IS~平凡な俺の非日常~   作:大同爽

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お気に入り件数が3900件となりました!
それを記念した番外編です。
え?シンフォギアの方更新したんだから次は無い物の番だろうって?
番外編は順番無視して書きます!
今決めました!



と言うわけで番外編です。
時系列は颯太ハーレム√の海斗君がまだIS学園二年生のころです。
まだ海斗君が誰ともくっついていない時空です。
そんな時空の海斗君の誕生日のお話。
そんな海斗君の誕生日をお友達たちがそれぞれ工夫を凝らしてお祝いします。
一人ひとりのお祝いを何組かセットにしていきます。
今回は翼と奏のツヴァイウィングとマリアの大人チームのそれぞれのお祝いの様子です。
その他の面々はまた日を改めてです。
そんなわけで海斗君の誕生日話です。





お気に入り件数3900記念 「たんたんたんたん誕生日」 前編

~翼&奏の場合~

 

 

 

「ハピバ~、海斗~♪」

 

「おめでとう、海斗君」

 

「ありがとうございます!奏さん!翼さん!」

 

 楽しそうな奏と朗らかに笑う翼の言葉に海斗も嬉しそうに笑う。

 

「いやぁ~、推しのアーティストに祝ってもらえるとか、お前って前世でどんだけ徳積んだんだよ」

 

「ですねぇ~。僕ってマジで幸せ者ですよ。本当にありがとうございます、翼さん!」

 

「いや、あたしは!?」

 

 冗談めかして言う奏の言葉に頷きながら海斗は翼に深々と頭を下げてお礼を言う。そんな海斗に奏がツッコむ。

 

「いや、僕の推しは翼さんなんで」

 

「じゃああたしはおまけかよ!?」

 

「割りと…はい」

 

「ひでぇ!!そんな生意気なこと言う口はこの口か!!?」

 

「わぁぁぁ!!?」

 

 頷く海斗に奏は掴み掛りヘッドロックをしながら海斗の口を引っ張る。

 

「おら!ごめんなさいって言え!」

 

「ごめんなさい!ごめんなさい!冗談なんで離してください!なんかいろいろ当たってるんです!!」

 

「当ててんだバ~カ!!どうだ!?嬉しいだろっ!」

 

「ちょっ!奏!!」

 

 慌てふためく海斗を見ながら楽しげにさらに掴む腕に力を籠める奏に翼も慌てて止めに入る。

 翼の助けも合って解放された海斗は両手を地面について息も絶え絶えで俯く。

 

「どうだ?感想は?」

 

「………めっちゃ柔らかかったっす。控えめに言って最高でした」

 

「お、おう。そうか……」

 

 サムズアップしながら言う海斗の言葉に、海斗が素直に答えると思わず、素で照れる奏。

 

「海斗君?」

 

「はっ!しまった!思わず兄さんみたいなこと口走っちゃった!」

 

 ジトッとした視線で翼に睨まれ、ハッとしながら海斗が立ちあがる。

 

「オッホン!!それで、ですね?一応僕としては推しは翼さんですけど、奏さんのこともちゃんと推してるわけです。いわば僕はツヴァイウィング推しなわけでですね?」

 

「あぁ、いい、いい!わかってるよ!わかっててからかってたんだから」

 

 咳払いとともに言う海斗の言葉を奏は遮る。

 

「そうは言ってもどっちかと訊かれたら翼推しなんだろ?」

 

「……………」

 

「だぁ~!知り合ってそろそろ一年半くらいだけどそこは変わらないのな!」

 

 ため息をつく奏の言葉に申し訳なさそうに頷きながら

 

「あ、でも、アーティストとしては翼さんの方が若干上ですけど、人間としてはどっちも尊敬してますし大好きな先輩っすよ?」

 

「「っ!」」

 

 海斗の言葉に二人は思わず息を飲み頬を赤らめる。

 

「そ、そういうことを君はサラッと言うから困る……」

 

「たく、自分の発言の意味をちゃんと考えてから言えよな……」

 

「???」

 

 翼は髪をかき上げてそっぽを向き、奏はため息をつきながら言う。そんな二人の呟きに海斗は首を傾げている。

 

「まあいいや。お前のそう言うのは今に始まったことじゃないしな」

 

 そう言いながら奏は翼に促すように視線を向ける。

 

「海斗君、これを受け取ってくれ」

 

「ほれ、誕生日プレゼントだ」

 

「え?マジですか!?」

 

 翼と奏がそれぞれ包みを差し出すのを海斗は嬉しそうに微笑む。

 

「プレゼントまで用意してもらってたなんて、そんな気を使ってもらわなくてもいいのに」

 

「黙って受け取れ」

 

「君には日ごろからお世話になっているんだ。当然だ」

 

 恐縮する海斗に奏も翼も笑いながら言う。

 

「それじゃあ、せっかくですし遠慮なく!」

 

「おう!早速開けてくれ!」

 

「喜んでくれるといいが……」

 

 わくわくした様子の奏と翼の様子を見ながら受け取ったプレゼントを見て、まず翼からもらった包みを開く。包装を解くと中から黒い箱が現れる。立方体のそれには真ん中に線が入っており、それに沿ってパカッと開くとそこには

 

「これは……!」

 

 蒼色を基調とした控えめなデザインの腕時計が収まっていた。デザインは控えめではあるがその高級感あふれる雰囲気からかなり高価なものだと思われる。

 

「父や叔父様、緒川さん以外の異性に物を贈るというのは初めてでどんな物を贈れば君が喜んでくれるかわからなかったから人に相談したりして、せめて普段使えるようなものをと思ってこれにしてみたんだが……」

 

「そんな!こんな高そうなもの逆に使えないですよ!」

 

 翼の言葉に海斗はさらに恐縮した様子で言う。

 

「んなもん気にせず使えよ。一回貰ったもんを突き返すのは失礼だろ?」

 

「んぐっ……それは…そうですけど……」

 

「貰ってくれないのか……?」

 

「ぐっ!」

 

 シュンとした顔で悲しそうに言う翼の言葉に海斗は受け取るべきか否かを数秒苦悶の表情で悩みに悩み――

 

「あ、ありがたく受け取らせていただきます……」

 

「そ、そうか!」

 

 頷いた海斗に翼が嬉しそうに顔を綻ばせる。そんな嬉しそうな笑みに海斗は一人心の中で自分の選択を褒めると同時に明らかに値が張るであろう時計をおいそれと普段使いできないと生唾を飲み込んだ。

 

「さて、次はあたしだな!」

 

 そんな海斗の様子を笑いながら奏が言う。

 海斗も一旦翼からのプレゼントを脇に置き、奏のプレゼントを見る。

奏のプレゼントは翼のモノと違い、薄く大きい、ちょっと大きめの雑誌や画集サイズだろうか。

 

「では……」

 

 奏に促され、海斗はその包装紙を丁寧に開ける。そこから出て来たのは

 

「こ、これは!?」

 

 扇情的な表情でこちらを見る翼と目が合った。その光景に一瞬海斗は混乱する。

 

「どうだ!まだ告知もされてないあたしたちツヴァイウィング初の試み!再来月発売予定の数量限定生産のあたしたちの1stセクシーグラビア写真集だ!」

 

「な、何ですとぉぉぉぉぉ!!?」

 

 奏の言葉に自身の手の中のものと目の前の二人とを交互に見る。

 奏の言う通り海斗の目があった翼は大きな本の表紙のモノだったようで、その翼の写真集と重なってもう一冊、同じく扇情的な表情の奏のモノがあった。

 どちらも普段、そして現在目の前にいる二人とは想像もつかないほど大人な雰囲気を醸し出している。

 

「か、奏っ!?それ検本と見本としてもらったものじゃ!?」

 

「そんなもんあたしらで一冊ずつあればいいだろ?それにまだ世に出回ってない公式のグッズなんてファンなら喉から手が出るほど欲しいもんだろ?」

 

「だ、だけど……!」

 

 奏がニシシッと笑いながら言うがそれとは対照的に翼はモジモジと羞恥で顔を赤く染めながらちらりと海斗へ視線を向ける。が、とうの海斗はと言うと――

 

「何この翼さん、エッッッッロッ!!こんなのもはやエロ本じゃん」

 

「海斗くぅぅぅぅんっ!?」

 

 翼の写真集を開き食い入るように見ながら驚愕する海斗に翼は顔を真っ赤にして叫ぶ。

 

「こんなの見たら小学生だって精通してしまう!エロ本どころかもはやドエロ本だ……!」

 

 ガクガクと驚愕しながらも読み進める手は止まらない。ページをめくるたびに「おぉぉぉ」と感嘆の声を漏らす。

 

「や、やめてくれ!そんな食い入るように!」

 

「ハッ!そうですね。失礼しました」

 

 翼の言葉に海斗はハッとしたように顔を上げる。

 

「この場で全部見てしまったらもったいない!これは帰ってからゆっくりと観賞させていただきます!」

 

「そうじゃなぁぁぁい!!」

 

 大事に貰った紙袋に仕舞いなおす海斗に翼が叫ぶ。

 

「ハッハッハ~!喜んでくれて何よりだな!ちなみにあたしのはどうだ?あたしのも結構いい写真が撮れてると思うんだけど」

 

「お?では……」

 

 奏の言葉に海斗はもう一冊の方の写真集を開く。

 

「どうだ?どうだ?エロいか?セクシーか?」

 

「ふむ……」

 

 海斗は読み進め、そんな海斗にわくわくした様子で奏が訊く。

 

「うん、エロいはエロいんですけどね。翼さんほど興奮しないっすね」

 

「はぁ!?なんでだよ!?何ならあたしの方が翼よりきわどい写真多いだろうが!これとか!これとか!」

 

 海斗の言葉に奏が叫びながら海斗の手の写真集をひったくりページをめくりながら指さしていく。

 

「いや、エロいはエロいけど、なんて言うか、翼さんの方は目の前で翼さんが恥ずかしがってるの込みでエロかったって言うか。それに比べて奏さんめっちゃ推してくるから……」

 

「くっ……」

 

 海斗の言葉に奏は悔し気に片膝をつく。

 

「どうしてだ?あたしと翼で何が違う?あたしには何が足りなかったんだ……?」

 

「恥じらいだと思います」

 

「胸はあたしの方が上なのに……」

 

「奏っ!!」

 

奏での言葉に冷静に告げる海斗。それを聞いてか聞かずかぼそりと呟く奏の言葉を耳聡く聞きつけた翼がキッと睨むのだった。

 

 

 

 

 

~マリアの場合~

 

 

 

「ハロハロ、海斗君。誕生日おめでとう」

 

「ありがとうございます、マリアさん」

 

 にこやかに言うマリアの言葉に海斗が笑顔で答える。

 

「今夜はあなたへのお祝いに夕食をごちそうさせてもらうわ」

 

「え?いいんですか!?」

 

「ええ。さ、行きましょ?」

 

 驚く海斗を引き連れてマリアは歩き始める。海斗がついて行くと、そこにはいかにもな高級外車が停まっていて

 

「さ、乗って頂戴」

 

「え?これマリアさんの!!?」

 

 海斗の驚愕を受けながらふふんと誇らしそうに笑う。

 そのままマリアに促され助手席に乗り込む。

 

「じゃ、行くわよ」

 

 そう言って丁寧にマリアは車を走らせ始める。

 その運転はとても丁寧でしかし、決してゆっくりと言うわけでもなく、快適なドライブだった。

 そして、数十分のドライブで着いた場所は――

 

「えっ、ここ!?」

 

 海斗は目の前の建物を見上げて唖然とする。

 見上げるほどのその建物は、超有名な高級ホテルだった。

 

「ええ。ここの最上階のレストランを予約してるわ」

 

「最上階……この高級ホテルの?」

 

 愕然とする海斗だったが、すたすたと歩いて行くマリアに慌てて着いて行く。と――

 

「あれ?最上階じゃないんですか?」

 

 エレベーターには行かず何故かホテルのフロントに向かうマリアに訊くが、海斗の問いに意味ありげに笑っただけでマリアは答えない。

 そのままフロントの人間と一言二言話した後、何かの手続きをしたらしいマリア。

 

「さ、行きましょ?」

 

 そう言って今度こそエレベータに向かうマリアに海斗は着いて行く。

 エレベーターの中まで豪華な作りで呆然としながら、これまで見たことの無いほどの階層表示の数字を見つめているうちにエレベーターは目的の階に着く。

 フロア丸々がレストランになっているらしいその受付にやって来たマリアは

 

「さ、海斗君これに着替えてくれる?」

 

「へ?」

 

 と、手に持っていたカバンを手渡す。

 

「ここ、ドレスコードなのよ。女性客にはドレスの貸し出しがあるらしいけど、男性客には貸し出しをして無いらしくてね。先に用意しておいたの」

 

「ど、どれすこーど……」

 

 呆然と何故かカタコトになってオウム返しする海斗に

 

「さ、着替えて合流しましょ。更衣室は貸してもらえるしいから」

 

 そう言ってさっさと女性更衣室に向かうマリアを呆然と見送りながら受け取ったカバンを手にボーイに促されながら更衣室に入る。

 そこから出た時、数分前の学生然とした雰囲気は消えていた。

 しっかりとサイズの合った漆黒の燕尾服に身を包んだ海斗は緊張で背筋を伸ばしながら受付に戻って来る。

 と、少し遅れて

 

「おふっ――んんっ!お待たせ」

 

 何か吐息の漏れるような声の後、咳払いとともにマリアが戻ってくる。

 その姿は純白のドレスに身を包み、髪もアップに纏めたマリアが立っていた。

 

「…………」

 

 いつもの数倍魅力的になったマリアの姿に海斗が見惚れる。

 

「ふふ、どうしたの?」

 

「っ!い、いえ!なんかいつも以上にマリアさんが綺麗なのでつい見惚れてました」

 

「っ!――あ、あら、嬉しいわね」

 

 一瞬ニヤケそうになる顔を一瞬で引き締め、マリアが答える。

 

「そういう海斗君もその燕尾服、とても似合ってるわ」

 

「そ、そうですか?」

 

「ええ。思わず見惚れ――んんっ!それより、こんなところに突っ立ってないで入りましょ」

 

 そう言って海斗の隣に立つと、ん、と海斗に自分の右手を差し出す。

 

「ん?」

 

「あら?こういうところでは男性がエスコートするものよ?」

 

「……え゛!?」

 

 マリアの言葉に海斗が唖然とマリアの顔と腕を交互に見る。

 

「早く」

 

「っ!そ、それじゃあ……」

 

 マリアに促され覚悟を決めた表情で海斗はその手を取る。

 そのまま腕を組んでボーイに案内された席へ向かう。

 そこは窓辺の夜景を一望できる最高の席だった。

 

「あ、あの……今更なんですけど、僕こういうところでの作法とかテーブルマナーなんて知らないんですけど……」

 

「大丈夫。あなたのご両親はちゃんと教えてくれてるわ。よっぽど行儀の悪いことしなければ平気よ。どうしても心配なら私の真似をしなさい」

 

「う、うっす……」

 

 マリアの言葉に海斗は緊張しながら頷く。

 そんな二人にボーイが歩み寄り、コースメニューの説明をする。

 その中には海斗には聞き慣れない料理名や即材の名前が連なり海斗はわけのわからないまま話が進んでいく。ただ一つわかるのは、恐らくその食材の一つ一つが拘りぬかれた高級品であるだろうことだけだった。

 そして、料理の前に飲み物が運ばれてくる。

 ボーイが優雅な所作でボトルから赤紫色の液体を注ぐ。

 

「さ、乾杯しましょ」

 

「え?でも……え?」

 

 そんなマリアの言葉に海斗は自身のグラスに注がれたそれを見ながら困惑した様子でいる。

 

「フフ、安心して、あなたのそれはただのジュースよ」

 

「あ、なんだ。ジュースですか」

 

「ワインでも出されたと思ったかしら?大丈夫、未成年にお酒を出すようなこと、お店側もしないわ」

 

「で、ですよね~……」

 

 海斗は苦笑いを浮かべながらグラスを手に取る。強く握ればポキッといってしまいそうなワイングラスに恐る恐る触れる海斗を微笑ましそうにマリアもグラスを手に取る。

 

「それじゃ、改めまして、お誕生日おめでとう、海斗君」

 

「あ、ありがとうございます……」

 

 そう言ってチンッとグラスを当てる。それだけでパリンと割れてしまいそうで海斗はドキドキしながら恐る恐る口を付ける。

 

「あ、ホントにただのブドウジュースだ」

 

「言ったでしょ?」

 

「でも、ブドウジュースはジュースですけど、そんじょそこらのブドウジュースじゃない……『なっ○ゃん』なんか目じゃねぇ……」

 

 その高級感あふれる味に戦慄する海斗にマリアは笑う。

 そんな話をしていると料理が運ばれてくる。

 

「どうぞ。こちら前菜の『インスマスイクシオのカルパッチョ』でございます」

 

 ボーイの運んできた皿が、心なしか海斗には光り輝いているように見える。

 

「それじゃ、さっそくいただきましょ」

 

 驚愕する海斗とは対照的に落ち着いた様子でマリアがフォークとナイフを手に取る。

 海斗も慌てて同じようにナイフとフォークを手に取り、四切乗った薄く切られた聞き慣れない名前の魚の切り身の一つをさらに半分にして口に運ぶ。

 

「あむ……」

 

 口に入れた瞬間、身体中を衝撃が走った。

 普段平凡な、それでもなおIS学園と言う恵まれた環境でいいものを食べていたはずの自分がいかに食というモノの何たるかを知らなかったかを痛烈に感じる。

 思わず「うめぇ~!!!」と口の中のものを飛ばしながら叫んでしまいそうになるのをなんとか寸前で抑え込んだ海斗は自分で自分を褒め称える。

 目の前で冷静に平然とナイフとフォークを動かし咀嚼するマリアに、やっぱり世界的アーティストはこういうの食べる機会多くて慣れてんのかなぁ~、なんて呆然と思う海斗。

 しかし、海斗は知らなかった。目の前で平然と食べているマリアも、実はその胸中で

 

『やっばぁぁぁぁい!!超美味いぃぃぃぃ!!もう、こんなに美味しい物、セレナや切歌や調たちにも食べさせてあげたいわぁぁぁぁ!!タッパーウェア持ってくればよかったぁ~!!タッパーウェアァァァァ!!!でも、絶対そういう店じゃない!!言えなぁぁぁぁい!!絶対言えなぁぁぁぁい!!!でも超美味しいぃぃぃぃ!!!!』

 

 と、歓喜していることを……。

 そんな二人の感動をよそに二人の皿が空になるのを見計らったようにボーイがやって来て

 

「『アカムツのブリュデホルラルトテニャソース』でございます」

 

 前菜の皿を片付け、入れ替わりに新たな皿を目の前に出す。

 そこではたと海斗はその事実に思い至る。そう、先ほどの品がまだ――『前菜』であったということに。

 その後も圧倒的な、暴力的とも思える料理の数々に自分がいかに貧乏舌だったかを思い知らされた海斗は、デザートを食べる頃には若干ぐったりとしていた。

 

「どう?美味しかったかしら?」

 

「……めちゃんこ美味しかったです」

 

 少し高揚して赤くなった頬のマリアの問いに海斗はしみじみと噛みしめるように答える。

 そんな海斗の答えにマリアは

 

「そう。満足してくれてよかったわ」

 

 ホッと安心し嬉しそうに微笑んだ。

 

「でも、そろそろあんまりゆっくりもできませんね」

 

「あら?まだいいじゃない。デザートの後のコーヒーも飲んでいきましょ?」

 

「でも……」

 

「大丈夫。どれだけ遅くなっても明日は休日だし、私もオフだから。それに――」

 

 言いながらマリアは一瞬言い淀み、しかし、覚悟を決めたように微笑みながら

 

「今日、部屋取ってるから」

 

「へ?」

 

 呆然とする海斗に証拠とばかりに脇に置いている小さなポーチからホテルの部屋の鍵を取り出してみせる。

 

「最高級のスイートルームを用意してるわよ。めったに泊まれない部屋、話のタネに一緒に泊まってみない?」

 

 と、ニッコリと微笑むマリア。

 

「………あの、マリアさん」

 

「ん?」

 

 そんなマリアの様子に海斗は少し首を傾げ

 

「なんか無理してません?」

 

「え……?」

 

 海斗の言葉にマリアは驚いた表情を浮かべる。

 

「こういうお祝いは、嬉しく……なかったかしら……?」

 

「いえ、そうじゃありません。たぶんこんな高級なレストランでの食事も、高級スイートルームに宿泊も、今後僕の人生で巡り合えるかどうかわかりません」

 

「じゃあ……」

 

「でも、僕が今日楽しかったのはそのお陰じゃないと思うんですよ」

 

 マリアの言葉を遮って海斗は言う。

 

「きっと僕が今日楽しかったのは、マリアさんが一緒だったから……マリアさんが僕の誕生日を祝うために用意してくれたことだから、なんですよ。きっとマリアさんが僕のことを思って考えてくれたお祝いだから、俺はこんなに嬉しいし楽しかったんだと思います」

 

「海斗君……」

 

「だから、無理にお金かけてお祝いしてくれようと思わなくても、〝おめでとう〟って気持ちがたくさん詰まってたら、それだけでいいんですよ」

 

 そう言ってにっこり微笑む海斗にマリアは息を飲み、自嘲するように笑う。

 

「ふふ。あなたの言うとおりね。私、あなたに喜んでほしくって、色々考えすぎちゃってたみたいね」

 

 そのまま肩の力が抜けたようにフッと脱力する。

 

「あぁ~あ!いろんな人に意見貰ったけど、それが逆にこんがらがっちゃったみたい」

 

「別にこれがダメってわけじゃないですよ?ここの料理も僕がこれ間のでの17年間で味わったことの無い物ですし」

 

「そう……」

 

 海斗の言葉に頷き

 

「じゃあ、来年はもっと身の丈に合った範囲で頑張ることにするわ」

 

「それがいいっすね」

 

 そう言って笑うマリアに海斗も頷きながら笑う。

 

「あ、でも、異性をホテルに誘うってのはどうかと思いますよ?マリアさん世界的トップアーティストですしスキャンダルの素っすよ?」

 

「……別に誰彼構わずするわけじゃないわ。あなただから誘ったの」

 

「はい?」

 

 マリアが照れたような表情で言う言葉に海斗は意図がわからず首を傾げる。

 

「その……ね、海斗君。あなたさえよければこのまま――」

 

 意を決したようにマリアは口を開いたマリア。しかし――

 

「うおっ!?」

 

 突然海斗が声を上げ、ポケットから携帯を取り出す。

 マナーモードにしていたそれが着信を告げていた。

 

「す、すいません。電源切っておけばよかった……」

 

「う、ううん。大丈夫よ」

 

 苦笑いの海斗にマリアも答える。

 

「って、IS学園から?」

 

 海斗はふと携帯に表示された電話の相手に首を傾げる。

 

「なんだろう?マリアさん学園からなんでちょっと出てもいいですか?」

 

「え、ええ。緊急の用だといけないものね」

 

 マリアの了承を得た海斗は頷き通話を開始する。と――

 

「もしもし、井口海斗ですけど……」

 

『おい、井口。貴様今どこで何をしている?』

 

「っ!おおおおおおっ織斑先生っ!!?」

 

 電話の向こうから聞こえる声に思わず海斗の背筋が伸びる。

 

『貴様、今何時だと思ってる?』

 

「へ?何時って……あっ……」

 

 千冬の言葉に海斗はハタと気付く。

 

『わかったらさっさと帰って来い』

 

「いや、あの……とあるホテルの最上階の高級レストランでご飯食べてたところで、今から帰っても……」

 

『帰ったら反省文の提出だ。いいな?』

 

「いや、それは……」

 

『いいな?』

 

「………はい」

 

 海斗の返事を聞いた千冬は一方的に電話を切る。

 どんよりとした表情で携帯をしまう海斗。

 

「どうしたの?誰から電話だったの?」

 

 そんな海斗に怪訝そうな表情でマリアが訊く。

 

「えっと……マリアさん、今日ここに泊まるの、やっぱ無理そうです」

 

「え!?ど、どうして……?」

 

「今の電話、織斑先生からでした。俺もすっかり忘れてたんですけど、実はもうすでに門限過ぎてるんですよ」

 

「…………あ゛っ」

 

 海斗の言葉にマリアも遅ればせながら気付く。

 

「なので、あの……大変申し訳ないんですが、今日のところは帰らないと非常にマズいことに……ってどうしたんですかマリアさん」

 

 今にも泣きそうな海斗だったが、目の前で自分以上にどうしたものかと頭を抱えるマリアに首を傾げる。

 

「悪いニュースよ、海斗君」

 

「な、なんですか?これ以上のバッドニュースがあるんですか?」

 

「実は私……お酒飲んじゃったのよ」

 

「…………えぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」

 

 マリアの言葉に一瞬ポカンとした海斗は叫ぶ。

 

「は?でもだってさっきのはブドウジュースで……」

 

「あなたのはね。私は本物のワインを貰ってたの」

 

「えぇ!?な、なんで!?」

 

「だ、だって、この後のこと考えたらお酒の力でも借りないと踏ん切りがつきそうになくて……」

 

「はい?この後のこと?」

 

「っ!何でもないわ!気にしないで頂戴!」

 

 マリアがぽろっと言った言葉に海斗は首を傾げるが、慌てて自身の失言にマリアは首をふる。

 

「………え?じゃあ僕どうやって帰るんですか?」

 

「………どうやって帰りましょうね?」

 

「「………………」」

 

 呆然と二人は呟いたまま二人はフリーズする。それは「食後のコーヒーはいかがですか?」とやって来たボーイに言われるまで二人が意識を取り戻すことはなかった。

 結局その後連絡した緒川によって海斗は無事IS学園に帰り着き、門限破りの反省文の提出だけで難を逃れたのだった。

 ちなみに、マリアはと言うと、海斗共に過ごそうと取っただだっ広いスイートルームで一人寂しく翌朝を迎えるのだった。

 


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