中で簪も断っていましたが、伊藤加奈の所属している会社は「仮面ライダー鎧武」に登場する「ユグドラシル」とは無関係です。
伊藤加奈の専用機は戦極凌馬作とかではありませんのであしからず。
さて、この度この『IS~平凡な俺の非日常~』がお気に入り件数4000件となりました。
それを記念して次回は番外編を考えています。
どんな内容の番外編になるかはお楽しみに!
GW中には投稿するつもりですのでお楽しみに!