IS~平凡な俺の非日常~   作:大同爽

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本来は順番的には無い物が先ですが、番外編扱いってことでご容赦ください。

前回の続きと思った方すみません。
前回の話でチラリとでた例の監査についてのお話です。
あの事件の時、何があったのか、お楽しみください!
そんな訳でどうぞ!





ifⅠ- 幕間の物語「彼と彼女は交わらない」

「なんだこれ……?」

 

 俺の前で国連からの監査員が呆然と呟く声が聞こえる。俺も同意見だ。

 俺たちの目の前には今、数分前に意気込んで乗り込んだ監査の対象、女性権利団体の重役の顔ぶれが縛り上げられている。

 

「これはどういうことですか?いったい何があったんですか?」

 

 警戒を解かずに周囲の様子を見ながら刀奈さんは縛られた人物たちの前に膝をついて声をかける。と――

 

「ヒィッ!?」

 

 刀奈さんが声をかけた相手は肩に手を置かれた瞬間怯えた様子で顔を引きつらせ後退りする。が、縛られているので上手く逃げられずにそのまま床に倒れ、それでも何かから逃れる様に芋虫のように這って行く。

 

「ちょっと落ち着いてください!」

 

 慌てて追いかけた刀奈さんは這っている女性を抱き起し視線を合わせる。

 

「い、いったい何があったって言うんですか!?」

 

「う、ウサギ……ウサギが!ウサギが!」

 

「ウサギ……」

 

 虚ろな目で言う女性の言葉を俺は反復するように呟く。

 ウサギ、いったいどういう意味なのか……。何かの隠語なのか、はたまたそのままウサギか……。ウサギと言えば真っ先に思い浮かぶのは――

 

「篠ノ之博士……?」

 

「っ!」

 

 同じことを思っていたらしい刀奈さんのつぶやきが聞こえ、俺は息を飲む。

 

「ま、まさか……もしそうなら、女性権利団体を潰して博士に何の得があるって言うんだ?」

 

 同じように刀奈さんのつぶやきが聞こえていた監査メンバーの一人が笑い飛ばすように言う。

 

「そう…ですよね……」

 

 刀奈さんも笑うが、その顔には拭い切れない何か確信めいたものが見える。かくいう俺もそれを笑い飛ばせない。あの人なら、もしかしたら損得じゃなくなんとなく気に食わないから、なんて理由でやりかねない。

 

「とにかくこの人たちを保護、当初の目的通り彼女たちの不正の証拠の洗い出し、そして――」

 

「この状況の真犯人の痕跡の洗い出し、ですね」

 

「ええ、そちらは任せてもいいかしら?」

 

国連の監査官の言葉に続いて刀奈さんが言い、監査官の問いに刀奈さんと俺は頷いた。

 そのまま俺たちは監査官の人たちが残って作業する中建物の中を探索することにする。無論俺たちがいない間に監査官に何かあってはマズいので戦力として来たメンバーのうち周囲を見回るのは俺と刀奈さんだけということになった。

 俺たちは互いに連絡を取り合いながら建物の中を散策する。

 だが、探せど探せど特にこれといったものはない。どうやらこの施設内にいた人間は全員縛られて入り口のエントランスに集められていたらしく、新たに縛られた人間が見つかることはない。

 テキトーにその辺のパソコンを起動してみるが中から出てくるデータはよく分からない用語の羅列と数値が並んでいるので俺にはチンプンカンプンだ。

 そんな中で俺でも分かったことと言えば、施設の奥、ハンガーにかかった作りかけのIS――『キルシュバオム』を見たことで、あのIS学園へのハッキングがあった時の襲撃の一部は女性権利団体によるものだった、ということくらいだろうか。

 そんな風に一階から探索していく中で俺はふと違和感に気付いた。

 俺たちが入った時、もう既にエントランスには女性権利団体の面々が縛られていた。しかし、施設内の痕跡などを見るにそれほど時間が経っているようには思えない。

 なら、ここを襲撃した人たちはどこから逃げた?

 考えられる可能性は2つ。

 1つはいまだにこの施設内に潜伏している可能性。もしそうなら警戒は解けない。

 そしてもう1つは、屋上である。

 潜伏している可能性は正直捨てきれないが、もしこの件の犯人が俺の予想通りならいつまでも長居しているとは思えない。用が済んだらさっさと出て行くことだろう。

 となると……

 

「上、行ってみるか……」

 

 俺は自分の予想の正否を確認すべく屋上に向かって直通のエレベーターに乗り込み――

 

「………いるじゃん」

 

 高層の施設の屋上に着いた俺はヘリポートのど真ん中に立つ人物の姿に唖然とした。

 そこにいたのは黒いパンツスタイルのスーツに真っ黒なサングラスをした女性、一瞬誰かと思ったけど、その長い髪と頭に伸びているメカメカしいウサ耳のお陰ですぐに分かった。その人物は俺に背中を向けていたのに、まるで後ろに目があるように微笑みながら振り返り

 

「ハッハ~、遅かったね。待ちくたびれたよ」

 

 サングラスを外して胸元のポケットに入れ、笑いながら言う。

 まるで俺がここに来るとわかっていたような口ぶり。だが、この人ならあまりビックリしない。

 

「そんな遠くにいないでこっち来たら?」

 

「……………」

 

 親しげに言う彼女――篠ノ之束の言葉に俺は罠を警戒し、面倒臭くなってやめた。この人相手に警戒したところで意味ない。なんなら俺の警戒込みで罠張ってそうだ。

 というわけで篠ノ之博士のところに歩いて行く。

 

「何してんですか、博士?」

 

「ん~?何が~?」

 

「何がって、下の状況、アレあなたの仕業でしょ?」

 

「どうしてそう思うの?」

 

「縛られてた人が『ウサギが…!ウサギが…!』って譫言みたいに言ってた。何よりあんたがここにいる。疑う余地ないでしょ。これで違うって言われたら、そんなの滅多刺しの死体の前で血塗れのナイフ持った人が『俺じゃない!俺が来た時にもうこうなってたんだ!』って台詞並みに嘘くせぇよ」

 

「ふむふむ、まあ確かにね」

 

 俺の言葉に頷く博士。

 

「で?何が目的ですか?」

 

「何が?」

 

「話の流れでわかるでしょ!?なんであんたが女性権利団体壊滅させてんだってことですよ!」

 

「あぁ~、そのことね」

 

 篠ノ之博士はうんうん頷き

 

「なんでかなぁ~……」

 

 首を傾げながら腕を組み考え込む。その体勢のせいで組んだ腕で豊満な胸がよっこいせと持ち上がる。でっけぇ~。

 

「あぁ~?今エッチな目してた~」

 

 からかうような声で言いながら篠ノ之博士が胸元を隠しながらニヤニヤと笑う。

 

「もぉ~、エッチ~。その眼抉り取っちゃうぞぉ~?」

 

「は?」

 

 言いながら俺の鼻をツンと指で押す篠ノ之博士に対して、自分でもびっくりするくらい冷たい声音が出た。

 

「触んな万年発情ウサギ。性病がうつる」

 

「性病なんて持ってないやい!こちとら処女だぞ!」

 

「聞いてねぇし興味ないっす」

 

「なんだと~!?興味を持てよ!きょうめよ!」

 

「微塵も興味がわきません。というかなんなんですか?なんか前の時と距離感違いません?」

 

「まあこっちにもいろいろあってねぇ~」

 

 ジト目で言う俺の言葉に篠ノ之博士は肩を竦めながら言い

 

「で、なんでここを襲撃して女性権利団体を潰したか、だったね」

 

「はい、そうです」

 

 篠ノ之博士の言葉に俺は頷く。

 

「まあそれに関してもいろいろあったけど、端的に言えば鬱陶しかったから?」

 

「鬱陶しかった?」

 

「うん。だってあいつら人の作ったもので我が物顔で威張ってたじゃん?いい加減どうにかしなきゃなぁ~って思って」

 

「はぁ……そうっすか……」

 

「そんな折にちょっと別でむかつくことあったからストレス発散で」

 

「ストレス発散に世界の覇権握ってる団体潰してんじゃねぇよ」

 

「なんかむしゃくしゃしてやった。超スッキリした」

 

「自由か!?」

 

 胸を張って言う篠ノ之束博士に俺はため息まじりにツッコむ。

 

「なんだよ~、いいじゃん、おかげでお前らの仕事減ったんだからラッキーくらいに思っておけよ」

 

「いやそうなんだけど、ここ1週間くらいの俺たちの覚悟と準備の全てが無駄になった肩透かし感で喜ぶ気になれないですよ」

 

「あっそ」

 

 俺の言葉に篠ノ之博士は興味なさそうに相槌を打つ。

 

「まあ100歩譲って理由は納得しておきましょう。で、用が済んだならなんでまだここにいるんですか?」

 

「はぁ?そんなもん決まってんだろ」

 

 そう言って篠ノ之博士はニヤリと笑い

 

「お前を待ってたんだよ」

 

「………え?は?俺?なんで?」

 

 篠ノ之博士の言葉に俺は呆ける。

 

「ん~、単純にお前に興味がわいたから、かな」

 

「あんだけ毛嫌いしていた凡人の俺に?あんたが?興味を持った?え、意味が分からんのですが?何が起きたんですか?」

 

「言ったろ?いろいろあったって」

 

「そのいろいろが聞きたいんだよ!」

 

「いやもうホントいろいろあったのよ。もうどっから話していいのやらだよ。もうめんどくさいから話さなくていい?」

 

「あんたがそこまで言うってことは相当なことが起きたんだろうな……」

 

 俺はため息をつく。

 

「もういいよ。じゃあ用件言ってください」

 

「君さ、私の仲間にならない?」

 

「………なんでぇぇぇぇ!?」

 

 突然の申し出に俺は絶叫する。

 

「いやいやいや!あんた俺の事大嫌いだったじゃん!なんでそんなあんたが俺の事勧誘してんの!?あんたの身に何が起きたの!?」

 

「いろいろ」

 

「だからそのいろいろを教えろって言ってんだよ!!」

 

「めんどくさいからヤダ。仲間になってくれるなら教えてあげてもいいよ~」

 

「えぇ~……」

 

 篠ノ之博士の言葉に俺は肩を落とす。

 

「まああんたにいろいろがあって俺に興味が出て手元に置きたくなったってのは察しました」

 

「ということは」

 

「はい、お断りします」

 

「そっか~、いや~よかった、申し出を受けてくれて………えぇ!?断るの!?」

 

「いや、決まってんだろ。俺に利益なし」

 

「利益ねぇ~」

 

 篠ノ之博士は少し考えこみ

 

「よし、仲間になってくれたら代わりに私と一発ヤらせてやろう」

 

「なんかバッチそうだからヤダ」

 

「バッチくねぇよ!!毎日お風呂に入って大事なところも念入りに洗ってるよ!」

 

 俺の言葉にプンスコと擬音が聞こえそうな様子で地団駄踏んで怒る篠ノ之博士。

 

「ほ~ら、魅惑のダイナマイトボディだぞ~?ボンキュッボンで出るとこ出て引っ込むところは引っ込んでるぞ~?おっぱいなんかバインバインの絶妙な柔らかさだぞ~?今ならこのわがままボディが好きにできるんだぞ~?男なら夢のようなシチュエーションでしょ~?」

 

「いや、普通にいらないです」

 

「フッフッフ、なんだかんだ言ってもやはり君もオス。心の内に煮えたぎる熱いパトスには抗えない………えぇ!?断るの!?」

 

 ウザいくらいのノリツッコミにいい加減鬱陶しくなってきた。

 

「えぇ~なんでぇ~?私自分で言うのもなんだけど超絶美女だろ?」

 

「うん、自分で言うなよ」

 

「おっかしぃなぁ~」

 

 俺のツッコみに答えず篠ノ之博士は首を傾げる。

 

「いや、俺今好きな人いますし。というかその人俺の恋人ですし。あんたより俺の彼女の方が超絶美女です」

 

「あんな小娘のどこがいいんだよ?あんなのより私の方がおっぱい大きいぞ!あんなのより私の方があふれ出る色気が――」

 

「てめぇ俺の楯無さん侮辱したらその自慢の乳もぎちぎっておっぱいマウスパッドにしてやろうか!?」

 

「急にキレんなよ気持ちワリィな!!」

 

 怒鳴る俺に篠ノ之博士がドン引きした様子で言う。

 

「………そんなにあの女が好きなの?」

 

「1000%LOVEですが何か?」

 

「そう……」

 

 俺の答えに篠ノ之博士は頷く。その顔から一瞬フッと表情が消えた気がしたが、瞬きした後には元の笑みに戻っていた。

 

「ん~、残念。ちょうどいい使い捨ての臨床実験の素体が欲しかったんだけどなぁ~」

 

「モルモットにする気だったんじゃねぇか!」

 

 篠ノ之博士の言葉に俺は背筋に寒気が走る。

 

「もういいよ、あんたもう大人しく一緒に来いよ。詳しくは下で他の人たちと一緒に聞いてやるから」

 

「えぇ~、私からは話すことないんだけど~?」

 

「あんたに無くてもこっちは訊きたいこと山ほどあんだよ!いいから来い!」

 

 ブーブーと唇を尖らせて言う篠ノ之博士に舌打ちしながら言う。

 

「………はぁ、しょうがない。行ってやってもいいよ。その代わり、あんたに訊きたいことがあるんだけど」

 

「なんですか、もう」

 

 観念したように肩を竦める篠ノ之博士に俺はため息をつきながら訊く。

 

「あんたから見て、私ってどういう人間?」

 

「はぁ?」

 

「いいから教えて、正直に」

 

 首を傾げる俺に打って変わって真剣な顔になる篠ノ之博士。

 

「………そうですねぇ~」

 

 俺はその顔に少し頭を切り替え真面目に考え

 

「――世界中から除け者にされたことに怒ってる世界一のボッチで世界一の寂しがり屋のかまってちゃんってところですかね」

 

「――っ」

 

 俺の言葉に篠ノ之博士は目を見開く。

 

「なんですか?怒りましたか?でも、あんたが正直に言えって言ったんでしょ」

 

「………うん。おけ、よくわかった」

 

「気が済みましたか?じゃあさっさと行きますよ」

 

 頷く篠ノ之博士の様子になんだかいつもと違う雰囲気を感じながら俺は篠ノ之博士の腕を掴み歩き出し

 

「あぁ、ちょっと待って!あともう1個!もう1個だけお願いがあるんだけど!」

 

「もぅ!今度は何ですか!?」

 

 篠ノ之博士の言葉にうんざりしながら振り返り

 

「ちょっとこれ見てくれる?」

 

「はい?」

 

 先ほどのサングラスをかけた篠ノ之博士が俺に向けてペンライトのような銀の筒を掲げていた。

 銀色の筒のの先端が開く。

 

 パシャッ!

 

 直後視界が真っ白に染まり――

 

 

 ○

 

 

 

「屋上に来てみたけど、特にめぼしいモノが見つからなかった。だから君はそのままクルッと回れ右して屋上から出て行く。その後はそのまま仕事をこなして、帰ったらその自慢の彼女とズッコンバッコン盛んなさい。以上!」

 

 篠ノ之束はかけていたサングラスを外してポケットに仕舞い、掲げていた銀の筒を胸ポケットに仕舞いながらまくしたてる様に言う。

 束の言葉を虚ろな目で聞いていた颯太は束の言葉通り回れ右し、屋上の出入り口から建物の中へと入って行った。

 

「ふぅ……」

 

 それを見送り大きく伸びをする束。そんな彼女に

 

「よろしかったんですか?」

 

 どこからともなく現れた金髪の女性――スコールが訊く。

 

「なんだ、まだ居たんだ。クーちゃんたちは?」

 

「先に戻っています。私は博士のお供を、と思いまして」

 

 そんなスコールに特に驚いた様子なく束はすたすたと歩いて行く。

 

「それで、よろしかったんですか?」

 

「よろしかったって何が?」

 

「博士、かなり彼にご執心だったじゃないですか」

 

「いいんだよ。〝ここ〟じゃ私とあいつの道は交わらなかった。ご縁が無かったってことだね」

 

「ですが……」

 

「実験動物なら最終その辺からテキトーな人間連れてくりゃいいんだし」

 

「……ホントは実験動物にするつもり無かったんでしょう?」

 

「…………」

 

 スコールの言葉に束は足を止める。

 

「あなたの素直な気持ちを伝えれば彼だって真面目に聞いてくれたかも――」

 

「おい」

 

 スコールの言葉を遮って束が言う。その声は恐ろしいほどの迫力がこもっていた。

 

「私がいいって言ってんだから、いいんだ。なんか文句ある?」

 

「い、いえ……出過ぎたことを言いました」

 

「ん……」

 

 スコールの言葉に一瞬見えた迫力を収め、束が頷く。

 

「…………」

 

「…………」

 

 そのまま二人の間に数秒沈黙が流れ

 

「……ねぇ」

 

 その沈黙を最初に破ったのは束だった。

 

「な、なんでしょうか?」

 

 そんな束にスコールも先程の迫力が尾を引いていたのか少し強張った声で応じ

 

「帰ったら、一杯付き合ってよ」

 

「…………」

 

 背中を向けたまま言う束の言葉にスコールは一瞬目を見開き

 

「はい、一杯と言わず、いくらでも」

 

 そうにっこり微笑みながら答える。束はそんなスコールの答えに満足そうに頷き再び歩き始める。スコールもその後を着いて行く。

 

「ところで、今日の服装はいつもと雰囲気が違うと思っていましたが、先程の機械を使うためにコーディネートしたんですか?」

 

「ま~ねぇ~。私って形から入るタイプなんだよねぇ~」

 

 と、二人は話しながら去って行くのだった。

 


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