「ここが俺たちの部屋な」
「うん」
放課後。俺とシャルルは俺たちの部屋、1033室にやって来た。途中まで一緒だった一夏とは一夏の部屋の前で別れ、ここまでやって来た。
山田先生に確認したところ、シャルルは俺の同室になったらしい。一夏は相変わらず二人部屋を一人で使用するそうだ。
「今日からよろしくな、シャルル」
「うん。よろしく、颯太」
ふたりで改めてあいさつし合い、俺はドアに鍵を刺し込み回す。
ガチャ。
「お帰りなさい。ご飯にします?お風呂にします?それとも、わ・た・し?」
バタン。
「どうかしたの?」
開けてすぐにドアを閉めた俺の行動にシャルルが首を傾げる。どうやらシャルルには角度的に見えなかったらしい。
「いや、うん。………幻覚かな~」
ドアを開けたとき、ドアの前に裸エプロンの師匠がいたような気がしたんだが……。
「………うん、部屋は合ってる」
部屋の番号は1033室。表札には俺とシャルルの名前。間違いなく俺たちの部屋だ。
「……よし!」
もう一度気合いを入れ直し、ドアノブを握る。
ガチャ。
「お帰りなさい。私にします?私にします?それとも、わ・た・し?」
「選択肢がない!」
「あるよ。一択なだけ」
「…………」
今度はシャルルにも見えているようで、俺の横で絶句している。
「……何してるんですか、師匠?」
「新婚ごっこ♡」
「……はあ」
もうため息しか出ない。
「てか、まずは服着てくださいよ。男二人の前でそんなあられもない格好してないで下さいよ」
さっきから師匠を直視しない俺とどうしていいかわからないといった表情で混乱しているシャルルを見ておかしそうに笑った師匠は、その場でくるりと後ろを向見た。っておい!
「じゃん♪水着でした~」
「……………………」
「んふ。残念だった?」
「は、はあっ!?ちげえし!残念とか思ってねえし!俺あれだから!いまどき二次元で使い古された裸エプロンより、俺の今のトレンドは手ブラジーンズだし!」
「へえ、手ブラジーンズが好きなんだ」
「しまった!墓穴掘った!」
ニヤニヤ笑う師匠に言われ、俺は自分の失敗に気付く。
「くっ!ああそうさ!手ブラジーンズが好きさ!それの何が悪い!」
「あ、開き直った」
「そもそも手ブラジーンズって何なの?」
シャルルが訊く。
「簡単に言えば、手や腕で胸を隠す『手ブラ』を、ジーンズを穿いた状態で行うことだよ」
「へー」
なぜか、シャルルが俺から距離を取りながらジト目で見つめる。あれ?おかしいな。どうやらシャルルは手ブラジーンズダメな人だったようです。いいと思うんだけどなー、エロティックで。
「んんっ!それはともかく、なんで師匠がここにいるんですか?」
俺は大きく咳払いして師匠に訊く。
「ん?ん~………あっ!そろそろ久しぶりに特訓の相手をしてあげようと思って、その相談に」
「嘘つけ」
あきらかに今考えただろ。
「アハハ。まあ本当に特訓の相談はしようと思ったのよ?あとはまあ新しく来たっていう転校生がどんな子かっていうのも見たかったし……」
そこで師匠はシャルルをじっと見つめる。
「ふーん……君が……」
まるで品定めするようだ。先ほどまでのふざけていた雰囲気は影を潜め、真面目な表情でじっとシャルルを見つめている。シャルルも緊張しているようで少し怯えているように見える。
「私の名前は更識楯無。君たち生徒の長にして、颯太君の師匠よ。以後よろしくね」
「しゃ、シャルル・デュノアです。よろしくお願いします」
一瞬でいつもの人を食ったような雰囲気に戻った師匠に少し気圧されながらもシャルルは会釈する。
「………で、なんで裸エプロンなんですか?」
「颯太君が喜ぶかなーって思ったんだけど……手ブラジーンズだったか。ちぇっ」
悔しそうに指パッチンをする師匠。
「次は手ブラジーンズで来るわ」
「…………いや、もういいですから」
「フフ。今の間。少し期待したでしょ?」
「そ、そんなわけないじゃないですか……」
「颯太、目が泳いでるよ」
ジト目で俺を見るシャルル。
「さて!用事もすんだしお暇しようかな。洗面所借りるわね~」
そう言って手提げ鞄を持って洗面所に入って行った師匠。
と思ったら、閉まったと思ったドアがまた開き師匠が顔を出す。
「覗かないでね」
「覗きません!」
俺の返事にニヤニヤしながらドアが閉まる。
「なんていうか、変わった人だね」
「よくからかわれてます」
苦笑いしながら言うシャルルに俺もため息まじりに頷いた。
○
「そんなことがあったのか」
夕食後。俺たちの部屋に一夏もやって来て、三人でお茶を飲みながら今日の出来事を話した。
「一夏は会長さんに会ったことはあるの?」
「ああ、まあな」
「一夏の時も似たような感じだったぞ」
あれは、そう、部屋割りが変更になって俺も一夏も広い二人部屋を一人で使い始めたころだった。夕食後にお互い暇だったから俺の部屋でゲームをしようということになり、一夏とともに部屋に帰ってきたら部屋に師匠がいたのだ。なぜかメイド服で。
「あの時は驚いたぜ。颯太について行ったら『お帰りなさいませご主人様』だもんな」
「安心しろ。俺も驚いたから」
あの時はそれから軽く話してから帰って行ったんだっけ。メイド服のまま。
「ちょっと話しただけだけど、なんていうか人たらしって感じの人だったな」
一夏は苦笑いを浮かべている。
「あの後のほほんさんに聞いたけど、お前の師匠って現IS学園最強らしいな」
「もともと生徒会長になる条件がそうらしいからな。しかも最強の生徒会長はいつでも襲っていいらしい。それで勝ったならその人が生徒会長になるんだとさ」
「「へ~」」
俺の説明に一夏とシャルルが感心したように頷く。
「つくづくすごい人に特訓してもらってるんだな」
「まあ成り行きでな」
あの時は何も知らないままに簪とのほほんさんに紹介してもらって特訓してもらえることになったけど、今にして思うとこれ以上ないっていう心強い師匠だよな。
「そういえば、ふたりは放課後にISの練習してるって聞いたけど、そうなの?」
「おう。まあな。師匠は生徒会の仕事忙しいし、一夏の特訓に俺も混ぜてもらってる」
「俺たちは他の人より遅れてるから、地道に訓練時間を重ねるしかないからな」
今日はシャルルの引っ越しがあったので放課後の特訓はなかったが、明日からはまた再開だ。
「僕も加わっていいかな?専用機もあるから少しくらいは役に立てると思うんだ」
「おお、それはありがたい話だ」
「ぜひ頼みたいな」
「うん。任せて」
○
「それじゃあおやすみ」
一夏が自室に引き上げ、俺とシャルルは使った湯飲を片付けた。
「あ、颯太。シャワーどうする?」
「先入ってくれていいぞ。今日は俺はこれの後に入るから」
そう返事をしながら俺は椅子に座り、机にノートと教科書を広げる。
「勉強?」
「おう。どうしたって体動かすだけじゃわからないこともあるし、予習復習しないと俺は頭にはあまり自信ないからな」
簪が同室の時はよく勉強を見てくれていた。日本の代表候補生だけあって知識は豊富だし、簪自身教えるのがとてもうまかった。
「よかったら手伝おうか?わからないところとかあったら教えるよ?」
「お?いいのか?」
「もちろん。僕もフランスの代表候補生だし、力になれると思うよ」
「ありがとう。助かるよ」
こうして日常生活でも特訓でも勉強面でも強い味方ができたのだった。
大同爽「手ブラジーンズの魅力。それは、上半身裸になることで否応なく露わになる柔らかな女体と、ぶ厚くて頑強なジーンズのミスマッチ、ガーリーとボーイッシュの融合にこそ、その真髄がある。また羞恥心の少ない昨今の女子にも強制的に恥じらいのポーズを取らせる手ブラは、同時に、見ようによっては、自ら乳房を揉んでいるがごときエロティックさも演出する」
颯太「…………(こいつできる!)」ゴクリ。