IS~平凡な俺の非日常~   作:大同爽

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第209話 嫌がらせ

 

 私はあの日、事前の吉良香澄護衛任務の人員から辞退してから、秘密裏に動き、施設にも人知れずに侵入していたわ。

まぁ颯太くんが騒ぎを大きくしてくれたおかげで侵入しやすかったわ。

 それで、見つからないように、狭い通風孔や裏道やらを駆使して颯太くんたちが進む先をこっそりと追いかけてたんだけど……全部お見通しの人がいてね。

 ことが起きたのは颯太くんが一夏くんと簪ちゃんを退けた後のことだったわ。

 私はその時颯太くんたちと遭遇しないように颯太くんたちが使っていたのとは別のルートから向かっていたの。――いたんだけど……突然足元が崩落したのよ。

 

 

 

 

 

『はぁっ!?』

 

 楯無の言葉に響達九人が驚きの声を上げる。

 

「足元が崩落したって……」

 

「自爆に巻き込まれたんデスか!?」

 

「いやいや、そんなわけないだろ」

 

 調と切歌が驚愕の表情で訊くが颯太が冷静に否定する。

 

「だいたい一夏と簪を退けた後、俺はもうちょいいろいろ忙しかったんだよ。吉良香澄たちを追い詰めたりどっかの誰かさんの熱烈ラブコールの相手をしたり――」

 

「そ、その話はやめてよ!」

 

 と、颯太の言葉にシャルロットが慌てた様子で叫ぶ。

 

「だ、だいたいあの時のアレは『ダーインスレイヴ・システム』の影響で――」

 

「確かにある程度影響はあって発想が暴力的な方向になってたみたいだけど、あの時口走ってたことは本心も混ざってたんだろ?」

 

「うっ!?そ、それは……はい、そうです」

 

 シャルロットは顔を真っ赤に染めて頷く。

 

「あの……いったい何の話をしてるんですか?」

 

「ラブコールとか『ダーインスレイヴ・システム』とかっていったい……?」

 

「あぁ、それは――」

 

「いやぁぁぁぁ!!もうやめてぇぇぇ!!全部忘れてぇぇぇぇ!!」

 

 響と未来の問いに答えようとした颯太の言葉を遮って必死にシャルロットが叫ぶ。

 

「ひどいよ颯太!確かにあの時僕はやりすぎてたけど、ここまでネタにすることないじゃないか!!」

 

「いやいや、やりすぎたって、下手すりゃ俺あそこで死んでたんですけど?てかあの時のシャルロットって殺す気満々だったじゃん。だからこれは俺からのちょっとした意趣返しだ。今後ともことあるごとにネタにしていくからそのつもりで」

 

「そんなぁ……」

 

「どうだぁ~?自分の黒歴史をいつまでもいじくりまわされる気分は?」

 

「くっ、ものすごくむず痒いです……」

 

 颯太のニヤニヤとした笑みにシャルロットがため息をつく。

 

「まあシャルロットの黒歴史についてはまだ関係ないから、いったんわきに置いておいて」

 

「そのまま置いたまま放置しておいてほしいけど」

 

「さぁてね……ふっふっふ~」

 

 颯太の意地悪い笑みにシャルロットはがっくりと項垂れる。

 

「で、え~っと、どこまで話したんだっけ?」

 

「お姉ちゃんが移動してたら突然足元が崩落したところ……」

 

「あぁ、そうだったそうだった」

 

 簪の言葉に颯太はポンと手を打って先を促すように楯無に示す。

 

「まあ話は若干脱線しちゃったけど、要はさっき颯太くんが言ったとおり、私が遭遇した崩落はタイミング的にも施設の自爆とは別なのよ」

 

 気を取り直して楯無が話し始める。

 

「颯太くんたちの後を追っていた私の足元が突如崩落して、突然のことに私もかなりテンパったわ。具体的に言うと、ガラにもなく声を上げて叫んじゃったわ」

 

 

 

 

 

 

「な、なぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?」

 

 突然のことに声を上げてしまった私はもちろんとっさにISを起動しようとしたわ。しかし――

 

「あれぇぇぇぇぇぇ!!?」

 

 なぜか起動できなかったわ。

 ISが起動できなかったこと、突如足元が崩落したこと、これらの事が重なった結果、私は混乱したわ。それはもう普段の私ならあり得ないレベルで混乱したわ。より具体的に言うと落下中ずっと「ひょぇぇぇぇぇぇぇ!!?」っと情けなく泣き叫んでいたわ。

 そして、落下すること――五分

 

 

 

 

 

 

『五分!!?』

 

 楯無の言葉にさっきよりも数倍驚いた表情で驚きの声を上げる響達九人。

 

「五分も落下してたんですか!?」

 

「うん。体感で、だけどね」

 

 セレナの驚きの問いに楯無が頷く。

 

「もうね、はじめはいろいろ相まって泣き叫んじゃったけど、一分くらい経ったころには混乱から復帰してね。二、三分経ったころには自室でくつろぐレベルでリラックス状態だったわ」

 

「適応力高っ!?」

 

 楯無の言葉に奏があきれ顔で言う。

 

「そして、落下し始めて体感で五分ほど経ったころ――」

 

 

 

 

 

 

「……………」

 

 頬杖をつく体勢で落下していた私はこれからどうするかを考えていたわ。そんな時だった。

 

「クーちゃん、そろそろいいよ」

 

「はい、束様」

 

 どこからともなく聞こえた見知らぬ二人分の声とともに周囲の景色がまるでガラスが割れるように切り替わったわ。

 気が付くと私はさっきまで走っていた廊下の真ん中で頬杖ついてうつ伏せに寝転がっていたわ。

 

「おい、いつまでそうしてるつもりだ?」

 

「へ?」

 

 言われて声のした方に視線を向けると、そこには寝転ぶ私の隣にヤンキー座りして私のスカートをつまみあげて覗きこんでいる人物がいた。

 

「うっわ、エッロ!最近の高校生はずいぶんとませた下着はいてるんだねぇ~」

 

「なぁっ!?」

 

 慌てて飛び退きスカートを直して服に付いた埃を払い落としながら、改めてその人物に視線を向ける。

 その人物は胸元の大きくあいた水色のエプロンドレスに長い髪、メカメカしいウサ耳を付けたその人物は

 

「し、篠ノ之束博士!?な、なんでここに!?」

 

「ハロー。ちょっとお前に用があってね」

 

 言いながらヤンキー座りから立ち上がった束博士はニヤニヤと笑う。よく見るとその後ろには銀髪に黒っぽいドレスを着た少女が黙って従う様に立っていた。

 

「な、なぜ私がここにいると分かったんですか?」

 

「ん~?そんなの私が天才だからに決まってるじゃないか。まあ君が来てることはあの凡人も予想してたけど……まあそれはさておき、さっきあいつらと別行動してからここのシステムをハッキングして、とりあえず全監視カメラの映像の中から君を探し出したんだよ」

 

 何でもないことのように束博士は言う。

 

「あとは簡単。君があの凡人たちと遭遇しないように、なおかつあいつらの後を追ってたから君がどんなルートを選ぶかを予測してここを張ってたってわけ。そして、結果はこの通り」

 

 納得した?と、首を傾げる束博士に私は頷く。

 

「さて、お前のどうでもいい質問に答えたんだから、今度はお前が私の用事に付き合ってもらうよ」

 

「な、なんでしょうか?」

 

「身構えるなよ。君にも損のある話じゃないし」

 

「……それってどういう――」

 

「クーちゃん、例のもの」

 

「はい、束様」

 

 と、いままでずっと黙って束博士の後ろに控えていた少女がすっと前に出て私に何かを差し出す。

 それはピストルのような形の注射器だった。注射器の中には透明な液体が入っていた。

 

「あの……これは?」

 

「君は隠れて見ていたから知ってるだろうけど、あの時あの凡人が使ったリンカーは未完成でね。正直、たぶん今の彼は副作用でボロボロ、ここからも無茶をするようなら命の保証はできない」

 

「えっ……?」

 

 束博士の言葉に私は思わず声を漏らした。

 

「それ、どういうことですか!?颯太くんこのままだと死ぬんですか!?」

 

「最後まで話は聞けよ」

 

 私の問いには答えず束博士は冷たく言う。

 

「で、ここでお前に渡したそれが関係してくるわけだ」

 

 気を取り直したように束博士は言いながら私の手の中にある注射器を指さす。

 

「あいつには現段階でリンカーの解毒剤は無いって伝えてあった。それは本当だった、あの凡人に伝えた時点ではね」

 

「それじゃあ……」

 

「ご明察。あいつが実際にリンカーを使ったことで得たデータのおかげで解毒剤ができたんだよ。それが……それ」

 

 言われて私は自分の手の中にある注射器に視線を向ける。

 

「これを使うかの判断はお前に任せるよ」

 

「なぜ、それを私に……」

 

「さぁ?強いて言えば、お前が今ここにいるメンバーの中で一番ちょうどよかったから、かな?」

 

 言いながら肩をすくめて答える束博士。

 

「さて、と。それじゃ、用事は済んだし、そろそろ仕事に戻ろうかな」

 

「はっ?ちょっと?」

 

 言いながら束博士は私の言葉に何も答えずさっさと歩き始める。

 

「あ、そうだ」

 

 と、束博士が足を止めて振り返る。

 

「お前がそれを使う気になる耳寄りな情報をあげよう」

 

「耳寄りな情報…ですか?」

 

 束博士の言葉に私は首をかしげる。

 

「うん、あのね……」

 

 言いながら束博士はニッと笑い私のもとに歩み寄りそっと顔を寄せる。

 

「あの凡人、吉良香澄の暗殺に成功しても失敗しても、どんな結果になっても死ぬつもりだよ」

 

「え……?」

 

「前に冗談めかして言ってたんだよ。暗殺に成功すれば、自分という存在が世界に及ぼす影響がデカすぎる。もしかしたら、全部事が済んだら、井口颯太という存在はこの世から消えた方がいいのかもしれない、ってね」

 

「……………」

 

 束博士の言葉に私は絶句した。そして、同時に納得もした。あぁ、颯太くんなら言いかねない、と。

 

「ちなみにその注射器には解毒剤の他に強力な麻酔も混ぜてある。打たれれば死んだように眠るだろうね」

 

「どうして……」

 

 束博士の言葉に私は茫然と聞く。

 

「どうして、彼にそこまでするんですか?」

 

「ん~?」

 

 私の問いに意図がわからない、と言った表情で束博士が首をかしげる。

 

「あなたは、私の知っている限りものすごい人嫌いのはずです。少なくとも私はそう聞いていました。そんなあなたが、なぜ彼にそこまでしてくれるんですか?」

 

「ふむ……」

 

 やっと意味が分かったといった様子で頷いた束博士は少し考えこみ、口を開く。

 

「そうだね。これは、私からのあいつへの最大の嫌がらせなんだよ」

 

「嫌がらせ?」

 

「そう。あの凡人は凡人のクセに私のことを知ったようにあれやこれや言って、口を開けば憎まれ口ばかり。あ、思い出したら腹立ってきた」

 

 と、束博士が眉間にシワを寄せる。

 

「だから、あの腹立つ凡人に、あいつの意にそぐわない結末を用意してやろうと思ってね。あいつが死のうと思ってるなら、何が何でも生き残るように仕向けてやるってね」

 

 そこまで言って、束博士はニヤリと悪戯をする子どもの様に微笑む。

 

「だから、わざわざ忙しい合間をぬって解毒剤は作ったし、それを託すためにわざわざお前に渡しにも来た。言ったろ?君がちょうどいいって。渡す相手の候補はあと二人、君の妹とあのパツキンと迷ったんだけど、お前が一番自由に動けそうだし、お前が一番あの凡人の最後に一緒にいる可能性が高かったからね」

 

 さてと、と束博士は踵を返す。

 

「それじゃ、任せたから」

 

 そう言って束博士はクーちゃんと呼ぶ銀髪の少女とともにさっさと歩き去って行った。

 

 

 

 

 

 

「まあそんなわけで、私はその後颯太くんたちに追いつき、途中多少手を出しちゃったものの、最後まで隠れおおせて、颯太くんに解毒剤を使うことに成功したってわけです」

 

「まああの時手を出してくれたおかげで俺は師匠がいるってことに確信できましたけどね」

 

「だって、あそこで私が手を出さなかったら、颯太くんはシャルロットちゃんの愛のこもった一撃で死んでたんだから」

 

「楯無さんまで!」

 

 楯無の言葉にシャルロットが顔を羞恥で赤く染めて叫ぶ。

 

「この話、何度聞いてもあの天才兎は腹の立つ。あと、師匠も師匠ですよ」

 

 シャルロットの反応を楽しそうに笑いながら颯太はため息をつく。

 

「あの時俺に薬を撃ち込むとき、師匠、何しに来たんだって訊いた俺に『約束を果たしに来た』って言ったじゃないですか?」

 

「あら?私、嘘は言ってないわよ」

 

 と、楯無が悪戯っぽく笑う。

 

「私は〝束博士との〟約束を果たすためにあの場に行ったの。誰も〝颯太くんとの〟約束を果たしに来た、なんて言ってないわ」

 

「そうですけど……そうですけど!」

 

 はぁ~っと大きくため息をつく颯太。

 

「それで、その薬を打ち込むことに成功したのはわかりましたが、そこからどうしたんですか?」

 

 と、話の続きを促すように翼が訊く。

 

「あとは完全に意識を失った颯太くんをえっちらおっちら私が運んで自爆寸前の施設から脱出したわ」

 

 大変だったわぁ~と、楯無が肩をすくめる。

 

「それからすぐに病院に秘密裏に入院させて、颯太くんを治療させたわ。まあ颯太くんが目を覚ましたのはかなり後、事件から一週間たったころだったわね」

 

「僕らが知らされたのはそこからもっと後でしたけどね」

 

「確か、そこからさらに一週間くらい後だった……」

 

 と、シャルロットと簪が不満げに言う。

 

「お姉ちゃんもすぐに教えてくれればよかったのに」

 

「しょうがないじゃない。目が覚めてすぐのころの颯太くん、荒れに荒れてたんだから」

 

「そんな時期もありましたねぇ~」

 

「他人事みたいに……」

 

 のほほんと言う颯太に楯無が呆れたように言う。

 

「あの頃の颯太くん手が付けられないくらいだったじゃない。ちょっと目を離せば病院抜け出そうとするし。まともに口きかないし」

 

「ヤハハハ……ご迷惑をおかけしまして……」

 

 ジト目で言う楯無の言葉にポリポリと所在なさげに頬を掻く颯太。

 

「まあ楯無さんは全部知ってたけど、私たちがちゃんと話してもらえるまでは、私たちも大概だったけどね」

 

「と言うか、本当ならお姉ちゃん、私たちにも黙ってるつもりだったでしょ?」

 

「それは……」

 

 簪の言葉に楯無は痛いところを突かれたといったように苦笑いを浮かべる。

 

「それは……まあ颯太くんの処遇についても詳しく決定してなかったし、どうなるかわからなかったから……」

 

「それでも教えたってことは、一週間くらいで颯太さんの処遇が決まったってことですか?」

 

 楯無の言葉にマリアが訊く。

 

「う~ん……と言うより、二人を颯太くんに引き合わせたのは、二人のためだったのよね」

 

 マリアの問いに苦笑いのまま答える。

 

「颯太くんの処遇が決まるよりも先に、二人の精神安定のためにも会わせる方がいいってことになってね」

 

 ふぅっと息をつきながら楯無が言う。

 

「あの頃は大変だったのよ。簪ちゃんは比較的大丈夫だったけど、ひどかったのはシャルロットちゃんよ。事件の後に目が覚めたシャルロットちゃんは颯太くんが死んだって聞いて責任感じちゃってね。ご飯もろくに食べずに塞ぎ込んで、いまに自殺でもするんじゃないかって言うくらいに落ち込んじゃって……」

 

「そんなに……」

 

 楯無の言葉に未来が驚いたように言う。他の面々も一様に驚きを隠せない様子でいる。

 

「まあそんなわけで、シャルロットちゃんの精神安定のためにも、あと私やシャルロットちゃんが知ってるなら簪ちゃんもってことで、二人にも颯太くんの事を話したってわけなの」

 

 楯無の言葉にみな納得したように頷いた。

 

「そこから私たち三人が頻繁に顔を見に行って、颯太くんもちょっとずつ話すようになってね。颯太くんの処遇が決まったのはそんなころだったわね」

 

「お兄さんの処遇って、結局どういうものなんデスか?」

 

 切歌が訊く。

 

「そうさな、今度はその辺のことを話すとするか」

 

 切歌の問いに颯太は少し考えて頷き、ゆっくりと語り始めた。

 

「俺が自分の処遇を聞いたのは、目覚めてから約一か月くらい経った頃だった――」

 




語られたあの日の真実。
そして、今度は颯太くんの処遇について。


さて、今回の質問コーナーです!
今回は青野さんからいただきました!
「天元突破グレンラガンをだすシーンは今後ありますか?」
ということですが


グレンラガンと言うか、グレンラガンネタを出すことはあると思います。
グレンラガンに限らずまだまだやっておきたいネタはあるので本編だったり番外編としてだったり、これからもどんどんネタを半さんで行きたいと思います。


さて、今回はこの辺で!
次回もまたお楽しみに!

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