と言っても二話くらいを予定しています。
みなさん、どうやら俺は青春ラブコメの主人公になったようです。
現在の俺の状況は、なぜか男二人部屋の寮の自室の脱衣所兼洗面所に入ったところ、なぜかシャワールームから出て来た全裸のブロンド美少女に遭遇してしまうという、なんとも青春ラブコメにありがちなワンシーンに出会っています。
相手も同じなのか、呆然とした顔で立っている。その顔はどこかで見た気がするが、混乱して思い出せない。
マジでどうしよう!こんな状況アニメやラノベでしか見たことねえよ!………ん?ちょっと待て!アニメやラノベでよくある場面ならば、アニメやラノベの真似をすれば現状打開ができるのではないか!?
そこから俺は記憶をフル検索し、この現状に似た場面をピックアップ。そこから一番スマートに、かつ、お互いに大惨事になっていないものを検索。
やるしかない!選択した物語の主人公になりきるしか他に道はない!
ちなみに現状彼女と遭遇してから、体感としてはとんでもなく長く感じたが、実際には数秒だったようだ。
「――っ!」
俺は大きく息を吸い込み、第一声を口にする。
「誰だ俺の部屋にストリッパーを呼んだのは?今日は俺の誕生日じゃないぞ」
「っ!きゃあっ!?」
ガチャ!
俺の言葉に相手も我に返ったようだ。慌てて胸を隠してシャワールームに逃げ込む。
「………」
「………」
俺も、ドアの向こうの彼女も無言。とりあえず俺は当初の予定通り上着を回収する。
「………失礼しました」
ドアを閉め、そそくさと退室する。
えっと、何がどうなっていたのだろうか。シャワールームにいると思ったシャルルは、出てきたら美少女だった。
って、あれ!?さっきの美少女誰かに似てると思ったらシャルルに似てないか!?こう、普段結んでいる髪をほどいたらああなりそうだ。
てか、あの子がつけていたペンダント。あれはシャルルのISの待機状態と同じものだった気が。
ん!?じゃあさっきのはシャルルだったのか!?
いやいやいや。でもおかしいだろ。もし仮にあれがシャルルだったとしたら。あの胸はどう説明する。さっきの子は明らかに………胸…OPPA――
「うん!夢だ!」
思考の途中でそう結論づけ、目覚めるためにベッドにもぐりこむ、が、眠れない。
「……眠れよ!寝て起きて全部夢オチにしようよ!どうすればいい!?お腹を満たせば眠れる!?じゃあなんか食うよ!」
設置された冷蔵庫のところにダッシュで向かう。と、冷蔵庫の上に買い置きしておいたバナナが四本。
「バナナはいいよね~、バナナは!栄養価高いしね!」
四本のうち三本をすぐに完食し、すぐさまベッドにリターン。と――
ガチャ……。
気持ち控えめに脱衣所のドアの開く音が聞こえた。ビクッと思わず飛び起きてしまう。
「あ、上がったよ……」
「オ、オウ」
あまりの緊張に声を裏返しながら返事をした。声だけを聞けばシャルルの声だった。俺はゆっくりと声のした方を向くと――
そこには、先ほど脱衣所で遭遇した女子がいた。
○
「…………」
「…………」
気まずい。会話がない。なんて言っていいかわからない。さっきから無言でお互いベッドに座って向かい合っている。
「………えーっと…」
「っ!」
緊張に耐えかねた俺が口を開く。
「……一縷の望みに掛けて訊くんだが、シャルルの双子の妹…なんてオチは……」
「……残念ながらシャルル・デュノア本人だよ」
「……だよなー………」
そんな都合よくはいきませんわな。
「えっと、じゃあなんで男のフリなんか……」
「それは……実家の方からそうしろって言われて……」
「実家って…デュノア社?」
「そう。僕の父がそこの社長。その人から直接の命令なんだよ」
「命令って……なんでそんな――」
「僕はね。愛人の子なんだよ」
シャルルの一言に、俺は絶句してしまった。
「引き取られたのが二年前。ちょうどお母さんが亡くなったときにね、父の部下がやってきたの。それで色々と検査をする過程でIS適正が高いことがわかって、非公式ではあったけれどデュノア社のテストパイロットをやることになってね」
おそらくあまり言いたくないであろう話をけなげに話すシャルルの姿に、俺は黙って聞く。
「父にあったのは二回くらい。会話は数回くらいかな。普段は別邸で生活をしているんだけど、一度だけ本邸に呼ばれてね。あのときはひどかったなぁ。本妻の人に殴られたよ。『泥棒猫の娘が!』ってね。参るよね。母さんもちょっとくらい教えてくれたら、あんなに戸惑わなかったのにね」
そう言って笑ったシャルルの目は笑っていなかった。俺も笑い返すことはできず、むしろ会ったこともないデュノアの社長と本妻への怒りと嫌悪感が沸き上がってきた。
「それから少し経って、デュノア社は経営危機に陥ったの」
「え?だってデュノア社って量産機ISのシェアが世界第三位だろ?」
俺の疑問にシャルルが答える。要約すると――
デュノア社は確かにISのシェアは第三位だが、それはあくまで第二世代型リヴァイヴでの話らしい。デュノア社でも第三世代型を開発していたが、元々遅れに遅れての第二世代型最後発だったために圧倒的にデータも時間も不足。政府からの通達で予算を大幅にカットされ、次のトライアルで選ばれなかった場合は援助を全面カット、その上でIS開発許可も剥奪するって流れになったらしい。
なんとしても成果の欲しかったデュノア社が思いついたのがシャルルに男のフリをさせることだった。自分の会社の宣伝のために、またそれとともにIS学園に入学することで一夏や俺のデータ、また、第三世代IS白式のデータを盗み出すために。
「とまあ、そんなところかな。でも颯太にばれちゃったし、きっと僕は本国に呼び戻されるだろうね。デュノア社は、まあ……つぶれるか他企業の傘下に入るか、どのみち今までのようにはいかないだろうけど、僕にはどうでもいいことかな」
「…………………………」
「ああ、なんだか話したら楽になったよ。聞いてくれてありがとう。それと、今までウソをついていてゴメン」
深々と俺に頭を下げるシャルル。
「………で?お前はこれからどうするんだ?」
「どうって……時間の問題じゃないかな。フランス政府もことの真相を知ったら黙っていないだろうし、僕は代表候補生をおろされて、よくて牢屋とかじゃないかな」
「それでいいのか?」
「良いも悪いもないよ。そもそも僕には選ぶ権利がないから、仕方がないよ」
「………そうか」
シャルルの返答に俺は
「お前、つまんない嘘つくね」
正直な気持ちを言った。
「……え?」
シャルルが呆然とする。
「シャルル、お前は本当に仕方ないって思ってるのか?」
「そ、それは……」
俺の質問にシャルルはどもる。
「俺はお節介な方だとは思うけど、その人がしてほしくないことまでやるつもりはない。大体本人が諦めてることを手伝うのもバカらしいし」
「…………」
シャルルは黙って俯いている。
「もう一度だけ訊くぞ。このままだとお前は代表候補生を下ろされ、よくて牢屋行きだ。……それでもいいのか?」
「……………」
シャルルは膝の上で手を握りしめ、ぎゅっと強く瞼を閉じている。
「できるとかできないとかは抜きにして、今お前がどうしたいのかで答えろ」
「僕は……」
シャルルは絞り出すように、しかし、しっかりと前を見据えて顔を上げる。
「僕は……僕は女だよ。ちゃんと女の子として生きたいよ……。このままじゃいやだ……。僕は……僕は……」
最後の方は嗚咽まじりで言葉にならない。それでもシャルルは言葉にしようと口を動かす。
「……ほら、やっぱり嘘だった」
俺はシャルルの前に膝立ちになって視線を合わせ、肩に手を置いてできるだけ優しく笑う。
「俺がどうにかする」
「え?」
「このおかしな現状を俺のできる限りの力を使ってどうにかする」
「で、でもどうやって……?」
不安そうな顔でシャルルが俺を見るめる。
「大丈夫だ。策はある」
心配そうなシャルルに向かって、俺は自信を込めた笑顔を向けた。
○
現在、俺とシャルルはとある人物が来るのを待っていた。
「ねえ……本当に大丈夫なの?」
「……まかせろ」
シャルルには俺の策は教えていない。心配そうなシャルルに笑いかける。と――
コンコン。
部屋のドアがノックされる。
「っ!」
「……………」
ビクッと震えたシャルルを尻目に俺は立ち上がり、ドアを開ける。
「こんばんは、颯太君」
「いらっしゃい、師匠」
ドアの前で制服姿で扇子を構えた師匠。と、パンと扇子を開く。扇子には『ただいま参上』の文字が。
「どうぞ」
「おじゃまするわね」
師匠を招き入れてイスを示し、俺は自分のベッドに、シャルルはシャルルのベッドに座っている。
「もう男装はやめたのね」
師匠の言葉にシャルルは驚いた顔をする。
師匠を呼んだとき、俺は詳しい事情を話していなかったのだ。
「やっぱり師匠は知ってたんですね」
「まあね」
以前この部屋に裸エプロンでやって来た時、あの時の師匠はシャルルに尋常じゃないほどの警戒をしていた。今思えば知っていたからこその行動だったのだろう。
「それで?彼――いや、彼女が男装をやめてるっていうことは、私が呼ばれたことと何か関係があるのかしら?」
師匠がにやりと笑いながら訊く。きっと俺の返事なんてお見通しなのだろう。
「シャルルを助けます。手伝ってください」
俺は師匠の目をしっかりと見据えて言った。
「彼女はこのままいけばきっと自由にはなれないでしょう。彼女のこれからの人生からデュノア社を完全に断ち切ります」
「…………」
俺の言葉を師匠は黙って聞いている。その顔はいつものふざけた雰囲気は無く、鋭い雰囲気だった。
「……彼女の件は彼女が入学する時からなんとなく把握していたわ」
師匠が口を開く。
「学園としても彼女の件はどうにかして解決したいと考えている。でも――」
そこで師匠は言葉を区切る。
「ことはそう簡単じゃないの」
「………それはフランス政府が関わっているからですか?」
「あら、知ってたの?」
「いえ。でも予想はつきますよ。シャルルはフランス代表候補生です。シャルルの性別が偽りだったんですから、ここに代表候補生に任命したフランス政府が関わっていないわけないじゃないですか」
「まあそりゃそうね」
俺の言葉に師匠が頷く。
「IS学園はどこの国にも所属していない。下手に動けばフランスとの国際問題に発展しかねない。だからIS学園でも対応に一歩引かざるを得なかった、と」
「まあ概ねそんな感じよ。だから、今回の件はそう簡単に、それこそ君がどれだけ彼女を助けたいと言っても、学園側としてはそう簡単に手が出せないの」
「でしょうね」
ここまでは全部予想通りだ。だから
「でも……動くのが学園ではなく、井口颯太個人だったらどうですか?」
「っ!」
「……………」
シャルルは俺の言葉に驚愕し、師匠にとっては予想通りだったようで、しかし、片眉をピクリと動かす。
「IS学園として動いて問題になれば学園全体の問題だ。でも、俺個人で動けば結果的に失敗しても俺を切り捨てれば学園には被害はありません」
「……それを私が黙って見過ごすとでも?」
ゾクリとするほどの、言葉じりに怒気を孕んだセリフ。その眼は殺気を感じるほど鋭かった。
「師匠ならきっと止めると思ってましたよ」
生徒の長たる師匠――更識楯無ならば、こんな選択を黙ってスルーしてくれるとは思っていない。――だからこそ、ここで俺は切り札をだす。
「……『どんな願いでも一つだけ叶える』」
「っ!」
俺の言葉に師匠が顔を強張らせる。
「前に約束しましたよね?あの時はしてほしいことなんてなかったから特にお願いはしませんでした。その時に師匠は言いましたよね?『何か私にしてほしいことができた時に言って』と」
「そ、それは……」
いつもの余裕の表情の消えた師匠。どうやら完全に想定外だったようだ。
「その願い事、今使わせていただきます。師匠、〝今から俺のやることを見逃してください。そして、もしそれが失敗したら容赦なく俺を切り捨ててください〟」
「…………」
「…………」
俺の言葉に師匠も、シャルルも呆然としている。
「………どうして?」
師匠が口を開く。
「どうして君は彼女のためにそこまでするの?」
「…………」
そのことはシャルルも気になっていたようで、俺に視線を向ける。
「………困っている友人を見捨てられない……じゃあ納得しませんよね?」
「ええ、そうね」
俺の問いに師匠が頷く。
「友達のためってだけじゃリスクが大きすぎるもの。下手すれば国際的な犯罪者として残りの人生牢屋の中かもしれないわ」
そう。今回俺のしようとしていることはそれだけのリスクのあることだ。
「……友達だからっていう理由がないわけじゃありません。でも、師匠の言う通り、それじゃあリスクが高すぎる」
「じゃあ?」
「まあ詳しくは言えませんが、強いて言うなら、青春ラブコメの主人公みたいなワンシーンの謝罪……ですね」
俺の言葉に師匠は首を傾げ、シャルルは察したらしく顔を赤くする。
「颯太のエッチ」
「くっ、否定できない」
シャルルが顔を赤く染めながら言い、俺もそれに頷くしかない。
「ちょ!いったい何があったのよ!?」
師匠が今までにないくらい狼狽して訊く。
「……ないしょです」
こればかりは言えないので、口元に人差し指を当て、秘密、とジェスチャーする。
「くっ!絶対に聞き出してやるんだから」
むーっと拗ねたように言う師匠。
「それはともかく……で?どうなんですか、師匠?」
「………わかったわよ」
ため息まじりに師匠が言う。
「私の負け。好きにしなさい。私はこれから君がすることを黙って見ているし、もし失敗したら君を切り捨てるわ」
「ありがとうございます」
師匠の言葉に俺は頭を下げる。
「お礼なんて言わないでよ。今ほど自分の無力さを感じてる時なんてないんだから」
師匠はつぶやくように言う。
「それじゃあ、すぐに決行しますか」
俺はゆっくりと立ち上がる。
「っと、シャルル。携帯貸してくれ」
「え?うん、いいけど……」
シャルルは自分のポケットから携帯を取り出す。
「ありがとう。ちょっと操作するけどいいか?」
「う、うん」
「よし。じゃあえっと………お!あったあった」
シャルルの携帯を操作していき、目当てのものを見つける。
「それじゃあ、最終確認。シャルル、お前はどうなりたい?」
俺の問いにシャルルは覚悟に満ちた瞳でしっかりと俺を見据え
「僕は……自由になりたい。一人の女の子として生きたい」
「それにはデュノアの家と完全に縁を切ることになると思うぞ?」
「願ったりだよ」
「フランス代表候補生の地位もなくなるよ?」
「構わない」
「……よし」
そこからシャルルの携帯を操作し、耳に当てる。
数回のコールの後、相手と繋がる。
『×××××××××――』
電話口では意味不明の言葉――おそらくはフランス語が聞こえてくるがガン無視し、俺は口を開く。
「あっ、もしもし、こんばんは。夜分遅くすみません――デュノア社長」
長くなりそうなんでここで切ります。
次回はできるだけ早く、今日中にあげると思います。
お楽しみに~。