前回同様あんまり四周年には関係ないです。
今回のお話は時系列で言えば五年後のお話が始まる約半年ほど前のお話です。
それではどうぞ!お楽しみください!
目が覚めてすぐに感じたのは、二日酔い特有の頭痛だった。
ズキズキと重く脈打つように感じる鈍痛の中、次に感じたのは感触だった。
寝ている間から何かをずっと抱いていたらしい。というか何か柔らかなモノに顔をうずめていた。かなりサイズがありそうで恐らく全体は俺の身長より少し小さいくらいだろう。頬に当たる感触はタオル地と言った感じだろうか。
なんだろう?俺の部屋にこんな大きな抱き枕があっただろうか?
――まあいいか。こんなに柔らかくて暖かでいい匂いで気持ちいいんだ。このまま二度寝としゃれこもう。
そう思い、その抱き枕をより抱き寄せ、脚を絡ませる。と――
「ン………」
自分のではない吐息が聞こえた。
同時に、絡めた脚と頬に当たる感触の違いに気付く。それはタオル地のものとは違うものだった。すべすべとしていて柔らかく温かい、そう、まるでひと肌のような――
「ンン……」
「っ!?」
脚に触れる感触の正体を探ろうと脚先で撫でていると再度頭の上から吐息が聞こえる。
ようやく俺は慌てて目を開き、視線を吐息の聞こえた方向を見る。
そこにあったのは綺麗な寝顔だった。
柔らかに閉じられた瞼。呼吸をしながら薄く開いた唇はぷるりと柔らかそうだ。すっと通った鼻筋に色白の透き通るような素肌。綺麗な寝顔にかかるまるで金から紡ぎ出したような透き通る金髪。
超至近距離から見たその顔は見惚れるほどに美しかった。
「ん……」
「っ!!」
目の前の柔らかな唇から漏れ出た吐息に泊まっていた志向が動き出す。同時に自分が今現在抱き着いている相手が誰なのかを認識する。
「~~~~~~~!!!!!」
声にならない悲鳴を上げながら距離を取ろうとするが、彼女を抱き枕にしていることで右腕が彼女の下敷きにされているせいで身動きが取れない。
ちょっと待て!なんだこれは!?今どういう状態なんだ!?なぜ俺は今まで〝シャルロットを抱き枕にし、彼女の胸に顔をうずめて眠って〟いた?
落ち着け。冷静になれ。まずは…そう、状況を整理するんだ。
まず俺の名前は――と、そこまで考えたところで、二日酔いと寝惚けていたせいで思考状態が『俺』になっていたのを自覚する。
そうだ、今の『僕』の名前は朽葉ハヤテだ。
そして、今が何時かわからないが、恐らく体感で昨日……そう、大きな裏の任務が終わり、社員全員で居酒屋に行ったんだ。
メンバーは僕、シャルロット、そして、ハルトにレナ、トーカ、ムラサキ、桜子の七人だった。
任務の内容は護衛任務。海外のマフィアに狙われていた大物を護衛し、マフィアとの〝平和的な話し合い〟の末、僕らの護衛対象を狙っていたメンバーと実行犯を引き渡してもらうことで手打ちとした。
その時に少し驚いたのが、その実行犯の中にレナの妹のように可愛がっていた昔なじみがいたのだ。
名前は井ノ原真紀。レナの一つ下の少女だった。
現在彼女の身柄は一応日本政府が預かっている。今後の彼女次第だが、僕が上に掛け合えば上手くいけばうちの会社預かりにできるだろう。
それはさておき、この飲み会はそんな妹ともいえるような少女の処遇についてナイーブになっているであろうレナを思っての会だったのだが……そんな僕たちの気遣いは無駄だったようで、レナ自身はその店の料理を端からずべ手食べつくすのではないかという勢いで美味しそうにご飯を楽しんでいた。
飲み会が始まって三十分ほど経った頃だった。
ご飯を美味しそうに食べていたレナが何気ない感じで
「そう言えば社長、今日はお酒じゃないんですね」
と言ったのだ。
今回の任務はかなり大変な事件で、戦力を出し惜しむ暇余裕がなかった。
結果、僕もISを使うことになった。ようはリンカーも使った。
今の僕は学生時代の全盛期ほどのIS適性はない。今の僕はISを使うときはリンカーだよりだ。
そして、あの時からリンカーも進化したが、いまだ副作用はある。あの時ほどではないが、一つだけ変わらないのが、僕はリンカーを使うと極端にアルコールに弱くなる…らしい。
らしいというのは、僕はそれを体験したことが無いのだ。
アルコールに弱くなるから飲まない方がいい、と言われ、それなら、とこれまで控えていたのだ。
お酒自体は好きだし普段は浴びるように飲んでも特に泥酔することもないので結構な頻度と量で飲んではいるが、こういう吞みの席で飲めないと悲しくて仕方がない、と言うほどではない。
今回もそんなわけでウーロン茶を飲んでいたのだが、それを不思議に思ったらしいレナが訊いたのだ。
僕は隠すことでもないのでその理由を教えた。
するとレナは、「ちょっとくらい大丈夫なんじゃないの?」なんて言ったが、冗談抜きでやばいぞと注意されてるから~、と笑いながら飲み物に手を伸ばす。
そうだ……その時によく確認しなかったのが悪かった。
おそらく、その時僕が手に取ったのは僕のウーロン茶じゃなかったのだ。
その証拠に口を付けたコップから飲んだそれの味は甘かった。ウーロン茶ではありえない甘さ。確か僕の隣に座っていたハルトがカクテルを頼んでいたので、それを誤って飲んでしまったのだろう。
一口飲んだその瞬間、一瞬で体がカッと熱くなるのを感じた直後視界がグルんと回るのを感じ、一瞬で視界と意識が暗転した。
それはまるでテレビの電源を切るように、ブツンと。
そこから先のことは……覚えていない。
そして――
恐らく今に至るのだろう。
……………………ど う し て こ う な っ た !?
いや、ほんとどうしてこうなった?というか何がどうなればこうなる?
あらためて見ればいまだ緩やかに寝息を立てるシャルロットは僕と同じベッドに横たわり、シャルロットの身体に手をまわしている僕同様に彼女も僕の頭を胸に抱く様に手をまわしている。そのせいもあって僕はいま身動きが取れずにいる。
服装はバスローブ。真っ白なそれに身を包んだシャルロットは顔をうずめている感触からして恐らくノーブラ。下はどうかはわからないが絡めてしまった脚の感触からして太腿の半ばまでバスローブでそれ以外にズボンのようなものは穿いていないのだろう。問題はパンツをはいているかどうかだ。だが、それを確かめようにも、絶賛身動きが取れない状態で見ることはできないし、手を伸ばして触ってみようにも変なところを触ってしまいかねないのでそれもできない。
さて、そんなシャルロットに対する僕の服装だが……パンツ一丁である。
これは……やっちまったのか?
ワンナイトラブったか?
彼女の気持ちを知りつつこれまで頑なにアプローチをかいくぐり続けて早数年。ついに酔った勢いでやってしまったのか?理性のタガがはずれてしまったのだろうか?いや待て、落ち着け、いくら僕でもどれだけ酔って理性のタガが緩んでいてもやっちまうだろうか?いや、僕は自分を信じている。きっと何もなくただ一緒に寝ていただけだ。それが例え自分がパンツ一丁で一緒に眠るシャルロットを抱き枕にしてその胸に顔をうずめていようが、対するシャルロットが素肌にバスローブを纏っただけだろうが、そのシャルロットがまるで愛おしいものを抱くように優しく僕を抱きしめていたとしても、きっと僕と彼女の間には何も…………揺るぎねぇ!
どうしよう、否定できない!この状態で何も起きていないと思えるほど僕は楽観的じゃない!
コレはきっと確実に何かが起きている!
うぉぉぉぉぉぉぉぉ!どうしよう!?何が一番嫌かって、何かあったことじゃなく、それを何一つ覚えていないことの方だ。
せっかくの初体験が泥酔したうえ記憶の無い状態とかもったいなさすぎる!
とかとか、考えながら悶えていたせいだろう
「ん~……?」
シャルロットがゆっくりと目を開けながら体を起こす。
おかげでやっと自由に動けるようになった僕はとりあえず身を起こす。
「ん~」
瞼を手の甲でこすりながら大きく欠伸をしたシャルロットは僕に視線を向ける。
寝惚けまなこだったシャルロットの焦点があっていき、同時に優しく微笑みを浮かべ
「あぁ…おはよう、ハヤテ」
「お、オハヨウゴザイマス…」
のんびりとあいさつするシャルロットに僕も一応挨拶を返すが動揺が隠し切れず声が裏返る。
「今何時~?」
「え、えっと……午前十時すぎ」
シャルロットの問いに周りを見渡し、ベッドの脇に備え付けられたデジタル時計を見ながら答え、そこでやっと自分たちが今いる部屋の全容を見た。
そこは白を基調とした内装に部屋の真ん中に鎮座する現在僕たちがいる真っ白な〝天蓋付きの〟ベッド。この部屋の様相はそう、まるでラブホテルのようだった。
「………………」
呆然と部屋を見回している僕に対して、落ち着いた様子で寝てる間に乱れたバスローブを直すシャルロットに、呆然としたまま視線を向けた僕は
「なぁ……シャルロット……」
「どうしたの?」
「あの……訊きづらいんだけど、昨日って……」
「もう、昨日はホント大変だったんだからね?」
おずおずと訊く僕にシャルロットがため息をつきながら疲れた顔で言う。
「間違ってハルト君の吞んでたカクテルを一口飲んだだけで目を回して頭をテーブルに叩きつけたかと思ったら、すぐに顔を上げて、そこからハイテンションでバカスカ吞み始めるし、しかも焼酎とか度数の高いお酒ばっかり」
やれやれと言った様子で言うシャルロット。
「しかもテンション高いままさっきまで陽気に笑ってたと思ったら急に落ち込んだり、かと思ったら怒り始めたり、レナちゃんたちに絡んだり、めんどくさいったらありゃしなかったよ」
「う……すまん」
シャルロットの言葉に謝る。
「でもそのあたりはまだよかったよ」
「……えっと、何したっけ?」
僕の問いにシャルロットがギロリ視線を向けてくる。
「忘れたとは言わせないよ?」
「えっと……」
シャルロットの視線に慌てて思い出そうと考えるが、僕の記憶にはまるで霧がかかったように詳細が思い出せない。
しいて言えばさっきシャルロットが言ったようにレナやトーカ、ムラサキと桜子に何だかうざったいほどべたべたと絡んだ…気がする。
そんな僕の様子にため息をついたシャルロットは口を開く。
「私は初めてだから嫌だって言ったのに、ハヤテがムリヤリ入れてきて……」
「ムリヤリ入れるっ!?」
シャルロットの口から飛び出した思わぬ単語に驚く僕。しかし、そのままシャルロットは続ける。
「もう無理だって言ってるのにムリヤリ溢れるほど注いで」
「溢れるほどっ!?」
「そしたら今度は僕の口に堅くて太いのをムリヤリ押し込んで」
「硬くて太いのをっ!?」
「白くて濃いのを喉の奥に流し込んで来て」
「白くて濃いのっ!?」
「口いっぱいに注いだと思ったら今度は頭からぶっかけて」
「頭からぶっかけるっ!?」
「おかげで体中ベタベタだし、髪なんか臭いが落ちないかと思ったよ」
「―――――――」
シャルロットの口から飛び出す言葉の数々に僕は唖然とする。
「あとは、シャワー上がったばっかりの私をムリヤリ……ってどうしたの、ハヤテ?」
黙り込んだ僕の様子を不審に思ったらしいシャルロットが僕の顔を覗き込むように見てくるが、それに答えず、ゆっくりと正座に座り直し姿勢を正し、そのまま頭を下げる。
「は、ハヤテ!?」
「すまない、シャルロット!」
驚くシャルロットに構わず僕は土下座の姿勢で謝罪する。
「謝ってすむことじゃないと思う。でも、ちゃんと言葉にしたいんだ。本当にごめん!」
「ちょ、ちょっと、頭を上げてよ!急にどうしたの!?」
「酔った勢いで僕は取り返しのつかないことをした!もちろんこの責任はとる!」
そこで僕は顔を上げる。そこには急に土下座をした僕に慌てた様子のシャルロット。そんな彼女の手を取り、優しく握りしめた僕は
「シャルロット……」
「な、何……?」
真剣にシャルロットの目を見て言う僕の様子に首を傾げながらシャルロットが頷く。
「シャルロット……こんな結果になって申し訳ないと思ってる。でも、僕のしたことをちゃんと責任を取るためにはこれしかないと思う。だから――」
言いながらそこで言葉を区切り
「シャルロット……僕と、結婚してくれ」
「…………へ?」
シャルロットは僕の言葉の意味が理解出来までに少し時間がかかったようだ。しかし、理解できた瞬間、一瞬で顔がぼっと赤く染まる。
「は!?へ!?ちょ、ちょっと待って!?なんで僕今――!?」
「みなまで言うな!」
慌てたように僕の手を振り払おうとするシャルロットに、逆に僕はより強く手を握る。
「確かに急に言って混乱してると思う。でも、このままこれまで通りになんてできないししたくないんだ!僕はそれだけのことをした!優しいシャルロットのことを傷つけた!」
「僕別に傷ついてないけど!?」
「無理しなくていいんだ!……でも、そう……シャルロットが今回のことで僕のことが嫌いになって、結婚なんてもってのほか、もう一生顔も見たくないってことだったら、それも仕方ないと思ってる」
「い、いや、そんなことはないよ。と言うかそれだけはないというか……僕は学園にいた時からハヤテ――颯太のことが……」
頬を赤く染め、もじもじと言うシャルロットの様子に僕は思わず涙ぐむ。
「ううぅ……シャルロット……こんなにひどいことをした僕を変わらず思ってくれるなんて……」
「いや、だから僕は別にひどいことなんて……」
「したじゃないか!だって、僕は……あろうことか酔った勢いで嫌がるシャルロットをムリヤリ犯すなんて!」
「はっ!?おかっ!?はぁ!!?」
泣き崩れる僕にシャルロットが驚愕の声を上げる。
「え?ちょっと待って、何の話!?」
「だってムリヤリしたんだろ!?合意の無いSEXなんてレイプじゃないか!!しかもそれに飽き足らず(ピ~)を(ピ~)させて(ピ~)させたあげく(ピ~)と(ピ~)だなんて!!」
「(ピ~)を(ピ~)させて(ピ~)させたあげく(ピ~)と(ピ~)!!?」
泣きながら叫ぶ僕にシャルロットが唖然と叫ぶ。
「ちょちょちょ!ちょっと待って!なんでそんな話になってるの!?そんなことなかったから!!」
「やめてくれ!そんな優しさ求めていない!僕はちゃんとしでかしたことへの責任を果たしたいんだ!」
「責任も何も無いから!無い責任は果たさなくていいから!」
「でも僕はお前の初めてを――」
「僕ちゃんとまだ処女だから!って何言わせるのさ!!?」
泣きながら言う僕の言葉に答えていたシャルロットが叫び、自分の言葉に赤面する。
「でも……さっき……」
「いや、だから昨日は……」
〇
「いえ~い!飲んでるか~お前ら~!?食ってるか~お前ら~!!」
飲み会が始まってから約一時間が経ったころ、そこには満面の笑みハイテンションで叫ぶハヤテの姿があった。
「ちょっとレナ!全然大丈夫じゃないじゃない!」
「あはは~、思った以上に大惨事になっちゃったねぇ~」
「笑ってないで何とかしなさいよ!」
「なんだお前ら~、コソコソしてないで楽しんでるか!?」
コソコソと話すレナとトーカだったが、そんな二人に後ろから近付いたハヤテは二人に抱き着く様に肩を組んで言う。
「レナ~、妹分が捕まって心配だよな~?つらいよなぁ~?僕もなぁ?弟がいるからわかるぞぉ~?もし僕が同じ状況になったら……なったら……うわぁん!」
「うっざ!」
さっきまでの陽気な雰囲気から一変し、二人と肩を組んだまま泣き始めるハヤテにトーカが嫌そうに叫ぶ。
「レナ!今日は嫌なこと忘れるために好きなだけ食え!全部僕持ちでおごってやる!」
「マジ!?社長マジそれ!?」
「おう!男に二言はないぞ!」
「やっふ~!!社長ありがとう~!!」
「…ねぇねぇ社長、私たちは…?」
「もちろん全員分おごりに決まってんだろ~!」
嬉しそうにガッツポーズするレナに加え、訊いてくるムラサキに対しても笑いながら答えるハヤテ。
「桜子ぉ!食べてるか!?飲んでるか!?楽しんでるかぁ!?」
「はい、ちゃんといただいてますよ。ありがとうございます」
「よしよし!」
笑顔で頷く桜子の答えに満足そうに笑うハヤテ。
「しかしなぁ、レナ。今日はいろいろ疲れたろ?妹分は心配だよな?」
「いや、あたしは別に……」
「強がるな!ほらハルト!お前レナのことちゃんとケアしてやれよ!レナ!今日は僕が許可する!ハルトに好きなだけ抱き着いて優しくよしよししてもらえ!」
「ホント!?まじで!?」
「ああ!マジだ!だよな、ハルト!?」
「いや、俺の意見を聞かずに勝手に話を進めないでくださいよ」
「なんだ!?こういう時くらいレナを甘えさせやれ!その程度の甲斐性くらい見せて見ろよ!」
「そうだそうだ~!!」
「えぇ~……」
「ほら、レナ!今は食え!好きなだけ食え!金は心配するな!」
「はい!ありがとう、しゃちょー!!」
めんどくさそうにするハルトを無視して言うハヤテの言葉にレナは嬉しそうに頷くと目の前のテーブルの料理に箸を伸ばし始める。
「お~いシャルロット~!飲んでる~?」
「って!いい加減放しなさいよ!」
そのままシャルロットの方に視線を向けるハヤテ。しかし、ずっと肩をつかまれたままのトーカが怒ってハヤテの足を蹴って離れた席に避難する。
「痛いなぁ~!何怒ってんだぁ~?最近の若者の怒りポイントはよくわからんぞぉ~?」
「いや、今のは正当ギレだと思うけどな……」
足をさすりながら言うハヤテに苦笑いでシャルロットが言う。
「で!?飲んでるかシャルロット~?って、コップ空じゃん!」
と、シャルロットの手元を覗き込んだハヤテが叫ぶ。
「ほら~、新しいのなんか注文しろよ~」
「え?えっとじゃあ………」
「あ、すみませ~ん!マッコリくださ~い!瓶で!でかいの!」
「私に選ばせてよ!」
答えを聞かずに勝手に注文するハヤテにシャルロットがツッコみを入れる。
しかし、そのままハヤテの注文したマッコリが大きな瓶で運ばれてくる。
「ほれほれ~、マッコリ来たぞ~」
「いや、私マッコリ初めてだからできれば遠慮したいんでけど……」
「なんだとうぅ?僕のお酒が飲めんのか!?」
「いやそういう訳じゃ……」
「なら飲め飲め!うめぇって!ほれほれ!」
シャルロットの答えに有無を言わせず空になっていたグラスを持たせてマッコリを注いでいく。
「じゃ、じゃあ……」
コップに注がれた白濁液を恐る恐ると言った様子で飲むシャルロット。
「うん、なかなかおいしいね」
「だろ?どれ!僕も貰おうかな」
「はいはい」
自分のグラスも持ってきて残っていた芋焼酎を飲み干したハヤテ。そのグラスにシャルロットがマッコリを注ぐ。
「うまい!」
コップに注がれたそれを一気にあおり飲み干したハヤテは笑顔で叫ぶ。
「はい、ご返杯~」
「あ、ちょっ!まだ残ってるから!」
と、今度はまだ半分以上残っているシャルロットのコップにも注ぐ。
「いや、もうこれ以上はいいから!」
「まだはいるよ~」
慌てるシャルロットを無視して注ぎ続け
「あぁ!もう、こぼれちゃった!」
シャルロットの手のコップに注がれた白濁液は溢れてしまい、シャルロットの手からこぼれる。
「おぉすま~んすま~ん!」
言いながら床にこぼれたマッコリをおしぼりでふくハヤテ。
「ダメだなぁ~、コップだといちいち次ぐの面倒だな~――あ、そうだ!いいこと思い付いた!」
と、何かを思いついたハヤテが笑顔で頷きながらシャルロットにて招きをする。
「いいことっていった――ムグッ!?」
「こうして~、瓶の口を直接口にくわえれば~!」
「ちょ、まっ!?急にこんな固い瓶を口に押し込まないで!しかもこの瓶普通のより口が太くなってて――」
「いいからいいから~!」
「ごぼっ!?」
シャルロットの言葉を聞かず、ムリヤリシャルロットの口にマッコリのビンを押し込んだハヤテはそのまま瓶を傾け中身を口に直接注ぎ込んでいく。
「むぐぅっ!?んぐっ……んぐっ……んぐっ……――ぶほぉごっ!?」
数秒しっかりと嚥下していたシャルロットだったが、ハヤテのビンを傾ける角度が急すぎたせいかすぐにシャルロットの口はいっぱいになり、すぐに限界が来る。
そのまま口の中にあふれていたマッコリを吹いたシャルロットの口から瓶を離してしまい
「冷たっ!?」
「うおっとっ!?」
頭から瓶の中身の白濁液をかぶり、慌ててハヤテが瓶をまっすぐに戻す。
シャルロットにかかったマッコリは最小限で済んだがそれでも髪はずぶ濡れになってしまった。体の節々にもかかってしまったようで服を濡らしている。
「ちょっとハヤテ~!」
「ごみ~ん!ほいおしぼり」
ジト目で睨むシャルロットに苦笑いを浮かべつつおしぼりを投げて渡す。
「もう…髪びしょびしょ……臭いもすごいし……」
「あはは~、でもこれで『水も滴るいい女』ってね!」
「ハヤテ!!」
〇
「――なんてことがありつつそのあともハヤテはハイテンションで飲み続けて、1時頃のお店のラストオーダーまで居座ってね。結局終電も逃しちゃったからみんなで近くのホテル探したけど、さすがにそんな時間に入れるホテルなんてそうそうなくて、結局ラブホテルしかなかったわけなんだけど」
「だからここに……」
シャルロットの言葉を聞いた僕は少し納得して頷く。
「ホントは私とハヤテは別の部屋にしようとも思ったんだけど、泥酔してるハヤテ放っておくわけにもいかなくて、結局僕が付き添うことになってね」
ため息をつきながら言うシャルロット。
「テンション高いままのハヤテをベッドに押し込んで頭からかぶっちゃったマッコリを洗い流すためにシャワー浴びて、濡れちゃった服を軽く手洗いしちゃったから寝間着が無いからテキトーにバスローブ着てたんだけど」
「だからその格好なのか……でもじゃあ僕は何でパンツ一丁なんだ?」
「自分で脱いだじゃない、暑いって言って」
僕の問いにため息をつきながら答えるシャルロット。
「で、そのあと髪乾かしてた僕をムリヤリベッドに押し倒して抱き枕みたいに抱き着いて寝ちゃって…今に至るってわけだよ」
「なるほど……」
シャルロットの説明を聞き終えた僕はゆっくりと頷き
「想像してた最悪の結果ではなかったけど、違う意味で迷惑かけてしまって本当にごめん」
「まあ、酔ってたししょうがないからいいけど……」
改めて頭を下げる僕にシャルロットが言う。
「てことは、結局僕らの間に……その……」
「誰かさんがすぐに寝ちゃったから、相変わらず僕の身体は清いままだよ」
「そ、そうか……」
シャルロットの皮肉のこもった視線にウッとなりつつ安心したように頷くハヤテ。
「でも、その……あれだ。ホントいろいろ迷惑かけて悪かったな……」
「もういいってば」
「それで、その……迷惑ついでに訊くんだけど……」
頷くシャルロットに言い淀みつつ僕は訊く。
「その……なんだ、酔った僕、なんか変なこととか言たりとか、なんか変なこととかしなかったか?」
「別に変なことなんて……………特になかったよ」
「待って今の間、何?やっぱりなんかしたの!?何やらかしたの僕は!?」
「別に何もしてないから安心していいよ」
「何もってことは今の反応からして無いだろ!?」
「さ~てとそろそろホテルでようか」
「ちょ、まだ話は!」
呼び止める僕の言葉に答えず、そのままシャルロットは朝シャンを浴びるため部屋を後にしたのだった。
ホテルの部屋に入ったシャルロットは頭からかぶったお酒を落とすためにシャワーを浴び、出てきたのだが……
「きゃっ!?」
髪を乾かしていたシャルロットは突如後ろから引っ張られ、ムリヤリベッドに引きずり込まれる。
「えへへ~、捕まえた~」
見るとシャルロットを抱き枕のように抱き着いたハヤテが笑みを浮かべていた。
「ちょ、ちょっと、ハヤテ!何でパンツ一丁なの!?」
「だって暑いんだもん」
シャルロットの問いに不満げに言うハヤテ。
「ちょ、ちょっと待って。私まだ髪乾かしてないから――」
「なあ、シャルロット……」
今後の展開に期待し頬を赤く染めたシャルロットだが、そんな彼女の言葉を遮ってハヤテがシャルロットの胸に顔をうずめながら呟くように言う。
「なぁ……『俺』、やっぱ間違ったのかな?」
「……颯太……?」
ぼそりと呟くように言う言葉にシャルロットは言い淀む。
「俺のしたことで、海斗や家族には迷惑かけたし、シャルロットにも、簪にも、楯無さんにも……」
「それは……」
顔を胸にうずめているのでシャルロットには彼の表所は見えない。しかしその言葉や声になんと答えたものかと言い淀む。
「ごめん……ごめんな、シャルロット……」
「謝らないでよ、颯太」
言いながらシャルロットは彼の頭を優しく胸に抱く。
「確かに颯太のしたことは正しくなかったのかもしれない。でも、今の状態に僕は後悔はないよ」
優しく、自身の胸に抱く青年を愛おしく思いながらシャルロットは優しく撫でる。
「だから、そんなに気に病まないで。別に僕は颯太のことを恨んでなんて――」
「……クゥ」
「……颯太?」
言葉を続けようとしたシャルロットは自身の胸元から聞こえる寝息に、青年の顔を覗き込む。
そこには案の定穏やかな寝顔を浮かべている青年が……。
「もう……」
その顔に、この後のことを期待していた分肩透かしにあったような気分のシャルロットは大きくため息をつく。
「まったく……気持ちよさそうに寝ちゃって」
自分の胸に顔をうずめてまるで赤子のような穏やかな顔で眠る寝顔に微笑みかけたシャルロットは
「おやすみ、颯太」
そのまま目を閉じ、自身も眠りの世界へと落ちていくのだった。
と、いうわけでハヤテ君のお酒にまつわる大失敗のお話でした。
これは以前設定②でも少し触れたことですね。
いつか書こうと思っていたのですがいいタイミングだったのでここでやってみました。
さてさて、このお話も気付けばもう4周年ここまでこれたのも読んでいただいている読者の皆さんのおかげです!
このお話も気付けば200話を超え、本当はここまで書く予定じゃなかったのにどんどん話が膨らんでしまい、気付けばこんな状態に……
でも楽しいので万事OKです!
そんな訳で、颯太(ハヤテ)くんと彼を取り巻く環境のドタバタな物語、もう少しお付き合いください。
めでたい節目を迎えられて感謝です。
本当にありがとうございます!
???「けっ!何もめでたくなんてない!」
なっ!?お、お前は……!?
~次回の質問コーナーに続く……~