IS~平凡な俺の非日常~   作:大同爽

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今回は若干の下ネタがあります。
あらかじめご了承ください。


第21話 天国と地獄と転校生

 教室に入った俺と一夏はクラスメイト達が何かワイワイとカタログを見ながら話しているところに遭遇した。

 詳しく聞いたところ、どうやらISスーツの申し込みの話らしい。

 

「そういえば織斑君と井口君のISスーツってどこのやつなの? 見たことない型だけど」

 

「あー。特注品だって。男のスーツがないから、どっかのラボが作ったらしいよ。えーと、もとはイングリッド社のストレートアームモデルって聞いてる」

 

「俺のはISがもらえるまでは一夏と同じのだったけど、『火焔』もらうのと同時に指南が作ったやつ貰ったからそれ使ってる」

 

 IS関連の製品には大きなシェアを持ってるだけあって、指南のISスーツは着心地がいい。

 

「ISスーツは肌表面の微弱な電位差を検地することによって、操縦者の動きをダイレクトに各部位へと伝達、ISはそこで必要な動きを行います。また、このスーツは耐久性にも優れ、一般的な小口径拳銃の銃弾程度なら完全に受け止めることができます。あ、衝撃は消えませんのであしからず」

 

 そうすらすらと解説しながら山田先生が現れた。

 

「山ちゃん詳しい!」

 

「一応先生ですから。……って、や、山ちゃん?」

 

「山ぴー見直した!」

 

「今日が皆さんのスーツ申し込み開始日ですからね。ちゃんと予習してきてあるんです。えへん。……って、や、山ぴー?」

 

 入学からだいたい二か月たったが、山田先生のあだ名は現在8つほどあるらしい。ちなみに俺は陰ながら「高雄型先生」と呼んでいるが、このあだ名は誰にも言ったことはない。

 

「なあ、前から気になっていたんだけどさ。なんで織斑先生にはあだ名付けないの?」

 

 俺の素朴な疑問に教室の空気が凍り付く。

 

「い、井口君は私たちに死ねというの?」

 

 近くにいた相川が真っ青な顔で訊き、他の女子たちもうんうんと頷いている。

 確かに織斑先生は怖いし、元モンドグロッソ優勝者でもある。でも、凄さで言えば山田先生も負けていないのではないだろうか。何せ元日本代表候補生なのだから。

 

「でもさ、織斑先生も意外とあだ名で呼ばれたがっているかもよ?あだ名がつく先生って生徒からそれなりに人気があるってことなんだから」

 

『ええ~……』

 

 クラスメイト達は俺の言葉に半信半疑の表情を浮かべている。

 

「じゃあ、ここは俺が織斑先生に何かあだ名を考えてみよう。何がいいかな~」

 

 普通に考えれば「鬼軍曹」だけどそれじゃあな……。リーダーという意味と重ねて千冬だから「チーフ」とか?織斑の斑を逆さにして「ラム」?

 俺が考えているのをクラスメイト達(山田先生と一夏を含む)が見ていたが、突然その顔が恐怖に固まる。

 

「ん?どうか――」

 

「ほほお?この私にあだ名をつける?いったいどんなあだ名をつけてくれるんだ?」

 

 なぜだろう。肩にポンと手を置かれただけなのに、背筋に悪寒が。

 

「こ、これはこれは織斑先生。おはようございます」

 

「ああ、おはよう」

 

 とりあえず挨拶する俺。声だけ聴いていたらいつもの、むしろいつもより優しい織斑先生だ。なのになぜだ。なぜこんなにも振り返ろうとすると頭の中に警笛が聞こえるんだ?

 

「それで?お前の考える私のあだ名は…いったいどんなものか、聞かせてはもらえないのかな?」

 

「え、え~っと………」

 

 周りを見るとクラスメイトの女子たちが涙目だ。数名の子は泣いてる。なんなんだ!?俺の後ろに何があるっていうんだ!?いるのは織斑先生だろ!?

 

「そ、そうですね…。お、『鬼軍曹』というのは――いったっ!!」

 

 グリっと右肩に置かれた手に力が入る。まるで万力のようだ。

 

「っていうのは冗談で!!」

 

「そうか。冗談か」

 

 俺の右肩を掴む手の力が緩む。

 そうだよね。織斑先生だって女性なんだから「鬼軍曹」はないよな。もっとかわいいのがいいよな。

 

「じゃ、じゃあ、『ちーちゃん』っていうのは?」

 

「……断罪してくれる」

 

 言葉からの織斑先生の行動は速かった。

 俺の方に置かれていた右手が俺の首に絡みつき、その右手を自分の左手で肘で包むように挟み、俺ののどを締め上げる。

 

「がはっ!?」

 

 ギリギリと締め上げられ、一気に呼吸ができなくなる。

 

「な、なんで……?」

 

「私を『ちーちゃん』と呼ぶな。あの天災を思い出して不快だ!」

 

 さらに俺の首に巻かれた手に力がこもる。

 

「ノー!ノー!」

 

 俺はもがくが織斑先生の首絞めは緩まない。

 

(ふっ、だが甘い!)

 

 呼吸ができない程度どうということはない。なぜなら俺は小学校のころから水泳を習っていたために呼吸に関しては一分間止めていても大丈夫だからだ。水泳だけは俺の数少ない特技と言えるだろう。

 

(ある程度苦しそうな演技をすれば、織斑先生も諦めてくれるはず――)

 

 そう思っていた俺の思考はある感触が遮る。

 

 ポヨン。

 

 そう。形容するとすればそんな効果音。そんな感触が俺の後頭部を押し返すように、そして、俺の頭を包み込むように感じる。

 

(な、なんだこの感触は!?なんだこの今迄に感じたことのない心地良い感触は!!?)

 

 織斑先生に首を締め上げられ、織斑先生に密着されるほどにその感触は強くなる。

 

(ま、まさかこれは!!)

 

 俺は気付いてしまった。その感触の正体に。それと同時に悟った。そのことを意識してはいけないということに。

 

(ダメだ!考えるな!DTで思春期男子の俺がそれを意識したら!)

 

 動悸が激しい。顔が熱い。考えないようにしようとすればするほど意識してしまう。速く織斑先生が手を放してくれるように、首に巻かれた腕を急いでタップする。

 

(くそっ!こんな時こそ素数だ!2,3,5,7,11,13,17,19,23,29,31,37,41――)

 

 素数を数えることで若干意識を逸らすことができた。しかし、集中を切らしたことが悪かった。

 今度は首絞めの影響がやってくる。

 

(前門の虎後門の狼どころじゃない!全方位囲まれた!)

 

「ち、千冬姉!それ以上はまずいって!颯太の顔が色々と凄いことになってる!」

 

「おっと」

 

 一夏の言葉に織斑先生は腕を話す。そのまま俺はその場に四つん這いに倒れる。

 

「お、おい、大丈夫か颯太!?」

 

「一夏……」

 

 顔をあげると一夏が心配そうに俺を見ていた。まわりの女子たちも心配そうに見つめている。

 

「だ、大丈夫だ」

 

 俺は立ち上がり、一夏を含め、周りのみんなに笑顔を向ける。

 

「ホントに大丈夫か?なんか危ない薬やってるみたいな顔になってたぞ?」

 

 一夏はまだ心配げだ。

 

「大丈夫だよ。……ただちょっと天国と地獄を同時に味わっただけだ」

 

『???』

 

 俺の言葉の意味が分からないらしく、一同首を傾げるのだった。

 

 

 ○

 

 

 

 

「今日からは本格的な実戦訓練を開始する。訓練機ではあるがISを使用しての授業になるので各人気を引き締めるように」

 

 きりっと引き締めた顔で教壇に立つ織斑先生。

 先ほどの出来事はとりあえずは解決。

 あの後、俺の脈拍を測ったり瞼をきゅっと指で開いたりその他俺もよくわからないいいろいろをされ、特に体に異常は起きていないことが確認された。

 俺の無事が確認された後、織斑先生からは『気を付けろよ』とのお言葉をいただいた。いや、あんたが言うなよ。

 

「各人のISスーツが届くまでは学校指定のものを使うので忘れないようにな。忘れたものは代わりに学校指定の水着で訓練を受けてもらう。それもないものは、まあ下着で構わんだろう」

 

 いやいやいやいやいや!!構う構う構う!俺と一夏は〝男〟ですよ!!

 ちなみにIS学園の指定水着は紺色のスクール水着、体操服はブルマーだ。これを決めた人とはいい酒が飲めそうだ。

 

「では山田先生、ホームルームを」

 

「は、はいっ」

 

 山田先生にバトンタッチして織斑先生と山田先生が入れ替わる。

 

「ええとですね、今日はなんと転校生を紹介します!しかも二名です!」

 

「え………」

 

「「「えええええっ!?」」」

 

 いきなりの転校生発表にクラスメイト達が驚く。もちろん俺も。こういう時は鈴の時のようにクラスメイト達が情報を入手しているものじゃないのだろうか。

 

(あれ?でもなんでいっきにうちのクラスに二人も?普通分散させるんじゃないのかな?)

 

 俺の疑問は

 

「失礼します」

 

「……………」

 

 教室に入ってきた人物の姿に吹き飛ばされた。

 なぜならその転校生のうち一人が、男子の制服だったからだ。

 

 

 ○

 

 

 

「シャルル・デュノアです。フランスから来ました。この国では不慣れなことも多いかと思いますが、みなさんよろしくお願いします」

 

 転校生の男子の方。デュノアはにこやかにそう言って礼をした。

 クラス全員があっけにとられている。

 人懐っこそうな顔。礼儀正しい立ち振る舞いと中性的に整ってる顔立ち。髪は濃い金髪を首の後ろで丁寧に束ねている。男子にしては華奢な体型。まるで『貴公子』と言った雰囲気だ。

 

「お、男……?」

 

「はい。こちらに僕と同じ境遇の方々がいると聞いて本国より転入を――」

 

「きゃ……」

 

「はい?」

 

「きゃあああああああああーーーーーっ!」

 

 いきなり歓喜の叫びをあげる女子達。

 

「男子!三人目の男子!」

 

「しかもうちのクラス!」

 

「美形!守ってあげたくなる系の!」

 

「地球に生まれて良かった~~~!」

 

 

 うん、あれだね。前から思っていたがこの学園は変な子ばかりを集めているんだろうか。

 

「あー、騒ぐな。静かにしろ」

 

「み、皆さんお静かに。まだ自己紹介が終わってませんから~!」

 

 山田先生の言葉に俺はデュノアの隣の人物に目を向ける。

 そこにはデュノアよりも小柄な、女子の中でも小柄な体躯の銀髪の女生徒だった。

 白に近いような銀髪のロングストレートヘアー。そして何よりも目を引くのは少女の左目を覆う眼帯。医療用でもなく、軍隊映画で見るようなものだ。そして、もう片方の右目は赤色だが、その温度は限りなくゼロに近いような冷めたものだ。

 その赤い右目でじっと教室中を見渡し、その過程で俺と目が合う。ゾクリと来た。背筋に嫌な悪寒が走った。まるで剥き出しの刃物を目の前に突き付けられたような一瞬の殺気。しかし、それも束の間で、すぐに少女は視線をずらし、織斑先生に向ける。

 

「……挨拶をしろ、ラウラ」

 

「はい、教官」

 

 いきなりその佇まいを直した転校生。それに対して織斑先生は面倒臭そうな顔になる。

 

「ここではそう呼ぶな。もう私は教官ではないし、ここではお前も一般生徒だ。私のことは織斑先生と呼べ」 

 

「了解しました」

 

 そう答えた少女はピッと伸ばした手を体の真横に付け、足をかかとで合わせて背筋を伸ばしている。以前見た軍隊映画で見た敬礼だ。

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒだ」

 

「……………………」

 

 続きがあるのかと黙っているが、ボーデヴィッヒは口を閉じたままだ。

 

「あ、あの、以上……ですか?」

 

「以上だ」

 

 ボーデヴィッヒの返答に泣きそうな顔になる山田先生。ものすごくかわいそうだ。

 

「おい」

 

「ん?」

 

 そんな中、ボーデヴィッヒが席に着いてる俺に話しかける。

 

「貴様が織斑一夏か?」

 

「え?……違うけど…」

 

「そうか」

 

 突然のことにどもりながらの俺の返答にボーデヴィッヒは俺に背を向け一夏を見る。

 

「ん?」

 

 一夏は自分の名が出たことでボーデヴィッヒの顔を見上げている。

 

「貴様が…!」

 

 バシンッ!

 

「……………」

 

「う?」

 

 一夏へのいきなりのビンタに、誰もが唖然とする。

 

「私は認めない。貴様があの人の弟であるなど、認めるものか」

 

 えーっと……どゆこと?一夏はボーデヴィッヒに何したっていうんだよ。

 

「いきなり何しやがる!」

 

「ふん……」

 

 一夏の言葉に返事することなくボーデヴィッヒはスタスタと歩いて行き、空いてる席に座り、腕を組んで微動だにしなくなる。

 

「あー……ゴホンゴホン!ではHRを終わる。各人はすぐに着替えて第二グラウンドに集合。今日は二組と合同でIS模擬戦闘を行う。解散!」

 

 そう言って行動を促す織斑先生。

 いまいち話は見えないがとりあえず俺は腰を上げる。急がないと女子たちが着替え始めるからだ。

 

「おい織斑、井口。デュノアの面倒を見てやれ。同じ男子だろう」

 

「君が井口君?初めまして。僕は――」

 

「悪い、今は自己紹介よりも移動が先。急がないと女子が着替えだすから」

 

 急いでデュノアを連れて一夏と三人で教室を出る。

 

「ああっ!転校生発見!」

 

「しかも織斑君と井口君と一緒!」

 

 チッ。見つかったか。てか情報速いな。

 

「いたっ!こっちよ!」

 

「者ども出会え出会えい!」

 

 時代劇かっ!?

 

「黒髪もいいけど金髪もいいわね!」

 

「しかも瞳はアメジスト!」

 

「日本に生まれて良かった!ありがとうお母さん!今年の母の日は河原の花以外のをあげるね!」

 

 もっといいもの毎年あげろよ。

 

「な、なに?何でみんな騒いでるの?」

 

「そりゃ男子が俺たちだけだからだろう」

 

「……?」

 

 一夏の言葉にデュノアが首を傾げる。

 

「いや、普通珍しいだろ。今のところISを操縦できる男子って俺らだけだし」

 

 しかも、一夏もデュノアもイケメンだし。え?俺?フツメンですが何か?

 

「あっ――ああ、うん。そうだね」

 

 まあ今はそんなことはいい。まずはこの包囲網をなんとかしないとな。

 

「一夏。遅れないようにとりあえず正規ルートじゃなくても何でもいいから急がないとな」

 

「ああ、そうだな」

 

 俺の言葉に一夏が頷く。

 

「まあ、デュノア。これから大変かもしれないけどよろしくな」

 

 俺は逃げながらデュノアに言う。

 

「俺は井口颯太。颯太って呼んでくれればいいから」

 

「俺は織斑一夏。一夏って呼んでくれ」

 

「うん。よろしく颯太、一夏。僕のこともシャルルでいいよ」

 

「おう、シャルル」

 

「わかった」

 

 そう言ってる間になんとか包囲網を突破できたらしく、無事目的のアリーナの更衣室にやって来た。

 

「さっさと着替えよう」

 

「おう」

 

 一夏と俺は急いで着替え始めるのだが、

 

「わあっ!?」

 

「「?」」

 

 なぜかシャルルは着替えない。

 

「どうした?何か問題が起きたか?」

 

「荷物でも忘れたのか?って、なんで着替えないんだ?早く着替えないと遅れるぞ。シャルルは知らないかもしれないが、うちの担任はそりゃあ時間にうるさい人で――」

 

「う、うんっ? き、着替えるよ? でも、その、あっち向いてて……ね?」

 

「???」

 

「そりゃ、着替えをじろじろ見る気はないけど……って、シャルルは見てるんじゃん」

 

「み、見てない!別に見てないよ!?」

 

 両手を突き出し、慌てて顔を床に向けるシャルル。なんか反応が女子みたいだな。

 

「まあ、本当に急げよ。初日から遅刻とかシャレにならない――というか、あの人はシャレにしてくれんぞ」

 

 一夏の言葉に朝の首絞めを思い出し俺は身震いしながら着替えを続ける。

 指南のISスーツは着やすくて助かる。

 

「……………」

 

 やっぱり視線を感じる。

 

「シャルル?」

 

「な、何かな!?」

 

 気になって視線を向けると、シャルルはこっちに向けていた顔を慌てて壁の方に向け、ISスーツのジッパーをあげた。

 ちなみに俺も胸元のジッパーをあげれば終わりだ。

 

「すごい。颯太は前から着替えるの早かったけど、着替えるの早いな。なんかコツでもあんのか?」

 

「い、いや、別に……まだ着替えてないの?」

 

「俺のは着やすくできてるんだよ」

 

 毎回着替える時には助かっている。

 

「てなわけで一夏。悪いが先に行く。行こうぜ、シャルル」

 

「う、うん」

 

「ちょ!?」

 

 俺の言葉にシャルルが頷き、一夏が焦る。

 

「ま、待っててくれてもいいだろ!?」

 

「しょうがないなー。じゃああと十秒な。い~~ち、に~~い、さ~~ん……」

 

 俺のゆっくりとしたカウントに焦りながら着替えを進めていく一夏。

 

「4,5,6,7,8,9,10!はい十秒。あばよ!」

 

 俺はシャルルの手を取り、走り出す。

 

「ちょ!急にカウントはやめるなよ!」

 

 袖に手を通した状態で俺たちの方を見て叫ぶ一夏。

 

「悪いな一夏!遅れて織斑先生に怒られたくはない!今朝の件で懲りた!てなわけでまたな~一夏~!」

 

「ま~て~、颯太~!シャルル~!」

 

 某三代目怪盗のごとく特徴的な声で去って行く俺に一夏も某警部のような声で叫ぶのだった。




てなわけで、とうとう彼女たちの登場です。
颯太君は今後どうなるのか。
彼女たちにどうかかわっていくのか。
頑張れ颯太君!

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