さてさて、この√ではどんな道をたどって行くのか。
お楽しみに
ifⅡ-1話 自分の価値
「今日はありがとう。わざわざ休日に来てもらってごめんね」
一週間ほど前のワールド・パージ事件の時に現れた謎の機体についての話の後、取り留めのないことを話しながら春人さんが言う。
「別にいいですよ。特に予定もなかったですし」
「へ~?IS学園は女の子ばかりなんだ。君も誰かとデートに言ったりはないのかい?」
「デートって……そんな相手は生憎――」
貴生川さんの言葉に言いかけて、今まで忘れていた件の問題を思い出す。
「……どうした、急に黙り込んで」
「あぁ……えっと……」
急に黙った俺を不審に思ったミハエルさんが訊いてくる。
「なんと言いますか、さっきまで悩んでいたことを思い出してしまって……」
「あぁ~……さっき言ってたアイデンティティクライシス……」
「「「アイデンティティクライシス?」」」
アキラさんの言葉に三人が首を傾げる。
「さ、さっき私の部屋にいるときに、床に突っ伏して死にたいって言ってたから、り、理由を訊いたら『今アイデンティティクライシス中だ~』って……」
「なんだそれは?」
アキラさんの解説に奇妙なものを見るような目で俺を見る。
「えっと……ちょっと先日とんでもない事実を知ってしまったと言いますか……そのことでいろいろ考え込んでしまって……」
「よかったら相談に乗ろうか?」
「でも……」
「人に話すだけでも気分が晴れるかもしれないよ?」
「………じゃあ、お言葉に甘えてもいいですか?」
「もちろん」
俺の言葉に笑顔で頷く春人さん。
「実は――」
俺は相談しようと口を開――こうとしたところで、会議室に備え付けられた内線電話が鳴る。
「はい、もしもし?」
一番近くにいた貴生川さんが受話器を取る。
「え?……うん、いますよ。……なんだって!?」
「どうかしたのか?」
電話口に驚きの声を上げる貴生川さんにミハエルさんが訊く。
「いまIS学園から連絡があったらしい。IS学園へ匿名でタレコミがあったらしい、『IS学園一年一組の井口颯太へ爆弾が届けられてる』って」
『なっ!?』
貴生川さんの言葉にその場の全員が驚きの声を上げる。
「そ、そんなもん、質の悪いでまかせに決まって――」
「学園の教職員も半信半疑だったらしい。実際に爆弾が見つかるまではね」
『っ!?』
サンダーさんが冗談めかして言うが貴生川さんが続けて言った言葉に全員絶句する。
「とにかく犯人は現在調査中。颯太君には学園へ戻ってほしいらしい。爆弾は回収できたけど別の方法で颯太君を狙って来るかもだから学園から護衛兼迎えをよこすって」
「護衛兼迎え?」
貴生川さんの言葉に俺は首を傾げた。
そして、待つこと数十分後――
「颯太無事っ!?」
やって来たのは簪と山田先生だった。
アキラさんの部屋でゲームをしながら待っていた俺に簪が部屋に入るなり駆け寄ってくる。
「おぉ、簪。それに山田先生も。なんか大変なことになってるみたいですね」
「大変なことになってるみたいですね、じゃないよ!颯太危機感無さすぎ!」
「いや、でも俺実際に爆弾見たわけじゃないからなんか実感なくて……結局爆弾って何がどうなってるんですか?」
「それが、我々も状況がよく把握できていなくて、現在調査中なんです……」
簪に怒鳴られ、俺はボソボソと言い訳しながら訊くが、山田先生も困惑した様子で首を傾げている。
「とにかく学園に数時間前に匿名のタレコミの電話があって『IS学園一年一組の井口颯太へ爆弾が届けられてる』って。実際に調べたところ、今日届けられた荷物の中に井口君宛の小包みがありまして、中を確かめたところ……」
「爆弾だった、と?」
「はい」
「その小包み、某通販サイトの箱だったんじゃないですか?」
「ど、どうしてそれを!?」
「二、三日前に注文したので。どこでその情報を手に入れたのか知りませんが、もし知らずに開けてたらって思うとぞっとしますね」
俺はやれやれと肩をすくめて言う。
「とにかく学園に戻りましょう。詳しくはそこで。私車を回してきますね」
そう言って山田先生は部屋を後にする。
「……………」
「……………」
山田先生を見送った俺たちは少し黙る。なんとなく居心地の悪い沈黙の後
「ねぇ、颯太……聞きたいことがあるんだけど……」
「ん?どうした?」
簪が呟く様に、しかし、しっかりと俺を見据えての問いに俺は応える。
「颯太は、シャルロットの『ワールド・パージ』の内容を知ってるんだよね?」
「っ!?な、なんでそれを……!?」
「織斑くんに問い詰めた。彼が颯太に教えちゃったんだよね?」
「………ああ、そうだ」
簪の全てを見据えたような視線に俺は息を飲み、誤魔化しきれないと観念して頷く。
「最近シャルロットに対して余所余所しかったのは、シャルロットの気持ちを知っちゃったからなんだよね?」
「……ああ」
簪の言葉に俺は頷く。
「知っちゃったのに、どうして受け入れてあげないの?シャルロットの事、好きじゃないの?」
「……正直わからない」
簪の問いに俺は自分の胸中の思いを少しずつ言葉を選んで口にしていく。
「シャルロットの事は好きだ。でもこれは友達としてだ」
「でも、シャルロット美人だし、家庭的だし、男の子としてはああいう子とは付き合いたいって思うんじゃないの?」
「かもね」
「だったら――」
「でもさ、なんかズルいじゃん」
「ズルい?」
俺の言葉に簪が首を傾げる。
「そりゃ俺だって彼女は欲しいよ。でもさ、俺はシャルロットから告白されたわけじゃない。これで俺が告白するのはおかしいじゃん。告白って好きだからするわけでしょ?好かれてるってわかったから、告白したら確実に彼女ができるから好きかどうかわからないけどとりあえず告白するって言うのはさ、目的があべこべな気がするんだ」
「それは……」
「いや、違うな」
「え……?」
簪が呆けた顔をする。
「単純にさ、俺は自分の価値が信じられないんだ」
「自分の価値……?」
「俺は、シャルロットに好いてもらえる要素を自分の中に見いだせない」
俺は座っているソファーの背もたれにもたれ掛かり虚空を見つめて呟くように言う。
「俺みたいな平凡で何のとりえもない人間のどこを彼女が好きになってもらえたのか、俺には、どうしてもわからない。何かの間違いなんじゃないか、過大評価なんじゃないかって……だから、なんだかうまく考えが纏まらない」
「颯太……」
「我ながら面倒くさい考え方してると思うよ。それでも、俺には……」
簪は言葉を選んでいる様子だが、なんて言っていいのかわからないように口籠っている。
そんな簪を見ながら俺は切り替える様に笑い飛ばす。
「まっ、流石に最近のシャルロットへの態度は俺自身もどうかと思うからさ、とりあえずこれ以上考えるのはやめるよ。そもそもシャルロットが自分で俺に伝えてきたわけでもないのに結論出すのもおかしな話だからね。この件にちゃんと答えを出すのはシャルロットが自分で伝えてくれてからで」
そう言って俺は笑う。だが、簪は何とも言えない微妙な顔をしていた。
○
私はその颯太の言葉になんて返していいのかわからなかった。
笑い飛ばしながら言う颯太のその顔はいつもの優しい笑みとは違う、どこか憂いを含んだものだった。
「さて、そろそろ下行くか。山田先生もそろそろ車回してくるだろうし」
「あっ……」
そう言って颯太は立ち上がり扉へ歩き出す。
その背中がなんだか悲しそうで、いつもより小さく見えて、私は思わず手を伸ばしていた。
「え?」
私に手を掴まれたことで呆けた顔で颯太がこちらに振り替える。
「あっ!えっと……その……」
掴んでから気付いたが、私はどうしようと思ったんだろうか。何を言おうとしたのだろう。
何も定まらないまま、でも、ただどうしても今の彼をそのまま行かせてはいけない気がした。彼に伝えなくてはいけない、そう思ってしまった。
「えっと……簪?」
「っ!」
首を傾げる颯太に私は息を飲み、しかし、覚悟を決めて一歩踏み出し
「そ、颯太は!颯太は、何のとりえもない人じゃないから!颯太が優しいこと、私知ってるよ!だから過大評価じゃなく、私は颯太の事、好き、だよ……!」
「……………」
私の言葉に颯太は一瞬目を見開き笑顔を浮かべ
「ありがとう」
「………え?」
「励ましてくれたんだろ、俺の事?」
「えぇっ!?」
「ん?違うのか?」
思わぬ返しに驚く私に颯太が首を傾げる。
「えっ……あ、その……」
颯太の返しに面食らってしまい、先程の一大決心はどこへやら。私のは覚悟はまるで風船のように萎んでしまい――
「そうです……」
私はそれに頷いてしまった。
「そっか、うん、ありがとう。簪にそう言ってもらえてうれしかったよ。頑張らなきゃって気になった」
「う、うん……」
「とりあえず、まずはもっと自分に自信が持てるように自分磨きでもしようかな」
そう言って颯太は笑う、その笑顔はさっきよりも断然見慣れた颯太の笑顔だった。その笑顔は私の言葉の意味に気付いていない様子だった。
だから私も笑顔を浮かべる。胸がズキンと痛む。でも、私をそれをぐっと押し殺す。今はきっとそれが正解だから。
さて、と言うわけで始まりました簪√です。
このお話の分岐条件は『井口颯太に爆弾が送られたことを匿名でIS学園にタレコミされた』ことでした。
さてさて、これがによってどう話が進んでいくのか!?
お楽しみに!
因みに、タレコミをしたのは……イッタイダレナンデョウネ?(笑)
5月1日:間違って削除してしまったので投稿し直しました。