IS~平凡な俺の非日常~   作:大同爽

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ifⅠ-6話 アドバイス

 

「ありがとうございました~」

 

 笑顔で恭しくお辞儀する店員の男性に見送られて俺はお店を後にした。

 春人さんにアクセサリーの高級店を教えてもらった俺は早速その日の放課後に向かった。

 流石というかなんと言うか、超有名企業の副社長御用達のお店というだけあって予想の10倍は高級店だった。

 俺の三倍は生きてそうな店員の男性に恭しく接客されながら悩みに悩むこと1時間、やっとこれというモノを決めて購入することができた俺は給料三か月分というこれまでに手にしたことの無いような価格の品を大事に抱えて帰路についた。

 そして、最寄りの駅へ向けて歩いていた時

 

「もし、そこのあなた……」

 

 隣の暗い路地の向こうから声が聞こえた。

 見ると真っ黒なフードのマントを着た人物が黒いテーブルクロスの掛かった机に着いてこちらに手招きをしていた。フードのせいで顔はよく見えないが声の感じから高齢の女性らしい。

 

「……?……?……?」

 

 俺は数度周りを見渡し「俺?」と自分の顔を指さしてジェスチャーでその人物に問うと、女性は大きく頷く。俺は首を傾げながら女性の前に行く。

 

「あの~……何か用ですか?」

 

「すまないね。今見掛けて気になったものでね」

 

「はぁ……?」

 

 女性の言葉に俺は曖昧に頷く。

 

「あの……占い師さんとかですか?」

 

「まあそんなところだね。一目見て君に面白いものを感じてね。お代はいらない。その代わりよく見せてくれるかね?」

 

「はぁ……まあタダってことなら……でも俺あんまり占いとか信じてないっすけど?」

 

「構わないよ。私が見たいから見るだけさね」

 

 言いながら、「さ、右手を出して」と促されて俺は右手を出す。

 

「ほうほう……なるほど……これはこれは……」

 

 俺の右手に左手を添えて虫眼鏡で見ながらブツブツと呟く女性。

 

「ふむ、これはなかなか興味深い……」

 

「なんかあったんですか?」

 

 女性の様子に首を傾げながら俺は訊く。

 

「あなた……近々大きな勝負事があるね?」

 

「ほほう?」

 

「しかもそれは……恋愛がらみだね?」

 

「……なるほど」

 

「どうだい?」

 

「占いなんて基本バーナム効果とその場での洞察力である程度できるでしょ?」

 

「おや、そうかい?じゃあ今私が言ったことは外れていたかい?」

 

「………当たってます」

 

 少し間を空けて頷いた俺に女性は満足そうに頷く。

 

「じゃあバーナム効果を疑われないようにより具体的に言ってみようか」

 

 言いながら少しジッと俺の右手を見つめ

 

「ふむ、相手は……年上だね。先輩――いや、もっと違う上下関係だね。上司、というのも見えるが、それとは別に教えを乞う相手のようだね。師弟関係って言うのが一番近そうだ」

 

「は……へ……?」

 

 女性の予想以上に正確な言葉に呆ける。

 

「あとはそうさね……最近はその相手に振り回されっぱなしのようだね。どうにか主導権を握りたいようだけど、なかなか難しそうだねぇ。この相手はなかなか一筋縄じゃ行かなそうだ」

 

「……………」

 

 呆ける俺に女性は「どうだい?」と問うように顔を上げる。

 

「……あなた俺のストーカーかなんかですか?」

 

「違うよ、失礼だね」

 

 俺の言葉に涼しい様子で女性は答える。

 

「ほう。その相手、何か君のことで君に秘密にしてることがあるね」

 

「っ!」

 

「なるほど。キミはそのことをなんとかしたいからこそ関係を進めたいわけか」

 

「……………」

 

 女性の言葉に俺はあんぐりと口を開け

 

「さてはあなた占い師じゃなくてエスパーですね?」

 

「あら、バレた?スプーンでも曲げて見せる?」

 

「ユリ・ゲラーですか……」

 

 女性の言葉に俺はため息をつく。

 

「すごいですね、占いって」

 

「あら?信じる気になったかしら?」

 

「まあもともとオカルトは嫌いじゃないんでね。単純な朝のニュースなんかでやってる星座占いとか血液占いは全く信じてないっすけど、こういうのは信じてもいいかもって気になりました」

 

「そう。素直なのはいいことよ」

 

 女性は頷き

 

「じゃあ人生ちょっと先輩の私からアドバイス」

 

「アドバイス…ですか?」

 

 俺の問いに女性は頷き

 

「勝負に挑むなら、下手な搦手を使わずに直球で、普段通りの自分で挑むことね」

 

「飾らない自分で、ってことですか?」

 

「そういうことね」

 

「なるほど……」

 

「あとこれは占い師としてのアドバイスなんだけど」

 

 言いながら女性は再び俺の手をじっと見て

 

「ふむ、この先で抽選やってるから、それをやって来るといいわ。何かあなたの力になるいいものが当たるみたいね」

 

「えぇ~……なんか一気に胡散臭くなった」

 

 女性の言葉に俺はため息をつく。

 

「てか抽選しようにも俺抽選券ないんですけど?」

 

「そうかい。ならサービスだ。一回分あげよう」

 

 そう言って女性は懐から一枚の紙を取り出した。そこには確かに「抽選券」とあった。

 

「…………」

 

「なんだい?」

 

「胡散臭ぇなぁって思って」

 

「人の善意は素直に受け取る方がいいと思うわよ」

 

 俺の言葉に女性は呆れたように言う。

 

「ま、これは悩める若人の背中を押す、せめてもの花向けかしらね」

 

「…………」

 

 女性の言葉に俺は少し考え

 

「では、ありがたく」

 

「それでいいわ」

 

 抽選券を受け取った俺に女性は満足そうに頷いた。

 

「その先を行くとすぐわかるよ」

 

 女性は言いながら指さす。

 

「じゃあ……」

 

「ああ。まあせいぜい頑張ることだね」

 

 女性は手を振りながら言い、俺はそれに会釈し言われた抽選会場に向かって歩き出した。

 

 

 ○

 

 

 去って行く颯太を見送った女性は

 

「目標の誘導に成功。五分後にそちらに向かうと思われます」

 

 耳元を抑えながら言う。

 女性は数度頷き

 

「ふう……」

 

 息をつきながらフードを捲る。

 そこからふんわりと豊かな長い金髪があふれ出る。

 

「なかなか警戒心が強くて受け取らなかったらどうしようかと思ったわ。ま、ちゃんと受け取ってくれてよかったけど」

 

 そう言って喉に手を当てて「あ~、あ~」と数度声を出しながら女性は自身の顔に手をかけ

 

「よいしょ」

 

 ビリッと顔の皮を捲り取るように引き千切った。

 そこから現れたのは先程までのシワの刻まれた年老いた顔ではなく、色気に溢れた美しい顔だった。

 

「ふぅ~……さて、こちらは先に撤収しましょうか」

 

 そう言って席を立った女性はテキパキと占い道具を片付け机やいすを畳み、ものの十分で去って行ったのだった。

 

 

 ○

 

 

 

「……ホントにあった」

 

 歩くこと五分。

 あの占い師のおばさんが言った通り少し歩いた先に屋台を出し、抽選会を行う団体がいた。

 屋台の屋根の下には奥にいくつか商品が置かれ、その前に三人の人が並んでいた。

 三人ともそろいのオレンジの半被を着て手には白い手袋、顔には動物の着ぐるみを被っていた。動物はそれぞれ真ん中にピンクのウサギ、右にキツネ、左にクマの可愛らしいデフォルメのモノだった。

 

「いらっしゃいませ~!」

 

 真ん中にいたウサギが朗らかに言う。どうでもいいけどこのウサギの人スタイルいいな、おっぱいでけぇ。

 ウサギの一歩後ろではクマとキツネが一言もしゃべらず歓迎するように大振りな身振り手振りで手を振っていた。ちなみにクマもなかなかスタイルよさそうだ。キツネは……ノーコメント。

 

「あの、これで一回抽選できるって聞いたんですけど」

 

「はい、できますよ~」

 

 俺の差し出した抽選券を受け取ったウサギは前の机に置かれた抽選でよく見るガラガラを示す。

 

「一回ど~ぞ!金の玉が特賞ですので~」

 

「は~い」

 

 俺は返事をしながらレバーを握り

 

「ほいっと」

 

 一回ぐるりと回す。と、穴から一つ玉がコロリと転がり出る。それは眩い金色で――

 

「え……?」

 

 ドンドンパフパフ♪

 

「おめでとうございます!特賞の東京デスティニーランドペア一日遊び放題無料券大当たりです!」

 

「まっ!!?」

 

 クマが小太鼓を叩き、キツネがスポイトのようなもののついたラッパを鳴らしながら踊り、ウサギが高らかに言う。

 

「こういうくじ運無い俺が特賞当てるとは……」

 

「どうぞ!こちら目録です!」

 

「あ、あぁ…ありがとうございます」

 

 俺はそれを受け取る。

 

「ペアチケットとなっていますので、是非ご家族や恋人さんをお誘いの上お楽しみください!」

 

「あ、はい」

 

 女性の言葉に頷いた俺はふと先ほどの占い師の言葉を思い出す。

 

「『力になるいいものが当たる』ってこのことか。つまりこれに誘えということか」

 

 自分の呟きに少し考え、よし!と気合を入れ

 

「うん!これを使わない手はないな!ありがとうございます!使わせてもらいます!」

 

「はい!楽しんでください!」

 

 ウサギにお礼を言って俺は早速帰って約束を取り付けるべく背後でウサギたちが手を振ってお見送りしているのを感じながら速足で帰路についたのだった。

 

 

 ○

 

 

 颯太が去って数分後

 

「ちょっと、私もやりたいんだけどどこに行けば抽選券もらえるの?」

 

 抽選会場に一人の40代半ば頃の女性がやって来ていた。

 

「すみません、本日の抽選は終了しました」

 

 女性に真ん中に立っていたウサギがお辞儀する。が――

 

「何よ!ちょっとくらい融通利かせなさいよ!」

 

 女性は顔を顰めて叫ぶ。

 

「ねぇ~、一回くらいいいでしょ~?」

 

 黙るウサギたちに女性は猫なで声で言う。そんな女性に

 

「うるっせぇんだよババア!」

 

 これまでの丁寧な物腰と打って変わってウサギがドスの効いた声で言う。

 

「おう、選べ。今ここでさっさと私たちの前から姿を消すか?てめぇの首を回してほしいか?」

 

「ひ、ひぃぃぃ!?」

 

 ウサギの纏う異様な雰囲気に女性は慌てて逃げていく。

 

「チッ…邪魔くさい」

 

 ウサギは悪態をつきながら屋台に戻っていく。

 

「なぁ……これにいったい何の意味があったんだよ?」

 

 そんな中クマがウサギに訊く。

 

「急に動き始めたかと思ったら最初にするのがあの野郎にイカサマの抽選で遊園地の優待券渡すことってよぉ」

 

「なんだよ。私もお前らに協力してやってんだ。お前らも文句言わずに馬車馬のように働けよ」

 

「馬だぁ!?」

 

「なんだよ文句あんの?あんたのお仲間は文句言わずにやってるってのに」

 

「~~~~~!」

 

 ウサギの言葉にクマが地団駄を踏む。

 

「鬱陶しい。邪魔だ」

 

 そんなクマにキツネが言う。

 

「テメェは文句ねぇのかよ!?」

 

「私は私の目的さえ果たせればそれでいい」

 

「チッ!テメェはこいつから特別な機体貰ってるもんな!そりゃ文句ねぇよな!」

 

「ウザい……」

 

「いいから働け。とっとと撤収するぞ」

 

 叫ぶクマを尻目にキツネとウサギは撤収作業のためにさっさと屋台の方へと行くのだった。

 




さてさて、颯太君は目前へと迫った大勝負に勝利することができるのか!?
お楽しみに!



さて、ここでお知らせです。
今年も残すところ一か月を斬りましたが、年越しの前にクリスマスがあります。
なのでクリスマスの番外編を執筆中なのですが、三つほど候補ができました。
そこで皆さんにアンケートを取りたいと思います。
活動報告にて上げていますのでご協力お願いします。
因みに内容については

①if√の楯無&颯太の話

②ハーレム√の颯太君(ハヤテ君)とクリスの話

③ハーレム√の海斗と翼の話

です。
投票よろしくお願いします!

それではまた次回!

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